対談 CONVERSATION

「HERO Xに、人を変える力はありますか?」 “ROCKET”の精鋭2人が編集長に逆取材!【異才発掘プロジェクトROCKET】Vol.4 前編

中村竜也 -R.G.C

日本財団と東京大学先端科学技術研究センターが共同で進める異才発掘プロジェクト“ROCKET”。現状の教育や環境に馴染めない、あるいは、物足りなさを感じている「ユニーク」な子たちを支援する取り組みだ。彼らの中には、何かしらの突出した能力を持つ子が少なくない。今回はそんな彼らに「インタビューをしてみないか」と提案してみた。果たして、どのような結果となるのだろうか。

編集部が提案したのは編集長・杉原行里(以下、杉原)への逆インタビュー。異才発掘プロジェクト“ROCKET”からインタビュアーに立候補したのは、ともに高校1年生でROCKET 一期生の、大阪市在住・山下泰斗くん(以下、山下くん)と、ベトナム在住・野中宏太郎くん(以下、野中くん)2人だ。大人ではきりこめない鋭い質問が飛び交った。

左  山下泰斗君(一期生 大阪在住:高1)、右  野中宏太郎君(一期生 ベトナム在住:高1)

我々編集部のある東京と、それぞれが暮らすベトナム、大阪をインターネットを介して繋ぎインタビューははじまった。実は編集長の杉原は野中君とは面識がある。

杉原:今回の対談を決めたきっかけにもなった出来事が、実は僕の中でありまして。それは、現地で野中君とも会った2016年にスイスで開催されたサイバスロン(http://hero-x.jp/article/538/)。あの時、ROCKETのメンバーに大人たちが質問攻めにあっていたんですけど、そのあまりの鋭さにその場にいた大人たちが、1人また1人とその場から逃げるように去っていくのを見て、頑張れ大人たち!負けるな!と感じた反面、この子たち面白い!と思って。

やはり子供たちが持っている素直な感性に対して、大人はしっかりと答え、そして知らないことは知らないとちゃんと伝えるべきだと改めて感じたのが、今回の逆取材を受けたきっかけなんです。

そんな前振りが降られると、いきなり山下くんから質問がはじまった。

なんで?の重要性を改めて感じる

山下くん:それではまず僕から質問させていただきます。世界一ボーダレスなメディア“HERO X”は、どのようなきっかけで作ろうと思ったのですか? 

杉原:僕は15歳の時からイギリスに高校、大学と留学し、日本に帰国後、父が創業した車の先行開発やF1などの設計を行うRDSという会社で工業デザイナーという立場で仕事をしていました。最悪にもその時がちょうどリーマンショックのタイミングで、会社の業績もおもわしくなかったんです。そんな状況だったから、もうがむしゃらにやるしかなく、大学で学んだことを活かす余裕なんて全然ありませんでした。

そんななか、2012年に、寺崎さん(http://hero-x.jp/article/2202/) という方から「自分に合った松葉杖を作って欲しい」という内容のメールが突然会社に届いたんです。こっちとしても急なことだから、この人何を話しているんだろう? 自分に合った松葉杖ってないのかな? くらいの知識しか当時の僕にはなくて(笑)。それをきっかけによくよく調べていくと、今の松葉杖の市場っていうのが、レンタルユーザーをターゲットとしたプロダクトの流通がメインとなっていて、個人所有を目的とした製品がないことに気が付いたんです。

車いすや松葉杖をはじめとするや、またそれらを使う人の定義って、みんな平均値で色々なことを言うけど、一体誰のことなんだろう? 言葉が先行してしまっているけど、車いすって何で足が悪い人が使う物って決めつけるんだろう? という疑問を持ち始めたのと、障がいを持っている人をジロジロ見てはいけない風潮ってあるじゃないですか。お互いに落とし所を見つけて社会を何となく上手く回そうとしている姿に違和感を覚えたのが理由で、このHERO Xというメディアを立ち上げました。もうひとつ言うと、僕らが企業としてその都度何かを発表しても一過性でしかないけれど、メディアとして表現すれば、より多くの人にこの考えが訴求できるんじゃないかなって。

野中くん:今のお話を聞いていて、僕の中で質問が出来たんですけど聞いてもいいですか?

杉原:もちろん。

野中くん:真逆な話になるかもしれませんが、最近ベトナムでベトちゃんドクちゃんのドクさんと知り合う機会がありました。僕自身、実際にベトナムに来て感じていたのが、路面状況の悪さと、例えばバイクが歩道を逆走するなどの日本とは違う交通事情を見たときに、義足よりも安全に乗れるバイクが一番ベトナムという環境にあっているんじゃないかなと感じたんです。

そう思っている時にドクさんが、かっこいい三輪バイクを乗っているのを見て、国やその場の環境によって必要とされる物って違うんだと思ったんです。今の杉原さんの話を聞いていて、すごく僕が感じていたことと似ているなと思いました。

杉原:まさにそういうことで、義足ってこんなでしょうって、みんな固定概念がある。ある1つの形をしていなくちゃいけないの?とか思いますよね。

山下くん、野中くん:思います。

杉原:例えば、義足にモーターなんかを入れたら、健常者よりも早く走れるかもしれない。でもそうなると、その足ほしさに「そっちの足の方がカッコイイ」って、モーター付きの義足に足を変えたいと言い出す人も出てしまうかもしれない。そこは倫理的なベースが必要になる。

山下くん:速さだけを求める人ならば交換してしまうかもしれないですね。

杉原:僕もそう思います。それとアキレス腱って消耗品なので、足が遅くなる原因でもあのだけど、それを交換できたらお年寄りの方とかも、もしかしたら100m15秒とかで走れたりするかもしれないじゃないですか。良い悪いは別としても、僕はそんな世の中も白いと思うんです。

野中くん:他の分野でも役立つかもしれないですしね。

山下くん:それこそ、水圧で飛ぶやつとかもありますしね。

杉原:そう! 誰が引いたか分からないネガティブなボーダーに対する発想の転換というのかな。ふたりみたいな若い世代の子がそういう発想を持っていることが大事なのに、そういう純粋な考えを日本は煙たがる気がしていて。マイノリティーとマジョリティーの関係で、多数派の意見が全てではなく、様々な意見があることが面白い、そんなメディアで在りたいなとも思っています。

僕たちにできること

野中くんドクさんの三輪バイクはもっとかっこよくできるし、改良次第でいろんな障害のタイプに対応するポテンシャルを持っていると思います。

杉原:そう思った時に、野中くんならどこを改良する?

野中くん:そうですね、両腕がない、両足がなくても介助者なしで乗れる、そんなボーダー(限界)レスなバイクにしたいです。最低限サドル、サイドブレーキの改良や、バランスよく走ってちゃんと止まれるようにまずしたいかな。

杉原:それなら、ジャイロを入れてサスペンションを良いものに変えたら、もうでこぼこな道なんて関係無くなるね。そういう発想から、誰もが安心して乗れるマシンが出来たら素敵だと思う。ちなみに山下くんは、将来的にどんなことをしたいとかありますか? 逆に聞いてしまって申し訳ないけど()

山下くん:僕はモノづくりに関わりたいなと思っています。なかでも、趣味である模型とかそういうものに。それと、急速に普及している3Dプリンターを使って、何か面白いことができないかなって考えたりもしています。

杉原:模型! 今何か作品見せてもらえたりする?

山下くん:これなんですけど。

がさごそと音がしたかと思うと、画面の向こうには彼が自らの発想で造り上げたロボットの模型が登場してきた。どうやら塗装にもこだわりがあるらしい。

山下くん:小さい頃から紙工作が好きでして。設計図を描いてみて自分なりに作って楽しんでいます。

杉原:物事を考えたり判断する時に 2Dで考える人と3Dで考える人がいるんだけど、山下くんは完全に3D派ですね()3Dの頭の持ち主は僕の経験上、物体の裏側まで見える人なんだと思います。

山下くん:自分では、そういうのが苦手な方かと思っていました()

杉原:どう考えたって、全然苦手な人じゃないですよ!()普通は作れないから!

野中くん:僕はちょっとそういうのが作れないタイプです()


杉原:ね。3人しか居ないのにタイプが分かれるでしょ。ちなみにこの模型には何の塗料を使っているんですか?

山下くん:塗装はTAMIYAカラーを調合しながら使っています。僕にとってTAMIYAカラーは、もちろん色付けの意味合いもあるのですが、少し厚塗りをすることで紙の補強にもなるので、そういう意味でも使用しています。

杉原:塗料を塗料として使うのではなく、他の用途で同時に使うような物の考え方はすごくいいですね。僕も興味あることがたくさんあったから、自分の持っている能力を他のことにどう活かそうかと試行錯誤していたな。

3人が醸し出す不思議な時間はまだまだ続いていくことになる。

後編につづく

(text: 中村竜也 -R.G.C)

(photo: 河村香奈子)

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根性論も感情論もいらない。センシングがもたらす、ハラスメントなきスポーツの未来 前編

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近年、大きな社会問題になっている数々のハラスメント。とりわけスポーツ界では、監督やコーチと選手間の異常な主従関係や、暴力的な行為が問題視されることが多い。度々メディアでも報じられるこうした歪みの裏側には、記録やパフォーマンスの向上を目指す指導者側の感情的な空回りや、埃をかぶった根性論などが横たわっている。スポーツ科学とセンシングテクノロジーは、それをポジティブなコミュニケーションへと変える。第一人者である長谷川 裕氏をお招きし、編集長・杉原と最新のスポーツ指導の在り方、そして未来について語り尽くしていただいた。

スポーツに直接役立つ科学技術の追求

杉原「まず、スポーツ科学、そしてセンシングというものは、大きく言うとどういうものなのか、簡単にお聞きしたいのですが」

長谷川「スポーツ科学と一口に言っても、細かくはスポーツサイエンスとエクササイズサイエンスという2つがあります。例えば、マラソンランナーがランニングマシンの上で走っている時に呼気を計測しているとしたら、スポーツサイエンティストとエクササイズサイエンティストは、各々違うことをやっているんですよ」

杉原「なかなか違いが難しいですね(笑)」

長谷川「簡単にいうと、スポーツのためにトレーニング技術を開発したり、選手の問題点を発見したり、怪我しない方法を考えたり……、パフォーマンスを向上するための方法を見つけるために、科学的な手法や基礎科学を使っていくのがスポーツサイエンス。そのために筋力や心拍数のみならず、事細かなデータを計測するのがセンシングという技術です。逆にスポーツを使って、身体運動や健康に繋がるような人間のなんらかのしくみを発見するとか、メカニズムがどうなっているのかを調べるのが運動科学、すなわちエクササイズサイエンス。僕自身は、スポーツサイエンティストでありたいと思っています」

杉原「なるほど、長谷川さんは、スポーツに直接役立つ科学的な技術やしくみを研究されているということですね。世間一般が対象ではなく、スポーツに特化した世界がフィールドであると」

長谷川「そうです。でもスポーツに特化した研究というのは、ごく一部のエリート選手のためのものではないか? とよく言われるのですが、私がやっている研究は、一般の方の健康にも役立つんですよ」

杉原「世間一般にも役立つか否かで、正直、大学の研究費も変わってきそうですよね(笑)」

長谷川「確かにそれはあります。かつてアメリカでは、シューズでもギアでも、開発するとなれば、大きな企業から巨額の研究費が調達できたのですが、各々の企業は自分たちで研究所を持つようになりましたから、大学の研究所には、お金が回らなくなってしまいました。製薬会社や医療機関は、今でも肥満対策や高齢者の転倒防止、安全な子供の食事、そういうものに対しては研究費を出してくれますが、それではスポーツの研究はできませんよね」

杉原「そうなると厳しいですね」

日本にスポーツサイエンスは根付いていない?

長谷川「でもヨーロッパのスポーツ科学は、そうではありません。いかにこのチームを勝たせるか? 端的にそういう研究をしています。プロスポーツのチームには研究所があるのが普通です。サッカーでいえば、マンチェスター・ユナイテッドも、チェルシーも、バルサも、研究所では10人以上の専門職がスポーツサイエンスを研究しています。アメリカには、それがないんですよ」

杉原「それはイギリスが中心ですか? それともヨーロッパ全体?」

長谷川「ヨーロッパの国々は、どこもそういう環境が整っていますよ。あとはオセアニアですかね」

杉原「ちなみに日本はどうなんですか?」

長谷川「日本は、そういうことをしているプロスポーツのチームはありません。自分がアドバイザーとして携わったJリーグの(名古屋)グランパスは、2004〜2008年頃にスポーツサイエンスを選手育成に導入しようとしていました。でも残念ながらそのプランは、すぐに変更されましたね」

杉原「そうなんですね。確かにヨーロッパと日本では、スポーツ文化の根付き方も違いますし、スポーツ自体の熱狂度も違います。科学を積極的に使っていこうという動きは、まだ日本には根付きにくいのかもしれません」

長谷川「そうだと思います。これはヨーロッパだけに限らないのですが、スポーツサイエンスが進んでいる地域では、サッカーの試合全体を、スタジアムに設置した8台ぐらいのカメラでカバーして、どのプレーも必ず2台以上のカメラで記録するプロゾーンというシステムがあります。それで計測したデータは、俯瞰で見たアニメーションにして、選手の能力を約4000項目も分析できるんです。自分はそのシステムに魅せられて、イギリスのリーズまで行って交渉して、日本で会社を作って広めようとしました」

杉原「それは画期的なシステムですね」

長谷川「それでサッカーの日本代表にも提案をしました。でも、当時の監督には、“こんなものに頼っている指導者はダメだ”とはっきり言われましたよ。そこで自分も“では、なぜプレミアリーグの全チームがこれを導入しているのですか?” と応戦したのですが、“向こうの選手はこういうものがないと、いうことを聞かないからだろ”と、突き返されました(笑)」

杉原「もう、それは論点が違いますね」

長谷川「そうなんです。日本では、まだまだ監督の存在は絶対で、選手は監督にモノをいうのはおかしいという風潮が根深い。でも、ヨーロッパでもアメリカでも、選手は監督にいろいろと聞いてきます。そういうコミュニケーションを取るときに、感覚論で曖昧な答えをしても選手は納得しませんから、いろいろなセンシングのデータを見せる必要があるんです」

感覚を可視化すれば
すべてがわかりやすくなる

杉原「自分もレース用車いすの開発をしていますが、やはり感覚で話しをされると同じ土俵で話すのが大変。感覚とは、毎日違うものだから難しい。だから感覚を出来る限り可視化して開発していく必要があるといつも感じています」

長谷川「可視化したデータを重視するというのは、スポーツサイエンスと一緒ですね」

杉原「例えば、一緒に開発をしているアスリートが、座っている車いすの“ここが硬い”、“ここがやりにくい”と言ったら、まずスタッフはそれを反映させようとする。でも自分は止めるんです。なぜなら、それって感覚だから。感覚ほど曖昧なものはない。だから計測をして、硬いと感じる原因を探る必要があるんです」

長谷川「確かにそうですよね。本来、データで判断すべきものってことですね」

杉原「はい。そこで僕たちは、モーションキャプチャーや加速度センサー、触覚センサーなどいろいろ使って計測して、アスリートの違和感を可視化するんです。そうすると、“結局、あなたが言ってたのは、このことか!”と、初めてみんなで納得できるようになる」

車いすの開発も、センシングと同様に、計測と可視化がカギを握る。

長谷川「そうそう、そういうことです。それだと選手に問題点がちゃんと伝わりますよね。データを解析して、ノウハウにしていくことも大切ですし。トレーニングも感覚でやっていくと、わかったつもり、できたつもりになる。それが一番よくないです」

杉原「海外のサッカーだと、コーチやマネージャーが、サッカー経験者じゃないケースも多々ありますよね。日本ではまだ少ない気がします。経験の有無だけじゃなくて、指導者は解析がどれだけできるか、それを利用してどれだけいい戦略が練れるのか、そういうところも評価されるべきだと思うんです」

長谷川「ある競技のコーチやスタッフが、その競技の経験者ではない場合、その人が選手から信頼されたり慕われたりすると、その畑で育った指導者は、ものすごく毛嫌いしますよね」

杉原「そうですよね。あとセンシングで選手の状態を常にデータ化しておけば、怪我をしたときにも、壊した身体の状態を過去のデータと照らし合わせられますよね。カルテ共有ができれば、対処も早くなるはずです」

長谷川「確かにそうです。プレミアリーグでも、選手が移籍をしたら、それまでどんなトレーニングをしていたのか、怪我や筋力の状況、スプリントやパワーなどのデータを受け継ぐのが普通です。そうやって選手個々の健康を守って、リーグ全体のレベルを引き上げているわけですよ」

杉原「プレミア全体のレベルが上がったのは、センシングやデータ解析などの技術が反映しているからかもしれないですね。ただ、僕が好きなアーセナルは、いつも怪我人が多いですが、スポーツサイエンスのレベルが低いんですかね(笑)」

長谷川「いやいや、アーセナルの研究レベルは、かなり高いはずですよ(笑)」

後編へつづく

長谷川 裕(はせがわ・ひろし)
1956年京都府生まれ。龍谷大学経営学部教授(スポーツサイエンスコース担当)。日本トレーニング指導者協会(JATI)理事。スポーツパフォーマンス分析協会代表理事。エスアンドシー株式会社代表。筑波大学体育専門学群卒業、広島大学大学院教育学研究科博士課程前期終了。龍谷大学サッカー部部長・監督、ペンシルバニア州立大学客員研究員兼男子サッカーチームコンディションコーチ、名古屋グランパスエイトコンディショニングアドバイザー等を経て、スポーツセンシング技術等を利用した科学的トレーニング理論の実践的研究を続ける。著者は『アスリートとして知っておきたいスポーツ動作と体のしくみ』、『サッカー選手として知っておきたい身体の仕組み・動作・トレーニング』ほか多数。

(text: 長谷川茂雄)

(photo: 河村香奈子)

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