福祉 WELFARE

答えではなく、プロセスの中から才能を導き出す【異才発掘プロジェクト“ROCKET” 】Vol.2

中村竜也 -R.G.C

先日公開されたVol.1では、主に「ROCKET」がどのような活動をするプロジェクトなのかをご紹介しましたが、このVol.2では、気になる授業内容についてもう少し深掘りしてみたいと思います。彼らのような才能の塊を、どのように開花させ、社会で力を発揮させるのかを紐解いていきましょう。


リアリティを追求する意味

まさにスマホ世代のど真ん中のROCKETの子どもたち。それは、テクノロジーの進化によって、合理的かつ時間を短縮して答えにたどり着ける利便性の反面、学ぶことの上でも重要な、体験し自ら学ぶ経験を奪い取ってしまっていることにもなるわけです。しかしROCKETでは、「解剖して食す」という授業を設けています。たとえば、硬い甲羅を持ったエビやカニを自ら考えながら捌き、料理を完成させるのですが、そこには教科書やインターネットには載っていない、リアルな感覚がプロセスの中に存在するからです。

とくに彼らのような存在には、そのリアリティこそが、多様な視点、表現力、アート的感性などを育む大きなきっかけとなるのでしょう。

トップランナーからのメッセージ

ROCKETに参加する子供の多くは、人と一緒に歩むことが苦手で、教室の中でも浮いてしまう特徴があります。しかし様々な分野で、トップを走り続ける人たちも、同じような孤独を体験しているかもしれないですよね。そんな彼らの発するリアルな言葉は、間違いなく生徒たちに突き刺さる強烈なメッセージのはずなのです。

今までにも、実業家の堀江貴文氏、宇宙飛行士の山崎直子氏、400mハードル日本記録保持者の為末大氏など、様々な分野で活躍するトップランナーの方々が講義を行ってきました。彼らの共通点は“好きなことを突き詰めている人たち”。その真意は、すべてを無難にこなすより、一点突破の強みを持つということ。我々からすれば意外と勇気のいることですが、彼らのような子たちはそうすることで、いい部分だけをとことん伸ばすことに集中できるのです。

自由と責任が伴う課外授業

この課外授業では、国内だけにはとどまらず、時には海外にも飛び出すことがあるようです。ナチス独裁下で大量虐殺の象徴として名を残す負の遺産“アウシュビッツ収容所”での課外授業を実施。また国内では、北海道の雄大な大地で炭焼き窯を再生し、最高の炭を作る授業や、最果ての地にある現代にないものを探しに行くなど様々内容が用意されています。

しかし、これらの課外授業のねらいは、決して目的を達成することだけではないのです。その過程で起こりうることのすべてが学びであると、ROCKETは考えているのです。普段ならイライラしてしまうような場面でも、何かを見出す努力をしてみたり、何かを製作する過程での自らのこだわりには妥協してはいけないなど、自由の中から人生に必要な要素を自然と身に付けさせることが目的なのです。

マインクラフトを題材にした公開授業を見学して

先日、マインクラフトワークショップと題した、公開授業に見学に行ってきました。その授業風景は、講師の話を前提に進んでいくのはもちろんなのですが、とにかく発言が自由!ルールは、まず先生のことを先生と呼ばないことと、発言時は手を挙げるというこのたった二つのみ。20名の生徒の中には、もちろん様々なタイプなの子たちいますが、通常の学校では友達ができにくい子たちのはずが、ここではみんな仲良くやっているのには正直驚きました。

ところでマインクラフトとは、ブロックを地面や空中に配置し、自由な形の建造物等を作っていくサンドボックスゲームのこと。このゲームを使いグループに分かれ、文化財を再生するのが今回の授業の目的でした。何より驚いたのが、議論を始めてから答えを導きだすまでのそのスピード。大人の会議などでは、2時間ほど話しあっても正直きちんとした結果をその会議内では出せないことが多々ありますが、彼らはそのまるで逆。現に、大人の私でも彼らが議論を始めるとすぐに話しに着いていけなくなくなったほどですから。

このような様々な授業を通して、才能を導きだすROCKET。実際、私にも彼らのようなユニークな感覚を持つ中三の甥がいます。彼がこの世に誕生してから今まで、学校側にそのような子どもを受け入れる体制ができていないと、正直ずっと感じてきました。病院などに行っても、頼るところもなく、同じ悩みを抱えている保護者の方を嫌ってほど見てきました。この問題は社会全体、もっと言えば国策として真剣に取り組まないといけない事案だと私は思っています。発達障害に理解ある環境や、その家族を守る社会が一刻も早く実現するために、この「ROCKET」のようなプロジェクトは、もっと増えなくてはいけないのです。

オフィシャルサイト
https://rocket.tokyo/

(写真提供:日本財団)

(text: 中村竜也 -R.G.C)

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ANAが“車いす”や“義足”を開発する納得の理由【2020東京を支える企業】

宮本 さおり

英国・SKYTRAX社が実施する世界の航空会社格付けで、国内唯一の最高ランク「5スター」を5年連続で獲得している全日本空輸株式会社(ANA)。東京2020での“おもてなし力”にも期待がかかる企業です。これまでの経験とノウハウの蓄積は東京2020や、障がいのあるないに関わらず、誰もが利用しやすいユニバーサルサービスの観点でどのように発揮されるのでしょうか。

義足や車いすの開発に参加。航空会社のANAがなぜ?

樹脂製でありながら強度も万全の「morphモルフ」(写真提供 ANA)

世界有数の航空会社となったANA。そのANAが、車いすや義足の開発に積極的に参加しています。航空会社でなぜ車いすの開発なのか、答えはANAのおもてなしの精神にありました。「飛行機に搭乗するには空港内でのさまざまな手続きが必要です。全ての方に快適な旅をお楽しみいただきたいとの思いから、開発に参加することになりました」と話すのはANAで企画部東京2020企画推進チーム リーダーを務める松村宏二郎さん。ANAは岐阜県の車いす製造メーカー、株式会社 松永製作所と共同で日本初となる樹脂製の車いす「morph モルフ」を開発、2016年には国内の空港で実際の使用を開始しています。

飛行機の搭乗には、必ず保安検査が必要です。誰もが通過するセキュリティーゲートですが、実はこの検査、車いす利用者にとっては少しわずらわしいものでした。車いすは金属の塊。そのままゲートを通れば必ず「ピーピー」と探知機が反応してしまうため、通常のルートでは検査が受けられません。別の場所へ移動して個別に身体検査を受ける必要がありました。この状況を緩和しようと開発されたのが樹脂製の車いす「morphモルフ」です。利用者はチェックインカウンターで「morph」に乗り換えるだけで、通常のセキュリティーゲートが使えるようになったのです。

車いすでも利用しやすい高さになったチェックインカウンター(写真提供 ANA)

また、羽田空港国内線のカウンターには車いすの人も利用しやすいSpecial Assistanceカウンターを設置、この取り組みは2016年度「グッドデザイン賞」にも選ばれました。中でも車いす利用者たちを安心させているのがローカウンターの存在。「通常のチェックインカウンターは高さがあるため、カウンター越しに車いすのお客様と視線を合わせてのご対応が難しい状態でした。ローカウンターの導入で、お客さまとの対面のご対応が可能になり、より安心してお手続きを進めていただけるようになりました」。

外からだけでなく内からも利用者の声が集まる仕組み

ユニバーサルな視点に欠かせないのは障がいのある方々からの声。近年、ANAグループ全体で障がい者雇用の取り組みを進めてきました。現在はグループ全39社で680名を超える障がいのある社員が在籍しています。外からの声だけでなく、内側からも声を集める組織づくりを進めてきた同社、その強みを生かして参加したのが、車いすや義足の開発だったのです。

JSR株式会社と共同開発を進める3D義足。製作は株式会社SHCデザイン(写真提供 ANA)

現在開発中の義足も、こうした利用者の声が大きく活かされています。義足も車いす同様に、セキュリティーゲートをそのまま利用することはできません。3D義足が実用化されれば、通常のゲートを使うことができ、例えば健常の同行者がいる場合、離れることなく一緒に同じ経路で進むことができるのです。

また、利用者からは、利便性だけでなくファッションに対する期待もかかります。「好きな靴を履きたい…」こうした思いを常日頃から抱いている義足利用者、その望みを叶える可能性も3D義足は秘めていると言うのです。ANAが進める義足の開発は、障がいの有無にかかわらず、おしゃれを楽しめる、そんな未来を作りだそうとしています。

道具の多いパラ選手、航空会社は万全の態勢でサポート

大量の車いすが並ぶカウンター(写真提供 ANA)

これまでも数々の種目のパラリンピアンの遠征をサポートしてきたANA。パラリンピックの競技では多くの機材が必要です。「選手ごとに特注で頼んだものも多いため、取り扱いには注意が必要になります」(松村さん)。中でも特に量が多くなるのが車いす。競技用2台、通常の生活用1台など、1人が持ち込む数が多いため、積み込みには工夫が必要です。「飛行機に積める量には限りがあるため、お手荷物関係は事前に綿密な打ち合わせをさせていただきます」と松村さん。

前回のパラリンピックについて語る松村さん

搭乗ゲートのギリギリでスタッフが待機

また、搭乗の直前まで選手が快適に過ごせるようにと、普段の環境で飛行機に乗り込めるように気を配ります。「車いすを機内にそのままお持込いただくことはできません。車いすの微妙な使い心地の差がコンディションを左右することもあるパラアスリートの方々は、搭乗直前までご自分の車いすの利用を希望される方がほとんどです。搭乗口に少し多めにスタッフを配備して、車いすを受けとり、速やかにお預かりするようにしています」(松村さん)。細心の注意をはらいながら進めるパラリンピック関連の輸送。人、物を移動するインフラであり、ホスト国となる東京2020では、担うべきことも多くなります。そんなANAからみた東京2020はどんなイベントなのか。「バリアフリーやユニバーサルな考え方など、企業も国も成長する大きなきっかけになると思います」と松村さん。ANAの様々な取り組みは、日本のユニバーサルな対応をけん引していくことでしょう。

あったらいいな

聴覚障がい者の方が使える同時通訳の機械。ANAではすでにホワイトボードの設置や遠隔操作で手話通訳が使えるサービスを始めていますが、周知が行き届かず、知らない人も多いそう。もっと手軽に使ってもらえるものがあればと話します。例えば、音声がすぐに文字として画面に見えるポータブルな機械など。「スタッフとお客様の直接のやりとりがよりスムーズになると思います」(松村さん)。また、視覚障がいのある方への音声ガイダンスの強化や、自閉症の方の体験搭乗なども“できたらいいな”と思う取り組み。「これらを実現するための道具、あったらいいですね」。

(text: 宮本 さおり)

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