福祉 WELFARE

ポジティブなマインドは、ネガティブから始まる。TEAM POSITIVE代表・鈴木隆太

中村竜也 -R.G.C

健常者、障がい者を問わず、スポーツを通して新たなことにチャレンジする人をサポートする団体がある。彼らは、身体的な不利を一切障がいとは考えず、とにかく楽しむことに全力を注ぎ、人生を生き抜くことを笑顔で広めていくという、夢物語のようなことを実践しているチームなのだ。その名も「TEAM POSITIVE」。

TEAM POSITIVE 代表を務める鈴木隆太さん(以下、鈴木さん)自身も、バイクでの通勤途中に車と正面衝突し、左下腿を失った。その時若干17歳。しかし、転んでもただでは起きないのが鈴木さん。そこでの経験や気持ちが、後の TEAM POSITIVE の発足に繋がったという。

「正直その時は、人生が完全に終わったと感じ、3日間泣き続けました。そして3日目に、当時勤めていた鳶の親方がお見舞いに来てくれたんです。普通なら掛ける言葉も見つからず、ただ傍観するしかないような状況ですよね。でも親方は、『馬鹿野郎、いつまで泣いてんだ! 早く戻って来い!』と喝を入れてきたんです。その言葉で正気に戻りました。

その時に決意したのが、鳶に戻る、そして大好きなバイクにもう一度乗るということ。この2つの決意が僕を突き動かし、半年の入院予定のところを、3ヶ月での退院にこぎつけました。しかもその時には、担当だった看護師さんと付き合っていました()。実はこれも密かな目標だったんです()

笑いながらそう話す鈴木さん。しかしその裏には、大好きなバイク、しかもハーレーという大型バイクを乗るために、自ら義足でも運転できる教習車を作り、それを教習所に持ち込んで免許を取ったという、並大抵ではない努力もあったのだ。ひとつの目標を達成するためには迷いのない行動力を発揮する。真似したくてもできない精神力の強さがそこにはあるのだ。

不便を感じたことが、
TEAM POSITIVE結成への第一歩

鈴木さんが義足になった当時は、まだインターネットが普及していない時代であったため、何か新しいことを始めようと思った時には全てが手探りの状態。足を失った者が再びバイクに乗るための情報にしても、パラリンピックを目指したスノーボードにしても然り。

「何か新しいことを始めようとした時、多くの方はできない理由を考えたり、周りからの声で、前進することを止めてしまうと思うんです。でも僕は、障がいがあろうが無かろうが、まず自分で答えを出し、解決しないと気が済まない性格でして。何かトラブルが起きてからようやく誰かに相談するんです()。そういうことを繰り返していくうちに、情報のポータルを作れたら面白いなと思い始めました」

「時代は、インターネットの普及とともに情報社会へと移行していく中、ある時テレビ取材のお話をいただいたんです。その時のディレクターの方がすごく面白い方で、『今までに取材させてもらった障がいをもつ方の中でも、鈴木さんはぶっ飛んでる』って言われたんです()。普通は一生懸命さを売りにするのに、バイクやジェットスキーに乗っているところなど、楽しむ姿ばかり撮らせますよねって。

そんな姿を見てか、その方に『何か団体を作ろう』と声をかけられました。以前から、サーファーやBMX、スノーボード、バイカー、陸上競技者など、とにかく多方面で活躍する人を集め、チームに対してスポンサーを付けていく動きをしたら面白いと考えていたので、よし、形にしよう!って思いました。これがTEAM POSITIVEの発足です」

surfing“kneeboard”の小林征郁選手(左)と伊藤健史郎選手(右)。ともにTEAM POSITIVE所属

スノーボードクロスでのピョンチャンパラリンピックの出場を目指し、ナショナルチームに所属していた頃、アメリカチームとの出会いが大きな転機だったという。鈴木さんがTEAM POSITIVEを通じて実現したかった、教育や選手育成、雇用サポートなどを、すでに彼らは実践していたからだ。

「スポーツ選手として日本国内でやっていくうえで何に苦労するかというと、絶対的に金銭面のウェイトが大きいんです。厳しい言い方をすると、スポーツで夢を与えることはできても、現実成り立たないのが日本の現状。

オリンピックの金メダリストで考えても、賞味期限は正直3年くらいだと思っていて、その後は忘れられていく。パラリンピックの選手となったら、簡単に名前が出てこないことも、悲しいですが頷けることが現状です。加えて金銭面もキツい。それではスポーツから離れる人は多くなります。

そんな状況を打破すべく、企業と選手の橋渡しをできるような活動を行なっていきたいと思い、アメリカのナショナルチームのやり方を学びに渡米しました。正直、スポーツに対する向き合い方が日本とは大きく違い衝撃でしたね。そのような現状を伝えるためにも、草の根活動的な講演会などは、僕がやっていくべきだと。スター選手は他にいるので()

チームの中に、左手一本しかない子がいるんですが、その子にやってもらっているのは、僕らのボイスチェンジ。たとえば、僕が今喋っていることは、興味を持ってくれた方には刺さるんですが、同じ境遇の方には刺さらないんですね。そこを同じ思いを持っている子が同じ思いを伝えることで意味が生まれてくる。左手一本しかない人が、どれだけ前向きに生きているかが伝わるじゃないですか。そういった意味で講演活動では、伝えるということに重きを置き活動しています」

講演中の山田千紘さん

TEAM POSITIVEの存在意義

「まず自分の置かれた状況を一生懸命楽しんでいるのかが、僕の価値観ではすごく重要なんです。たとえば、危険が伴うことは、すぐ周囲の人が危ないからという理由で止めてしまったりすることが多いですよね。そんな状況を回避し打破するために、TEAM POSITIVEは存在すべき。新たな挑戦をしようと思った時の光になれれば、みんなの可能性が広がるわけで。ひとりの力だと、たかが知れているかも知れないけど、様々な方面で活躍している人の生きた情報を与えることができたら、輪が広がっていくじゃないですか。そして、とにかく楽しむことを目的とした集団を作り上げたかったんです」

スノーボードのトレーニングをする鈴木さん。

自分たちにしかできないことを明確にし、それに向かって前進する。大袈裟かも知れないが今の日本人が忘れかけた精神を思い出せたような気がする。では、鈴木さん自身は、チャレンジすること、ポジティブでいることの意味をどのように考えているのだろうか。

「それは楽しむということに尽きますね。楽しくないと嫌なんです()。でも『楽しむために嫌なことは全部やらないんでしょ』ってよく勘違いされるんですけど、そうではない。やりたいことを実現するために、ただ貪欲に突き進むということなんです。そこにはもちろん、嫌なことも沢山ありますし、やりたくないことにも向き合わなくてはいけない現実もあります。そして何より、人としてかっこいいか、かっこ悪いかが、僕のチャレンジ精神の大きな判断基準なんです」

足を失ったことで、さらに世界を広げてきた鈴木さんが、最後にこう語ってくれた。

「困っている人がいたら手を差し伸べる。そんな当たり前のことが様々な壁を取り払い、誰もが住みやすい世の中へとつながる、真のバリアフリーだと思っています」
この言葉を聞き、自分の気持ちに正直に生きているのが、鈴木さんであり、所属するメンバーも含めたTEAM POSITIVEの姿なんだと感じた。そして、シンプルな生き方こそが、究極のポジティブなのかもと。


オフィシャルサイトhttps://www.teampositive.biz/

(text: 中村竜也 -R.G.C)

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福祉 WELFARE

遂に5回目を迎えた、超福祉展を体験レポート。注目の展示を一挙公開!

川瀬拓郎

“ちがいを、あなたに。ちがいを、あなたから”というスローガンを掲げ、今回で5回目の開催となった超福祉展。例年通り11月初旬の1週間、渋谷ヒカリエ8/(ハチ)をメイン会場として行われ、サテライト会場含む合計12会場で、述べ5万7,800人もの来場者を集めた同展をリポートする。

正式名称は「2020年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう展」。2020年を迎えた渋谷では、健常者も障がい者もマイノリティも垣根なく活躍できる日常が実現されていることを意味する。2020年を卒業の年と位置付け、従来の福祉にありがちなイメージを刷新させ、意識のバリアを取り除く、様々な提案がなされるイベントだ。知る・考える・体験するという3つのカテゴリーで、展示・シンポジウム・イベントが複数の場所で同時進行するのが特徴。

メトロから直結しているのも便利なヒカリエ8階にエスカレーターで上がると、「マイノリティ」をイメージしたシアン、マゼンタ、それらが混ざり合ったパープルの、超福祉展のカラーリングで彩られたメイン会場が広がる。“楽器を纏う”と題した作品や、ボディシェアリングを可能にする小型ロボット“NIN-NIN”が、トルソーのディスプレイでお出迎え。インフォメーションカウンターがその隣に設置されていた。

  渋谷区、超人スポーツ協会他との共催によって、ヒカリエ以外にもハチ公前広場でも様々なイベントやパフォーマンスが開催され、渋谷駅地下13番出口広場では“超人スポーツ体験会”、渋谷キャスト スペースでは文部科学省とのコラボイベント「超福祉の学校」などが行われた。なにせ1週間も開催されているので、常時イベントやプレゼンテーションがあるのだが、特に注目すべきものを下記に紹介していこう。

聴覚を研ぎ澄ます新感覚のエンタテインメント

初出展となるエイベックス・エンタテインメントが披露したのは、SARFという音声AR(Augmented Reality=拡張現実)を利用した体験型コンテンツ。目を閉じた状態でヘッドホンを装着し、7つのポイントを歩く。音声ガイダンスに加え、それぞれのポイントで触れた物体の大きさや形状、質感などから連想したヒントをつなぎ合わせると、謎が解けるという仕掛け。筆者も体験させてもらったが、一人ずつアシスタントが付き添うので、移動の不安はほとんどない。経路にあるポイントで音声によるヒントを注意深く聞きながら、設置された物体を触っていくがほとんど判別できなかった。これは普段我々がいかに視覚に頼っているのか、聴覚と触覚による情報を活用できていないかを再認識させてくれた。

運ぶと乗るを両立させた可変式電動カート

軽自動車でおなじみのスズキは、以前から歩行に障がいのある人のために電動カート(スズキではセニアカーと呼ぶ)に取り組んできた大手企業のひとつ。今回披露された新作kupoは、手押しカートと電動カートを兼ねる2WAYデザインが特徴。ユーザーの買い物体験をさらに楽しいものへ変え、なるべく歩行を促すコンセプトになっている。大きなショッピングセンターなどでは特に重宝することだろう。シンプルで直感的なデザインも今までになくスタイリッシュ。お年寄りのカートっぽく見えないところがいい。

健常者も障がい者も便利なオフィスチェア

オフィス家具で有名なオカムラからは、座ったままの姿勢で安全かつスムーズな移動を可能とする新しいオフィスチェア“ウェルツ セルフ”を展示。右は電動式の「Weltz-EV」。特に驚いたの左の足こぎ式のタイプで、4つのキャスターとともに取り付けられた大きな車輪によって、重心を安定させることに成功。旋回半径が小さく、足こぎする際にキャスターにぶつかりにくい形状になっている。オフィスや工場はもちろん、美術館や図書館などの公共スペースでも活躍することだろう。

いつでもどこでも学べて使える手話アプリ

ソフトバンクが手がけたのは、360°回転できる3Dアニメーションで約3000の手話が学べるアプリ、その名も“ゲームで学べる手話辞典”。様々な団体からの受賞を誇るだけあって、その完成度とユーザインターフェイスは折り紙つき。なんの予備知識なく始めても、画面を見ていればすぐに楽しめる。実際の人の動きを多方面からキャプチャーしたモーションデータを3Dキャラクターに流し込んでいるため、動きもリアルでスムース。ゲームを楽しみながら手話を覚えるモードも秀逸。小難しく構えることなく、手話をぐっと身近に感じさせてくれる。

助けて欲しいと助けたいをつなぐアプリ

大日本印刷が手がけ、JR大阪駅での実証実験も成功させたのが、“スマホで手助け”というLINEアプリ。段差で前に進みにくい車いすやベビーカー利用者、目的地までの行き方がわからない国内外の観光客を、手助けできる人とつなぐことが目的。同社は&HANDプロジェクトの発案段階から参画し、昨年末には立っているのがつらい妊婦さんと席を譲りたい乗客をマッチングさせる、LINEで席譲り実験も成功させている。地味ではあるのだが、声を掛けづらい、気恥ずかしいといった両者の心のバリアを取り除くことができるという点を評価したい。

点字ブロックの可能性を広げる新提案

取材日が天気の良かった土曜日だったこともあり、人でごった返していた渋谷ハチ公前広場。ここで行われたデモンストレーションは、一般財団法人PLAYERSと音声アプリの企画・開発で知られる株式会社WHITEが共同開発したVIBLO by &HAND(ヴィブロ・バイ・アンドハンド)。点字ブロックに発信機を内蔵させたVIBLO BLOCK(ヴィブロ・ブロック)、LINEアプリ、ワイヤレスオープンイヤーヘッドセットXperia Ear Duoを組み合わせ、視覚障がい者の移動を声でサポートする技術。通行人の多くが足を止め、多くの人が見入っていた。その中からランダムで選ばれた数人が、目隠しをしてヴィブロを体験。視覚障がいのある方もゲストとして参加し、集まった人々もその一挙手一投足を見守る中、成功を収めた。実際の設置には、自治体や地方行政の働きかけが必須となるが、災害時における避難経路の誘導するツールになる可能性もある。今までありそうでなかった、新しい点字ブロックが今後多くの場所で視覚障がい者を助けることを期待したい。

パラアスリートの興奮をゲーム感覚で楽しむ

リニューアル化が進められている渋谷駅。その駅地下13番出口広場で、ヒカリエB3から宮下公園へつながるコンコースにある13番出口地下広場。その特設スペースには、超人スポーツ体験会が行われていた。特に大きな注目を集めたのが、こちらの“Cyber Wheel”。ヘッドセットを装着し、VR空間をパラ陸上競技で用いられる車いすレーサーで駆け抜けるというもの。実際に試してみると、上半身のちょっとした傾きで左右にカーブしたり、ホイールを回す力の入れ具合でスピードに差が出たり、ゲーム感覚でパラスポーツの醍醐味が体験できた。まるで映画『トロン』の中に迷い込んだような気分もあり、たった数分でも実にエキサイティング。今後は複数台同時に走って、競い合うこともできるだろう。

超福祉が日常になる2020はすぐそこに

ざっと取材日当日の目立った展示を紹介したが、大きく分けて2つのアプローチがあったように思える。1つは既存の障がい者向けの商品やサービスを、デジタルやデザインの力でアップグレードしたもの。もう1つは、VRやARといった先端テクノロジーを、障がい者のニーズに合わせてプロダクトに落とし込むもの。前者は地味ではあるが、すぐに実用可能で、ユーザーが利便性を感じやすいもの。後者は見た目が派手で、実際の生活の利便性というよりもエンタテイメントを志向したものと言えるだろう。

超福祉の日常は、意識せずとも健常者も障がい者もマイノリティも気持ちよく共生できる空間であることが前提だ。そうしたすぐ先の未来を支えるのは、テクノロジーによってさらに使いやすく進化した、様々なインフラにあることが理解できるイベントだった。特にスマホを利用したコミュニケーションアプリは、もっと多くの人にその存在を知ってもらうべきだろう。ことさら障がい者福祉やダイバーシティという単語を使わずとも、自然につながり合う日常は、案外近いのかもしれない。

(text: 川瀬拓郎)

(photo: 増元幸司)

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