対談 CONVERSATION

パラスポーツをエンターテイメントに変えていく、ワン・トゥー・テンの見つめる未来とは?

岸 由利子 | Yuriko Kishi

クリエイティブと革新的技術で人々の心に火を点け、あらゆることにおけるアップデート体験を提供するクリエイティブスタジオ「ワン・トゥー・テン・デザイン」。創業者の澤邊芳明氏は、同社を含む9社からなる企業グループ・株式会社ワン・トゥー・テン・ホールディングス(以下、ワントゥーテン)を率いるかたわら、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会アドバイザーや、日本財団パラリンピックサポートセンター顧問、超人スポーツ協会理事を務めるなど、活躍は多岐に渡る。そんな澤邊氏の脳内を探るべく、今回はHERO X編集長の杉原行里(あんり)が同社東京オフィスを訪問した。

世界初、パラスポーツエンターテイメント「CYBER SPORTS<サイバースポーツ>」 第一弾は、車いす型VRレーサー

「CYBER SPORTS<サイバースポーツ>」は、パラスポーツにデジタルテクノロジーを掛け合わせて“エンターテイメント”の形に置き換えることで、より多くの人々が先入観なしにパラスポーツを理解するきっかけになることを目指すワントゥーテンの新プロジェクト。

その第一弾として、今年1月にリリースされたのが“CYBER WHEEL<サイバーウィル>”。最高速度60kmを超える車いすマラソンのリアルな感覚を誰もが体験できるVRエンターテイメントだ。

“CYBER WHEEL(サイバーウィル)”は、トップアスリートのスピードの追体験も可能にした車いす型VRレーサー

人の心を動かすのは、理屈ではなく、“面白い”“カッコいい”という素直な感覚

杉原行里(以下、杉原):“CYBER WHEEL<サイバーウィル>”がリリースされた時も大興奮でしたが、先ほど体験させていただいて、さらにテンションが上がりました。自宅に一台欲しいです(笑)。開発には時間がかかりましたか?

澤邊芳明氏(以下、澤邊):着想は長かったんですが、作るのは早かったですね。これはまだ第一段階で、バージョンで言うと、0.5くらいの感覚。連結対戦させたり、選手のデータをインプットしてバーチャル対戦できるようにしたいですし、さらに言うと、実際に走らせたいんですよ。リアルに動いているんだけど、例えば、MR(複合現実)のヘッドセットを通して見える世界は、現実と組み合わさった仮想空間みたいな。

杉原:現実の世界に帰ってくるのが大変そうですね(笑)。

澤邊:イベントなどに出すと、「もう一回やりたい!」って、小さい子供たちが何度も列に並んでくれたりするんです。この類いのもので、そういう反響って普通はなくて。興味を持ったところから逆輸入的に、車いす型だと知って、「へぇ~!」となる。そうやって戻ってくるというか、体験した方たちの意識の切り替えがすごく面白いですね。その意味では、もはや、車いすではなくて、“何か新しい乗り物=パーソナル・モビリティ”と呼ぶ方がふさわしいのかもしれません。

杉原:「何だかよく分からないけど、カッコいいモビリティだな」という感じで、最初にその存在を知って、例えば、東京パラリンピックの時に、何らかの形で登場した時、「あの時のアレって、CYBER WHEEL<サイバーウィル>だったんだ!」と繋がると、より強く心に刻まれるでしょうね。

CYBER WHEEL(サイバーウィル)の設計の参考となったロードレース用車いす「SPEED KING」(車いすメーカー・株式会社ミキより提供)

澤邊:楽しい、面白いっていう体験を通していくと、やっぱり記憶に残るんですよね。そこに、本物のロードレース用車いすを展示していますが、あれを見せて説明するのとでは、興味の入り方が全然違います。話は飛躍しますけど、リオパラリンピックの開幕式で、巨大メガランプから車いすごと一気に滑り降りて、スロープを飛んだ人、あの命がけ感、すごく良いですよね。

杉原:WCMXのアーロン・フォザリンガム選手ですね。

澤邊:「パラリンピック応援しましょう!」とどれだけ言葉を並べても、人は理屈では動きません。純粋にカッコいいとかキレイと思える何か、あるいは、感動や興奮を与える何かを作り出さないと。あまりとらわれないで、感覚に素直にいく方がいいですよね。

澤邊:僕が今の仕事をやろうと思ったきっかけのひとつに、“あるおじさん”の存在があります。90年代の後半ごろ、あるテレビ番組に登場した義手のおじさんは、一軒家の扉の前に立っていて、周りには子供たちがいました。「この人、一体何するんだろう?」と思って見ていたら、突如、扉の前に腕を向けて、義手からバズーカ砲を撃ったんですよ。しかも、かなり強力な(笑)。子供たちは、「おじさん、すごい!!」って大喜び。見ていた僕も、これはヤバいなと思いました。バズーカ砲を撃った瞬間、おじさんは間違いなくヒーローになったんです。お逢いしたことはありませんが、今でも鮮明に脳裏に焼き付いています。

杉原:その映像、ぜひ見たいです。

澤邊:それがいくら探しても見つからないんですよ。

杉原:じゃあ、新たにバズーカ映像、作っちゃいます?

澤邊:楽しそう。それ、いいかも(笑)。

第2弾は“CYBER BOCCHA <サイバーボッチャ>”
女子高生が熱狂する世界が作れたら本望

今年8月23日、「CYBER SPORTS<サイバースポーツ>」の第2弾としてお目見えしたのが、“CYBER BOCCHA <サイバーボッチャ>”。東京パラリンピックの正式種目である「ボッチャ」を手軽に、誰とでもどこでも楽しむためのプロジェクション&センシングパラゲームだ。お披露目会では、リオパラリンピック混合団体戦で銀メダルを獲得した廣瀬隆喜選手と杉村英孝選手によるデモプレイも行われた。

杉原:ボッチャをいかに楽しませるかというエンターテイメント性が、非常に強い印象を受けました。

澤邊:僕が怪我したのは18歳の時で、ボッチャは、その翌年から始めたリハビリのひとつとして病院で教わりました。ちょっと極めそうになったくらい、ハマったんです(笑)。当時は、大学に戻る話も決まっていたので、極めずじまいでしたが、その面白さを伝えたいという思いはずっとあって。ボッチャに、今我々が持っているデジタルテクノロジーの力を掛け合わせれば、新しい“ボッチャ体験”を生み出せるんじゃないかなと思って作りました。
まずは、面白いゲームとして知ってもらって、テレビなどで試合の中継を見た時に、「そういえば、ボッチャって聞いたことあるな」、「パラリンピックの競技だったんだ」という風に気づいてもらえるようになったらいいなと。願わくは、プロのアスリートが競技する姿を見て、「この人、めっちゃ上手いじゃん!」と女子高生が熱狂するような世界を作れたら理想的ですね(笑)。

いずれ、パラリンピックはなくなる!?

杉原:東京パラリンピックに向けて、今後どのように展開していく予定ですか?

澤邊:CYBER BOCCHA <サイバーボッチャ>に関していうと、一般社団法人日本ボッチャ協会と連携して、寄付の仕組みを作りました。企業や各種スポーツイベントでの使用や、アミューズメント施設、飲食店などへの設置による収益の一部を寄付していくというものです。この機能は、パラスポーツの面白さをより多くの人に知ってもらう機会を創出すると共に、東京パラリンピックでの金メダル獲得を狙うべく、日本のボッチャ選手の強化や育成のための支援を目的としています。
CYBER WHEEL<サイバーウィル>についても、ゲームセンターなどに導入して一般の方が体験できる機会を増やしつつ、車いすマラソンなどの競技に貢献できる仕組みを作れたらいいなと考えているところです。

杉原:なるほど。2020年以降については、どのように考えていらっしゃいますか?僕は、“補完型”から“拡張型”の社会に移行していくんじゃないかなと思っています。腕がないのなら、それを補うのではなく、先ほどのバズーカ砲のおじさんの話じゃないですけれど、能力を拡張できる何かを作っていくという方向に向かう気がしていて。

澤邊個人的には、パラリンピックという大会自体が、徐々になくなっていくのではないかと思っています。そう思う理由のひとつに、慶應義塾大学や京都大学が取り組むiPS細胞の再生医療が挙げられます。先生方によると、そう遠くない未来に、慢性期の脊椎損傷に対する治療も行っていく予定だそうです。人それぞれ、脊椎の損傷の程度は異なりますし、どこまで機能回復できるのかは、現時点では定かではありませんが、もし、これが実現したら、脊椎損傷のパラリンピアンたちが治る可能性は大いにあるわけです。
次に、「トランスヒューマニズム」の世界が近づいていること。世界的に見れば、体にチップを埋め込んだり、体の一部を機械化する動きはすでにありますし、この10年以内に、人類の約50%がチップを埋め込むだろうという予測もされていますよね。
もうひとつは、ロボット。例えばですが、人間の代わりに、二足歩行のロボットが走るといったちょっと不可解なものが出てくる可能性もあります。加えて、ロボット工学や生物機械工学などのアシスト機器で能力を拡張したアスリートが競い合う「サイバスロン」や超人スポーツなどの大会もすでに開催されているとなると、もはやロボットと人間の区別はおろか、多様化しすぎて、何がマジョリティで、マイノリティなのか、わけの分からない状態になるのではないかと。オリンピアンとパラリンピアンの境目も、どんどんなくなっていくでしょう。僕は、その世界がいいなと思っていて。もし、ウサイン・ボルトを抜くようなパラリンピアンが現れたら、その瞬間、パラダイムシフトが起きても不思議ではないと思います。

「パラスポーツの普及について現在の課題は、“自分ごと化”できていないこと」―澤邊氏はこう指摘する。人間、何事も楽しくなければ“自分ごと化”するのは難しい。だからこそ、これまでの競技体験会による興味喚起や観戦促進とは違うプロジェクション&センシングパラゲームなど、この世あらざるエンターテイメントの形に変えて、次々と開発しているのだ。類まれなる審美眼で、先の先を見据える同氏が率いるワントゥーテンと、CYBER SPORTS<サイバースポーツ>プロジェクトの今後に注目したい。

澤邊芳明(Yoshiaki SAWABE)
1973年、東京生まれ。京都工芸繊維大学卒業後、1997 年にワン・トゥー・テン・デザインを創業。現在は、企業グループ「ワン・トゥー・テン・ホールディングス」を率いる。社会通念を破壊し、当たり前を疑うことから生まれるポジティブなエネルギーを持ったイノベーションを起こすことをミッションとしている。

ワン・トゥー・テン・ホールディングス
http://www.1-10.com/

CYBER SPORTS<サイバースポーツ>
http://cyber.1-10.com/

(text: 岸 由利子 | Yuriko Kishi)

(photo: 長尾真志 | Masashi Nagao)

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対談 CONVERSATION

鈴木啓太の新フィールドは腸内⁉ アスリートの便を生かしたサプリとは(前編)

宮本さおり

ドラッグストアにずらりと並ぶサプリメント。だが、このサプリメント市場に変化が現れはじめている。ユーザーの体質に合わせてカスタマイズされたサプリメントの提供がはじまっているのだ。薬や漢方薬などと違い、長らく、万人に等しく同じ商品が提供されてきたサプリメント。元プロサッカー選手の鈴木啓太氏は「アスリートの力を自分の生活に」をスローガンに掲げ、AuB株式会社を設立、アスリートの腸内環境研究から得た情報をベースに開発したサプリメントの提供をはじめた。アスリートの協力により生まれたサプリメントとはどのようなものなのか? 無類のサッカー好きを豪語する編集長、杉原行里が話を聞く。

「人間は腸が大事」
母から受け継いだ言葉

杉原:今日はお時間をいただきありがとうございます。鈴木さんが活動されていることについては友人から聞いたり、メディアを通して以前から拝見していました。腸内環境を整えることに注目され、アスリートの腸内環境を調べることからはじめられたと伺っているのですが、具体的にどういうことをされているのか、まずは今AuBさんで行っていることを教えていただけますか?

鈴木:ありがとうございます。簡単に言うと、アスリートの腸内細菌を調べ、そこから得られた知見を一般の方の健康維持に役立てようという会社です。子どもの頃から「人間は腸が一番大事」だと母から言われて育ちました。現役時代も腸を整えることを大事にしていましたし、自分のコンディショニングにお腹の状態を計ることを取り入れていました。それが決定的になったのがアテネオリンピックの最終予選でした。

杉原:聞いたことがあります。あれですよね。

鈴木:そう、23人下痢事件です。

杉原:大変でしたよね。

鈴木:多くの選手がダメージを受けましたが、この時も僕は下痢になりませんでした。下痢ではさすがにパフォーマンスが下がります。それを実感したのがこの大会でした。腸内の環境を整えることは、こういうことにも繋がるのだなと。

杉原:スポーツ選手のコンディショニングとの関係性が見つかったわけですね。

鈴木:そうですね。それから少しして、引退前あたりになってからですが、便を使って腸内の状態を解析できることを知りました。腸内環境の研究では、腸内細菌が人それぞれ違うことや、太りやすい人には共通した菌が見られるなどの特徴があることもわかり始めていました。そこで興味が沸いたのがアスリートの腸内細菌はどのようなバランスになっているのかということでした。アスリートはある意味、特徴的な人と言うことができるのではないかと考えたんです。

一般人とアスリート
腸内環境の差が意味するもの

杉原:確かにそうですね。トレーニングを毎日積んでいますし、走るのが早いとか、いろいろな特徴を持つ人がいそうです。

鈴木:アスリートの便の解析によって何か新しいことが発見できるんじゃないかという思いがあって、起業することにしたんです。4年ほど研究し、500名以上1100検体以上のデータを取りました。選手に会うたびに「便ちょうだい」と言っていましたから、変だったと思います(笑)。でもおかげでアスリートの特徴を見出すことができました。

杉原:一般の人との違いがあったということですか? 気になりますね、何が違うんですか?

鈴木:一言でいうと、多様性があるってことです。多様性とは、菌の種類が沢山いるということですが、これは健康と非常に関係しています。疾患を持つ方と一般の健常者の方の腸内細菌を比べると、健常者の方が多くの種類の菌を持っていたという研究結果がありました。つまり、腸内に多様な菌がいる方が健康だということですよね。それからもうひとつ、アスリートは一般の方と比べて酪酸菌が2倍近くあることが分かりました。

杉原:酪酸菌とはどのようなものなのですか?

鈴木:乳酸、酢酸、プロピオン酸などと共に短鎖脂肪酸の一種です。酪酸は腸内フローラの健康を維持するのに欠かせないものなのですが、これが一般の方の2倍近くあったのです。

 

AuB(オーブ)株式会社提供

杉原:具体的にどう影響しているのかなどは分かっているのですか?

鈴木:まだ深堀の最中ですが、この研究ではっきりとしたことは、人により腸内の環境が違うこと、違うということは、健康を保つためのアプローチも変わってくるのではないかということです。課題が違うのだと思うのです。そういうことをやっていくと、万人向けのサプリメントというものではなくて、パーソナライズ化されたソリューションが求められていくのではないかと思ったわけです。

杉原:今のお話で気になることがひとつあったのですが、確かにスポーツ選手はアスリートなので、一般の方とは違う体つきをしているというのは理解できるのですが、それが定量化された時、アスリートということと、健康だということはイコールなのでしょか。

鈴木:厳しいトレーニングをすれば健康なのかということですよね。これは大きなテーマだと思いますが、一つ言えることは、高いパフォーマンスを出すためにはコンディションが整っていないといけないことは確かなのではないでしょうか。一般の方たちがいきなりプロアスリートと同じトレーニングをしたら、多分体が壊れてしまう。でも、アスリートはそれに耐えるための機能を伸ばしていっている。健康かどうかは別にしても、自分の持てる課題に対して解決していく能力が高いのではないかと考えています。

見えてきた競技ごとの違い

杉原:腸内細菌はずっと同じものを保有するのではなくて、変えられると言われている。僕はアスリートの友達が多いのですが、「ずっと頑張ってきてアスリートになれたな」という人と、「元々すごいんじゃないか」という人がいるように思うんです。腸内細菌も同じで、もともとすごく多様な菌を持っている人もいるのではという疑問が出てくるのです。彼らは生まれた時からそうした多様な菌を保有していた人なのか、それとも、のちに蓄積されてそうなったのかは気になるところです。

鈴木:さすがいい質問ですね。実は、生まれる前はみんな無菌なんですよ。生まれるときに産道を通って菌を取得したり、食事を通して得たりしていくのです。一般の人とアスリートの腸内細菌の情報をプロットしたことがあったのですが、一般の人は中心に集まるのに対してアスリートは中心から離れたんです。つまり、一般の人はある程度菌の構成が似ているのに、アスリートは違うということです。遺伝子も関係すると思いますけれども、食事や生活習慣が違うからこそ変わっていくのだと思います。それから、競技によって傾向が見えてくるのも面白い点でした。

杉原:水泳選手とサッカー選手で違いがあるということでしょうか?

鈴木:そうです。競技ごとに傾向があるんです。

杉原:水泳とサッカーならば競技中の身体の使い方が違う気がするので、そこが分かれるのはわかる気もするのですが、サッカーでいくと同じようなフィールド系のスポーツとの関係性はどうですか? ラグビーとか。

鈴木:我々が調べたところによると、データ上では長距離走とサッカーは似ています。そして、サッカーとラグビーも似ている。でも、長距離走とラグビーは違うんです。

杉原:走るかどうかということですかね。ボランチならば10~15キロくらいは走りますもんね。

鈴木:そうですね~、それに、ラグビーはどちらかというとパワー系、瞬発系ですよね。

杉原:じぁあ、野球とかに近いのでしょうか?

鈴木:野球がねぇ、ちょっとまた違うんです。我々が持っているアスリートのn数によってばらつきになってしまうので、n数の多い陸上、サッカー、ラグビーで調査をしたところ競技特性が見られました。今後検体数が増えれば野球やその他競技でも明確な血合いが見られるかもしれませんね。

杉原:面白いですね。でも、この研究が進んだら、腸内細菌のコントロールによるコーチングとかも夢ではなさそうですね。

鈴木:まだ調べきっていないので断定はできませんが、可能性はあります。

アスリートの社会貢献とは

杉原:アスリートのデータを元にされているということですが、そうなると、アスリートの方々の存在意義が広がりますね。試合を見てもらうことで人々に感動を与えるという娯楽としての貢献だけでなく、幅広く人々の健康にも寄与する。僕はスポーツ・音楽・アートは一瞬で人の心を大きく動かせる力を持つものだと思っているのですが、お話を伺っていると、そこから培われたテクノロジーが一般社会に落とし込まれていくというスキームと、彼らのセカンドキャリアとしての役割も生まれてきそうだなという気がしました。

鈴木:そうですね。自分がサッカーをはじめたきっかけって何だったっけ?と思った時、練習に連れて行ってもらって練習が楽しかった。だけどそれだけじゃプロになろうと思わなかったと思うんです。ゴールが決まった時に母親を見たら手をたたいて喜んでくれていた。それを見たときに、これで人を喜ばせることができるんだと思って、誰かが喜んでくれることっていうのが仕事の一番の原点にありました。プロになったらサポーターに喜んでもらえることが励みになりましたし、チームメイトと喜びを分かち合うこともそうです。人に喜びを与えられるものが、価値あるものだと考えている。

杉原:なるほど。

鈴木:でも、残念ながら日の目を浴びないアスリートもたくさんいますよね。アスリートのピラミッドの中では頂点だけが次のキャリアに対していろいろなアプローチができる。でも、みんな同じように頑張ってきているんです。下の方のアスリートがダメだったかというと、実際はコンディショニングとか、身体的なパフォーマンスで言うとピラミッドの三角形の裾野は広がってる。誰かを喜ばせるために頑張ってきたことは、この裾野の選手たちも同じです。スポーツとヘルスケアが合わさって産業にすることで、働き口を創ったり、対価が直接的ではないにしろ、何かしらの貢献ができる、そんなサイクルが回せる世の中を作っていかないといけないと思っています。

鈴木啓太(すずき けいた)
元サッカー日本代表。AuB(オーブ)株式会社代表取締役。静岡県に生まれ育ち、小学校時代は全国準優勝。中学校時代は全国優勝を成し遂げ、高校は東海大翔洋高校へ進学。その後、Jリーグ浦和レッズに入団。その年にレギュラーを勝ち取ると2015年シーズンで引退するまで浦和レッズにとって欠かせない選手として活躍 。2006年にオシム監督が日本代表監督に就任すると、日本代表に選出され、初戦でスタメン出場。以後、オシムジャパンとしては唯一全試合先発出場を果たす。

(text: 宮本さおり)

(photo: 壬生マリコ)

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