テクノロジー TECHNOLOGY

サイバー過ぎるパラスポーツ体験が熱い!車いす型VRレーサー“CYBER WHEEL”

岸 由利子 | Yuriko Kishi

パラスポーツを代表する競技のひとつ、「車いすマラソン」を観戦したことはあるだろうか?ロードレース用車いすに乗り、ハンドリムを手だけで操作してゴールを目指すあの競技だ。実際のレースでの最高速度は、なんと60km越え。見ているだけでは、そのハードさは中々実感しづらいものだが、それはこれまでの話。車いすマラソンで走るリアルな感覚を、誰もが体験することを可能にしたVRエンターテイメントが、この度誕生した。その名も、『CYBER WHEEL(サイバーウィール)』。開発を手掛けた株式会社ワン・トゥー・テン・ホールディングス(以下、ワントゥーテン)の東京オフィスを訪問した。

“未来のウィールチェア”をかたちに
設計のインスピレーションは、ロードレース用車いす 

『CYBER WHEEL(サイバーウィール)』の機体は、実際のロードレースで使用されている「SPEED KING」を車いすメーカーの株式会社ミキより提供を受け、設計の参考としたオリジナルボディ。機体の素材には、宇宙・航空産業や鉄道、医療分野などでも使用されているFRP(繊維強化プラスチック)、シート、タイヤ&ホイールにはグラスファイバーを採用し、ダークグレーを基調にしたボディは、ウレタン樹脂塗装仕上げ。「空力などを考慮し、実際の未来の姿としての車いすをデザインしています」とワントゥーテンの開発担当者が言う通り、フューチャリスティックな趣だ。

シートに乗り、VRとヘッドフォンを装着したら、前傾姿勢で、車輪についたハンドリムを手で回す。すると、VR内の画面を進むことができる仕組みになっている。VR装着時に見えるのは、このような映像だ。

リアルの世界では、ハンドリムを手で回し続け、VRに広がる5つのステージを駆け抜けるタイムトライアルは、ゲーム感覚で楽しむことができる。行く途中には、カーブあり、障害物あり。それらをうまく避けながら、走り続けるのは中々ハードだが、それゆえ集中力も高まり、時が経つのも忘れて熱中してしまうほど。特筆すべき点は、VRの体感スピードが、世界のロードレースと同じスピードを再現していること。そして、トップアスリートのスピードの追体験も可能にしていることだ。

デジタルテクノロジーの力で、パラスポーツを“エンターテイメント”に

ワントゥーテンが、このプロダクトを開発したのには理由がある。ひと言でいうなら、それは、パラスポーツの普及のためだ。同社代表取締役社長の澤邊芳明さんの言葉を借りるなら、「パラスポーツの普及について現在の課題は、“自分ごと化”できていないこと」。

本来、パラスポーツはエキサイティングで、戦略も求められる激しいスポーツ。だが、実際のところ、一般の人がそれを体験できる場はかなり稀少で、かつインストラクターも不足しているので、そもそも興味を持ちづらいのが現状だ。

パラスポーツをデジタルテクノロジーの力で、“エンターテイメント”という形に置き換えることで、日本中で体験会などを実施し、それらを通してより多くの人々にその魅力を知って欲しいーそんな想いから、ワントゥーテン「CYBER SPORTS」プロジェクトの第一弾として生まれたのが、車いす型VRレーサーこと、『CYBER WHEEL(サイバーウィール)』なのだ。

今年5月6日、都内で開催された東京都主催によるパラ体験イベント「NO LIMITS SPECIAL 2017 上野」のオープニングセレモニーでは、小池百合子都知事も体験し、「車いすを動かすのはいかに大変なことかというのを体感した」と報道陣の取材に語っている。もとい、大変だが、スリリングな感動にやみつきになりそうというのが、筆者の感想だが!ワントゥーテン「CYBER SPORTS」プロジェクトの今後の展開に要注目したい。

ワン・トゥー・テン・ホールディングス
http://www.1-10.com/

CYBER SPORTS プロジェクトページ
http://cyber.1-10.com/

(text: 岸 由利子 | Yuriko Kishi)

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子どもの地頭も鍛えられる?!脳を鍛えながら計測『ブレインフィットネス』

HERO X 編集長

実は筋肉のように鍛えることができるとも言われる脳。ゲーム感覚で脳を鍛える『脳トレ』が一大ブームとなったのは記憶に新しいところ。この『脳トレ』の考案者が今回注目したのが脳の活動具合の〝見える化〟だった。

人間の体の不思議はいくつもあるが、脳はその代表格と言ってもいいだろう。自分の脳がどのような仕組みになっているかを知る人は少ないのではないだろうか。脳は大きく分けて「大脳」「小脳」「脳幹」の三つの部分に分かれており、そのうち80%を大脳が占めている。この大脳には前頭葉、頭頂葉、後頭葉、側頭葉の領域が存在し、それぞれ役割が違うのだ。例えば、前頭葉は思考や運動などと関わりが深く、言語を発するのに使われている部分。頭頂葉は手足の感触や動きを知覚するための機能をもつと言われている。

この前頭葉の中でも機能は分かれており、前頭葉の中にある前頭前野は感情をコントロールすることや、考えること、アイデアを出すこと、判断すること、応用することなど、人間らしい部分を多く司るところとなっている。

東北大学と日立ハイテクで立ち上げた(株)NeUでは、前頭前野を光トポグラフィ(NIRS)という技術を使い計測、画面に出される問題に答えることで脳がどのくらい反応しているのかを計ることで、脳トレの効果を見える化できるようにした。その名も「ブレインフィットネス」。

光トポグラフィとは、頭部に3㎝の等間隔で光源と受光センサーを配置することで脳内のどこに変化が起きたかを計測、可視化するもの。「ブレインフィットネス」ではこの光トポグラフィを使った脳センサーをおでこに装着することで、前頭前野の活動具合を計る。

開発に関わったのはあの『脳トレ』を手がけた東北大学加齢医学研究所所長の川島隆太教授だ。ゲームをやるだけだった脳トレでは、その日のスコアなどは分かるものの実際にどの程度鍛えられたかを見ることができなかった。同じ人間といえどもその日のコンディションによってもスコアは変わるため、スコアだけでは脳活動がどの程度行われたかを可視化するのは難しい。しかし、この光トポグラフィ技術を活用することで、脳のどの部分に変化が起こったのかを見ることができるため、出された問題というトレーニングがどの程度脳に効いているかを視覚的に知ることができるようになる。

同社は認知症予防をはじめ、子どもの地頭向上や、ビジネスマンの生産性アップなどへの活用が期待されると伝えている。ダイエットでも結果が可視化されている方がトレーニングのモチベーションを保ちやすいと言われるが、脳トレもパーソナライズ化されたデータとして結果が見えるとなれば、やる気はアップしそうだ。

(text: HERO X 編集長)

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