福祉 WELFARE

障がい者支援も、人工衛星開発も、三菱電機の考え方は同じだった!【2020東京を支える企業】後編

朝倉奈緒

東京2020において、エレベーター・エスカレーター・ムービングウォークカテゴリーのオフィシャルパートナーである三菱電機。また、公益財団法人日本障がい者スポーツ協会や一般社団法人日本車いすバスケットボール連盟のオフィシャルパートナーでもあり、障がい者スポーツの本格的な支援も始めている。今回、家電製品から宇宙システムまで、私たちの生活と密に関わる製品を生み出し、開発し続ける三菱電機が、「共生社会の実現」に向けてどのように動いているのか、東京オリンピック・パラリンピック推進部長の松井久憲さん、次長の小峰即彦さん、推進担当課長の平山哲也さんに、課題も含めお話を伺った。

パラ競技に対する
地域ごとの思いを集めたプロジェクト
「三菱電機Going Upキャンペーン」

ー車いすバスケットボールの体験会やデモンストレーションなどのスポーツイベント「三菱電機Going Upキャンペーン全国キャラバン」では、既に多くの地域を回られていますね。

Going Upキャンペーン全国キャラバンは実行委員会形式で取り組んでいます。当社と電通さん、日本車いすバスケットボール連盟さん、当社のインハウスの広告代理店であるアイプラネット、ニッポン放送さん、エルファクトリーさんと一緒に活動していこうと協定を結び、各地のラジオ局のリスナー感謝イベントなどを調べて、そこにブースを出すような形でキャンペーンを展開しています。

ー現地では車いすバスケットボールの選手の方も参加されていますね。

現地の車いすバスケットボール連盟の選手の方に参加いただいています。また、地域ごとにPRしたいパラスポーツ競技を持ち込んでいただくこともあります。例えば仙台でしたら卓球バレー、石川ならボッチャ、広島は陸上競技のレーサーだったりと、パラスポーツを普及させたいけど機会がなかった、といった地域の障がい者スポーツ協会と連携して、現地の方たちと一緒に展開しております。

ーそれは地域性というか、それぞれの地域の特徴が表れそうですね。

地域の「思い」が出ますね。石川では全国のボッチャ大会が開かれるので告知に利用されたり、鹿児島では、2020国体と全国障がい者スポーツ大会があるので、それに向けて盛り上げていきたいので幟を立てさせてほしい、など。

ー参加者の方は、みなさん笑顔で障がい者スポーツを体験された様子がHPの動画からも伝わってきます。感想もたくさん掲載されていますが、特に印象的だった感想や意見はありますか?

お子さんの中には飲み込みが早く、車いすもすぐに乗りこなしてしまって「簡単だった」と言われたのには驚きました。大人は少し気を使って「難しい」とみなさん言われたりするのですが、そこは子どもは遠慮せず、「一緒に楽しむ」という感覚が平等な感じがしていいな、素敵だなと思いましたね。

ー子ども達にとっても貴重な体験だったのでしょうね。来場者の中には障がいのある方で、初めてパラスポーツを体験された方もいたのでしょうか?

ボッチャ目当てで来られた脳性麻痺の方が競技を初体験されたり、広島ではラジオでキャンペーンの告知放送を聞かれたご家族が、お子さんが将来車いすバスケをしたいので、チームの方と連絡先を交換されたりといった出来事がありました。このキャンペーンを通して、より多くの方がパラスポーツを知ったり、始めるきっかけづくりになればうれしいです。

三菱電機の目指す未来。
まずは社員の心のバリアフリーから

ー「活力のある共生社会の創造」を実現するために、三菱電機ができることは何でしょうか。東京2020の先に描く未来を教えてください。

三菱電機グループは、技術、サービス、創造力の向上を図り、活力とゆとりある社会の実現に貢献する」が企業理念であり、今日的な社会課題である環境問題と資源エネルギー問題への取り組みに加えて、障がいのある人も健常者も、全ての人が平等に機会を得られる共生社会を実現することの両方を、自分たちのシステムや製品やソリューションで解決していきたい。それを実現するための手段として、私たちの製品なを使ってもらいたいと考えています。

三菱電機は人工衛星から発電所、水処理プラント、エレベーター・エスカレーター、家電製品まで、人々が生きていく、生活する様々な場面に、製品を提供しています。環境保全のため省エネを実現するということも然り、全ての人が等しく移動でき、そのアクセスビリティを確保することに貢献していくことや、誰もが使いやすいインターフェイス・デザインを実現すること。また、障がい者や高齢者にとって優しい、ユニバーサルデザインをベースにあらゆる製品システムを考えていくことで、共生社会の実現に向けて進んでいると考えております。

ーそういった理念を推し進めていく中で、何か課題点は見つかりましたか?

心のバリアフリーをどう叶えていくのか、という点ですね。ユニバーサルデザインをベースにするといいながら、物事の考え方のベースになりきれていないというのは、自分自身でも感じています。

ー「三菱電機Going Upセミナー」では社員の方を対象に、障がい者スポーツへの理解を深めたり、障がい者の方との接し方を学んでもらうといった意識啓発施策を展開されていますね。

パラスポーツやパラリンピックの特徴を伝えれば、車いすバスケを観たとき、そのスピード感や迫力に驚き、「今まで思っていたイメージと何か違うぞ」という気づきになる。それを入り口にしながら、街中で視覚障がいの方を見かけたらどうやってお声がけしたらよいのか、車いすの方にはどう接したらよいのかを動画を交えながら学んでもらい、グループワークで更に理解を深めてもらう、といった内容のセミナーです。最近ではJRやメトロの車内アナウンスやポスターでも「お声がけ・サポート運動」のキャンペーンを行っていますが、そういったことに意識を向け、「自分も困ってる人がいたら積極的にサポートしてみよう」と、三菱電機の社員が行動し、課題である心のバリアフリーを叶えていきたいで

前編はこちら

三菱電機東京2020スペシャルサイト
http://www.mitsubishielectric.co.jp/tokyo2020/?uiaid=top2013

三菱電機Going Upキャンペーン
http://www.mitsubishielectric.co.jp/goingup/

(text: 朝倉奈緒)

(photo: 壬生マリコ)

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ポジティブなマインドは、ネガティブから始まる。TEAM POSITIVE代表・鈴木隆太

中村竜也 -R.G.C

健常者、障がい者を問わず、スポーツを通して新たなことにチャレンジする人をサポートする団体がある。彼らは、身体的な不利を一切障がいとは考えず、とにかく楽しむことに全力を注ぎ、人生を生き抜くことを笑顔で広めていくという、夢物語のようなことを実践しているチームなのだ。その名も「TEAM POSITIVE」。

TEAM POSITIVE 代表を務める鈴木隆太さん(以下、鈴木さん)自身も、バイクでの通勤途中に車と正面衝突し、左下腿を失った。その時若干17歳。しかし、転んでもただでは起きないのが鈴木さん。そこでの経験や気持ちが、後の TEAM POSITIVE の発足に繋がったという。

「正直その時は、人生が完全に終わったと感じ、3日間泣き続けました。そして3日目に、当時勤めていた鳶の親方がお見舞いに来てくれたんです。普通なら掛ける言葉も見つからず、ただ傍観するしかないような状況ですよね。でも親方は、『馬鹿野郎、いつまで泣いてんだ! 早く戻って来い!』と喝を入れてきたんです。その言葉で正気に戻りました。

その時に決意したのが、鳶に戻る、そして大好きなバイクにもう一度乗るということ。この2つの決意が僕を突き動かし、半年の入院予定のところを、3ヶ月での退院にこぎつけました。しかもその時には、担当だった看護師さんと付き合っていました()。実はこれも密かな目標だったんです()

笑いながらそう話す鈴木さん。しかしその裏には、大好きなバイク、しかもハーレーという大型バイクを乗るために、自ら義足でも運転できる教習車を作り、それを教習所に持ち込んで免許を取ったという、並大抵ではない努力もあったのだ。ひとつの目標を達成するためには迷いのない行動力を発揮する。真似したくてもできない精神力の強さがそこにはあるのだ。

不便を感じたことが、
TEAM POSITIVE結成への第一歩

鈴木さんが義足になった当時は、まだインターネットが普及していない時代であったため、何か新しいことを始めようと思った時には全てが手探りの状態。足を失った者が再びバイクに乗るための情報にしても、パラリンピックを目指したスノーボードにしても然り。

「何か新しいことを始めようとした時、多くの方はできない理由を考えたり、周りからの声で、前進することを止めてしまうと思うんです。でも僕は、障がいがあろうが無かろうが、まず自分で答えを出し、解決しないと気が済まない性格でして。何かトラブルが起きてからようやく誰かに相談するんです()。そういうことを繰り返していくうちに、情報のポータルを作れたら面白いなと思い始めました」

「時代は、インターネットの普及とともに情報社会へと移行していく中、ある時テレビ取材のお話をいただいたんです。その時のディレクターの方がすごく面白い方で、『今までに取材させてもらった障がいをもつ方の中でも、鈴木さんはぶっ飛んでる』って言われたんです()。普通は一生懸命さを売りにするのに、バイクやジェットスキーに乗っているところなど、楽しむ姿ばかり撮らせますよねって。

そんな姿を見てか、その方に『何か団体を作ろう』と声をかけられました。以前から、サーファーやBMX、スノーボード、バイカー、陸上競技者など、とにかく多方面で活躍する人を集め、チームに対してスポンサーを付けていく動きをしたら面白いと考えていたので、よし、形にしよう!って思いました。これがTEAM POSITIVEの発足です」

surfing“kneeboard”の小林征郁選手(左)と伊藤健史郎選手(右)。ともにTEAM POSITIVE所属

スノーボードクロスでのピョンチャンパラリンピックの出場を目指し、ナショナルチームに所属していた頃、アメリカチームとの出会いが大きな転機だったという。鈴木さんがTEAM POSITIVEを通じて実現したかった、教育や選手育成、雇用サポートなどを、すでに彼らは実践していたからだ。

「スポーツ選手として日本国内でやっていくうえで何に苦労するかというと、絶対的に金銭面のウェイトが大きいんです。厳しい言い方をすると、スポーツで夢を与えることはできても、現実成り立たないのが日本の現状。

オリンピックの金メダリストで考えても、賞味期限は正直3年くらいだと思っていて、その後は忘れられていく。パラリンピックの選手となったら、簡単に名前が出てこないことも、悲しいですが頷けることが現状です。加えて金銭面もキツい。それではスポーツから離れる人は多くなります。

そんな状況を打破すべく、企業と選手の橋渡しをできるような活動を行なっていきたいと思い、アメリカのナショナルチームのやり方を学びに渡米しました。正直、スポーツに対する向き合い方が日本とは大きく違い衝撃でしたね。そのような現状を伝えるためにも、草の根活動的な講演会などは、僕がやっていくべきだと。スター選手は他にいるので()

チームの中に、左手一本しかない子がいるんですが、その子にやってもらっているのは、僕らのボイスチェンジ。たとえば、僕が今喋っていることは、興味を持ってくれた方には刺さるんですが、同じ境遇の方には刺さらないんですね。そこを同じ思いを持っている子が同じ思いを伝えることで意味が生まれてくる。左手一本しかない人が、どれだけ前向きに生きているかが伝わるじゃないですか。そういった意味で講演活動では、伝えるということに重きを置き活動しています」

講演中の山田千紘さん

TEAM POSITIVEの存在意義

「まず自分の置かれた状況を一生懸命楽しんでいるのかが、僕の価値観ではすごく重要なんです。たとえば、危険が伴うことは、すぐ周囲の人が危ないからという理由で止めてしまったりすることが多いですよね。そんな状況を回避し打破するために、TEAM POSITIVEは存在すべき。新たな挑戦をしようと思った時の光になれれば、みんなの可能性が広がるわけで。ひとりの力だと、たかが知れているかも知れないけど、様々な方面で活躍している人の生きた情報を与えることができたら、輪が広がっていくじゃないですか。そして、とにかく楽しむことを目的とした集団を作り上げたかったんです」

スノーボードのトレーニングをする鈴木さん。

自分たちにしかできないことを明確にし、それに向かって前進する。大袈裟かも知れないが今の日本人が忘れかけた精神を思い出せたような気がする。では、鈴木さん自身は、チャレンジすること、ポジティブでいることの意味をどのように考えているのだろうか。

「それは楽しむということに尽きますね。楽しくないと嫌なんです()。でも『楽しむために嫌なことは全部やらないんでしょ』ってよく勘違いされるんですけど、そうではない。やりたいことを実現するために、ただ貪欲に突き進むということなんです。そこにはもちろん、嫌なことも沢山ありますし、やりたくないことにも向き合わなくてはいけない現実もあります。そして何より、人としてかっこいいか、かっこ悪いかが、僕のチャレンジ精神の大きな判断基準なんです」

足を失ったことで、さらに世界を広げてきた鈴木さんが、最後にこう語ってくれた。

「困っている人がいたら手を差し伸べる。そんな当たり前のことが様々な壁を取り払い、誰もが住みやすい世の中へとつながる、真のバリアフリーだと思っています」
この言葉を聞き、自分の気持ちに正直に生きているのが、鈴木さんであり、所属するメンバーも含めたTEAM POSITIVEの姿なんだと感じた。そして、シンプルな生き方こそが、究極のポジティブなのかもと。


オフィシャルサイトhttps://www.teampositive.biz/

(text: 中村竜也 -R.G.C)

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