福祉 WELFARE

障がい者支援も、人工衛星開発も、三菱電機の考え方は同じだった!【2020東京を支える企業】前編

朝倉奈緒

東京2020において、エレベーター・エスカレーター・ムービングウォークカテゴリーのオフィシャルパートナーである三菱電機。また、公益財団法人日本障がい者スポーツ協会や一般社団法人日本車いすバスケットボール連盟のオフィシャルパートナーでもあり、障がい者スポーツの本格的な支援も始めている。今回、家電製品から宇宙システムまで、私たちの生活と密に関わる製品を生み出し、開発し続ける三菱電機が、「共生社会の実現」に向けてどのように動いているのか、東京オリンピック・パラリンピック推進部長の松井久憲さん、次長の小峰即彦さん、推進担当課長の平山哲也さんに、課題も含めお話を伺った。

2020年に向け描く理想は、
心のバリアフリーがあってこそ
完成するもの

ーエレベーター・エスカレーター・ムービングウォークカテゴリーのオフィシャルパートナーとして、大会関連施設や周辺インフラのバリアフリー化を支えられるとのことですが、今それらの事業はどのくらい進んでいるのでしょうか。

新国立競技場はご存知の通り、基礎工事が始まって、これから建物が建っていくといった状況です。アクセシビリティガイドラインに応じた設計がされ、私たちのエレベーター・エスカレーターなどもそれに沿った提案をしています。設計はだいぶ進んでいますが、施工に関してはまだこれからです。また、駅周辺や空港から鉄道を使ってホテルに向かったり、駅から競技場へ向かうといったアクセシビリティを高めるという点において、日本の街はそれなりに進んでいますが、まだまだ不十分なところがあります。2020年に向けて、そのあたりも交通事業者の方々の計画立案をお手伝いしています。

ー都内の地下鉄の駅には数年前まではエレベーターのない駅もありましたが、ここ12年で設置されていたり、現在工事中だったりするのを見かけます。2020年まであと2年程で理想の形に追いつくのでしょうか。

2020年に向けて、鉄道各社は、急ピッチでなんとかしようという想いで進めています。ただ、物理的なアクセシビリティだけでなく、困っている人がいたら押しつけがましくなくサポートできるような、人の心のバリアフリーを築いていくことも大切です。人の気持ちや意識が変わっていかないと、全体のバリアフリーは進まないというのが私たちの考えでもあります。

企業が諦めずに取り組むことで、
2020年東京の街と人を変える

ー鎌倉市にある三菱電機大船体育館をバリアフリー化し、車いすバスケットボールチームへ練習場所として貸し出されていますね。こういった施設を、これから増やされていく予定ですか?

具体的な計画はまだないですが、増やしていきたいなとは思っています。ただ当社一企業だけが取り組んだところで、十分な練習機会の確保には至らないと思います。ぜひ様々な企業さんにも、お持ちの施設をコネクションしていただくなどし、今後そういう活動が広がっていけばいいなと思っています。

ー車いすバスケットをするには、体育館の予約も取りにくかったりという、困った現状もあります。このような取り組みを進めている御社の視点から、インフラをどのように整えていくべきだと考えますか?

体育館に関しては、サポート対応する人がいないとか、床に傷がつくかもしれないといったことで残念ながら断られてしまうところが多いと聞いています「当社も参画しているオリンピック・パラリンピック経済界協議会の参加企業でも施設の貸し出しに向けて、どのように協力ができるか考えていただいています。」東京都と(公財)東京都障がい者スポーツ協会では、競技者を受け入れるために、施設職員の対応マニュアル「障がい者のスポーツ施設利用推進マニュアル」をつくり、ソフトの部分での対応力を上げて、少しでも使える施設を増やすための働きかけをしているところです。

ー以前よりも、みなさんのパラスポーツに対する興味・関心が強まったり、競技との距離感が縮まっている実感はあります。

メディアのみなさんが扱われる機会が増えているというのもありますし、リオ2016やピョンチャン2018、そして東京2020と段階的プロセスでもって、より共生社会に向けた感覚というのは培われているはずです。ロンドンパラリンピックで「ロンドンの街も人も変わった」、と関係者の方が口々に述べている。東京2020もそうなって欲しいので、少しでもお手伝いできることを願っています。

後編へつづく

三菱電機東京2020スペシャルサイト
http://www.mitsubishielectric.co.jp/tokyo2020/?uiaid=top2013

三菱電機Going Upキャンペーン
http://www.mitsubishielectric.co.jp/goingup/

(text: 朝倉奈緒)

(photo: 壬生マリコ)

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今、必要なのは勇気とスピード感。元F1ドライバー山本左近の視点 後編

宮本さおり

F1ドライバーとして活躍、現在は社会福祉法人の理事や政治家としても活躍する山本左近氏。前編では、F1で生み出された車の技術がどのように社会へと落とし込まれていくか、また、福祉の世界に身を置くことで見えてきた「食」という課題についてHERO X編集長の杉原行里が話を聞いた。後編ではどんな話が飛び出すのだろうか。

世界と戦うためにはスピード感と判断力がカギ

杉原: 前半ではF1から社会に落とし込まれる技術や山本さんが作られた新しいスタイルの介護食の話を伺ってきましたが、世界中をめぐってきた山本さんから見て、昔と今で、変わってきたなと思われるのはどのようなことでしょうか。

山本:50年前と今で、最も変化したのはスピード感だと思います。例えばイギリスから見た世界と日本から見た世界って見てる視点が違うじゃないですか。視点が違うのは当然なんですけど、それぞれの国の歴史や発展の状況により、世の中が動いていくスピード感が違うんですよね。残念ながら過去10年ほどで世界における日本のプレゼンスは下がっていっているという印象を受けていますが…。日本が下がっているのか、諸外国が上がっているのかバランスはあるとは思うのですが、日本はやはりスピード感が失われているんじゃないかと。例えば白物家電の分野など日本が得意としていた領域においても負けてしまっている状況があり、あまりにも完璧なものを作ろうとしすぎてしまっているがゆえに、スピード感が犠牲にされている気がします。スピード感というのは、これからグローバルな社会になっていく中ではとても大事なキーワードだと思っていて、いかに応用するのかと同時に、いかにスピード感を持った判断ができるかだと思います。

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山本:そうですね。1000分の1秒ごとに判断を求められるスポーツですし、300キロで走ってたら1秒間で約80メートル進むわけですよ。1秒迷った瞬間に壁にぶつかってしまいますよね。そういう世界で常に判断を続けてきましたから、もしかすると、判断スピードの大切さについては他の方よりも敏感なのかもしれませんね。

新しい方法も恐れずに取り入れる勇気

杉原:僕が今年初めに当媒体でコラムを書いたテーマが、「自分ごと化」なんですよ。山本さんも「自分ごと化」というのをキーワード的に書かれているのを見て、おっ!と感じました。自分がそれに関係しているかということがその人にとって、自分を突き動かすうえではすごく大事なことだと思っていて、僕達の年代でいうと、親がどんどん高齢になってきていますよね。そうすると、車いすって結構自分ごと化になってくるんです。今、山本さんが掲げられているキービジョンのように、一般の人たちが少しでも自分ごと化していくには、僕らにどういうマインドがあると良いと思いますか?

山本:怖がらないことですね。人間は本質的に、自分の知らないことや、今まで無かったものに対しては恐怖心を感じると思うんですよね。構えちゃったり、関係ないと閉ざしてしまったり。でも、次なる未来を見たときにいろんな課題があるなかで、その課題解決をしていくためには、新しい方法も取り入れなきゃいけないし、今あることだけを継続していては破綻してしまう未来が見えているじゃないですか。もちろん今まで培ってきた技術や制度は素晴らしいもので、今すぐ変えなきゃいけないとは思っていないですが、未来に目を向けたときに、人口構造が変わったその時に社会システムが変わらなくていいのかなと考えると、どこかで変換していかなくてはいけないと思います。みんなが幸せになるためにイノベーションが必要なんですが、ここにつまずきがあって、イノベーションが起きるときというのは、今までの自分の生活が脅かされるんじゃないかとか、大変な生活になるんじゃないかと思いがちなんです。ですが、12、3年前に iPhone は世の中に存在してなかったじゃないですか。でも iPhone が出てきたことによってコミュニケーションの手段が変わり、コミュニティーのあり方が少し変わった。でも、人が人として生きていくうえで大切なものは昔から変化していないんですよ。なので、あんまり構えず、受け入れる幅を持つことが大切だと思いますね。

杉原:今まで様々な方々に取材をしたなかで、医療や福祉の分野で何か新しいものを導入しようと思うと、日本の場合は段階を踏まないと導入できず、時間がかかってしまう。そうすると、今、世の中に出していきたいと思った時に、スピード的に世界に負けてしまうということをよく聞きました。なかには、先に別の国で発表しておいて、日本に逆輸入のような形にしようと考える会社もでてきている。そのあたりの日本のスピード感についてはどのように考えていますか。

山本:日本で導入するのに時間がかかるのはなぜかというと、人の命に関わるものなので、100%完成されているものでなければ認められないんですよね。そこは僕も納得できます。でも、例えば画像診断ソフトの補助的運用、最終的に医師が判断するための補助的ツールという使い方であれば、それは80%の完成度でもいいと思うんです。トライ&エラーが繰り返されて100%になるので、80%の技術を100%にするという最終的な部分は、実は一番大変で時間がかかる部分なんです。そこが100%になってはじめて世の中に出るというのが今の日本の基準。しかし、直接的に人への影響が少ないであろうモノに関していえば、僕は80%でもある程度のゴーサインが出るような仕組みの方がスピード感は上がると思いますし、そうすることによって進化が加速していくと思います。

前編はこちら

山本左近
愛知県豊橋市出身。1982年7月9日生まれ。36歳。豊橋南高校卒業、南山大学入学。1994年、レーシングキャリアスタート。2002年、単身渡欧しF3参戦。2006年、当時日本人最年少F1ドライバーとしてデビュー。以降2011年まで欧州を拠点に世界中を転戦。2012年、帰国後ホームヘルパー2級を取得。医療介護福祉の世界に。医療法人・社会福祉法人 さわらびグループの統括本部長就任。 現CEO/DEO。全国老人保健施設連盟政策委員長。自由民主党愛知県参議院議員比例区第六十三支部長。

(text: 宮本さおり)

(photo: 増元幸司)

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