福祉 WELFARE

モノづくり系ベンチャーが生み出した超軽量車いす

岸 由利子 | Yuriko Kishi

富士山のふもと、自然豊かな静岡県富士宮市に拠点を置く「マクルウ」は、世界初・マグネシウムの冷間引抜加工という特殊技術に特化したモノづくり系ベンチャー企業。

「マグネシウム合金は、実用金属の中で、比重1.78の最軽量です。軽量性に優れていると同時に、比強度も極めて高く、かつ環境にも優しい素材。製品を通じて、ぜひマグネシウムを知って欲しい。私たちには、この想いが強くあります」と語るのは、同社常務取締役の安倍信貴氏です。

杖・盲導犬ハーネスなど福祉用具の開発を中心に、第10回ロハスデザイン大賞2015最終審査候補モノ部門にもノミネートされたわずか1.1kgの子供用チェアMt002など、マグネシウムの特性を生かした製品を次々と生み出していますが、中でも、斬新な発明は、こちらの人工呼吸器使用児向けのサイズ可変型設計車いす。

非常に複雑な形状ながら、すべてマグネシウム合金を採用したフレームは、4.63kgと超軽量。剛性を高めるために、角パイプによるボックス構造を、また、現場でのサイズ変更を容易にするため、ジャッキ式車いす幅調整機構を採用しています。

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横浜市総合リハビリテーションセンターと共同開発を進めていた試作機の完成後、さらに改良を重ねた同機を2015年10月、東京ビッグサイトで開催された第42回国際福祉機器展にも出展。

「重度障害児のご家族、重度障害児施設の作業療法士の方などから、“こういう製品を待っていた”、この設計用車いすが生まれた背景は、まさにその通りで、現場のことをよく分かっている”など、ありがたいコメントをいただきました」と安倍氏。現在は、製品化に向け、協働施設と調整中なのだそう。

ところで、先日、ダウン症の娘を持つ男性を取材する機会があった。

「ロンドンオリンピックが成功した最大の理由はパラリンピックの成功です。車いすで買い物に来た選手が、商品を取りやすく、見やすくするために、スーパーマーケットの商品棚を下げたり、選手村では、障がい者の視点から、さまざまな創意工夫がなされました。2020年の東京オリンピックでも、選手村に日本の先端技術を凝縮して、世界に発信できたら、国としても潤いますし、障がいを持つ人も含め、あらゆる人にとって、街全体が優しくなるのではないかと思います」

選手村スマートシティ化実現の一端を担うべく活動している彼が言うように、素晴らしい技術と障がい者の視点を掛けあわせたモノづくりは、社会に大きな影響を与えていくはず。マクルウがその先駆けであることはまちがいありません。マグネシウムが、私たちのライフスタイルを変える日もそう遠くないはずです。安倍氏によると、今回ご紹介した超軽量車いすは、現在、電動化型の開発にも力を入れているのだそう。この9月に開催される「第44回 国際福祉機器展」に出展予定なので、気になる方はぜひ足を運んでみてくださいね。

第44回 国際福祉機器展 H.C.R.2017
主催  全国社会福祉協議会 保健福祉広報協会
会期  2017年09月27日(水)~09月29日(金)
会場  東京ビッグサイト東展示ホール
https://www.hcr.or.jp/exhibitions/visual

マクルウ
http://macrw.com/

(text: 岸 由利子 | Yuriko Kishi)

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『耳で聴かない音楽会』。落合陽一×日本フィルハーモニー交響楽団が抱く夢が、異色のコラボで実現

田崎 美穂子

2018年4月22日(日)、東京国際フォーラム・ホールで『耳で聴かない音楽会』が開催される。それは、デフサッカー(聴覚障がい者のサッカー・フットサル)仲井健人選手のつぶやきがきっかけだった。「宇佐美雅俊氏、落合陽一氏が開発した「LIVE JACKET(服にスピーカーが埋め込まれ、聴覚・振動を通して体全身で音楽を感じ取る)」着たんだけど、耳の聞こえない僕ら皆、気づいたらリズムに乗ってしまってました。音楽に親しみのない僕らは欲しいなって終始言い合ってたとさ笑」

耳が聴こえる聴こえないにかかわらず、誰もが心に音楽を持っている。創立63年を迎える日本フィルハーモニー交響楽団は、多くの活動を通して「聴覚障がいのある人とも一緒に音楽を楽しむ方法はないか」と考えていたが、楽器の数も多いライブやオーケストラコンサートではその実現は難しく、聴覚障がいのある方にリアルに音楽を感じてもらえるシステムづくりはなかなか現実のものとなっていなかった。しかし、仲井選手のつぶやきで、これを着れば聴覚障がいのある方にも音楽が届けられるのではと、ジャケットの開発者である筑波大学准教授 落合陽一氏(ピクシーダストテクノロジーズ株式会社)と(株)博報堂にコンタクトし、今回のプロジェクトが動き出した。デジタルネイチャー・ダイバーシティをひとつのテーマに研究を進めていた落合氏との、異色のコラボレーションが実現することとなった。

『LIVE JACKET』を元にしてオーケストラ版に改良された『ORCHESTRA JACKET(オーケストラ ジャケット)」は、特殊ジャケットに数10個の超小型スピーカーを搭載、身体中に音楽が響くまさに「着る音楽」。今回『耳で聴かない音楽会』では、ジャケットを1~2着ご用意、さらにジャケットの仕組みを簡易化したボール型の機器『SOUND HUG』を導入し、聴覚障がいのある方にこれを持ってコンサートを「聴いて」いただけるとのこと。まるで音をハグするように、音のリズムを振動で感じられるうえ、ジャケットより安価に量産できるのが強みである。

『ORCHESTRA JACKET』も『SOUND HUG』も、まだまだ完璧なものではなく、実験段階。このコンサート自体が、約50個もの装置を体験できる「壮大な実験」の場となる。聴覚障がいのない人も一般席(SOUND HUGはなし)で演奏を聴くことができ、コンサートの構成にも工夫が凝らされ、聴覚障がいのあるなしに関わらず会場全員が一緒に楽しめる「バリアフリーな音楽会」を目指しているとのこと。

また、今回のプロジェクトは、コンサート音響機材を充実させるため、Readyfor でのクラウドファンディングにも挑戦(https://readyfor.jp/projects/15399)。あなたの応援で、開発に携わった人たちの想いや未来が詰まったプロジェクトを実現させることができる。『耳で聴かない音楽会』は、初めての試みだけに、『SOUND HUG』の開発費はもちろん、コンサート会場の音響整備にもかなりの費用がかかる。支援締め切りまであと16日、ぜひ参加してみてはいかがだろうか。

音楽会に先立って、4月14日(土)に渋谷ヒカリエにて、トークイベントも予定されている。ナガオカケンメイ氏(D&DEPARTMENT代表)を聞き手に、落合陽一氏と日本フィルが今回のプロジェクトへの思いを語る。関係者から直接話を聞ける貴重なチャンス。

Readyfor《耳で聴かない音楽会》テクノロジーで挑む、音楽のバリアフリー
落合陽一×日本フィルハーモニー交響楽団
https://readyfor.jp/projects/15399

落合陽一・日本フィル×ナガオカケンメイ トークイベント
http://www.d-department.com/jp/archives/people/54389

(text: 田崎 美穂子)

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