テクノロジー TECHNOLOGY

テクノロジーで「結果にコミットする。®」!ライザップゴルフは若い世代へのアプローチにも意欲的だった

Yuka Shingai

『結果にコミットする。®』のキャッチフレーズでおなじみ、マンツーマントレーニングで知られるライザップが、テクノロジーを活用した取り組みに次々とチャレンジしている。ボディメイクの大きな核となる食事管理の部分に、AIによる画像解析を駆使し、スマートフォンで食事を撮影するだけで栄養素やグラム数を記録できる「フードアナライザー」機能を搭載したアプリ「RIZAP touch 2.0」が先ごろローンチされ大きく話題を呼んでいる。顧客とのコミュニケーションを重要視してきた同社が、テクノロジーイノベーションをどのように推進しているのか。現在4期目を迎え、全国に29店舗を構える「ライザップゴルフ」を訪ね、その事業成果について話を伺った。

最先端のセンシングデバイスが
全てのスイングやショットを数値化

ライザップゴルフの店舗に一歩足を踏み入れると、バーを思わせるようなスタイリッシュで落ち着いた内装に、「これがゴルフスクール?」と驚くだろう。レッスンを行う個室に入り、会員カードを接触端末にかざすと、シミュレーターが起動し、自分のデータが映し出される。ゲームの世界に入り込んだような錯覚を引き起こす「プライベートレッスン」のスタートだ。

「ゴルフ人口の減少に伴い、ゴルフの練習場も減っていて、仕事前や仕事帰りに打ちっぱなし、というのもなかなかできなくなっていますし、女性一人では練習場に行きづらいとか、練習場で他の人に声をかけられることに抵抗が、という話もよく聞きます。ここライザップゴルフなら各地にありますし、クラブやウェア、靴の貸し出しも行っているので、ジム感覚で気軽に来ていただけます」と語るのは、ライザップ株式会社 マーケティング本部 ブランドマーケティング部 CX戦略ユニット ユニット長の澤本陽介さん。

予約を取ってマンツーマンでのパーソナルトレーニングという意味ではイメージしていた通りだが、レッスン中の全てのスイングやショットをデータで記録し、ゲストもトレーナーもその場で確認することができることがライザップゴルフの大きな特色だ。

センシングデバイスをクラブに装着し、Bluetoothでアプリと連動させ、スイングすると1スイングあたり10万件以上のデータが抽出される、抽出されたデータは動作アルゴリズムで解析され、クラブを真上から見たときの軌道、ボールに当たった時の(クラブの)ヘッドの開き具合、クラブが地面に対してどう動いているか、スピードやテンポ、角度などあらゆる見地から検証できる。

たとえば初心者にとっては「アプローチの際はハーフスイングでピンに寄せましょう」と言葉だけで説明を受けても、ハーフスイングがどの程度クラブを振り上げるものか具体的にイメージすることさえも難しい。動画があればトレーナーも説明がよりスムーズになるし、ゲストも実践しやすいというメリットがある。

これらのデータを参考に、トレーナーが日々のレッスン、目標に到達するまでのプログラムを考え、ゲストのレベルに合わせてストレッチや筋トレなどの宿題も出す。正しい体の使い方を習得するためには、参考になる動画の添付も欠かせない。これら宿題の管理や報告、フィードバックもアプリ上で行うとのことだ。

このシミュレーターを採用したもうひとつの理由は、安定した環境で再現性を高めるため。

通常の練習場では雨や風などの天候や騒音など、環境要因によりレッスンに集中できないデメリットもあるが、周囲の影響を受けない静かで落ち着いた完全個室であれば、気がそれることもなく、スイングやフォームが安定し、上達に近づくというわけだ。

一人で思い悩んでしまうゲストに、
離れた場所からもソリューションを提供したい

アプリが活躍するのは店舗内でのレッスン時だけではない。ゴルフ場でのラウンドの様子を同伴者に撮影してもらい、アプリから動画を送れば、トレーナーからアドバイスを受けることもできるし、トレーナーも次回のレッスンまでにプログラムを考えることもできる。もちろんコミュニケーションツールとしての利用も可能だ。

レッスンアプリ以外に、ラウンドの記録が取れるスコアアプリ「GOLF SCORE」も展開しており、トータルパット数やフェアウェイキープ率、ショートホールでのワンオン率などあらゆるデータをためておくことでサービスを向上させている。

「複数人数でラウンドを回っていても、ゴルフは基本的にひとりで結果に向き合うスポーツ。ひとりで悩みを抱え込んで、スランプに陥ってしまう人が多いんです。そんな人たちに離れた場でも提供できるサービスはないかと思ったことがきっかけ」と澤本さんが言うように、テクノロジーをプラスすることで、コミュニケーションをより密に、というのはいかにもライザップらしいソリューションだ。

また、膨大なデータを読み解き、分析する能力がトレーナーの本来のミッション以外にも求められるスキルでもある。大学や企業ゴルフ場などトレーナー各人が勉強してきた方法は異なる中で、顧客に均一なサービスを届けるために、専門の教育チームが手がけた「ライザップゴルフメソッド」と呼ばれる教え方の虎の巻をベースに、全店舗のトレーナーに座学、実地試験やテストを行い、育成に努めている。

ゴルフ場までの足にも
テクノロジーを活用していきたい

とはいえ、ゴルフ人口減少という大きな問題は避けて通れない。今ゴルフを楽しんでいるのはシニア層が中心で、若者とゴルフの接点が持ちづらいのは否定できないようだ。

まずゴルフはクラブやウェアなどモノが必要、一緒にラウンドを回る仲間が必要、と様々な事前準備が必要だが、その中でも一番のネックとなるのはやはり車だろう。若い世代がマイカーを持つことも少なってきた今、ゴルフ場への足がないことが大きな機会損失ともなっているが、ここもパーソナルモビリティや自動運転車などテクノロジーの進化に期待をしていると澤本さんは語る。

「自動運転が進めば、もっと気軽にゴルフ場に出かけられるし、車内環境ももっと変わるでしょう。通信が4Gから5Gになれば、もっと大容量のデータを送信することも可能なので、ゴルフ場への移動中でもさらにサービスを提供できるかもしれません。あくまでもお客様の満足が第一なので、最新技術を使っていることを強調したいわけではないのですが、たとえばこのセンシングデバイスもシールみたいにもっと薄型にならないかな?とか、アプリとの連携もBluetoothじゃなくて自動でできるものはないだろうか?とか。その可能性を模索したいので自動車メーカーさんや、一緒に開発してくれているメーカーさんとは積極的に会話をしていますし、技術先進国の欧米や、シミュレーターを作っているアジアの企業の方にも可能な限り、当社の製品を見てもらっています。」

このほか、スマホ向け人気ゴルフゲームとコラボしたトーナメントを開催するなど、オンラインの施策で若い世代の獲得も試みている。

「ゲームで面白いと感じてもらったら、体験レッスンにも来やすいでしょうし、よりゴルフの面白さを体感してもらえると思います」

ゴルフクラブをオーダーできるラボを併設するなど、ゲストとのコミュニケーションが多角的で、次から次へと施策を生み出している様子も窺える。

今は競泳やプロサッカーなど、一部の有能な選手たちが使っているセンシング技術だけれども、今後はゴルフのようにアマチュアが楽しむスポーツにもセンシング技術の活用が浸透していくのかもしれない。

(text: Yuka Shingai)

(photo: 壬生 マリコ)

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テクノロジー TECHNOLOGY

スポーツから保育まで。体の動きや状態を計測するスマートアパレル「e-skin」の可能性

浅羽 晃

東京大学発のスタートアップである次世代スマートアパレル e-skinは、伸縮性エレクトロニクスの技術を用いた“着る”インターフェイス。ジャイロセンサ、歪センサ、バイタルサインのセンサなどの各種センサを適所に配置することにより、体の動きや状態を、正確に計測し、通信することができる。用途は、スポーツのフォーム解析、リハビリテーションのサポート、乳幼児の午睡の見守りなど幅広い。株式会社Xenomaの網盛一郎代表取締役CEOにお話をうかがった。

ドイツの人工知能研究センターとともに
高精度モーションキャプチャを実現

場所を問わず、リアルタイムで高精度のモーションキャプチャを取ることができる。

東京都大田区の工場アパートに入居するXenomaのオフィスを訪ねると、まず目に入ったのはハンガーに吊るされたシャツやスパッツ、マネキン、裁断の作業台などだった。オフィスを見る限り、IT企業というよりは、アパレルメーカーのイメージである。この意外性は、Xenomaが開発した次世代スマートアパレル e-skinの特質を象徴していると言えるのかもしれない。e-skinは、着心地のいい衣服でありながら、その実、さまざまなデータを採取・通信できるインターフェイスなのだ。

着脱式のハブ(黒い円盤状のパーツ)を外せば水洗いできるので、繰り返し使える。

「僕は東京大学のJST ERATO(科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業・総括実施型研究)、染谷生体調和エレクトロニクスプロジェクトで伸縮性エレクトロニクス開発を行っていました。次世代スマートアパレル e-skinはその技術を用いたものです。通常、電気の流れる物質は、金属がそうであるように、あまり伸びないのですが、Xenomaの伸縮性エレクトロニクスは1.5倍くらい伸びます。そのため、服に組み込んでも壊れることがありません」

ひと言で言うなら、次世代スマートアパレル e-skinは、電気信号を伝えることのできる服だ。つまり、脈拍、温度、呼吸といったバイタルサインのセンサ、ジャイロセンサ、歪センサなどの各種センサを配置することにより、体の動きや脈拍、体表面温度、呼吸などの体の状態を、服を着たままで正確に計測することができる。たとえば、スポーツやスポーツ医療の分野で役立つモーションキャプチャは、e-skinの得意とするところだ。

「モーションキャプチャは、ドイツのDFKI(ドイツ人工知能研究センター)というところといっしょに研究開発しました。彼らは地磁気を使わないモーションキャプチャのアルゴリズムを持っていて、それと僕らのe-skinを組み合わせると、ほぼリアルタイムで、どんな場所でも高精度のモーションキャプチャを取ることができるのです」

現在、モーションキャプチャはカメラを用いる方法が主流となっているが、e-skinを用いるとカメラにはないメリットが得られる。

「カメラの場合、撮影のできる場所であることが必須条件であり、また、そのような場所では運動に多少の制約が出ることもありますが、e-skinなら場所や動きの制約はありません。マラソンのように、長距離を移動する運動でもパフォーマンスの解析ができます」

午睡チェックのサポートに
54の保育園で1500台が稼働している

高齢化社会が進み、より重要性が増しているリハビリテーションの分野でも、e-skinは有効利用されることになるだろう。

「日本ではまだ顕在化していませんが、世界的には、在宅リハによる運動機能の低下が問題になっています。病院でリハをして運動機能が回復し、家に戻っても、その後のリハが不十分であったり、不適切であったりすることで、運動機能が低下してしまうのです。在宅でもe-skinを着用してのリハなら、理学療法士さんがデータを見ることによって介入することができますから、適切なリハを続けることができます。日常の行動を見ながらトレーニングプログラムを提供することができれば、運動機能の低下は防げるはずです」

保育の分野に目を向けても、e-skinは有益性が高い。乳幼児の死亡原因として多い乳幼児突然死症候群(SIDS)は、何の予兆や既往歴もないまま乳幼児が死に至る原因不明の病気で、窒息などの事故とは異なる。SIDSの予防方法は確立していないが、厚生労働省が真っ先に挙げる予防法は、“寝かせるときは仰向けに寝かせる”ということだ。データ上、仰向けのほうがSIDSのリスクは低いのである。

「e-skinであれば、赤ちゃんの姿勢を常に見守ることができます」

東京都福祉保健局などの行政は保育施設に対して、SIDSの予防と睡眠中の事故防止のために、“0歳児は5分に1回、1~2歳児は10分に1回、必ず1人1人チェックし、その都度記録すること”という指針を出している。乳幼児の生命を守るためには必要な策だが、保育士の仕事量はその分、増えている。

「以前は添い寝をして寝ついたら、自分の書類仕事ができたのに、いまは5分に1回見て、うつ伏せだったら仰向けにして、記録する必要があります。書類仕事は後回しになるので、残業時間は確実に増えていると思います」

0歳児は概ね3人に保育士1人、1、2歳児は概ね6人に保育士1人という配置基準もあり、午睡の安全を確保するためにはかなりの労力が必要だ。見守りが自動化できれば、保育施設の労働環境は少なからず改善できる。

「オムツに取り付けるタイプのセンサが、すでに54の保育園で、1500台くらいが稼働し、毎日、午睡のデータを取っています」

日立製作所や紳士服のAOKIなど
有名企業とのコラボレーションも話題

e-skinは着心地のいい服でもあるので、被験者に負担をかけずにさまざまなモニタリングができるのも特徴だ。たとえば、睡眠の科学的研究とは親和性が高い。

「ドライバーの眠気を察知し、事故を防止することができると考えています。カメラによって眠気を察知する方法もありますが、これだとマイクロスリープを見逃してしまう。心拍の間隔変動や体温、呼吸、上体の動きなど、総合的に見ることによって、察知の精度は高くなるのです」

またe-skinは、IoTで利用することもできる。

「温度や湿度が不快で眠りの質が悪いときは、e-skinがバイタルサインや動きによってそれを察知し、エアコンを調整する。これは一例ですが、e-skinはインターネットとつながっている機器との連動ができるのです」

e-skinに搭載されたすべてのセンサは着脱できる1個のハブによって管理される。数多くのセンサを1つにつなげるこの技術もXenomaならではの技術だ。センサと配線には防水加工がされているため、ハブを外せば洗濯も可能だという。

「一般的にウェアラブルのデバイスは、1デバイスに電池が1個ついて、通信機能もそれぞれについていますが、e-skinの電池と通信機能はコントローラ的なハブに搭載しています。1個のハブを充電すればいいのですから、管理は楽です」

e-skinの技術は確立しているので、今後の展開の鍵を握るのは、市場の開拓であり、他企業とのコラボレーションだ。

「ローカルミニマムに陥りがちになるので、会社の陣容においても、ビジネスの選択肢においても、多様性を意識しています」

すでに寝具メーカーの西川、紳士服のAOKI、日立製作所などとコラボレートしている。次世代スマートアパレル e-skinが身近な存在になる日は近いのだろう。

網盛一郎(Ichiro Amimori)
株式会社Xenoma Co-Founder & 代表取締役CEO。1994年、東大院農・農芸化学専攻修士課程修了後、富士フイルム株式会社入社。2012年、同社を退職、フリーランスとして大学や企業と共に新規事業開発を行う傍らで、東京大学大学院情報学環・佐倉統研究室において科学技術イノベーション論として「先端技術をどうやって社会価値に結び付けるか」や「人と機械の関係の未来」を研究し、その実践として2014年より東京大学・JST ERATO染谷生体調和エレクトロプロジェクトに参画、2015年11月にXenomaをスピンオフ起業。2006年、米・ブラウン大院卒(Ph.D.)。

(text: 浅羽 晃)

(photo: 増元幸司)

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