対談 CONVERSATION

2022年ロボットが社会に浸透する条件

HERO X 編集部

日本人にもっとも馴染みぶかいロボットといえば、人のような動きをするPepperではないだろうか。回転寿司チェーンでは受付を任されている。身近になりつつあるロボットだが、いうまでもなく、一つのロボットができるまでには多くの人が関わっているが、ロボット開発に欠かせない存在となりつつあるのが、パルスボッツ株式会社代表の美馬直輝氏だ。美馬氏は同社の他、アパレルブランドや大物アーティストのファンクラブアプリ開発などを手掛けるハイジ・インターフェイス株式会社を創業、現在は取締役CXOとして活躍している。そんな美馬氏が作り話題となったのが睡眠サポートロボット「ネモフ」。クラウドファンディングで限定100台を販売したところ、なんと14時間で完売した。今年はそんな「ネモフ」の新型の発売が予定されている。ロボットは今後、どのように進化していくのだろうか。HERO X編集長・杉原行里が話を聞く。

必要なのは社会性
ロボットが世の中に浸透するために必要なこと

杉原:今日はどうぞよろしくお願いします。美馬さんはいろいろな会社を経営されていると思うのですが、今回はパルスボッツについてお伺いしたいと思います。
こちらの会社ではどのようなことをされているのでしょうか?

美馬:はい、今開発、販売しているのは主に二つで、チャットボットを気軽に作れる「IFRO」というサービスと、睡眠サポートロボット「ネモフ」です。

杉原:僕がすごく面白いなと思ったのはこのロボットに社会性を持たせるというところで、すごく面白い着眼点だなと思うのと同時に、非常に大事な部分だなと感じたんです。ロボットに社会性というのは、具体的にどういうことをイメージしたらいいのでしょうか? 2022年に発売の新型からそうなるのですかね?

美馬:僕がロボットにはじめて出会った時に、どうやったらこのロボットと仲良くなれるかな?と考えたんです。その時に、ロボット自身が社会性を持っていないと、仲良くなれないというところに行きついたんです。

人同士も誰かを信頼して、仲良くなろうと思ったときに、その人が自分との関係しか持っていなかったら、信頼のしようがないですよね。そもそも信頼っていうものは社会性があって初めて成立するのかなと。だから、ロボットが社会の一員になっていることが必要だというふうに思って、それを実現したいと思ってやっています。

杉原:なるほど。僕もロボット関係はいろいろやっているのですが、ロボットという言葉、定義ってものすごく難しくないですか? ロボットという言葉に対しての印象というのは人それぞれ全く違う。社会実装がいろいろなところで始まっていますが、やはり今が過渡期だと思うんです。

ロボットがこれからどんどんよりコンシューマーに近づいた状態、もっと言うと、漫画の世界で僕らが見ていたドラえもんのような世界観に近づいていくと僕は思っています。

先ほど美馬さんは「社会性が必要だ」と言われましたが、例えば、コミュニケーションを密にとることによって、そのロボットとの信頼度を高めていくというのが、一つのアプローチなのでしょうか?

美馬:そうですね、一番最初に弊社で作ったパルスボッツという社名そのもののサービスがあるんですけど、ロボット同士を繋げて、社会性を半ば擬似的に持たせるロボットSNSみたいなものを作ったんです。

それはオーナーとロボットの対話の中で、ロボットとオーナーが何か親密になっていく流れがあってその親密度が増すと、オーナーが別のオーナーのロボットを友達にしてあげることができるというものでした。


パルスボッツ株式会社がYouTubeで公開しているコンセプトムービーには、まるでネモフとその仲間たちが井戸端会議をしているような場面が登場する。

美馬:インターネット上にSNSのような疑似的な場所を作って、そこで友達になったロボット同士が会話をしはじめるんです。

杉原:どんな会話をするんですか?

美馬:ロボットがオーナーとしゃべったことを疑似的なSNS上でつぶやくんです。例えば、「この前うちのオーナーがこんなこと言ってさ」みたいにつぶやくと、それに対して友達のロボットが「面白いね」ってつぶやき、友達のロボットが、自分のオーナーに「誰々くんとこんな会話があったらしいよ、どう思う?」というように、人からロボットに伝わった話がロボットの間で伝播して伝わって、それを向こうのロボットと人の間でも伝播される、こういう構造のSNSサービスというものを最初にやっていました。

体験としてはめちゃくちゃ面白くて、ロボットが社会に実装されていく中で、このロボット同士のコミュニケーションというのは必ず必要だし、この実験をやって、ロボットが自分のことを分かってくれているとか、そういう感覚が人の側にも生まれるのだなということを思いましたね。

杉原:その後、そのまま事業としてはじめられたのですか?

美馬:それがですね、そうはいかなかったんです。コンセプトとしても体験としても何一つ間違いはなかったと思っているのですが、いかんせん、ロボットの普及がそこまで進まなかった。コンセプトを作った当時は、もう、この勢いで一家に1台、さらには一人一台コミュニケーションロボットを持つ時代にそのまま行くのかなと思っていたのですが、そうはならずに行き詰まってしまったんです。最終的にここにたどり着きたいとは思っていますが、今はまず、もう少しロボットを広げるところにコミットしていこうと思っています。

ゆる可愛いでロボットとしての
ハードルをあえて下げる


眠りを誘うオリジナルのお話は16話を収録。子どもへのプレゼントにも喜ばれそうだ。

杉原:そんな中、開発されたのがネモフ。見た目がすごく可愛いですね。

美馬:はい。パルスボッツでいろいろとやっているうちに、自分でも何かロボットを作ってみたいなと思って作ったのがネモフです。人型のロボットを作っていた時にお客様の反応としてあったのが、あんまり会話として成立しないなというところでした。一方で、ネモフの場合はこの見た目で目しかない。そもそも口もどこなのか分からない。賢そうにもみえないから、本当にこれがしゃべるのかな?くらいな感じで期待値が自然と下がる。

杉原:なるほど。

美馬:枕元に置いて使ってもらうことを想定して作ったロボットで、機能としては、触ると5分刻みのだいたいの時間を教えてくれるということと、アラーム機能、オルゴールの音楽を流してくれること、物語を語ってくれるというくらいです。

杉原:昔、アラームの音が嫌で投げてたこととかありますけど、ネモフだとなんかかわいそうだから投げないかもしれませんね(笑)。

美馬:コミュニケーションロボットがいくつか出てきた中で、課題だなと思ったところがあって、“コミュニケーションロボットです”として打ち出すと、人と同じようなコミュニケーションができないと、利用者の満足度は高くはなりにくくて、結局、多くはコミュニケーションをしなくなっちゃう、要するに、違和感が残るんです。

杉原:ネモフはもともと人型でもないから、人間並みのコミュニケーションができなくても違和感が少ないということですね。

美馬:はい。それから、そのロボットの居場所が作れるかというのも結構重要だと思っています。ネモフの場合は枕元という居場所が設定できたので、役割をしっかりと打ち出せた。

特性を磨き社会に貢献するロボットへ

杉原:美馬さんのお話を伺っていて思い出した映画があるんですが、1999年に公開された「アンドリューNDR114」という映画、ご存じですか?

美馬:知らないですね。

杉原:ロボットがディープラーニングで右脳的思考ができるようになって、対話をしていくことによって僕の勝手な想像ですけども、そのロボット自体のキャラクターとか、発する言葉とか、そういうものも学ばせていく。すると、そのオーナーとの関係性だったり、どういうコミュニケーション言語で表現をしていくのかなども変わっていく。その先に、ロボットが本当に人間のようになっていき、ロボットの人権について話し合われる時代がきたりとか、いろいろなことが起こるのですが、ロボット同士のコミュニケーションがはじまると、「アンドリューNDR114」のような世界が現実味を帯びてくるなと。

美馬:そこに到達するまでにはまだまだ課題は残っていると思います。世界中でまだそういった形のものを体験として実現してきているものというのはなかなかないので。

杉原:となると、コミュニケーションロボットというのは次にどのようなステップがくると思われていますか?

美馬:コミュニケーションロボットとしては実はGoogleアシスタントのようなものがすでにめちゃくちゃ世の中にあるんですよね。ただ、あれは実体がないので、あまり人々がロボットとして認識しておらず、それはそれで成立していますけれど、今お話ししているような実体を持ったロボットというのは、生物の進化と似ているのではないかと思っています。世界で一番普及している実体を持ったロボットというとお掃除ロボのルンバになるんですけど、あれってちょっと虫っぽいじゃないですか。

杉原:ルンバがもし人の形をしていたら、みんな買わないかもしれないですよね。

美馬:そうですね(笑)。今はそれぞれの役割に特化した進化をしている段階かなと思います。工場などで使われているアームロボットは一本腕で、腕や手の機能に特化しているし、スマートスピーカーは耳に特化している。特化した部分が成熟して、いずれ統合されていく。その後でコミュニケーションロボットというものが世の中で当たり前になっていくのかなと思います。

杉原:今後、例えば生体反応とかも取れるようになって、健康状態を把握したり、心の状態を測ってくれるというようなデータを使ってのコミュニケーションということも出てくるのでしょうか?

美馬:そうですね。間違いなくくると思います。

美馬直輝(みま・なおき)
2015年にロボット専門企業のパルスボッツ株式会社を創業し、大手メーカーロボットのコミュニケーション開発や、おやすみロボット「ネモフ」、コミュニケーションAI作成サービス「IFRO」などの開発を手がける。ASTRSK UXデザイナー・プロデューサー。ハイジ・インターフェイス株式会社 創業社長・現取締役CXO。タイムリープ株式会社 CXOなども兼任している。

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(text: HERO X 編集部)

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対談 CONVERSATION

リハビリテーション・エンジニアリングの先駆者に訊く、“患者ファースト”のモノづくりとは?【the innovator】後編

長谷川茂雄

2016年に複合材料業界の国際見本市JECにて、INNOVATION AWARDを受賞した二足歩行アシスト装置C-FREX(シーフレックス)や、デザイン性の高いシンプルな対向3指の電動義手Finch(フィンチ)など、国内外から注目を集める数多くのリハビリテーション装置を手掛けてきた河島則天氏。そのアツいスピリッツも含め、リハビリ業界で河島氏の功績やシステム作りを讃える人は少なくない。頻繁に連絡を取り合っているというHERO X編集長・杉原が、改めてそんな先駆者のモノづくり哲学を伺った。業界を牽引してきた河島氏が思い描くこれからのヴィジョンとは?

研究の次のキャリアを
見つける時期に入ってきた

杉原:まだ芽が出ていない研究も含めて、河島さんが蒔いた種はあとどのくらいあるんですか?

河島:いや、もう自分としてはお腹いっぱいになってきていますよ(笑)。正直、定年まで研究をやるつもりはないです。研究だけがキャリアだとは思っていないので。自分が(研究を)やり切ったあとに、何をやるべきか。それを研究のキャリアの後半3〜5年で見つければいいという意識でやってきました。自分の中では、もうその時期に入ってきているんじゃないかと感じています。

杉原:河島さんは、頼りにされている企業や機関に対してアドバイスするだけじゃなくて、リハビリの現場で実際に使われたり、医療機器として認可されるところまですべて一緒にやっていくじゃないですか。それはすごい印象的だなと思っていて。みんなから慕われる理由はそこにあるんじゃないですか?

河島:どうですかね。自分は何か製品にしたいというのがスタートではないんです。どうせ製品になるんだったら、それが臨床やリハビリの現場でちゃんと使われるところまで持っていきたいと思っています。ただ、本当に現場で使われるものを作ろうとすると、往々にして華々しいものにはならなくて、地味なものになる。表向きの斬新さとか、研究の真新しさはなくて。実際にプロダクトを一緒に作り上げていくパートナーや企業の方々には、まずはそれをわかってもらう必要があると思っています。

杉原:すぐ活用できるプロダクトは、決して見た目が格好良いものというわけではないですもんね。

河島:地味なもんですよ。だから、自分としても、はぁ、いいものができた、自分のところで作ってよかった! ってすぐにならないのが、ジレンマではあるけれど(笑)。とはいえ、自分が作ったものが、ジワジワといろんなプロダクトに浸透して、20年ぐらい経ってもその技術が残り続けて、これは、20年前に河島って人が作ったらしいよと、後々になってわかってもらうぐらいでいいなと思っていますけどね。

どんな技術も人をものぐさに
するだけなら台無し

杉原:大きな企業は、たくさんの資金とヒューマンリソースがあるけれど、本当に必要とされているものを作るためにいざ動くとなると、小規模のほうが圧倒的に早くて、理にかなったモノづくりができる部分もありますよね。

河島:頭のいい人がたくさん集まると、結果から逆算するところはありますね。例えば自動運転の技術にしても、事故を起こしたときに、法的、倫理的にどこの責任になるのかとか、本来のモノづくりの足かせになるような問題をまず想定すると動きにくくなってくる。もちろんそれは必要なことではありますが、僕らはその技術を、身体的・社会的に困難を抱えている人たちに適正技術として応用するにはどうすればいいのか? それをシンプルに考えます。どうすれば技術が困難を解決し、生活の質を高めることにつながるのか、と。

杉原:自動運転という技術が持っている可能性を、より切実に必要としている人に使ってもらえるようにする。それがもっともシンプルな考え方ですよね。

河島:どんな技術も、健常な人を、ただものぐさにするものに成り下がってしまったら、勿体ない。世の中に広まっている今の技術は、そういう側面も少なからずあります。スマホだってそれほど必要がないと思われる機能が、どんどんアップデートされていますし。僕の基本的な考えは、生活上、満たされない部分を持つ人たちに技術を当てがうことで、当たり前に安穏な生活を送れるようにする、ということ。そうやって技術を活用すべきだと思うんです。

杉原:確かにそうですね。技術やモノづくりは、やはり使う人のことをどれだけ考えているかも大切ですね。それに加えてHERO Xを1年やってきて思うのは、リハビリに限らず、デザインでもイベントでも、福祉というものを率先してやっている人たちは、みんな自分ごととして各々の課題に取り組んでいるということです。そして、それを自分の活力にしている。

立位姿勢調整装置BASYSの試作品を見つめる杉原。フライトシミュレーターから着想を得て、河島氏が自作したという。

河島:それは大切なことですよね。自分のこととして進めることもそうですし、自分の考えや研究の成果が何かに活かせる可能性があるんじゃないか、という立場で社会に関わっていく。リハビリには、公共心だとか利他性という視点が必要だと思います。実際、僕らは今後何かに活かせる可能性があるんじゃないか、ということで、あらゆる疾患さんの姿勢のデータを数千例積み上げてとってきた、という例もあります。

これからの医療は
もっと人に重きをおくべき

杉原:それでは、最後にこれからのヴィジョンをお聞かせください。

河島:とりあえずは今やっていることをやり切ったと思えるところまで、最短で何年でいけるかな、としか考えていないです。モノづくりに関しても、いまは自分だけが手応えを感じるのではなくて、一緒にやってくれている人たちが手応えを感じられる段階までシフトできています。これが5年前ぐらいなら、自分がやめたらすべてのプロジェクトが頓挫してしまうような状態でしたが、数年前には、頓挫するものと進んでいくものが半々ぐらいになり、いまは、自分がいなくてもだいたい進んでいけるんじゃないかと思えるようになりました。

杉原:もう目標地点まで近い状態なんですね。

河島:もう何年かしたら、自分がいなくても大丈夫という状況になるはずなので、そうなったら研究やめてもいい段階に入ったってことだと思います(笑)。

杉原:それから先のリハビリの未来をどうしていきたいと考えていますか?

河島:人と環境、どちらかだけを追求するだけでは不十分で、どちらかにウェイトがあるとすれば人の方だと思います。例えば人工知能が人間の仕事を奪うと言われていますが、リハビリはそうじゃない最たる領域だと思うんです。いろんな診断技術や装置ができても、それを使いこなす人間がいて初めて意味を持つので。リハビリ領域でのモノづくりをする理由は、どこの現場でも共通の技術を提供することにあって、それと等価で大事なのは、それを使いこなす人材だと思います。

杉原:やはり根本的なところから理解して積み上げていける人材が必要なんですね。

河島:なので、自分はノウハウもハードも込みで、専門職に向けて正確な情報を発信していく必要があると思っています。

杉原:東京2020も迫ってきていますが、それに向けて生まれた多くの技術は、いまの河島さんみたいに誰かが料理をしないと、埋もれてしまいますよね。

河島:そうですね。東京2020という機会は、これまで手掛けたプロダクトのなかでは、C-FREXFinchといったデザインのウェイトが高い、地味なものとは目線の違うものを、集大成としてアピールすべきだと思っています。開会式やエキシビジョンでそれができないか、あれこれ模索中です。大きな舞台で、効果的な見せ方ができればいいなと思っていますよ。

(前編はこちら)

河島則天(かわしま・のりたか)
金沢大学大学院教育学研究科修士課程を修了後、2000年より国立リハビリテーションセンターを拠点に研究活動を開始。芝浦工業大学先端工学研究機構助手を経て、2005年に論文博士を取得後、カナダ・トロントリハビリテーション研究所へ留学。2007年に帰国後は国立リハにて研究活動を再開。計測自動制御学会学術奨励賞、バリアフリーシステム開発財団奨励賞のほか学会での受賞は多数。2014年よりC-FREXの開発に着手。他、対向3指の画期的な電動義手Finch 、立位姿勢調整装置BASYSをはじめ、様々なリハビリテーション装置の開発を手掛けている。

(text: 長谷川茂雄)

(photo: 壬生マリコ)

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