対談 CONVERSATION

【HERO X × JETRO】睡眠の謎に挑み続けるベンチャー企業「S’UIMIN」

富山英三郎

JETROが出展支援する、世界最大のテクノロジー見本市「CES」に参加した注目企業に本誌編集長・杉原行里が訪問。筑波大学発のベンチャー企業、株式会社S’UIMIN(スイミン)が2020年9月より開始した睡眠計測サービス「InSomnograf®:インソムノグラフ」は、これまで検査入院しないと測定できなかったレベルの睡眠計測を自宅で簡単にできることが特徴だ。AIの活用により睡眠の質を可視化できるだけでなく、専門医による被験者ごとの総合評価も判定。また、各種睡眠プロダクトの客観的な効果も検証できるなど、幅広い活用が期待されている。睡眠不足による日本の経済損失は14.8兆円とも言われるなか、スイミンに求められる役割りとは? 代表取締役社長の藤原正明氏に話を訊いた。

睡眠の質を可視化する
睡眠計測サービス「インソムノグラフ」

杉原:御社は、2020年よりCESに出展されていらっしゃいますよね。「インソムノグラム」はとても面白いと思いました。

藤原:ありがとうございます。「インソムノグラム」はInsomnia(不眠症)とGraf(図示する)を掛け合わせた造語なんですが、CESでも紹介させていただきました。2021年はオンライン開催だったので、まだグローバルレベルでの認知度が低いスタートアップとしては、なかなか難しかったですね。でも、2020年はジェトロさんのブースということもあり、日本企業の方々にたくさん来ていただきました。当時はモックしかない状況でしたが知名度が上がりましたし、会場の雰囲気も掴めたので価値あるものになりました。

杉原:CESでも発表された、 S’UIMINさんのプロダクトやサービスについて教えていただけますか?

藤原:弊社は睡眠時の脳波だけでなく、目の動きや一部の筋電も含めて計測することで「睡眠の質を可視化」することを行っています。とはいえ、1日だけの測定だとたまたま良く眠れた日というのもあるわけです。

杉原:ありますね。

藤原:ですので、我々は5日以上計測することで総合評価するようにしています。これは臨床研究を経た上で導き出した日数です。計測においては、被験者さんのユーザビリティを高めるため、使い捨ての電極を貼っていただくようにしました。それらサービスの総称として「インソムノグラフ」という名前で商標登録しています。

杉原:これは脳波センサーですか?

藤原:はい。3つの電極が付いたシートを額につけて、左右の耳の後ろに2つの電極を装着していただきます。その後、デバイス本体と接続してボタンを長押しすると計測が開始されます。起きたときにもう一度押せば止まります。

杉原:簡単ですね。

藤原:通信機能も付いていますので、データが自動的に基地局に飛んで、AIを搭載した弊社のシステムで解析していきます。お手持ちのスマホまたはPCで、睡眠時間のみならずノンレム睡眠が何%といった直近のデータが得られます。こちらを5日以上計測していただくと、「睡眠評価レポート」という総合評価が出るという仕組みです。

まずはB to Bの
ヘルスケア領域を広げていく

藤原:この「インソムノグラフ」を使って何をやろうとしているのかについてですが、ひとつは民生用のヘルスケア領域です。次の段階として、専門医の方々に医療機器として使っていただきたいと思っています。最終的にはB to Cにより、多くの皆さんに行き渡ればいいなと。

杉原:基本はコンシューマープロダクトというわけですね。

藤原:そうですね。ヘルスケア領域では3段階ありまして、ひとつは昨年9月からスタートしている研究開発支援。すでに睡眠プロダクトを持っていらっしゃる会社のソリューションあるいは製品の評価です。これまでは「睡眠プロダクトを使ってみていかがでしたか?」というアンケートが主体だったと思いますが、そこに睡眠効率が実際に上がっているのか、深いノンレム睡眠の割合が上がっているのかなど、製品の性能を可視化して伝えるということです。

杉原:レコメンデーション機能に近いんですかね?

藤原:おっしゃる通りです。現在、睡眠をA~E判定しています。優良な睡眠という定義を作って、そこに限りなく近い人がA、標準的な人がBという感じです。E判定になると、リコメンデーションとして「病院で受診されては」とうながすという具合です。

ソリューションの1つとして試験的に手掛けているのは、「CBT-i」という不眠の認知行動療法というものです。

杉原:それはリハビリとか医療の領域の話ですよね。

藤原:そうですね。臨床心理士の先生が対話をしながら、「ちょっとお酒の量を減らしませんか」とか「寝る直前までコーヒーを飲んでいますよね」など対話を通じて介入していくものです。これまでは被検者の主観をベースに進めていく治療でしたが、そこに我々の客観的なデータを入れることで、睡眠の改善をうながしていくというようなことです。
もうひとつが「健康経営サービス」。企業における組織パフォーマンスと、個人の睡眠改善を展開していく予定です。

杉原:実は僕も睡眠障害の疑いがあって、ショートスリーパーというか、基本的に眠くならないんです。なので、これまでもさまざまな製品を試してきました。御社の「インソムノグラフ」によって、各社の睡眠プロダクトがパーソナライズ化されていくと期待しています。

藤原:そうですね、そこは最終ゴールとして狙っています。

睡眠脳波計を家庭用血圧計
くらい身近なものにしたい

杉原:そうすると、枕のオーダーメイドなど身近な商品も進化していくわけですね。ところで、獣医師でもある藤原さんを始めとして、柳沢正史さん(筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構 機構長)など、筑波大学発のベンチャー企業として始められた背景を教えてください。

藤原:弊社の柳沢が1998年に「オレキシン」という神経ペプチドを見つけまして、後にこれが欠乏すると「ナルコレプシー」という病気になるというのがわかりました。「オレキシン」がなくなると覚醒が維持できないんです。また、嬉しいことがあると「情動発作」により発作が起こるんです。この発見がきっかけで「睡眠の謎」に迫っていったわけです。

杉原:基本的にはマウスを使って研究されているんですよね?

藤原:そうです。どういうことをするかというと、 遺伝子変異を促す物質を飲ませた、累計1万何千匹というマウスに電極を刺して、睡眠時脳波の異常を呈する個体を探すんです。あるとき、暗視野カメラで見たら夜行性のマウスがパタッと倒れてしまった。その動きが人間の「ナルコレプシー」とよく似ていることから調べたところ、「オレキシン」の遺伝子がオフになっていたことが判明したわけです。

杉原:すごい。

藤原:でも、当然ながら人間にマウスと同じことはできません(笑)。しかし、今では個人のゲノムがわかってきて、10万円程度で調べることができるようになりました。

杉原:僕もやりました。

藤原:あ、やられたんですか。いずれは、個人のゲノムをもとに特徴的な睡眠をとられている方をグループにして、何かしらの共通な変異を見つけることで、睡眠を阻害する要因が見えてくるかもしれない。現時点では人に電極は刺せないので、脳波を取るというアプローチを考えたわけです。
柳沢がよく言うのは、この睡眠脳波計(インソムノグラフ)を家庭用血圧計くらい身近なものにしたいと。誰もが家庭でちょっと気になったら測れるようにする。

杉原:ということは、家庭内で行われる「新たな健康診断」であり、睡眠で得られるデータを「バイオマーカー化」していくということですか?

藤原:そうです。

24時間寝ないときの能力は
泥酔したときと同じ

杉原:素朴な疑問ですが、睡眠の質が上がることでどれくらいのQOL(クオリティ・オブ・ライフ)が上がるなど、何か指標はあるのでしょうか?

藤原:バスケットボールをやっているアメリカの高校生に、睡眠時間を極端に絞ってプレイさせたところ、ゴールの成功率が落ちるというデータがあります。
その他、24時間寝ていないときの作業の精度は、泥酔したときとほとんど一緒だったりします。

杉原:えぇ! そうなんですか。あとは太陽の光にも影響されますよね。

藤原:はい。個人差があるのですが、24時間前後にセットされている体内時計は毎朝太陽を浴びることで時間がリセットされます。同時に朝日を浴びることで夕方くらいから「メラトニン」という睡眠を誘発するものが出てきます。この周期を守るというのは、日中の生理的な活動を維持する上で非常に大切です。ですので、夜勤の方や交代制勤務の方っていうのは身体を酷使している。

杉原:やっぱりそうなんですね。

藤原:一方、「睡眠」にはまた別の軸があって、それは「恒常性」と言われるもの。起きてから時間が経つとだんだん脳は眠くなってくるんです。その「眠気」の正体を今、柳沢たちが掴み始めています。先ほど細胞も時間の感覚を持っていると言いましたが、実は細胞単体では寝ないんですよ。複数の細胞がネットワークを作ったときにそれを持つ個体として寝るようになる。

杉原:ニューラルネットワークができると疲れるわけですね。

藤原:寝させないようにしているマウスと、正常なマウスとを比較して、寝させないようにしているマウスのシナプスを見ると、80個のタンパク質が「高度にリン酸化する」ことがわかりました。その後に寝かせると、「脱リン酸化」という元に戻る作用が生まれる。これが可逆的に起こることも掴んでいます。ただ、それが「原因」なのか「結果」なのかはまだわかっていないんです。
また、レム睡眠のときに「アミロイドβ」(たんぱく質の一種で脳内に溜まるとアルツハイマーを引き起こす原因といわれている)が綺麗に掃除されるみたいなことが起こります。レムは睡眠の後半に出てくるので、睡眠がしっかり取れていないと認知症のリスクが上がってしまう。最近では、レム睡眠が短くなるほど寿命が短いと言う研究結果もあります。寝不足で人はすぐには死にませんが、睡眠不足って意外に怖いんです。

睡眠を可視化することで
社会も変わっていく

杉原:日本では少子高齢化が問題になっていますが、この課題に対してはどのような効果をもたらすプロダクトになりそうですか?

藤原:睡眠というのは、歳を取るにつれてその質が低下していきます。ただ、我々も本当の意味での「解」を持ってないのですが、そもそもいつも寝ている場所(自宅)で測定できるものがなかった。今は検査入院が必要で、お金もかかる上に、電極を付けるだけで1時間以上かかるんです。そもそも電極の数が多くて寝にくい。更に、見張られているのでよく寝られないわけです。

杉原:そう考えると有用性が高い。

藤原:それと、世の中には睡眠で悩んでいる、問題を抱えている方が大勢いることがわかってきました。本当ならすぐにでも治療したほうがいい方がたくさんいると思われます。一昨年の暮れ、筑波大学病院での倫理審査を通した臨床研究として健常者約100人を測定したところ、E判定が34%、D判定で12%、C判定で37%もいた。これには大変驚きました。不眠症はもちろん、睡眠時無呼吸症候群の方も、潜在的にはものすごい数に昇ると想定できます。

杉原:S’UIMINが目指す未来は、どのようになるとお考えですか?

藤原:まずは誰もが日常的に睡眠を計測できるようにする。可視化することで、血圧のように本人が意識的に気をつけるようになります。
また、睡眠のデータを貯めていくことで、生理学的な数値や行動、腸内細菌など、その他のデータと融合させてパーソナライズした健康への取り組みを、事前に提案できるようになると考えています。
社会のあり方においても、ある人の理想的な睡眠時間が9時間だとわかれば、9時間の人が働きやすい環境を作っていくことができる。そういったことができてくるといいのかなと思います。

杉原:睡眠から導けることがたくさんあるんですね! 本日はありがとうございました。

藤原正明(ふじわら・まさあき)
S’UIMIN代表取締役&CEO。1961年兵庫県生まれ。1987年東大大学院農学部畜産獣医学科を修了し、中外製薬に入社。プライスウオーターハウスクーパース・コンサルタントなどを経て、2005年にカイオム・バイオサイエンスを設立。2017年株式会社S’UIMINを設立、代表取締役就任。

関連記事を読む

(text: 富山英三郎)

(photo: 壬生マリコ)

  • Facebookでシェアする
  • LINEで送る

RECOMMEND あなたへのおすすめ

対談 CONVERSATION

VR仮想現実がもたらす世の中アップデート

HERO X 編集部

VR技術のソリューション提供で最先端を走る企業、株式会社ABAL。VRライブストリーミングやVRストアなど、ビジネスにキャッチアップしたアイデアで突出している点が特徴だ。本誌編集長・杉原も昨年、同社の「ABAL:プレゼンテーションタワー(6階建てビルを仮想空間の中で体感する展示)」を体験して大興奮! VRは今後、我々に何を提供してくれるのか。代表取締役・尾小山良哉氏が提唱するキーワード「リテールテイメント」とは何か? 未来のテクノロジーを展望する2人の対話から、杉原のVRアイデアも飛び出す!?

現実空間を拡張していく
ロケーション型VR

杉原:御社の社名のABALは、アヴァロン(Avalon)から来ているんですか?

尾小山:そうです。アヴァロンの語源はケルト語で「リンゴ」なんです。もう1つにはアーサー王の眠るアヴァロン島という島の名前で、もう1つの世界、マルチバースという意味で名づけました。

杉原:VRブームの第一期といってもいい2016年に会社を立ち上げられて、この5年間は出口戦略も含めて大変だったと思います。続けられたのは、VRの時代が必ず来るという思いがあったからですか。

尾小山:そうですね。今おっしゃられた出口戦略については、今でも信じていたことが実現できたとは言えない段階です。ただ、信じられるかというと、それは信じられる。やはり最大の理由は、人間のコミュニケーションの表現には、まず文字があって、その次に映像になったけれど、結局映像のコミュニケーションは映画ができた100年前から、精度は上がっても「ビジュアルのコミュニケーションに時間軸がつきました」というところから変わっていないからです。

空間そのものをパッケージングできる体験のコミュニケーションが、僕らのこのやり方、つまりVRだと思っています。体験のコミュニケーションは文字も映像も包括していく上位コミュニケーションですから、タイミングの問題はあれども、確実にこの流れになっていくと思っています。

ABALが提供している体験共有プラットフォームは、システムとハードを組み合わせ、VR空間内での自由移動・体験共有を可能にするソリューション。設置に大がかりな工事なども必要なく、空間をVRで拡張することができる。
画像元:https://www.abal.jp/

杉原:実際にABALタワーを体験させてもらって、すごく面白かったんです。リアルと仮想現実の境界線がかなり微妙になっていて、没入度が高いなと。やはり御社にしかないシステムやテクノロジーがあるんですか。

尾小山:我々の最大の強みは空間を圧縮する技術ですね。小さなスペースの中に巨大なVR空間を作る技術に関しては、特許技術でもあります。一番わかりやすいものでいうと、あのタワーの中のエレベーターの部分はABALだけのものです。今VRは大きくクラウド系の文脈と、ロケーション系の文脈という2つがあるんですよ。クラウド系の文脈はご存じの通り、クラウドの中にゲーム空間のような大きなワールドを作っていく考え方です。一方で 僕らがメインとしているのはロケーションベースのVRで、現実の空間に対して、VRを使って空間を拡張する考え方です。この技術を使って現実空間の不動産価値を向上させるとか、場所そのものが持っている価値を飛躍的に伸ばすということをやっています。そして、今我々が最も注力している領域が店舗空間なんです。


まるで本当にショップを訪れているかのような感覚になるVR POP-UPストア。

杉原:というと、タワーの一番上ですね。

尾小山:そうです。商空間そのものをDX化するところに我々のソリューションは使えると思っていて、バーチャルのストアを作ったり、店舗内のディスプレイ空間をVRで作って、その中で買い物ができるようにしたり。それが今、我々が一番力を入れている領域です。

便利軸、代替案、可逆性でVRを考える

杉原:タワーの中に360度の巨大ドームシアターがありましたよね。このコロナ禍でイベント、エンタメ関係は多大な打撃を受けました。その中でこのシアターは非常に可能性が大きいと思いますが、やはり今後、ライブシーンやエンタメシーンがストリームとして行われていくというのは大いにありますよね。

尾小山:そこは間違いないと思います。今まで集客というのは一か所に人を膨大に集めなくてはいけなかったのですが、それ(会場)と自宅で体験するというものの間に、僕は分散集客というのがあると思っています。例えばですけど、中央区の会場で100人規模だとしても、全国10か所でやっていますというと、それだけで1000人の会場となる。それだと集中過密リスクも防げて、機会損失も少なくなる。分散で集客を小さくしていく流れを作るときに、VRは非常に可能性があります。1回のライブで3万人ドーンと集めるのではなく、全国の市町村に1個ずつとか、そういう興業の手法がこれから出てくるのではないかと思っていますね。

『ABAL:プレゼンテーションタワー』では、世界3大フェスと称される音楽フェスティバル『Tomorrowland』を、360度のドームシアターで再現した。こうしたVRを使ったライブ参加方法が浸透する日も近い。

杉原:中央集権的な流れももちろんあるのですが、情報社会で5Gが動いていくと、中央に行かなくて済むという流れが必ず出てきますよね。

尾小山:加えて、コロナ禍を経て、オンラインコミュニケーションが悪だったり、違和感だったりの時代にはもう戻らないと思います。可逆性のない変化が起きていて、それはマインドステートとして相当大きいですね。

杉原:エンタメの中でも旅行はどうでしょうか?

尾小山:旅行そのものの代替案としてのVRは厳しいと思います。便利軸と代替案というものと、可逆と不可逆というものがあって、バーチャルライブなどは代替で始まったけれども、別の面白さが出てきて、ここは生き残る領域だと思っています。一方で非対面コミュニケーションなどは、便利軸で動いてしまって可逆性はゼロ。これがもう一番戻らない軸だろうと。

そういう意味では、バーチャルツアーは代替案で、便利でもないので、可逆性がすごく強くて、コロナが終わったら戻るだろうという感じです。

杉原:例えばですけど、バーチャルツアーで「今、イギリスに行ってきたよ」みたいにはならないと僕も思います。でも1つだけ、バーチャルツアーが出たら絶対やりたいと思うのは、宇宙ですね。

尾小山:そこはそうですね! 結局、旅行の一番可逆性が大きいところは、行こうと思ったら行けるということ。でも宇宙は、そう簡単には行けない場所だから、バーチャルツアーは流行ると思います。国際宇宙ステーションに360度のカメラがあって、そこに行けるというだけでも、相当アガると思います。

杉原:しかもそこに無重力空間的な雰囲気を出す装置があれば、「宇宙に行った」と言っていいですもんね。だからやっぱりこのVRというものは人間の感覚値を、ある意味すごく拡張していくものだと思うので、拡張領域って人間の欲深い考え方でいくと、限りないですよね。

ABALがめざすものは“リテールテイメント”

杉原:ABALの事業の中で、街中で開かれる展覧会のようなこともされているとか。

尾小山:百貨店で開かれたあるアミューズメントパークの展覧会を手伝わせていただいています。このパークは僕がCMをやっていた頃にも携わったことのある所だったので、今回ABALとして関われることになったときは感慨深いものがありました。パークのキャラクターにバーチャルで会えたり、物語の世界の中をバーチャル空間を使って散策できたりといったことをやらせていただきました。

杉原:すごいですね。かなり時代の潮流を抑えていますよね。

尾小山:ABALで色々なモノ作りをしてきましたけど、今回の展覧会は僕としては、かなり完成形に近いです。前半では、キャラクターが住む世界をバーチャル空間に再現しています。それで、最後がお店になっていて買い物ができる。僕らが思い描いている“リテールテイメント”、つまりエンターテイメント+リテール空間が全部統合されていて、1つの世界観の中で、規模感のあるコンセプトツアーみたいなものが実現しています。

僕らが考えるリテールテイメントの最終形ってこうしたアミューズメントパークそのものなんですね。世界的に有名なアミューズメントパークがいくつかありますが、どこのパークもパーク部分が大きく見えるけれど、反対側にはそのパークのキャラクターグッズなど、物販エリアが必ずあります。この部分は売り場そのものなので、ひとつの大きなリテールテイメント空間ととらえることもできると思って。僕らの最大の強みは、あのエンターテイメント空間とリテール空間の比率を自在に変えることができることです。3坪くらいの中でアミューズメントパークのような空間を構築するというのが僕らの一番やりたいことかなと思うので、今回の展覧会の企画を一緒にやれたのはすごくうれしいですね。

ディレクタースキルの
マネタイズの手段が起業だった

杉原:HERO Xはエンジニアやデザイナー、企業など、色々な人が見てくれているのですが、その中で起業をこれからめざす人達もいらっしゃいます。ひとことアドバイスをいただけますか?

尾小山:やってみる、ですよね。結局、僕っていくつ会社を作って、いくつ潰したかわからないみたいな感じのところがあるんです。僕自身はディレクターでモノ作りをしていて、自分の持っている技術をどうにかマネタイズしなければいけなくて、起業に至ったんです。逆に孫(正義)さんとかは起業家なので、色々なビジネスプランの中で一番いけるやつを選ぶ感じですけど、あれって色々なことができる人に与えられた選択肢だなと僕はすごく思うんです。僕はそうではなかったけれど、起業するというゴールを持ってやりたいことをいっぱい出すことができる環境にある人ならば、それもいいのではないかなと思います。

杉原:今日は面白い話をありがとうございました。今、我々は医療の身体データをセンシングする事業をやっているのですが、出口としてVRというのは間違いなく必要になってくるところだと思います。ぜひ、またお話させてください。

尾小山:はい。体感というものを表現する箱というか空間としては、我々の空間はすごく使いやすいと思いますので。

尾小山良哉 (おこやま・よしや)
株式会社ABAL代表取締役。1996 年金沢美術工芸大学卒業後、太陽企画株式会社(企画演出部) に入社、24 歳から TV-CM の演出を開始し、同年、毎日広告デザイン賞第 1 部優秀賞 受賞。その後、あらゆる映像表現のディレクター として頭角を現し、2004 年に有限会社ディスバウンドディメンショ ン、2008 年に株式会社ドロイズ、2014 年株式会社 wise を設立。 TV-CM、VP、MV、遊技機、ゲーム等幅広いジャンルでの映像制作に携わる。 2016 年 1 月に設立されたジョイントベンチャー企業「株式会社 ABAL」を設立。

関連記事を読む

(text: HERO X 編集部)

  • Facebookでシェアする
  • LINEで送る

PICK UP 注目記事

CATEGORY カテゴリー