医療 MEDICAL

新世代の担架「Lenify」は、患者を持ち上げずに“すくい上げる”

Yuka Shingai

常識は、いつ、どこで変化するか分からない。だから、世の中は面白い。事故現場やスポーツでの負傷をはじめ、急病人が出た際に迅速に患者を搬送する担架。この担架の常識を変えてくれる存在が出現した。担架をおろし、患者を担架に移動させる。一見、簡単そうに思えるこの動きだが、メディカル現場の人たちは細心の注意を払っていることをご存じだろうか。体位を動かした衝撃で、患者の様態が悪化するなど、二次被害が起きる危険性を孕んでいるからだ。注意を怠れば、患者を落下させてしまう可能性もあるという。専門的な知識がなくても患者の負担を最小限に抑えられる担架の開発が、アメリカで進んでいるようだ。

「Lenify」はアメリカのカリフォルニア州の美術大学、アートセンター・カレッジ・オブ・デザインでプロダクトデザインを専攻していたDanny Ta-Chin Lin氏によるプロジェクト。幼少期から物を分解したり、組み立てることが好きだった彼が手がけた担架は頭部、上半身の右半分と左半分、下半身、と4つのパートに分離させることができる。この画期的なデザインは国際的なプロダクトデザイン賞で知られるレッド・ドット・デザイン賞を2013年に受賞したほか、同年のインターナショナル・デザイン・エクセレンス賞でファイナリストに選ばれるなど注目を集め、デザイン系のウェブサイトやビジネス誌でも特集が組まれた。

使い方はいたってシンプル、分離した担架を体の下にすべりこませ、ハンドルを回して結合するだけ。患者の体勢が崩れるのを最小限に留めつつ、体のそれぞれの部位をすくい上げることができるのは、このユニークな構造と形状によるもの。体を包み込むようにカーブがついていたり、持ち手がつかみやすくなっていたりと、きめ細やかな配慮がうかがえる。

旧来の担架は患者を持ち上げてから、搬送先で下ろす2ステップが必要だったが、「Lenify」は乗せるだけでOK。患者をより簡単に、安全に搬送することができるのだ。

近い将来、担架は「分離するのが当たり前」という“常識”が、世の中に普及するかもしれない。まだ一般市場での流通には至っていないが、患者の安全を担保する存在として実用化を期待したい。

[TOP動画引用元:https://www.dannylinconcept.com/lenify

(text: Yuka Shingai)

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医療福祉系シミュレーションゲーム「THE Six SENSE」。それは私たちの未来体験

平山 麻衣子

医療福祉とエンターテイメント。まったく共通点がなさそうなこの二つの分野を組み合わせて、新たな価値を生み出しているNPO法人Ubdobe。彼らの視線は、間もなくやってくる日本の未来へと向けられている。

彼らが主催する医療福祉系シミュレーションゲーム「THE Six SENSE」は、自分自身が主人公となり、二人一組で取り組む体験型アトラクションだ。タブレットと車椅子を駆使してゲームをクリアしていき、各ブースでは障がい体験や医療福祉専門職の仕事内容も垣間見られるという。シミュレーションゲームというのは、仮想体験を楽しむゲームの総称のことである。では、「THE Six SENSE」は、医療福祉にまつわることを仮想体験するためのゲームなのだろうか。

このゲームで体験するのは確実にやって来る私たちの未来。加齢によって、これまでできていたことができなくなるのは当たり前のことだ。目が見えにくくなったり、手先の感覚が鈍くなったり、一人で食事をすることが難しくなったりもする。歩くことが困難になり車椅子を使うかもしれない。それに年齢には関係なく、事故や病気でハンディキャップを負う可能性は誰にでもある。だが、日常の中で、それを自分の身に必ず起こるのだと実感するのは非常に難しい。人間には、衰えの事実を受け入れたくないという意識が働くからかもしれない。「THE Six SENSE」はエンターテイメントという切り口を武器に、そんな意識を軽々と飛び越えていく。私たちが想像もしない未来が、そこに広がっているのかもしれない。

[引用元] http://the-sixsense.com

(text: 平山 麻衣子)

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