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総額400万ドルを支援!革新的な補装具開発に向けた世界的プロジェクト

富山 英三郎

WHO(世界保健機関)の推定によれば、下肢麻痺者は世界中で毎年 25~50万人程度増加しているという。しかしながら、補装具の商品化は各種許認可の取得が容易でなかったり、市場規模が必ずしも大きくたないため、小規模事業者の新規参入が難しいという側面がある。そこで、トヨタ・モビリティ基金では、革新的なイノベーションを推進するため、モビリティに関するシステムやデバイス開発のための支援プロジェクト『モビリティ・アンリミテッド・チャレンジ』を世界規模でスタートさせた。

優勝者の発表は、オリンピックイヤーとなる2020年の東京

豊かなモビリティ(移動可能性)社会の実現と、その格差解消に向けた活動をおこなっている一般財団法人 トヨタ・モビリティ基金(以後、TMF)*。2017年11月には、「下肢麻痺者の自立した生活の支援と、移動の自由に貢献する革新的な補装具に関するアイデア発掘と開発支援」を目的とした、『モビリティ・アンリミテッド・チャレンジ』をスタートさせている。これは、多彩なアイデアをもつ世界中のイノベーターと、ユーザーである下肢麻痺者とのコラボレーションを推進させながら、革新的なシステムを組み込んだパーソナル・モビリティ・デバイスの開発を支援するというもの。

つまり、今までにない形状の補装具や、人工知能、コンピューターが自ら学習する機能、クラウドコンピューティングの活用、革新的なバッテリーが搭載された補装具など、これまでの常識にとらわれない自由な発想が求められる。クラウドソーシングを活用したプロジェクトとなっており、参加希望チームはWEBから応募(https://mobilityunlimited.org/)し、選考はコンテスト形式でおこなわれる。開発期間は約3年。その間に段階的な選考を2回おこなっていく。なお、審査員によって選出された5名のファイナリストには、アイデアを具現化させるプロトタイプ(試作品)制作に向けた50万ドルの支援。さらに、オリンピックが開催される2020年・夏の東京で発表される優勝者には、補装具の完成に向けた100万ドルの支援などが提供される。

プロジェクトの中心はあくまでも下肢麻痺者

すでに10件のディスカバリーアワード受賞者が誕生しているが、応募の最終締め切りは2018年8月15日。同プロジェクトのためにTMFが用意した開発支援資金は総額400万ドル(約4.5億円)。その他、各チームにはメンタリング(自発的、自立的な成長を促す手助け)もおこなっていくという。

同プロジェクトの中心にあるのは、あくまでもユーザーである下肢麻痺者の視点やニーズ。そのため、下肢麻痺者はソーシャルメディア上でハッシュタグ「#MyMobilityUnlimited」をつけ、日常生活で直面する不便やそれらの体験談、理想的な補装具のアイデアなどを投稿するだけで同企画に参加することができる。また、起業家や技術者にとっては、それらの貴重な意見が独創的なアイデアを生むきっかけとなる。

現在、『モビリティ・アンリミテッド・チャレンジ』のアンバサダーには、田口亜希(一般社団法人日本パラリンピアンズ協会理事、日本郵船株式会社)/オーガスト・デ・ロス・レイエス (ピンタレスト社、デザイン責任者)/プリーティ・スリニバサン(インド アスリート)/ロ-リー・A・クーパー(米国ピッツバーグ大学人間工学研究室ディレクター)/サンドラ・クマロ(南アフリカボート選手)/ソフィー・モーガン(英国TV司会者)/タチアナ・マクファデン氏(米国陸上選手)/インカ・ショニベア(ナイジェリア系イギリス人アーティスト)らが就任している。

*TMF(トヨタ・モビリティ基金)
2014年8月の設立の一般財団法人。設立以来、豊かなモビリティ社会の実現とモビリティ格差の解消に貢献することを目的に、タイやベトナム、インド、ブラジルでの交通手段の多様化や、日本の中山間地域における移動の不自由を解消するプロジェクトへの助成など、世界のモビリティ分野における課題に取り組んでいる。今後も、トヨタの技術・安全・環境に関する専門知識を活用しながら、大学や政府、NPOや調査研究機関等と連携し、都市部の交通課題の解消、パーソナル・モビリティ活用の拡大、次世代モビリティ開発に資する研究など取り組みを広げていく。

[TOP動画引用元:https://youtu.be/5bE-Qg9yHX0

(text: 富山 英三郎)

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心の不調感じてない?メンタルヘルスをチェックできるサービス2選

Yuka Shingai

行動の制限、感染に対する不安や孤独、景気の停滞など、長引く新型コロナウイルスの流行が、私たちに与えるストレスは大きい。徳島大学が今年の2月、緊急事態宣言(20年春)の対象7都府県の18~89歳を対象に行った調査では、約2割の人が気分が落ち込むなど「治療が必要な抑うつ状態」と推定されるという結果も出ているようだ。ストレスの大小や老若男女問わず、先々の見通しが立たない中で、メンタルヘルスには気を付けたい。技術の進歩により、日々の何気ない動作からも計測できるようになったメンタルメルスに関するサービスについてご紹介しよう。

ストレス具合が計測できる
瞳孔反応解析技術


ストレスチェック、メンタルヘルスチェックというと、何十問にも及ぶ設問を一つ一つ解いて…というイメージも根強いのではないだろうか。2015年12月より、50人以上の従業員を抱える事業所には厚生労働省の「ストレスチェック制度」が義務付けられているが、働き方が多様化する今、求められるのはより個に寄り添った柔軟なチェックかもしれない。
夏目綜合研究所によるアイトラッキング(視線計測)を含む「瞳孔反応解析技術」は、これまで取得できなかった「人間の無意識の反応」に着目している。交感神経が活発になると拡大し、副交感神経が活発になると縮小する自律神経によって動く瞳孔は意識的に操ることができず、自律神経の乱れはストレスや疲労、何かしらの不調を察知するカギとなる。近赤外線センサーとモニターで瞳孔の収縮・拡大や視線を追っていくことで、ストレス度合いがチェックできる。
メンタルヘルスと近しい領域である医療はもちろんのこと、エンターテインメントやマーケティングなどでも活用が期待されているとのことで、人間が「目」から受け取る情報量の多さを物語っている。

記事を読む▶“目は口ほどに物を言う”心や身体の不調が瞳で分かる時代へ! 日本が誇る「瞳孔反応解析技術」

これからの新常識になるか?
睡眠計測サービス「インソムノグラフ」

食事と並んで健康のバロメーターとも言える睡眠。リモートワークやオンライン授業、外出自粛による運動不足、もちろんストレスも合わせると、寝つきが悪くなった、眠りが浅くなった、しっかり寝たつもりでも疲れが取れないなど、コロナ禍における睡眠の悩みは例年よりも大きくなっている。グーグル検索でも「不眠症」という言葉の検索が60%も多くなっているようだ。
筑波大学発のベンチャー企業、S’UIMIN(スイミン)社による睡眠計測サービス「InSomnograf®:インソムノグラフ」は、AIの活用によって、これまで検査入院しないと測定できなかったレベルの睡眠計測を自宅で簡単にできる。睡眠時の脳波に加えて、目の動きや一部の筋電も含めて計測する。3つの電極が付いたシートを額につけて、左右の耳の後ろに2つの電極を装着し、デバイス本体と接続。寝るときにボタンを押下して計測を開始し、起きたときに再びボタンを押せば計測は終了。スマホやPCにつないで直近のデータを取得するほか、5日以上計測して総合評価も行う。
同社が今後目指すのは、睡眠脳波計を家庭用血圧計くらい身近にすること。仕事やスポーツのパフォーマンスにも大きく影響する睡眠をモニタリングすることは今後、検温や血圧チェックのようなルーティーンになっていくかもしれない。

記事を読む▶【HERO X × JETRO】睡眠の謎に挑み続けるベンチャー企業「S’UIMIN」

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(text: Yuka Shingai)

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