テクノロジー TECHNOLOGY

3D設計で変わるものづくりの未来を体験しに、「3DEXPERIENCE World 2020」に潜入!

富山英三郎

世界中で熱狂的なファンをもつ、3次元CADソフト「SOLIDWORKS」。そのユーザーたちが集う祭典『3DEXPERIENCE World 2020』が、2020年2月9~12日におこなわれた。会場となったのは、テネシー州ナッシュビルにあるミュージック・シティ・センター。基調講演には開場前から多くのファンが並び、ドアがオープンすると駆け足で椅子を取り合うほどの熱気。そこには、プロダクトデザインや設計という枠を越え、製造~販売に至るまで、ものづくりの未来を変える景色があった。

3Dデータなら完成前に
VRでチェックすることもできる

「SOLIDWORKS」は、ミドルレンジの3次元CADソフトブランドであり、以前紹介したダッソー・システムズ(http://hero-x.jp/article/7301/)の傘下にある。同カンファレンスは、約20年に渡り『SOLIDWORKS World』と名付けられていたが、今年から『3DEXPERIENCE World 2020』という名称に変更。3Dエクスペリエンスとは、3Dによる新しい体験のことだ。

つまり、プロダクトデザインを最初から3Dで設計してしまえば、耐久性などの検証作業、各種コラボレーション、製造、生産管理、マーケティング、販売に至るまで、プラットフォームを通じてあらゆる部署との連携がスムーズに行えるというもの。

製品が完成する前にヴァーチャルの世界で各種検証ができるので、いまや試作品を作らずにいっきに生産へと進むケースも増えている。また、3Dの設計データがあれば3Dプリントするのも容易など、あらゆる面で効率化が図れるのだ。

そのほか、完成品と瓜ふたつの3Dデータを用いてVRで疑似体験したり、商品撮影をせずにCMやカタログを作れてしまうというようなメリットもある。ひとことで言えば、3Dデータを軸として、バリューチェーン全体をループ上につないでしまおうという試みなのだ。

世界各国から
約6,000人のユーザーが集まった

これは製造業のみならず、3Dテクノロジーを活用しているデザイナー、エンジニア、メイカーズ、起業家、学生、各界のビジネス・リーダーたちにとって大きな影響を与えている。その証拠に、会場内には同社製品を使っているさまざまな立場のユーザーが約6,000人集結した。

基調講演では、ソフトの新しい機能や新製品の発表はもちろん、このサービスを使っている各界のイノベーターたちも登壇。HERO-Xと親和性が高い人物としては、TEAM POSITIVEの鈴木隆太氏(http://hero-x.jp/article/6015/)(http://hero-x.jp/article/7211/)も愛用している義肢メーカー、BioDaptの創設者であるマイク・シュルツ氏(http://hero-x.jp/movie/4203/)もそのひとり。

マイク・シュルツ(Bio Dapt社の創設者兼アスリート)

BioDaptのVF2は、
3Dエクスペリエンス・ワークスで作られる

2008年に足を切断した彼は、その4ヶ月後に自らの設計でモトクロス向けの義足を制作。7ヶ月後にはモトクロスの大会に出場し銀メダルを獲得している。その後も、パラリンピックのスノーボードクロスで金、バンクスラロームで銀、さらにはX-ゲームスで10回も金メダルを獲得するほどのアスリートである。

当初は自分のために義足を作っていたが、それが人の役にも立つとわかり2010年にBioDapt社を設立。アクティブスポーツを中心に、世界中のさまざまなアスリートから支持を集めている。現在、同社では3Dエクスペリエンスプラットフォームを使い、お客さんからの要望をリスト化。それをもとに変更後の全体シミュレーション、デザイン変更、耐久性に関する各種検証、生産工程のシミュレーションに至るまで、すべての管理を「SOLIDWORKS」のプラットフォームで行なっている。これにより、効率的に義足のパーソナライズ化を進めているのだ。

3Dデータを使ったBioDapt社の制作工程がわかる展示スペース

そして、マイク・シュルツ氏と同じ壇上に上がったのは、MITでバイオメカトロニクス(生物の構造や運動を力学的に探求し、応用する学問)を研究している マット・カーニー氏。彼は、脳や神経回路とマシーンをつなげることで、考えるだけで義手や義足が動き、手や足の「感覚」までも取り戻せる「バイオニック義肢」を開発した人物だ。彼もまた「SOLIDWORKS」のユーザーである。

マット・カーニー(バイオメカトロニクスの研究者)

そのほか、腕にターボジェットエンジンを装着して飛ぶジェットスーツのデザイナー、サム・ロジャー氏も登壇。試行錯誤しながら、時速約80kmという世界最高記録を打ち出すに至った経緯を説明した。

また、糖尿病患者にとって救いとなった携帯型インスリンポンプの開発や、段差を上り下りできジャイロセンサも搭載した電動車椅子『iBot』の開発。それを発展させた『セグウェイ』や、FedExの自動運転配達ロボ。最新の開発では、自宅で人工透析ができるマシーンなど、天才発明家でありエンジニアのディーン・ケイメン氏も登壇。30年に渡る開発の歴史や、彼が注力している学生ロボット競技会『FIRST』の活動が紹介された。

ディーン・ケイメン(発明家兼エンジニア)

『3DEXPERIENCE World 2020』に登壇したすべてのイノベーターの共通していたのは、自らの夢や願望の実現、さらには社会問題の解決にSOLIDWORKSを使っているという点。また、同社が進めるプラットフォーム化により、同じ問題意識をもった人々とのコラボレーションが活性化しているという点も大きい。

SOLIDWORKSのCEOであるジャン・パオロ・バッシ氏も、「イノベーションはコラボレーションから生まれる」と語る。プラットフォーム化のメリットは製造業のみならず、戦地で負傷した人々への義手や義足の支援、障害をもった子供たちに無償で車椅子のコスチュームを提供するマジックホイールチェアの試みなど、世界の知恵を集結して問題解決に当たる際にこそ有効だといえる。

ジャン・パオロ・バッシ(SOLIDWORKS CEO)

「今年のカンファレンスでは、“難しい問題の解決にあたって、夢を見るように新しい方法を模索しよう” という点をコンセプトにした」という、ジャン・パオロ・バッシ氏。さまざまなスキルを持った人たちが協力し合いながら、コミュニティ単位でものづくりをスムーズにおこなう未来。それはすでに大きなうねりとなっている。

(text: 富山英三郎)

(photo: ダッソー・システムズ)

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テクノロジーで「結果にコミットする。®」!ライザップゴルフは若い世代へのアプローチにも意欲的だった

Yuka Shingai

『結果にコミットする。®』のキャッチフレーズでおなじみ、マンツーマントレーニングで知られるライザップが、テクノロジーを活用した取り組みに次々とチャレンジしている。ボディメイクの大きな核となる食事管理の部分に、AIによる画像解析を駆使し、スマートフォンで食事を撮影するだけで栄養素やグラム数を記録できる「フードアナライザー」機能を搭載したアプリ「RIZAP touch 2.0」が先ごろローンチされ大きく話題を呼んでいる。顧客とのコミュニケーションを重要視してきた同社が、テクノロジーイノベーションをどのように推進しているのか。現在4期目を迎え、全国に29店舗を構える「ライザップゴルフ」を訪ね、その事業成果について話を伺った。

最先端のセンシングデバイスが
全てのスイングやショットを数値化

ライザップゴルフの店舗に一歩足を踏み入れると、バーを思わせるようなスタイリッシュで落ち着いた内装に、「これがゴルフスクール?」と驚くだろう。レッスンを行う個室に入り、会員カードを接触端末にかざすと、シミュレーターが起動し、自分のデータが映し出される。ゲームの世界に入り込んだような錯覚を引き起こす「プライベートレッスン」のスタートだ。

「ゴルフ人口の減少に伴い、ゴルフの練習場も減っていて、仕事前や仕事帰りに打ちっぱなし、というのもなかなかできなくなっていますし、女性一人では練習場に行きづらいとか、練習場で他の人に声をかけられることに抵抗が、という話もよく聞きます。ここライザップゴルフなら各地にありますし、クラブやウェア、靴の貸し出しも行っているので、ジム感覚で気軽に来ていただけます」と語るのは、ライザップ株式会社 マーケティング本部 ブランドマーケティング部 CX戦略ユニット ユニット長の澤本陽介さん。

予約を取ってマンツーマンでのパーソナルトレーニングという意味ではイメージしていた通りだが、レッスン中の全てのスイングやショットをデータで記録し、ゲストもトレーナーもその場で確認することができることがライザップゴルフの大きな特色だ。

センシングデバイスをクラブに装着し、Bluetoothでアプリと連動させ、スイングすると1スイングあたり10万件以上のデータが抽出される、抽出されたデータは動作アルゴリズムで解析され、クラブを真上から見たときの軌道、ボールに当たった時の(クラブの)ヘッドの開き具合、クラブが地面に対してどう動いているか、スピードやテンポ、角度などあらゆる見地から検証できる。

たとえば初心者にとっては「アプローチの際はハーフスイングでピンに寄せましょう」と言葉だけで説明を受けても、ハーフスイングがどの程度クラブを振り上げるものか具体的にイメージすることさえも難しい。動画があればトレーナーも説明がよりスムーズになるし、ゲストも実践しやすいというメリットがある。

これらのデータを参考に、トレーナーが日々のレッスン、目標に到達するまでのプログラムを考え、ゲストのレベルに合わせてストレッチや筋トレなどの宿題も出す。正しい体の使い方を習得するためには、参考になる動画の添付も欠かせない。これら宿題の管理や報告、フィードバックもアプリ上で行うとのことだ。

このシミュレーターを採用したもうひとつの理由は、安定した環境で再現性を高めるため。

通常の練習場では雨や風などの天候や騒音など、環境要因によりレッスンに集中できないデメリットもあるが、周囲の影響を受けない静かで落ち着いた完全個室であれば、気がそれることもなく、スイングやフォームが安定し、上達に近づくというわけだ。

一人で思い悩んでしまうゲストに、
離れた場所からもソリューションを提供したい

アプリが活躍するのは店舗内でのレッスン時だけではない。ゴルフ場でのラウンドの様子を同伴者に撮影してもらい、アプリから動画を送れば、トレーナーからアドバイスを受けることもできるし、トレーナーも次回のレッスンまでにプログラムを考えることもできる。もちろんコミュニケーションツールとしての利用も可能だ。

レッスンアプリ以外に、ラウンドの記録が取れるスコアアプリ「GOLF SCORE」も展開しており、トータルパット数やフェアウェイキープ率、ショートホールでのワンオン率などあらゆるデータをためておくことでサービスを向上させている。

「複数人数でラウンドを回っていても、ゴルフは基本的にひとりで結果に向き合うスポーツ。ひとりで悩みを抱え込んで、スランプに陥ってしまう人が多いんです。そんな人たちに離れた場でも提供できるサービスはないかと思ったことがきっかけ」と澤本さんが言うように、テクノロジーをプラスすることで、コミュニケーションをより密に、というのはいかにもライザップらしいソリューションだ。

また、膨大なデータを読み解き、分析する能力がトレーナーの本来のミッション以外にも求められるスキルでもある。大学や企業ゴルフ場などトレーナー各人が勉強してきた方法は異なる中で、顧客に均一なサービスを届けるために、専門の教育チームが手がけた「ライザップゴルフメソッド」と呼ばれる教え方の虎の巻をベースに、全店舗のトレーナーに座学、実地試験やテストを行い、育成に努めている。

ゴルフ場までの足にも
テクノロジーを活用していきたい

とはいえ、ゴルフ人口減少という大きな問題は避けて通れない。今ゴルフを楽しんでいるのはシニア層が中心で、若者とゴルフの接点が持ちづらいのは否定できないようだ。

まずゴルフはクラブやウェアなどモノが必要、一緒にラウンドを回る仲間が必要、と様々な事前準備が必要だが、その中でも一番のネックとなるのはやはり車だろう。若い世代がマイカーを持つことも少なってきた今、ゴルフ場への足がないことが大きな機会損失ともなっているが、ここもパーソナルモビリティや自動運転車などテクノロジーの進化に期待をしていると澤本さんは語る。

「自動運転が進めば、もっと気軽にゴルフ場に出かけられるし、車内環境ももっと変わるでしょう。通信が4Gから5Gになれば、もっと大容量のデータを送信することも可能なので、ゴルフ場への移動中でもさらにサービスを提供できるかもしれません。あくまでもお客様の満足が第一なので、最新技術を使っていることを強調したいわけではないのですが、たとえばこのセンシングデバイスもシールみたいにもっと薄型にならないかな?とか、アプリとの連携もBluetoothじゃなくて自動でできるものはないだろうか?とか。その可能性を模索したいので自動車メーカーさんや、一緒に開発してくれているメーカーさんとは積極的に会話をしていますし、技術先進国の欧米や、シミュレーターを作っているアジアの企業の方にも可能な限り、当社の製品を見てもらっています。」

このほか、スマホ向け人気ゴルフゲームとコラボしたトーナメントを開催するなど、オンラインの施策で若い世代の獲得も試みている。

「ゲームで面白いと感じてもらったら、体験レッスンにも来やすいでしょうし、よりゴルフの面白さを体感してもらえると思います」

ゴルフクラブをオーダーできるラボを併設するなど、ゲストとのコミュニケーションが多角的で、次から次へと施策を生み出している様子も窺える。

今は競泳やプロサッカーなど、一部の有能な選手たちが使っているセンシング技術だけれども、今後はゴルフのようにアマチュアが楽しむスポーツにもセンシング技術の活用が浸透していくのかもしれない。

(text: Yuka Shingai)

(photo: 壬生 マリコ)

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