医療 MEDICAL

たった1分で病理診断が可能に。AIで医療を変革する会社「メドメイン」に注目 後編

下西 由紀子 | Yukiko Shimonishi

九州大学医学部の学生、飯塚 統(いいづか おさむ)さんらが立ち上げたメドメイン株式会社は医療ITのスタートアップ。同社が開発した病理画像診断ソフト「PidPort」(ピッドポート)は、アメリカ・シリコンバレーで行われたコンテスト「Live Sharks Tank」や、エストニアの「Latitude59 エストニアアワード」等で優勝。海外でも高い評価を得、タイのバンコクでもテスト運用の準備を進めているという。メドメイン社は医療ITのトップランナーとして、新たな構想も描きつつ、グローバル展開を目指している。

日本は医療ITのリーダーになり得るが・・・

膨大なデータの蓄積があるからこそ可能となる画像診断について説明する岡本さん

日本の医療技術は非常に高く、日本は病理先進国でもあるという。AIの開発には過去の大量のデータが必要だが、「PidPort」の開発が実現したのは、連携する医療機関や病理医の協力により、相応量のデータが確保できたからこそ。しかし、事業開発責任者の岡本 良祐(おかもと りょうすけ)さんは、医療IT界における日本のポジションについて、希望と危機感の両方を抱いている。「今、日本は岐路に立たされている。医療ITのリーダーといえる国はまだない。日本には、質も良く保管状態も良い過去のデータが豊富に存在していて、そのデータを今、活用できれば、日本は医療ITのリーダーになれる。でも、そのためには法律の緩和など、大きな課題をクリアしなければならないんです」

「PidPort」は、今年中の製品化を目指しているが、日本だと審査に時間がかかるという難点も。すでにタイをはじめとする東南アジアでの展開の準備も進めており、将来的には世界各国への提供を目指している。

2018年11月、アメリカ、シリコンバレーで開催されたTVのピッチイベントで見事優勝。写真は前日の「Asian Night」でプレゼンを行う飯塚 統社長 (画像提供:メドメイン)

余裕のない医療現場の環境をAIで変えたい

PidPortの製品化に取り組みつつ、メドメイン社は、「医療現場で使ってもらいやすいツールを開発したい」と、新たな構想も描いている。海外ではすでに医療界のプラットフォームを持っている地域もあるそうだ。メドメイン社では、病理医だけでなく、どんな医師でも使える包括的なプラットフォームを作り、遠隔地とのやりとりやオンライン上でのディスカッションを可能にしたいという。さらにAIを交えて、AIから意見をもらうというシステムを構築していきたいとのこと。実現すると、離島やへき地で診療にあたっている医師の支援ツールとして、また開発途上国の支援ツールとしても、大きな効果が期待できそうだ。さらに、都会でもよくある“たらい回し”も、「ウチではわかりません」ではなく「システムに問い合わせてみますね」という対応により、改善されるのではと展望している。

「今、医療現場には余裕がないんです。AIを活用すれば、カルテの記載など、医師が抱えている事務作業等が大幅に簡略化され、医師にも余裕が生まれます。そうすると患者さんの『一度も顔を見てもらえなかった』といった不満も消え、患者さんの満足度が上がる。結果として治療の効果が上がることにもつながると思うんです。まずは医師が働きやすい環境を作り、医療の質の向上や、医療費の削減にもアプローチしていきたいと考えています」

2018年12月、ヘルシンキにて。世界130ヵ国以上からスタートアップや投資家などが参加するフィンランド発祥のスタートアップイベント「SLUSH」に、“Startup Team FUKUOKA”の1チームとして参加(画像提供:メドメイン)

「私たちは、世界の医療を変えたい。物理的要因や、社会的地位、そして国を超えて、医療に最適な環境を作りたいんです。ITのテクノロジーを使って、すべての人が望む治療を受けられる、そしてすべての医師が望む医療を提供できる、そんな環境を作りたい。」(岡本さん)

画期的なAIソフトで、一躍、医療ITのトップランナーに躍り出たメドメイン社。患者と医療者の間にある壁を消し去り、患者自身がどういう治療を受けてどういう生き方をしたいのか、「患者の希望ありきの医療」を理想に掲げる。「新しい医療のあり方を提案したい」と勢いづく同社の走りっぷりに注目したい。

メドメイン株式会社HP https://medmain.net/

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(text: 下西 由紀子 | Yukiko Shimonishi)

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たった1分で病理診断が可能に。AIで医療を変革する会社「メドメイン」に注目 前編

下西 由紀子 | Yukiko Shimonishi

「精密検査」と聞くと、検査を受けてから結果が出るまで時間がかかるもの、というイメージをお持ちの方が多いだろう。時間がかかる最大の理由は、細胞組織を診断する病理医の不足だ。そんな中、わずか1分程度で病理画像を解析するAIソフトの開発に取り組み、急成長を遂げている会社がある。九州大学医学部の学生が立ち上げたスタートアップ、株式会社メドメインだ。

医学部生が立ち上げた
医療に特化したスタートアップ

社名のメドメイン(Medmain)は、医療を表す「Med」、IT用語でネットワーク領域を表す「Domain」、将来的に医療の中枢にという願いを込めた「Main」の3つの言葉を組み合わせた造語。九州大学の医学部生、飯塚 統(いいづか おさむ)さんが中心となり、2018年1月11日に立ち上げた医療ITの会社で、九州大学「起業部」第1号のスタートアップだ。患者から採取した細胞組織にがん細胞や腫瘍がないかをAIで診断する病理画像診断ソフト「PidPort」(ピッドポート)を開発し、2019年中の製品化を目指している。

創業時4名だったスタッフは、わずか1年で約60名に(うち4名は大学在学生)。資金も2社を引受先とした第三者割当増資により、1億円を調達した。開発の中枢を担うのは、飯塚さんと韓国人のAIエンジニア、フランス人のWebエンジニアで、ほかにもイギリスとクロアチアのエンジニアが母国よりリモート参加している。開発にあたっては、19名の病理医と契約、また国内外20の医療機関と連携して共同開発を行っている。

日々データ画像を見ながら開発を進めている

PidPortは、大量の病理画像をAIに学習させるDeep Learningと独自の画像処理技術によって開発された。患者の病理画像データをアップロードすると、AIが診断項目をチェックして解析を行う。かかる時間は、わずか30秒から1分。スピーディーなだけでなく超高精度。その解析をもとに医師が最終的な診断を行い、早ければ検査当日に患者に結果を告げることが可能だ。

従来、病理医が行う方法は、患者から採取された細胞組織の標本を、顕微鏡を使って確認し、診断していくというもの。現在、日本には約2000人の病理医しかいないことから、ほとんどの病院では、病理医のいる施設へ標本を送り、診断結果を待つことになる。患者は結果が出るまで1週間から3週間、待つことを余儀なくされる。メドメイン社の事業開発責任者、岡本 良祐(おかもと りょうすけ)さん(熊本大学 医学部在籍)によると、「乳がんの疑いがあると言われた患者のうち、約3割の人が検査結果が出るまでに軽いうつ病にかかるというデータがある」という。

患者側、医療者側、
双方に生まれる大きなメリット

現時点では、研究のためα版として特定の医療機関のみでテスト運用しているが、もし製品化されれば、患者側、医療者側、双方にとって大きなメリットがある。

患者にとっては、待つことに伴う精神的な負担が軽減される。また、待つ間に症状が進行してしまう場合もあるので、それを食い止めることも可能になる。

一方、医療者側にとっては、早めに適切な医療サービスを提供できるという利点がある。

しかし、それだけではない。「このソフトは病理医の労働環境の改善にもつながる。病理医の仕事は、膨大な量のデータを顕微鏡で見て慎重に診断を行う過酷なもの。ソフトを導入することで、病理医1人にかかる負担を軽くすることができる。AIはレアな病気を発見することも可能なので、支援ツールとしても活用できる。また、病理医の多くは、病気を発見するだけでなく、その病気の原因や進行の様子を研究したいと考えている。AIを導入することで、病理医が自分の研究に力を注ぐ手助けになると考えています」(岡本さん)

現在は、ニーズの多い胃と大腸の診断に限定しているが、次は乳がんなどの婦人科系にも力を入れ、最終的には全部位を網羅したいと意欲を示している。

メドメイン株式会社HP https://medmain.net/

後編へつづく

(text: 下西 由紀子 | Yukiko Shimonishi)

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