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コロナ禍で加速した医療連携 医療×ITは輸出産業にもなる!

IT化が遅れている日本の医療現場。医師同士の連絡はいまだにPHSが主流となっており、オンライン診断なども進んでいない。そんな中、ITで日本の医療を変えようしている企業が株式会社アルムだ。医療関係者向けのアプリ「Join」を始め、同社が開発するアプリは、ITによって人々に適切な医療を提供していくツール。また、同社の代表 坂野哲平氏は「この分野は世界で日本が勝てるフィールド」だと語る。果たしてアルムの戦略とは!?

医療チームの迅速な連携を
グループアプリで実現

アルムが開発したアプリ「Join」は、既存のメッセンジャーアプリと似たようなインターフェース。スマホ画面で医療チームのグループトークが可能で、さらに検査画像を共有することができる。例えば、緊急患者が運ばれてきた時に、その場に専門医がいなくても、脳のMRI画像を転送することで、グループ内の脳外科医などが適切な処置を指示できる。
特に夜間に緊急で搬送されてきた場合、必ずしも専門の医師が当直に当たっているとは限らない。かといって専門医を増やすというのも、今の日本の医療資源を考えれば現実的ではない。そんな時、「Join」で情報を共有し、非番の医師にも診断をあおぐことができれば、患者が助かる可能性が高まる。

脳疾患の場合、要介護になるかどうかは搬送された際の迅速な診断で決まるといわれる。脳卒中になってから1分放置すると脳細胞が約190万個も死滅するといわれているが、脳疾患で運ばれてきた患者をITによる連携で専門医がケアすることができれば、寝たきりになる人を減らし、日本人全体の健康寿命を延ばすこともできる。「Join」は現在、世界22か国で活用されている。

記事を読む▶ITの力で医療チームの連携をスムーズに。助けられる人を増やすためのアルムの挑戦

コロナ対策にも寄与
スマホで血中酸素が測れる!?

一方で、アルムが一般ユーザー用に開発しているのが「MySOS」。普段から健康状態を記録しておき、救急車で運ばれた時に既往歴などをすぐに参照できる。さらに、このアプリは今回のコロナ禍でも活躍した。アプリ上でPCR検査の予約から結果までを登録することができ、陰性証明としても使える。それだけではなく、スマホのカメラ機能で心拍数や血中酸素飽和度も測れるのだ。

万が一、コロナで自宅待機になった場合、自分の健康モニタリングが非常に重要になる。自宅待機中に容体が悪化し、深刻な事態に陥るケースも散見されている事実もあり、血中酸素飽和度を測定できる機器「パルスオキシメーター」の活用が勧められているが、自治体の配布が不足したり、購入しようとした時に欠品している現象も起きている。その点、「MySOS」をインストールしておけば、いつでも手持ちのスマホで血中酸素飽和度を測ることができるのだ。現在は「MySOS」とPCR検査や感染情報を紐づけ、イベントの感染予防と、コロナが発生した場合のクラスター追跡に活用できないか検討中だという。

それ以外にも、自宅やホテルで療養している陽性者に対し、保健所が健康状態をモニターすることで、緊急度のスクリーニングができるシステム「Team」もアルムの開発だ。こちらは神奈川県を始め、全国複数の自治体で活用されている。AIによる分析で、陽性患者のアラートを感知できる仕組みだ。

これらのノウハウは、日本が世界に輸出できるのではないかと代表の坂野氏は語る。日本には優秀な技術者がおり、医療の水準も高い。「一丸となって取り組めば世界に勝てる」と板野氏。現在のところ、日本の医療は圧倒的に輸入資源が多いフィールド。輸出に打って出るカギは、ITによる医療情報の連携と活用なのかもしれない。

※Join、MySOSは、株式会社アルムの商標または登録商標です。

(トップ動画:https://www.youtube.com/watch?v=U_Y9W6NI-q8

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病院での “待ちぼうけ人口” 削減はできるのか!オンライン診療の行方

HERO X 編集部

慢性的な病気を抱えると、定期的な受診が不可欠になる。ところが、高齢者の増加に伴い、受診を必要とする人口も増えてきた。予約制を取る病院も多くあるが、それでも、大きな病院では待ち時間は多くなる。この足止め時間が嫌で必要な受診をしないという患者もいる。また、待ち時間の長さが、働く世代の足を健康診断から遠ざけてしまう原因にもなっている。しかし、病が経済活動を止めてしまうことを、わたしたちは今回のコロナ禍で痛感した。人々が健康でなければ、経済活動は回らない。もしも、自宅である程度のデータが取れるようになったとしたら、どんな変化が起るだろうか。

人により違う「調子が悪い」の基準値

超高齢化社会と言われる日本。現在の40代後半から50歳にあたる団塊ジュニアが高齢者になれば、高齢者人口の増加が頭打ちになるという話しもあるが、少子化の上に平均寿命が伸びているため、人口に占める高齢者の割合はそれほど大きくは変わらないと予測される。死ぬまで健康でいられれば、それが一番良いのだが、そうもいかないのが人間だ。年齢と共に体の衰えはやってくる。すると、病院に通う機会も増えてくる。それを表す一つの数字が、通院人口の割合だ。

国民生活基礎調査を元に厚生労働省が公表している通院状況の調査によると、人口千人に対する通院者率は男性で388.1、女性で418.8(2019年調査)。分りにくい数字だが、人口千人に対してこれだけの人がなにかしらの理由で通院しているということだ。そしてもちろん、年齢が上がるにつれ、通院人口も増えていく。調査では、ケガではなく、疾病により通院しているという人達にどのような病気で通院しているのかを聞いたものもある。それによると、男女共に1位は高血圧。男性の場合は2位に糖尿病が入っている。

2019年 国民生活基礎調査(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa07/3-2.html

高血圧や糖尿病はどちらも生活習慣病と言われるものだ。疾病の改善には食生活や運動などの生活改善が不可欠と言われるため、その目的で定期的に受診をしている人も多い。もちろん、受診時には、血液検査や尿検査など、体の中の状態を数字として可視化するための検査も行われる。だが、これらの生活習慣病の場合、データが自宅で取れるようになれば、オンラインでの診療も可能になると言われている。これが進めば、病院に足を運ぶ人の数は減るだろう。つまり、本当に対面受診が必要な人だけが病院を訪れることになる。するとどうだろうか。上手く回りはじめれば、待合室の混雑や、予約の取りづらさが緩和される可能性が出てくるのだ。

未来の受診スタイルを支える
検査事情最前線

しかし、患者の顔を見るだけでは状態を把握できない。遠隔診療を進める上で必ず必要になるのが検査データの取得だ。血圧については家庭用血圧計がかなり普及したため、すでに自宅での計測が可能となっている。さらにデータをスマホで管理できる便利なアプリも出回り、日々の記録を手書きで付けていた手帳からは解放されつつある状況だ。体重計もここ数年でかなり開発が進み、体重だけでなく、BMI値や骨密度まで測れる体組成計へと進化を遂げた。

さまざまな基礎データの取得が手軽にできるようになってきた現在、尿や唾液の検査も手軽にしようと試みる会社がある。イギリス、アメリカ、日本と、多国籍のメンバーで挑戦を続けるBisu, Inc. 。HERO Xでの対談から2年(http://hero-x.jp/article/8393/)、代表のダニエル・マグス氏の元を訪ねると、当時のアイデアはさらにブラッシュアップされ、サービスのローンチに向けた準備が進められていた。

スタートアップが入居するシェアオフィスを卒業、東京駅近くのビルに自社オフィスを構えるまでになっていた。スタッフは相変わらず多国籍。海外に居住するリモートメンバーもいるという。

「細かな開発はほぼ終わり、今は生産ラインをどうするかという段階まできています。2年以内のローンチを目指して、頑張っています」と、流暢な日本語で説明するダニエル氏。試作品も以前のものより完成形に近づいていた。

ダニエル氏の考える尿検査キットは、独自開発の棒状の「テストスティック」と呼ばれるものに尿をかけ、小型検査デバイスに差し込むだけで、データが手元に届くというもの。テストスティックは使い捨てのため、一つの検査デバイスを家族で共同利用することも可能だ。

白い箱型のものが検査デバイス。隣に並ぶカラフルな色が施されたものがテストスティック。スライドすると中から棒状の検査装置が出てくる仕組みだ。

スティックのケースをよく見ると、色が分かれていることに気が付く。埋め込まれたチップにより、検査項目を変えることができるため、どの検査が行えるかを一目で分るように色分けしたのだ。これまでの家庭検査の倍にあたる20項目の検査が自宅で手軽にできるようになる見込みだ。唾液検査ができるスティックも開発、サービスローンチに向けて地道な開発が続いている。

取れたデータの活用についての開発も急ピッチで進められている。検査デバイスと連動したスマホアプリを使えば、⽔分やビタミン、ミネラルなど、体にとって重要な栄養素に関するフィードバックをわずか数分で得られるようになるというのだ。睡眠データや活動パターン、個⼈の⽬標などを紐付ければ、これらに基づいた健康改善のアドバイスも表⽰されるようになる。

「今考えているのは、身体情報を元にしたコミュニケーションです。ただ、数字を表示できるだけでなく、データを軸に、健康であるためのアドバイスをすることで、みんなが健康でいるための伴走者となっていく、そんなイメージです」

生産拠点は日本に置く!
「Made in Japan」にこだわる理由

生産拠点は日本国内に置きたいと話すダニエル氏。

検査キッドとデータの可視化について、技術的な問題はほぼクリアしたというダニエル氏。データの取得という部分に重きが置かれていた2年前の構想から比べると、サービスに広がりが生まれている。アプリを通じてデータの共有が可能になるため、医師やトレーナー、家族などとの連係も可能になる。そうなれば、通院する回数をグッと減らすことにも繋がる。

しかし、これだけのものを作るには、かなりのお金が必要となる。特に検査キットの量産化の部分は要となるため、潤沢な予算が必要だが、どうやらその壁についてもダニエル氏はクリアしたようだ。10月、シードラウンドで総額3億円の資金調達を達成、本格的な生産に向けて大きな一歩を踏み出した。出資元の一つはスポーツセンシング分野を牽引しているアシックス・ベンチャーズ社。資金調達と同時に同社との協業も発表している。そんなダニエル氏が目指すのは、検査キットの日本での生産だ。

「開発だけ日本でして、製造その他は海外にという会社も多いのですが、僕たちが開発したキットは生産を請け負う工場との綿密な打ち合わせも必要です。日本の技術は優れていますし、機密保持もしっかりしています。労働力の安い海外に出せば、我々がそちらに出向く時間と費用がかかる上、目が届きにくいため、技術が漏れてしまう危険も高くなる。だから僕たちは、日本国内での生産をと考えているのです」

多国籍メンバーが作る「Made in Japan」の健康管理サービス。世界に向けての挑戦が始まろうとしている。

ダニエル・マグス
Bisu, Inc. 代表取締役 。ロンドン生まれ、東京在住のイギリス人。ケンブリッジ大学で日本語を専攻後、法科大学院に進み法律事務所に入社。英国法弁護士資格取得。投資銀行でアナリストなどを務めた後に日本のディー・エヌ・エーで新規事業企画を担当。その後独立しヘルスケアIoT商品の開発を手掛ける同社を立ち上げた。現在は日々の健康を見える化する IoT尿検査装置の開発に挑戦している

(text: HERO X 編集部)

(photo: 増元幸司)

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