対談 CONVERSATION

サントリーウエルネスのトップ、沖中直人が描くDX

浅羽 晃

セサミンEXをはじめとするさまざま健康食品を開発してきたサントリーウエルネス株式会社。健康寿命やQOL(Quality of Life)向上が叫ばれて久しい日本だが、健康やQOL向上は、目には見えない感覚的なものも多いだろう。こうした感覚的なものの可視化は健康、QOLの向上に繋がりうるのか。高齢化社会を迎えた日本で、人々の健康に基軸をおいてきたサントリーウエルネス代表取締役社長の沖中直人氏にDXというキーワードで編集長・杉原行里が迫る。

「老化を科学する」ことに着目

杉原:サプリメントなどさまざまな健康食品を開発されているサントリーウエルネスさんの設立の経緯をお聞かせください。

沖中:サントリーは自然の恵みを、我々の加工技術を使って豊かでおいしい飲み物に変換し、お客さまの生活文化を創造していくというところから始まった会社です。創業者の鳥井信治郎が最初につくったヒット商品「赤玉ポートワイン」は、当時の医学博士から薬洋酒いうことで推奨してもらいました。創業当初から美味健康という文脈の流れがあり、1973年には新しい社是「人間の生命の輝きをめざし 若者の勇気に満ちて 価値のフロンティアに挑戦しよう 日日あらたな心 グローバルな探索 積極果敢な行動」が生まれました。

杉原:素敵な社是ですね。

沖中:はい。同じ年に中央研究所というものをつくり、自然の恵みをサイエンスして、人々の健康に役立つ素材や成分の研究が始まっています。その成果としていろいろな素材が生まれ、90年代の終わりには健康商品事業をスタートさせました。そのときからセサミンもありましたが、なかなか軌道に乗らず、思い切って、ダイレクトマーケティングに切り替えようということで、いまから20年くらい前にサントリーウエルネスが設立されました。

 

 

杉原:これまでの研究開発のなかで生まれてきた素材や成分を生かして、とくに健康寿命といったものを考えたビジネスにしているのですね。

沖中:そうです。「老化を科学する」という着眼点と、「自然由来の素材や成分で健康維持をサポートする商品を提供する」という2つの概念がユニークだったのだと思います。

杉原:僕、非常に思うのは、寿命と健康寿命というものが乖離しているということです。寝たきりの10年や、歩けなくなってからの10年というのは、本当の意味で健康であるのかないのかという議論が世界中で行われていると思います。そんななか御社は、セサミンEXをはじめとする商品を提供し、健康寿命を延ばしていくという企業なのでしょうか。

沖中:そうですね。「老化を科学する」ということが象徴するように、健康寿命を延ばしていこうというのがそもそもの出発点です。ただ、これから10年くらいの間に、日本は認知症が大きな社会問題になってくるのではないかと危惧しています。

杉原:間違いないと思います。

老化を科学し、一人ひとりの人生に
寄り添う商品やサービス開発を進める

沖中:体がすべて健康と言えなくても、人間は、最後はこころがアクティブで豊かな状態であれば幸福感を感じることができるのではないかと思います。ですから、体の健康ばかりでなく、こころの健康を含めて、「人生100年時代に最後まで寄り添っていくような会社になっていく」というのが、私の挑戦です。

杉原:そうすると、未病がキーになりますか。

沖中:サプリメントに関してはそうですね。私たちが飲料や酒類の酸化を抑える成分の代表格であるポリフェノール研究をしている中で、「品質維持に作用するなら、人間の健康維持にも効果があるのでは?」と、そのような視点から「老化を科学する」研究が始まりました。

杉原:老化というのは、どのへんを指されるのですか。脳、あるいはこころですか。

沖中:体ですね。40代になると30代までのような無理が効かなくなる。これはもう老化のあらわれではないかと思います。

杉原:老化は数字として可視化されていないじゃないですか。僕はいま38歳ですが、よく40代から変わってくると言われて、何が変わるのかを自分で人体実験しようかなと思っているんです。そのときに何を計測して、何が指標になっていくのかなということに興味があります。老化を科学していくなかで、老化は可視化されるものなのでしょうか。

沖中:いろんなものが可視化されていくでしょうね。私たちは可視化されたデータも活用し、様々な商品やサービスを開発し生涯にわたってお客さま一人ひとりの元気を応援する伴走者になりたいと思っています。

 

杉原:認知症に関してですが、いま僕らは追尾型のロボットや最適な座位をコーチングするロボットSS01(http://hero-x.jp/article/7870/)をつくっていて、僕は超高齢者社会が価値に変わっていくと考えています。2025年には先進国で初めて人口の30.3%が65歳以上になる。そういう最大の実証フィールドを手に入れられるので、そこから生まれるプロダクトやサービスは輸出していけると思います。

サントリーウエルネスさんは、今後はお客さまの解像度を上げていくとのことですが、具体的に解像度を上げるとは、どういうことを指されているのですか。

DXはあくまでも手段
ゴールを見つけることこそが重要

沖中:これはシンプルで、お客さまのこころのなかにある不安とか不便とか不満を、ちゃんと理解することですね。私たちは、シニアのお客さまのお困り事というものを観察して、洞察して、そこに寄り添いながらサービスを提供していきたいと考えています。

例えばですが、シンプルに言って、杉原さんは75歳以上の方のこころの悩みってわかりますか。

杉原:想像はしますが、難しいですね、まだ経験していませんので(笑)。

沖中:そうですよね。私は先日行われたイノベーションガーデンのイベントで、慶應義塾大学の宮田裕章氏と話したなかでも「DXは手段」ということを言い続けていたのですが、ゴールさえわかれば、手段はそこに結びつければいいと考えています。

杉原:そこはまさにそのとおりだと思います。

沖中:私から見ると、世の中のDXを叫んでいる人の多くは、手段から入っているのではないかと感じます。もしくは、自分のまわりの不都合なことがわかっているから、それをDXで解決しようとする。でもDXが全てを解決してくれるわけではない。私たちのサービスでは、顧客から直接話しを聞くコールセンターがありますが、今回のパンデミックで多くの声が寄せられました。そこで改めてシニアの方のこころの動きがわかったのです。
そこがわかれば手段は後から考えればいいと思うんです。解像度を高めずして手段に走るなかれということです。

 

DXは未来を変えられるのか?

杉原:それでは、サントリーウエルネスさんが考えているゴールというのは、こころに抱えている問題を、デジタルではなくて、人間として理解していくコミュニティを再形成していくことですか。

沖中:コミュニティがつくれるかどうかはまた別の話で、まず、こんなに多くの人が長く生きるということは、ホモサピエンス史上初めてだと思います。そして、人間のこころがおざなりになっている現実がある。そこを1回飲み込んで、消化して、そのうえで自分たちにできることをしていこうと。そのときにはサプリメントというもので信頼関係を築いたら、やっぱり最後はこころなのではないか。サントリー2代目社長の佐治敬三は、公害問題がたくさん起きていて、オイルショックもあった1973年に、「これからはこころの時代が来る」と言っているんです。すごい先見の明だと思います。

杉原:なるほど、理解しました。
それではDXというか手段については、御社の独自の開発でいくのか、あるいはさまざまな企業が開発していくなかでプラットフォームになる可能性もあるということですか。

沖中:いろんな人が遠くから見たときに、結果としてそのように見えるようになるかもしれない。でも、プラットフォーマーを目指すとか目指さないとかではなくて、私たちで出来ることはやり、手の届かない部分は誰かと協力し合ってやるということです。

個人的な価値観の違いだと思ったのですが、すべてのものをデータにする、「世の中で起きていることを因数分解して数学的に解釈していくということ」、それは人間が科学というものを見つけて以来、突き進んできた道だと思います。しかし、私はそこまですべて数学的に解析しなくてもいいのでは、と思うことがあるんです。無駄があってもいいと思っています。データの解析で突き進んでいった先に、本当に幸せがあるのだろうかと思います。

杉原:哲学的ですね。

沖中:すべてが計算され尽くした人生よりも余白のある人生の方が面白いと思います。

杉原:それはまったく同感です。

沖中:データとかDXというものは、どれくらいの余白のバランスでやるかということが大切なようにも思います。

杉原:僕らがいちばんクリアしていかなければいけない問題はテクノロジーだけではないんですよ。人の心を理解することだと思ってます。僕らが今研究を進めている歩行解析ロボットなんて、仮にロボットが「あなた、転びますよ」なんて言われても、そのコミュニケーションは成立しにくい。僕らが大事にしなければいけないのは、その人の背景を理解して、どのようにコミュニケーションをとればいいのかということなのです。

沖中:私は、人は自分が生きて経験した以上のことは、なかなかわからないのではないか?と思っていて、だからこそいろいろな経験をすることが重要になってきます。見て感じることが大事で、その意味では高齢者のことを理解することはものすごく難しい。だからそれをやり続けていかないと、わかった気になっているだけでお客さまに喜んでもらうことはできないのではないかと思います。DXによってシニアはみんなキラキラしたアクティブシニアになれるように言う人がいたら「それホントか?」と、いい意味で疑問を持ち、それを徹底的に掘り上げて考えていくことが、DXの1丁目1番地なのではないでしょうか。

沖中直人(おきなか・なおと)
1991年 慶應義塾大学法学部政治学科卒業、サントリー(株)(※現サントリーホールディングス(株))入社、資材部へと配属となり主に包装容器の調達を担当。1996年食品事業部へ異動し清涼飲料事業、商品開発・ブランドマネジメント業務に従事。「伊右衛門」の開発でチームリーダーを務め、大ヒット&ロングセラー化実現の立役者となる。2010年サントリー食品インターナショナル(株)食品事業部部長を経て、2015年執行役員 ブランド開発第一事業部長に、2019年常務執行役員 ジャパン事業本部戦略企画本部長、ジャパン事業本部コミュニケーション本部長に就任。無糖茶カテゴリー(伊右衛門・サントリー烏龍茶)、水カテゴリー(サントリー天然水、輸入水ブランド)、機能性カテゴリー(グリーンダカラ、ビタミンウォーター)、トクホカテゴリー(黒烏龍茶、胡麻麦茶)、SBF国内の商品開発企画業務に携わった。
2020年1月、サントリーウエルネス(株)代表取締役社長へ就任、現職。

(text: 浅羽 晃)

(photo: 壬生マリコ)

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復興五輪のひとつのカタチはゼリーである!? 3.11を経て生まれた新しい備蓄食品「LIFESTOCK」 前編

川瀬拓郎

仙台から車で30分ほど、日本海に面した小さな町・七ヶ浜。そこで、うみの駅やホテルを含めたシチノリゾートをプロデュースし、運営と経営にも携わる島田氏。自らの会社ワンテーブルを立ち上げ、被災経験から生まれた備蓄用ゼリーを開発し、今年5月に工場が本格始動するという。防災とスポーツという予想外の組み合わせが、いかに東京2020へ繋がるのだろうか。経営者でありプロデューサーでもある島田氏を迎え、多岐に渡る視点で語り合ってもらった。

七ヶ浜で生まれた新しい地域

杉原「島田君とはある共通の知人を介して知り合いました。同じ82年生まれということもあって、すぐに意気投合しました。話を聞けば聞くほど、島田君のパワフルさに圧倒されて、どんどん引き込まれていきました。まず印象的だった話は、3.11で大被害を受けた(宮城県)七ヶ浜の防潮堤の先に、shichino hotelを建設したことでした。観光客も住人も減り続けている被災地に、あえてホテルを建てたんです」

島田「七ヶ浜は日本三景のひとつとして有名な松島を臨む場所で、海苔の名産地でもあります。そもそも東北地方には、人口減少、地域産業の衰退が大きな問題としてありました。誤解を恐れずに言えば、遅かれ早かれ訪れる未来が、震災によって早く来たのだと考えるようにしました。高齢者や障がい者への医療と介護も含め、たくさんの課題を抱えた日本の縮図がそこにあるとも言えるのです。だからこそ、豊かな未来やワクワクする未来を描くことが大事だと考えました。あえて言葉にするなら、復旧ではなく、より良い地域を “創世” することだと考えています。そのひとつとして、松島という素晴らしい景観を残したい、伝えたいという想いから shichino hotel が生まれました」

杉原「shichino hotel は2階建てのホテルですが、基礎工事が地下30階建分もあるんですよね。これには驚きました。松島の景観を楽しむことができ、食事も本当に美味しい。さらに驚いたのは、高齢者や障がい者がそれぞれの特性に合わせて雇用され、従業員として活躍していること。また、名取市にある食の商業施設  ATALATA では、インターナショナルスクールも併設されているから、小さい子供がいるお母さんも安心して働けるのです。多様性のある新しい地域のあり方として、これは本当に理想的だなと感心しました」

島田「震災後に防潮堤の議論が盛んに行われましたが、自分を含めてみんな生きることに必死でした。そんな中で政府主導によって、次々と新しい建物が作られて防潮堤の建造が決まっていったのです。その是非を争うよりも、できあがった防潮堤から見える景観を活かして、ランニングをしたり、ヨガをしたり、みんなが楽しくなることを優先して考えました。だから、他の地域よりも観光地として早く立ち直ることができたのかも知れません」

杉原「実際に僕も防潮堤の上を歩いてみたのですが、本当に気持ちがいい。僕らが制度や法律を直接変えることができないし、変えるためには何十年もかかってしまうでしょう。そうであるなら、防潮堤の是非を巡って長い時間議論するよりも、みんなの共感が得られるような未来を提示した方がいい。結果的にそれが民意になっていくでしょうから」

3.11の体験から生まれた防災備蓄食

島田「僕自身が被災者で自宅はめちゃくちゃな状態だったのですが、震災直後は、炊き出しや救援物資の調達・提供のご支援をさせていただきました。また、同時に行方不明者の方々の捜索活動などの協力などをしておりました。それはまさに地獄絵図で、発狂寸前になりながら捜索活動に当たっていました。そうした体験を経て、何よりも大切なことは命だということに気がついたのです。それが自分たちの会社ワンテーブルの企業理念となり、開発に取り組んだのが LIFESTOCK という備蓄用食品です。5年間の常温保存が可能で、ご老人の誤嚥のリスクも低く、小さな子どもにも安心して食べてもらえる」

杉原「備蓄食品がいまだに乾パンしかないという現場を見て、これはおかしいと。乾パンは小さな子供やお年寄りは堅くて食べられないし、それ以外の備蓄食料も水がないと食べられないものばかり。戦前から変わってない、この防災食をまず変えなきゃいけない。でもこのゼリーなら、どんな人でも食べられるし、水分がなくても必要なカロリーや、栄養素を同時に摂ることができる。これはまさに震災から得た経験や学んだことを、カタチにできた成功例だと思うのです」

島田「被災地においては、病院はもちろん、食べ物はおろか水すらない。自分ひとりで生き延びるしかないという極限の状況で、LIFE JELLY は開発されました。こうした極限の状況から生まれた技術は、防災ということだけではなく、世界の紛争地域や貧困地域にも応用できる」

防災とスポーツという意外な接点

杉原「3.11を風化させないというのはもちろんですが、自分ゴトとして捉えてみたとき、今の自分に何ができるんだろうと考えていました。そこで、防災をスポーツと掛け合わせて何かを変えていこうという提案を島田君にしたのです」

島田「防災備蓄用に開発された LIFESTOCK の充填・包装・レシピコントールをかけ合わせた技術は、自分の筋肉を極限まで鍛えているアスリートが、タンパク質やアミノ酸をどうやって効率的に摂取するかということにも繋がっていきます。また、筋力を落とさないために、毎日数時間の運動をしなければならない宇宙空間も同じ極限なのです。JAXA とのパートナーシップにおける取り組みも極限をテーマに宇宙空間と災害地の空間は類似点が多いことから始まりました。このゼリーは単なる食べ物ではなく、技術の結晶でもあるのです。ゼリーの中身についてのレシピはもちろん、5年という保存期間を実現するための、包装・充填技術が必須でした。自分たちは、コンセプトやマーケティングを通じて、必要な技術などはわかっていましたが、それらをカタチにするそれぞれの分野のスペシャリストに集まってもらったのです。このゼリーを生み出すために必要な技術や人材を集め、場を作ることが自分の仕事なのです」

杉原「今までのやり方だと、それぞれの技術と人材をカテゴライズしがちで、あなたはあっち、あなたはこっちという風にやりがちです。自分たちの得意な技術には、自信があることを前提に、社内でできることだけに満足せず、社外のすごい技術や人材を受け入れながら新しいものを作っていくことが大切だと思います」

島田「日本の物作りって、点で深く進んできたようにも思うのです。個々の技術は非常に優れていても、それを活かして今までにない魅力ある商品を作ることは苦手。だから、この凸凹になった点の技術を繋ぎ合わせていくことが僕の役割でもあるのです」

杉原「一見何も関連性がないと思われている技術の掛け合わせこそ、人をワクワクさせるような、心を動かすような新しい商品やサービスがあると思うのです。僕の会社では車いすのデザインと技術開発をしていますが、周囲の人からはよく “車いすにそんな機能が必要なの?” と言われます。でも、超高齢化社会において、車いすやモビリティーが必要になる人は今以上に増えるはずだし、自分もお世話になるかも知れない。だから、選択肢が少ないのは嫌なんです。そこには、ユーザビリティとかっこいい思わせるエモーションが必要。いつも例えに出しているF1の技術が一般社会に落としこまれる縮図のように、僕は、パラリンピックのギア開発で培った技術が車いすや装具に落としこまれ繋がっていくのを期待しています」

後編へつづく

島田 昌幸(しまだ まさゆき)
ワンテーブル代表取締役CEO。大学在学中に教育ベンチャーを創業。2005年、経済産業省チャレンジコミュニティプロジェクトに参画、最年少プロデューサーとして、日本全国の地方創生に関わる。2007年から国土交通省認定の観光地域プロデューサーとして活動し、数々の地域プロデュースを手がける。2011年には日本CSR大賞準グランプリを受賞。企業イベント、商品・サービス開発、事業開発など数多くのプロデュースを手掛けている。2016年11月、ワンテーブルを設立。

(text: 川瀬拓郎)

(photo: 河村香奈子)

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