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吸い込むと危険!?複雑すぎて分かりにくい次亜塩素酸水問題 用法用量を守れば安全説も

HERO X 編集部

文部科学省が全国の学校に対して配布した「学校における消毒の方法等について」により、注目を浴びることになった次亜塩素酸水。人体への影響があるとして、人がいる空間での噴霧について注意を呼びかけているのだが、ここに「待った」を唱える人もいる。「次亜塩素酸ナトリウム」と、「次亜塩素酸水」「次亜塩素酸水溶液」などを混同しているという指摘だ。素人にはわかりにくい違いについて、編集部は取材を進めてみた。

危険視された次亜塩素酸

マスコミで取り上げられるきっかけとなった上記の配布書類、中身を確認すると、日常的な消毒については物の表面の消毒として
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消毒用エタノールや 0.05%の次亜塩素酸ナトリウム消毒液を使用。また、一部の界面活性剤で新型コロナウイルスに対する有効性が示されており、それらの成分を含む家庭用洗剤を用いることも有効
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とあるのだ。

だが、この次亜塩素酸ナトリウム消毒液については、同じ書類の中で
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次亜塩素酸水は、「次亜塩素酸ナトリウム」とは異なるものであり、新型コロナウイルス に対する有効性についてはまだ十分確認されていません。 *児童生徒等には次亜塩素酸ナトリウムを扱わせないようにしてください。

・次亜塩素酸ナトリウムの噴霧は、吸ったり目に入ったりすると健康に害を及ぼす可能性 があるため、絶対に行わないでください。
・製品の使用上の注意を熟読の上、正しく取り扱ってください。

○次亜塩素酸水の噴霧について
・次亜塩素酸水の噴霧器の使用については、その有効性及び安全性は明確になっているとは言えず、学校には健康面において様々な配慮を要する児童生徒等がいることから、児童生徒等がいる空間で使用しないでください。
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となっていた。経済産業省と製品評価研究機構(NITE)が5月29日付けで次亜塩素酸について文章を発表、これをうけ、文科省が同書類を作成し、配布にいたったという経緯があるのだが、一部マスコミがこれらを独自解釈、〝次亜塩素酸水は危ない!〟という話が出回ったという経緯がある。

これに対し、「情報の混同が見られる」と言うのは当媒体でも紹介した(http://hero-x.jp/article/9088/)、株式会社いけうちの中井志郎代表だ。同社では特許を取得している微細な霧を放つドライフォグノズルを開発、イタリアなどでは実際に駅構内などの除菌に使われている。「確かに、イタリアの除菌には、過酸化水素( H2O2)という別の物が使われているのですが、次亜塩素酸水溶液が危険というニュースには少し疑問を持っています。次亜塩素酸系ということで、情報がごっちゃになっているのでは」と言うのだ。

食器の漂白に使われる次亜塩素酸ナトリウム
レストランなどでも除菌として使われる
次亜塩素酸水

まず、はじめに次亜塩素酸ナトリウムと次亜塩素酸水の違いについて、わかりやすくしておこう。次亜塩素酸ナトリウムとは、家庭でもよく見かけ、「混ぜるな危険」でおなじみのあの漂白剤などがそれだ。食器の漂白や消毒として使われることが多く、コロナウイルスについても効果が確認されている。ただ、手に付くと皮膚に異常があるなど危険なため、必ずゴム手袋などを着用して使用、もちろん、人に向けて散布することは避けなければならない。

一方、次亜塩素酸水は、次亜塩素酸ナトリウムよりも酸性の側にあり、食品加工現場などでも使用されている。食品添加物としても認められているが、最終食品には入ってはいけないとされているものだ。最近では専用の装置で電解し生成される次亜塩素酸水を殺菌目的に調理場に導入するレストランなどもある。こうした水溶液と次亜塩素酸ナトリウムは別物だ。

例えば、森永乳業が展開している製品を見ると、食品を扱う場面で使う水溶液の場合、有効塩素濃度は10~30ppm、pH5.0~6.5などとなっている。株式会社いけうちによると、ドライフォグノズルを使って電解次亜塩素酸水溶液(有効塩素濃度50ppm)を噴霧した場合、噴霧した空間の気体中の塩素濃度は労働安全衛生法の基準である0.5ppm以下となるとしている。大学系の研究機関の実験では、これだけ薄い濃度でも、微生物に対する殺菌効果が得られているという発表も見られるという。

吹き付けてもぬれないほど小さな粒子を発するドライフォグ

規定が曖昧なため招かれた誤解

「次亜塩素酸水溶液について、全てを人体に危険と言い切るのはどうでしょうか。今のところ次亜塩素酸水溶液は雑貨品目に入るため、濃度などの基準があいまいなところがあります。最近参入した業者の中には亜塩素酸ナトリウム水溶液を次亜塩素酸水溶液として販売しているケースもあり、ここを危険視しているんだと思うのですが、これらの製品と、製品安全データシート(SDS)をつけて正しく販売している製品とを一緒くたに危険視するのはよくないのでは」(中井氏)

また、マスコミなどが取り上げる際に論拠として引用していたNITE(製品評価研究機構)の公表について、とうのNITEは追加コメントを発表、
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「NITEが公表したとする一部の報道については、次亜塩素酸水の利用や噴霧の安全面の是非について何らかの見解を示した事実はなく、新型コロナウイルスに対して一定の効果を示すデータも出ている」https://www.nite.go.jp/information/osirasefaq20200430.html
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としている。素人にはなかなか分かりくい今回の次亜塩素酸問題。

きちんとした生成方法で作られたものを容量、用法を守って使えば危険ではないということなのか。中井氏は「適正な濃度、すなわち有効塩素濃度(50ppm)以下の噴霧では、人体への影響も考えにくい」と主張する。短時間に広範囲を消毒できるため、期待がかかる次亜塩素酸水溶液。それでも、大事を取って無人噴霧をという場合は噴霧器を搭載したロボットを作ればいいという発想も生まれるだろう。開発の視点でみれば大きなチャンスが存在するとも言える。

(text: HERO X 編集部)

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プロスポーツ選手ケア知識を地域医療に生かす「武蔵野アトラスターズスポーツクリニック」

日常生活で首や腰を痛めた、スポーツでケガをしたなど体の不調や異変を感じた際に、まずどこへ行くべきだろう。リラクゼーションサロンでは心もとないし、外科だとすれば整形? それとも鍼灸院や整骨院? 自分で調べてみたものの、判断に自信が持てない場合もあるかもしれない。「三鷹駅」から徒歩数分、武蔵野市にある「武蔵野アトラスターズスポーツクリニック」は日本にはごく少数しかない、スポーツチームと連携したクリニック。スポーツ医学のノウハウをアスリートだけではなく、一般の患者にも展開し、日々治療を行っている。「診療科目は普通の整形外科。スポーツ現場で培ったノウハウを活かした診療を行っているのでスポーツクリニックと銘打っていますが、アスリートに特化した敷居の高い場所ではないので、一般の人にもどんどん来てほしい」と語る院長の丸野秀人氏に、同クリニックが手掛ける治療やプログラムについて話を伺った。

アスリートケアで培った
ノウハウを選手と地域住民に還元

「武蔵野アトラスターズスポーツクリニック」は、日常的にスポーツへの医療サポートを充実させたいという理念のもと、地域のラグビーチームの協力と、企業による経済的な支援により2018年に開院したクリニック。院長を務める丸野氏はラグビーチーム「横河武蔵野アトラスターズ」のチームドクターとして長年選手の支援に携わってきた人物だ。自身もラグビー選手としての競技経験を持ち、スポーツ医学の知見とノウハウを豊富に備える丸野氏は選手からの信頼も厚い。

武蔵野アトラスターズスポーツクリニック 院長 丸野秀人氏

「ラグビーというとすごくケガが多いイメージを持たれるかもしれませんが、選手は日々、危険性を認知しながら取り組んでいます。他のスポーツと比べて特別多いかというと、そうでもないんですね。関節の靱帯損傷や骨折、捻挫に肉離れなどの負傷は、競技を問わずアスリートにはつきものです。肉離れひとつとっても、症状によって軽度(1度)、中程度(2度)、重度(3度)と重症度が異なります。また、ラグビーであれば、選手のポジション、持ち味により身体で気をつけるべき所は変わります。短・長距離を走ることが多い選手、しゃがむ、パスを渡すことが多いポジションにいる選手、タックルが得意な選手というように、選手の特徴、プレイスタイルにより強化するべきポイントは違うので、疾患や外傷のケアにも個別性が問われます。一人ひとりに合わせた治療を目指してプログラムを組むことが、チームドクターの役割としては重要なことです。ケガをした場合のリハビリに関しては、一般の医療機関で行うリハビリと共に、競技復帰に向け、一歩進んだジムトレーニング機器を使っての『アスレティックトレーニング』を行っています」(丸野氏)

また、「横河武蔵野アトラスターズ」と合わせて女子ラグビーチーム「横河武蔵野アルテミ・スターズ」とも連携している同クリニックは、女性アスリートのサポートにも力を注いでいるという。女性アスリートの身体のケアは、現在ホットな話題のひとつ。無理なトレーニングが原因で月経不順、月経過多となることは少なくない。近年は大学病院などでも女性アスリート外来ができるほど、女性アスリートに対してのヘルスケアの重要さが認知されはじめている。食事制限や運動の負荷など、ストレスが重なると無月経に陥る女性アスリートも。長期化すると女性ホルモンのひとつ、エストロゲンが減少し、骨密度が低下、疲労骨折や、骨粗しょう症になるリスクが大きくなるのだ。

同クリニックでは月に2回、婦人科の女性医師を迎え、月経調整やピルの処方など、女性アスリートがいつでも悩みを相談できる環境を整えている。

ヨーロッパのビッグクラブチームであれば、充実した設備を備えた専属のクリニックを抱えていることも珍しくはないが、日本は欧米ほどスポーツと経済が密接に結びついておらず、医療サイドに還元できるほどの収益を上げているスポーツはそう多くない。

「日本のスポーツはアマチュア志向が強いこともありますし、保険診療の縛りもある。必要なときはここに通えばよい、という医療機関をチームが提供できるのが理想ですが、これまでの慣習としても、金銭面においても実現するのはなかなか難しいんですよね」と丸野氏。クリニックの開業はだからこその挑戦とも言える。アスリートが気軽に頼れるドクターとして、診療を続けている。

順調な選手人生のために必要な
ジュニア選手のケア

さまざまなスポーツでジュニアやユースのクラブチームができる中、早くから選手を目指してトレーニングに励む子どもたちも増えている。選手として伸びる時期と成長期が重なる子どもも多いため、ジュニア選手の身体的ケアの重要度は大人よりも増すとも言われる。身体のケアを怠れば、選手としての寿命を縮めてしまうこともあるからだ。高校野球の投球制限のニュースは記憶に新しいが、未来ある子どもたちの選手生命を守るための取り組みはさまざまな形で始まっている。

そんな意識の高まりからか、同クリニックには運動系の部活動やスポーツクラブに所属する小中高生も多く通い、その割合は患者全体の約20%にものぼるという。「成長痛」と括られることが多い痛みについても、スポーツからの影響が出ていることもあるようだ。骨が大きく成長しているときに、過度な練習で負荷がかかりすぎることで、腱の炎症や骨端線損傷、疲労骨折間際の骨膜障害に悩む小中高生も増えている。

「同じ学年でも4月生まれと3月生まれでは身長や体格も違えば、適した練習方法だって異なるのに、部活動では一緒に練習することになる。その結果、ある子は体に痛みが出るけど、別の子には出ないということが起こり得るわけです。

その時期からメンテナンスやケアを行うことで痛みは防げるはずですし、選手生命を長く保つこと、健康的に競技に臨めるのは間違いないことですが、指導者がそれを理解せずにとにかく練習しろ、という現状はよくないと思っています」(丸野氏)

学校現場では、たとえば内科や歯科、眼科のかかりつけ医は持っていても、整形外科はほとんどない。怪我をした際に、そのスポーツに対する専門的知識を持つ指導員がいないために、的確な指導が受けられず、困っている子どもたちのためには、「医療サイドからの啓蒙活動も重要」だと丸野氏は強調する。

今後は日本スポーツ協会を通じて、指導者に外傷のケアについて勉強会を開いたり、武蔵野アトラスターズと武蔵野アルテミ・スターズと関係のあるラグビースクールやサッカーチームの父兄に向けての講演を計画しているという。

「医学的な処置が必要といった時に、知識がないばかりに何となく整骨院に行って治療をしてもらう、という流れも解消したい。ファーストタッチとして整形外科に来てもらい、そこから理学療法士がついて物理療法や運動療法を行うのか、やはり整骨院でよいのか判断するフローを作ったほうがいいですよね。整形外科と整骨院もお互い顔が見えていれば、患者さんに『あの先生は信用できるから、行ってくるといいよ』と紹介もしやすいし、勉強会などを通じて知り合いになるのも大切だと思っています」と、丸野氏は体制の強化にも意欲を示している。

田中将大選手も受けた再生医療、
PRP療法とは

また、現段階では保険診療外のため、自費治療という扱いにはなるが、再生医療のひとつである『多血小板血漿(PRP)療法』はアスリートの治療法としてメジャーになりつつある。

『多血小板血漿(PRP)療法』とは、出血した際に、組織を修復する細胞の働きを誘導する因子がたくさん入った血小板の働きを利用した治療法で、スポーツによる慢性的な膝、肘、肩、アキレス腱などの腱や筋肉の治療促進が期待できる。患者自身の静脈血(通常10ml)を採血し、遠心分離機にかけて血小板だけの層「多血小板血漿(PRP)」を抽出・作製したPRPの注入液を患部に注射する。

個人の治癒力を活かす治療法のため、治療効果には個人差があり、病態や疾患の進行度合いによって、必要な回数も変わってくるが、自分自身の血液を採血するため、特別な副作用が出にくいことが特徴として挙げられる。

「どんな症状でも絶対治るとまでは言い切れないものの、通常治らなかったものが治る確率が上がるという点で注目されています」(丸野氏)

元はシワ伸ばしなど形成外科領域やインプラントなど歯科領域で使われることが多かったこの技術がスポーツの分野で注目されるようになったのは、ニューヨーク・ヤンキースの田中将大選手が数年前、右肘靱帯を負傷した際に靱帯再建手術ではなく、PRPでの治療でリーグ復活を果たしたことが大きい。

処置はクリニックを受診した当日に受けることができ、採血からPRP抽出液を作るまでも10分程度と、治療にかかる時間が短いことは重要なメリットだ。なお、同クリニックでの取り扱いはないものの、血液加工物の関節内投与と定義される2種(再生医療新法)であれば、変形性膝関節症や軟骨が変形した人への治療も行えるため、認知の拡大に期待がかかる。

加齢による体の変調で、整形外科のお世話になる機会は増えていくが、「スポーツクラブがあって、地域のみんなが健康増進のためにスポーツをして、そしていつでも相談しにいけるクリニックがある。そのようなユニットがいくつもできるのが、まさに理想」と話す丸野氏。スポーツを楽しむ人が増えれば地域の健康増進にもつながる。目指しているコミュニティの在り方、「全ての人にとって理想の関係」を実現するため、スポーツ医学で身につけた知見を元に地域に根ざしたクリニックとしてその役割を果たそうとしている。

武蔵野アトラスターズスポーツクリニック
https://musashinoasc.com

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