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演奏経験ナシでも奏でられるインクルーシブな楽器が音楽への取り組みを変える

HERO X 編集部

例えば盲目のピアニストやギタリストが活躍していたり、身体にハンディのある人がパワフルな楽器演奏をしたりする風景は、我々にもなじみの深いものだ。しかし、それらはすべて「ハンディのある人が既存の楽器を努力して使いこなしている姿」である。その概念をくつがえす試みが始まっている。インクルーシブな楽器の登場は、もしかすると「演奏」や「音楽」の概念すら、変えてしまうかもしれない。

AIでインクルーシブな楽器を実現!
視線やポーズで演奏する“ANDCHESTRA“

NECが取り組む “ANDCHESTRA” のプロジェクトは、AI楽器を使って誰もがミュージシャンになれる取り組み。インクルーシブなバイオリン「ANDCHESTRA VIOLIN」は、NECの独自技術”姿勢推定技術”を使用して、ある一定のポーズをとることでバイオリンを鳴らすことができる楽器。”姿勢推定技術”は、混雑環境下や、離れた場所から撮影した低解像度の映像でも、人の姿勢を推定できるAI技術だ。

例えば、車いすに座った人が、手を挙げたり、ひじを曲げたりするだけで、「ド」「レ」「ミ」などの音階を奏でることができる。身体にハンディのある人だけではなく、子どもや楽器に不慣れな大人なども楽器演奏を楽しめる。

また、「ANDCHESTRA TRUMPET」は、人の視線を捉えることでトランペットを演奏できる楽器。視線の角度による音階表現が可能で、管楽器を吹けるほどの肺活量のない人や、身体に麻痺のある人でも、トランペットを鳴らすことができるのだ。

“ANDCHESTRA”のプロジェクトには、インクルーシブアドバイザーとして、NEC 東京オリンピック・パラリンピック推進本部に所属し、パラアイスホッケー銀メダリストでもある上原大祐さんも参加している。今後、NECではリハビリでの活用や、イベントへの出展を検討している。

「姿勢」や「視線」をAIで感知して音を鳴らす取り組みは、楽器の概念を大きく変えていくだろう。例えば、健常者よりも、視線入力に慣れている人や、足にハンディがあり手だけでコミュニケーションをとっていた人のほうが、いい演奏ができるようになるかもしれない。そんな現象が様々な場所で起こったら、世界はますます楽しくなりそうだ。

将来は“義手バンド”も結成!?
自分の手が楽器になる義手ギター

元記事URL:http://hero-x.jp/article/3284/

慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究所のEmbodied Media Project(身体性メディアプロジェクト)が開発したギターは、義手とギターを合体させたプロダクト。開発者の畠山海人氏は、義手の当事者や義手装具士ともディスカッションを繰り返して、このユニークな楽器を作りだした。

義手ギター「Musiarm」は、片手がギターになってしまう画期的なプロダクトだ。弦はオリジナルのゴムのような素材。ギターの金属の弦は通常、さびてしまうと交換しなければならない。片手ではその作業は困難なため、最初から交換しなくてもよい素材で作られている。また、ボタンひとつでチューニングができたり、装着したMusiarmを左右に動かすことでエフェクターをかけたりすることもできるので、ハンディのある人には難しい細かい作業が必要ない。

義手そのものを楽器にするという発想は、今までになかったもの。「義手の人でも演奏できる楽器」ではなく、「義手の人だからこそ演奏できる楽器」というチャレンジが面白い。将来は義手楽器だけのバンドを組んでみたいという畠山氏。ゆくゆくはスポーツ×義手、ファッション×義手といったプロダクトも開発していきたいと語る。

テクノロジーの進化でインクルーシブな楽器が生まれることで、身体とエンターテインメントの関係もまた変わってくる。義手バンドが新しい音楽を作り出す日も近い!?

(text: HERO X 編集部)

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「誰もが乗りたくなる、乗れる」を実現!車いすにもジョインできる電動バイクとは

HERO X 編集部

イタリアで開催される世界最高峰のデザインコンペティション「A’ Design Award & Competition 2020-2021」の受賞プロダクトが発表になった。株式会社RDSがエントリーした3つのプロダクト全てがゴールドを初めとする各賞への入賞を果たした。 この特集では、受賞プロダクトを一つずつ紹介していく。

シルバー受賞の
『Wusa Electric Personal Mobility』は
こんな乗り物だった!
ボーダレスを実現した新たなモビリティ

一見、ただのミニ電動バイクに見える『Wusa Electric Personal Mobility(ウサ・エレクトリック・パーソナル・モビリティ)』だが、実は車いすと組み合わせることで電動車いすのパワーユニットになるという優れもの。もちろん、単体で電動バイクとしても使える。誰もが楽しく乗りこなせる、そんなコンセプトを元にRDSが開発した。

移動の概念を変える『Wusa Electric Personal Mobility』は、バイクなのか、車いすなのか。最大の特徴は、“ボーダレスな乗り物”ということだろう。誰もが「乗ってみたい」と思える高いデザイン性と、車いすユーザーも楽しめるという機能性を兼ね備えた乗り物という点が、今回のコンペティションでも評価の一つに繋がった。車いすユーザー用のプロダクトというと、とかく介助用品や福祉機器といった枠組みにとらわれがちなのだが、『Wusa Electric Personal Mobility』はそんな既成概念を取っ払い、交通インフラに溶け込む多様性をもったパーソナルモビリティを目指して開発を進めてきた。

高齢者や身体に障がいを持つ人にとって、外出の壁となるのが、移動の問題。特に日本国内においては、地方の過疎化とともに高齢化が一段と進み、移動の問題を抱えたまま取り残されてしまう人々の孤立が、大きな課題となっている。近年では高齢者の車による交通事故が増えており、免許を自主的に返納する高齢ドライバーも多い。一方で、多くの人が生活のライフラインとして用いる路線バスなどの公共機関は、採算が合わず廃止されることも増えている。新たな交通インフラの整備が急がれているが、地域によって状況が大きく異なり、これからも人口減少が進む日本で、バスのような大きすぎる輸送手段はもはや不要なのかもしれない。
こうした社会課題に対し、パーソナルモビリティがひとつの解決手段になると考え、開発されたこのプロダクト。生活圏である町中での近距離移動を想定した小型で軽量のデザインは、保管や自動車での運搬も容易だ。

『Wusa Electric Personal Mobility』が普及すると、加齢や身体的なハンディキャップで歩行が難しい人も、もっと気軽に移動できるようになる。その結果、高齢者や障がいを持つ人々の社会参加の可能性が広がり、孤立しないですむ社会が実現するだろう。これまで諦めていた気晴らしの散歩や、ちょっとした買い物などができるようになれば、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)を向上させることにもつながる。新しい未来を予感させてくれる乗り物の誕生は、われわれのいつか行く道を明るく照らしてくれる存在となりそうだ。

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(text: HERO X 編集部)

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