対談 CONVERSATION

鈴木啓太の新フィールドは腸内⁉ アスリートの便を生かした健康支援の行方(後編)

宮本さおり

ドラッグストアにずらりと並ぶサプリメント。だが、このサプリメント市場に変化が現れはじめている。ユーザーの体質に合わせてカスタマイズされたサプリメントの提供が開始されているのだ。薬や漢方薬などと違い、長らくの間、万人に等しく同じ商品が提供されてきたサプリメント。そんなサプリメント業界に異分野から参入を始めたのが元プロサッカー選手の鈴木啓太氏。「アスリートの力を自分の生活に」をスローガンに掲げてAuB株式会社を設立、アスリートの腸内環境研究から得た情報をベースにサプリメントの提供をはじめた。立ち上げたばかりのAuBだが、鈴木氏の視線の先にはすでに次の構想が浮かんでいるという。一般人とアスリートとの違いについて伺った前編に続き鈴木氏のサプリを使った健康支援についての考えを編集長、杉原行里が聞いた。

前編はこちら:http://hero-x.jp/article/9100/

免疫から性格まで
菌が与える様々な影響

杉原:アスリートと一般人で腸内にある菌の多様性が異なること、また、競技による違いも見えてきたというところまで伺ったのですが、今後の研究次第では選手の課題に対して、腸内環境を整えることでアプローチするコーチングスタイルも出てくるような気がしました。腸内に持つ菌の違いが性格にも関係しているということをどこかの記事で読んだのですが、例えば、足の速い人の中で多く持つ菌が分かったら、菌の力で体を内側から変え、走る力を最大限に発揮できるようになる、などということができるようになりますか?

鈴木:菌と性格の話は糞便移植をした時に性格が変わったというものだと思います。自分の菌を抗生剤で叩いて、誰かのいい菌を入れて腸内環境を整えてあげることで腸疾患を治すという治療があり、その治療を受けた人の中に性格が変わったという報告があります。

杉原:となると、定量ではないですから、まだなんとも言えないかもしれないですね。今まで体調が悪かった人が良くなるわけですから、腸内の菌が変わったということと、性格が変わることが直接的な関係にあるとは言えないかもしれないですね。病気が快復したことで性格が変わる可能性だってありますから。

鈴木:そうですね。我々もそこは調べていないので、わからないのですが(笑)。ただ、腸内細菌が幸せホルモンと呼ばれるセロトニンを造っているとも言われています。セロトニンには人間のイライラやストレスを軽減する働きがあるとされていますから、腸と脳と神経の繋がりの中で、性格に寄与しているんじゃないかと言われているのです。病気が治って性格がよくなったというのもひとつでしょうし、いいセロトニンをつくり出す環境になったから性格が変わった可能性は否定できません。

杉原:いずれにしても腸内環境が整うことで、悪くなることってないですよね。今回は4年間かけて研究された結果をもとに「AuB BASE」の販売を始められたと。

鈴木:そうです。

AuB BASE

杉原:飲むことで具体的には何が変わるのでしょうか?

鈴木:まずは菌の多様性が上がります。酪酸の数値も増えると思います。先ほども、酪酸の数値がアスリートは一般の人の2倍近くあったと話しましたが、腸内で酪酸菌は結構な割合を占めている菌です。一般の方だと2~5%ですが、アスリートは5~10%を占めています。酪酸は免疫力のコントロールをしています。アスリートは風邪をひきやすいとか言われるのをご存知ですか?

杉原:はい、聞いたことあります。

鈴木:これは僕の仮説ですが、アスリートが風邪をひきやすいといわれているのはものすごく体力を使うので、免疫が下がる、その中で風邪をひいてしまうのではないかと。ただし、実際には酪酸菌を多く持つことで自分自身で免疫力のコントロールをして風邪をひかないようにできているのではないか。一般の方がもし、アスリートと同じトレーニングメニューをこなしたら、一般の人は風邪をひくんじゃないかと思いますね。

杉原:例えば、筋肉とか脂肪の問題もあるのではないですか?

鈴木:結局、筋肉や脂肪を作っているのも腸内細菌が関係しているんです。食べ物って栄養素ですよね。これを口に入れて吸収するのは小腸です。腸内細菌が栄養素を食べたり代謝したりして吸収していくのです。なので、彼らが働いてくれないといけない。ということを考えると、腸内環境を整えることで私達が食べたものをきちんといい形で取り込んでいると考えても不思議ではないです。

杉原:面白いですね。「AuB BASE」を使った後、自分の体内の状態は解析してもらえるのですか?

鈴木:できますよ。最初に調べて、あと解析ってのもできます。

杉原:なんかワクワクしそうですね。お、菌が増えた!とかが分かると。

鈴木:そうですね、そういうのが可視化できるといいですね。改善されているのがわかるのは面白いですからね。

杉原:それが分からないとゲーム性がなくて続かないのではないかと。実は僕も舌から計測したデータを元に毎月サプリメントが届くというサービスを使っているのですが、毎日飲むということの習慣づけができなかった。毎月届くので飲まなかったサプリメントがどんどん溜まってしまいました。これってやっぱり、どう改善されたのかが分からないからじゃないかなと。計測してサプリが届いたことで満足してしまった。本当はそこがスタートなのに…です。

鈴木:便を調べることはできるので、サプリメントを摂取してからの変化を測ることは技術的には可能です。でも僕は少し違うことも考えてしまいます。重要だと思っているのはサプリメントをずっと取り続けるのではなく、減らしていけるということ。例えば、舌で測った結果、何種類もの錠剤を呑むことになったとしたら、それを習慣化することで数値が良くなり、飲むものを減らしていける、最後には飲まなくてもよくなるくらいに改善していくのが良いのではと。

杉原:すごくよくわかります!

見つめるゴールはフードテック

鈴木:本当はそういう風にならなきゃじゃないですか。そこが、どうやったらみんなの意識が変わって課題解決できるようになるかだと。我々はどうしたら伴走者になれるか、そこを常に考えています。

杉原:僕たちはいま、別の角度で同じようなことをはじめていて、共感します。日本の医療費を大きく削減するのって、ひとつは転倒をなくすことだと聞いたことがあります。大きな割合を占めているのが高齢者なのですが、当事者はいつから歩行の補助が必要かが自分では分からないことが多いのです。具体的に言うと、いつから杖を持ち始めたらいいのかなどがそれにあたります。僕らは歩行解析ロボットの開発を試みていて、様々な状態を可視化できるようにしたいなと思っています。鈴木さんのお話はこれに非常に近い考えだなと。永続的に使ってもらった方が、会社的には利益につながる。でも、CSV、社会貢献をしながら利益をと考えた場合、このモデルだと社会貢献の部分が抜けている。数あるサプリメント企業の中で鈴木さんのところのような考え方をされているのは珍しいなと思いました。

鈴木:我々はサプリメントから入っていますが、将来的にはフードテックに入っていこうと思っています。自分が今何を食べているのか、どういう状態なのかをよく観察してもらって、課題を解決していくいい方法を見つけてもらう。これから腸内細菌のビックデータが出来上がっていくと思いますけれど、その中にアスリートという課題が明確にある人たちのソフトが腸内細菌ビックデータのプラットフォームに入っていくというのが我々のゴールなのかなと思います。

杉原:具体的にはどのような構想ですか?

鈴木:食は人間の3大欲求のひとつですし、いいものを食べる、自分に合ったものを食べる、そして、自分の課題に合ったものを食べるということをしないといけないと思っています。例えば、腸がすべて栄養を吸収するので、栄養素については調べつくされています。でも、人によってどれが体調管理に必要かは変わります。プロテインを飲むといいですよというのはわかりますが、プロテインにも種類がある。この人にはこのプロテインが合うけれど、こっちの人の場合は別のプロテインが良いなとかがありますよね。持ち合わせている腸内細菌によって摂るたんぱく質も変わってくるのではないかと考えているので、そのあたりを考えているところです。

杉原:アスリートという特徴的な方たちにフォーカスすることで、次は一般の方を飛びぬけて高齢者の方の健康管理に結びつくのでは?という気もするのですが。

鈴木:例えば、アスリートが持っている筋肉量を上げたいとか、パフォーマンスを上げたいという身体的な部分の課題は高齢者のリハビリにも役立ちます。アスリートと高齢者、遠いようで課題は近いのではないでしょうか。課題がとがっているのがアスリートで、一般の方は言葉を変えれば同じように言える。アスリートの場合に見られる1グラム10グラム体重を減らしたいという明確な課題は一般の方からしたら “なんとなく痩せたい” とつながります。アスリートがあと10センチ足を前に出せるよう足のトレーニングをするとしたら、それは高齢者が転倒しないための足運びに通じるかもしれません。となると、アスリートが一般の人に貢献できることは沢山あるのではないかと思っています。

鈴木啓太(すずき けいた)
元サッカー日本代表。AuB(オーブ)株式会社代表取締役。静岡県に生まれ育ち、小学校時代は全国準優勝。中学校時代は全国優勝を成し遂げ、高校は東海大翔洋高校へ進学。その後、Jリーグ浦和レッズに入団。その年にレギュラーを勝ち取ると2015年シーズンで引退するまで浦和レッズにとって欠かせない選手として活躍 。2006年にオシム監督が日本代表監督に就任すると、日本代表に選出され、初戦でスタメン出場。以後、オシムジャパンとしては唯一全試合先発出場を果たす。

(text: 宮本さおり)

(photo: 壬生マリコ)

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対談 CONVERSATION

枠から飛び出せば本当の自分に出会える!小橋賢児が「東京2020 NIPPONフェスティバル」に託す想い 前編

宇都宮弘子

東京2020大会の公式文化プログラム、日本文化を世界に発信する「東京2020 NIPPONフェスティバル」で、パラリンピック開幕直前に実施されるプログラムのクリエイティブディレクターに就任した小橋賢児氏。テーマ「共生社会の実現」に向けた小橋氏の想いと、日本人が本当のアイデンティティを見つけるためにしていくべきこととは。イベントプロデューサーとして活躍する小橋氏と『HERO X』編集長の杉原行里が語り合う。

杉原:まずは、小橋さんがクリエイティブディレクターに就任された「東京2020 NIPPONフェスティバル」についてお話を聞かせてください。

小橋:オリンピック・パラリンピックはスポーツの祭典であるとともに文化の祭典でもあるんですよね。「東京2020 NIPPONフェスティバル」は来年の4月~9月にかけて実施される東京2020オリパラの公式文化プログラムです。世界中からたくさんの人が集まる機会に日本の文化を世界に発信していこうというもので、大きく4つの取り組みを行なう予定で進められています。1つ目がプログラムのキックオフともなる「大会に向けた祝祭感」をテーマとした歌舞伎とオペラによる舞台芸術、2つ目が「東北復興」をテーマにしたプログラム、3つ目が、オリンピック開幕直前に開催される「参加と交流」のプログラム、そして4つ目が、私がクリエイティブディレクターとして関わっているパラリンピック開幕直前に開催する「共生社会の実現」に向けた “きっかけづくり” のプログラムです。

伝統・文化は変わっていく

杉原:「HERO Ⅹ RADIO」(2019.01.25放送分)にゲスト出演いただいた際の「文化というものはその時代によって変わって成長していく」という小橋さんのお話が大変印象に残っているのですが、今回の “きっかけ” というのはそこに通じるところがあるんですか?

小橋:もちろんあります。21世紀に入り情報革命が起きて世界中と繋がったことにより、みんなの中で多様な文化とか、多様な考え方というのが当たり前になってきています。しかしその一方で、目の前にある社会はあまり大きく変わっていない。そこのジレンマに多くの人が苦しんでいる気がしています。

日本人が持っている民族的な文化の “和の心”、僕はこの “和” は、調和の “和” だと思っているんです。日本人は様々なものを取り入れて調和していく力があって、元々ものすごく多様性のある文化を持っている民族のはずなのに、今は真逆に走っていて、“感じる力” や “空気を読む力” が強くなっているように感じています。さらに言うと、同調圧力が強いからか、“気にする” になってしまって、本当の自分を見い出せずにいる人が多い。自分のアイデンティティすら分からない自分が、他者を認めるのはなかなか難しいわけで、これが今の日本の姿だと思うんです。

そんな日本において、東京2020のタイミングで、日本から調和という “和” が始まっていくきっかけづくりができることは、ものすごく意味があることだなと思うんです。全てを変えられなくても、イベントがきっかけで人々が変わっていくとうことは大いにあり得ると。

杉原:特にパラリンピックの文脈は変わりましたよね。

小橋:2012年のロンドンオリンピック・パラリンピックが突破口を開いたなと思うのは、“アンリミテッド” という部分。オリンピックが終わって人々の機運が下がってきたときに、障がい者とアーティストがコラボレーションして、いろんなところでパフォーマンスやアート、演劇をやったんですよね。それまでの、障がい者をそんな風に扱ってはいけないんじゃないかっていう世の中の意識が変わって、それがパラリンピックに繋がっていった。街中で、これまで体験したことのない多様なライフスタイルや文化を感じていろんなマイノリティーを知ることで、自分もある種のマイノリティーなんだと知ることができる。そうなって初めて理解できると思うんです。

本当にそうなのか?と価値観を疑うこと

杉原:僕は、小橋さんが総合プロデュースされた「STAR ISLAND」で花火を観るまでは、花火というものがある程度の自分の想像を超えることはなかった。でも、「STAR ISLAND」で花火を観た瞬間、僕のそれを超えてしまった。これが文化の継承という新しいスタイルなんだと思ったら期待が高まりますよね。小橋さんは東京2020のオリパラを機に、自分たちの時代において何を変化させていきたいですか?

小橋: 一見、ネガティブに思われていることに対する価値観を、本当にそうなのかな?と一度疑うことで、変えていきたいですね。ネガティブに思われていることも、「誰から見るか」というだけの話ではないかと。それらはよく考えてみると特徴や個性で、もっと上手く使い合えたらいいなって思うんです。例えば、障がいを持っている人に対して、「助けてあげる」だと、完全に弱者を見る視点になってしまっていますよね。そうじゃなくて、その人が持っているものの良さを引き出せるような社会になった方がいい。

杉原:海外では、男性女性関係なく、重そうな荷物を持っている人やベビーカーの人を見かけたら、躊躇なく声をかけて手伝ったりする文化がありますよね。でも日本では、知らない人に声をかけるとなんか変な空気感になってしまうことがあるから声をかけたくてもかけられない。“調和” と、“空気を読む” が混在してしまった結果ですよね。

小橋:結局、感じてしまうが故に、先に想像して行動するのをやめてしまう。多様な生き方や文化を一気に知ることができる東京2020は、きっと二度とないチャンスですよね。世界中から否応なく人がいっぱい来て、ものすごい数のイベントが一気に開催される。こういった、ある意味での “カオス感” って必要だなと思んです。普段触れ合えない人たちと触れ合うことによって、自分の概念やリミッターが外れる。そうなって初めて理解できることがあると思います。例えば音楽フェスって、みんな既知のアーティストを目的に行くんですけど、気づいたら全然知らなかったアーティストに出会って、そこから価値観が変わっていくことがある。そんな風になったらいいなって思うんです。

後編につづく

小橋賢児(Kenji Kohashi)
LeaR株式会社 代表取締役/クリエイティブディレクター 1979年東京都生まれ。88年に俳優としてデビューし、NHK朝の連続テレビ小説『ちゅらさん』など数多くの人気ドラマに出演。2007年に芸能活動を休止。世界中を旅しながらインスパイアを受け映画やイベント製作を始める。12年、長編映画「DON’T STOP!」で映画監督デビュー。同映画がSKIPシティ国際Dシネマ映画祭にてSKIPシティ アワードとSKIPシティDシネマプロジェクトをW受賞。また『ULTRA JAPAN』のクリエイティブディレクターや『STAR ISLAND』の総合プロデューサーを歴任。 『STAR ISLAND』はシンガポール政府観光局後援のもと、シンガポールの国を代表するカウントダウンイベントとなった。 また、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会主催の東京2020 NIPPONフェスティバルのクリエイティブディレクターにも就任したり、キッズパークPuChuをプロデュースするなど世界規模のイベントや都市開発などの企画運営にも携わる。

Born August 19th, 1979 and raised in Tokyo. At the age of 8, he started his career as an actor and had played roles in various dramas, films and stages. He quitted his acting career in 2007 and travelled the world. Experiences through the journey inspired him and eventually started making films and organizing events. In 2012, he made his first film, DON’T STOP, which was awarded two prizes at SKIP CITY INTERNATIONAL D-Cinema FESTIVAL. In the event career as creative director, He has acted as Creative director at ULTRA JAPAN and General Producer at STAR ISLAND. Not only the worldwide scale events, he produces PR events and urban development

(text: 宇都宮弘子)

(photo: 増元幸司)

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