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小型・超小型モビリティが世界を 変える日は本当に近いのか?

HERO X 編集長 杉原行里

7月の改正道路交通法の施行を前に、小型・超小型モビリティ界隈の動きが活発化してきた。電動キックボードのシェアリングサービスで一定の認知度を得始めたLuupは、あと2年で国内のレンタル拠点を3倍の1万箇所に増やすという。都内では様々な種類のモビリティを見かける機会も増えており、近距離移動を変革するとの期待もかかるが一方で、すでに利用実証の始まっていたヨーロッパからは規制のニュースも飛び交っている。自動車産業で経済を牽引してきた日本、新しい移動手段である小型・超小型モビリティで再び世界に返り咲くことは可能なのだろうか。

フランスではレンタル終了へ。
どうなる?! 小型モビリティ

4月初旬、フランスの首都パリで行なわれた住民投票の結果について、世界のメディアが報じた。スマホアプリを使って気軽に利用することができる電動キックボードのレンタルにNOを唱える結果が出たからだ。日本でも街中でのレンタル利用が進む電動キックボード。超小型モビリティの代表格となっているが、フランス市民はなぜこれにNOを唱えたのか。

報道では、電動キックボード絡みの事故の発生件数が増加したことなどが上げられている。加えて、10分の利用料金が5ユーロ(報道当時約720円)と、レンタルサービスとしては価格が高く、ビジネスモデルとして持続性が薄いことも上げられた。

パリ市はレンタル業者との契約が切れる8月をもって市としてのレンタルサービス契約を打ち切り、市内から撤去すると発表、ただし、個人所有の電動キックボードについては引き続き利用ができるという。

電動キックボード業界を牽引し、パリのレンタルサービスに大きく参入していた一つがアメリカに本社を置くLime株式会社。同社のサービスは日本でも実証が始まっている。パリでのレンタル打ち切りについて、アメリカCNNニュースは投票者の約9割が禁止を支持したものの、投票率は有権者の7.46%に留まっていることも指摘している。世界で広がるマイクロモビリティ導入の動きがどうなるのか、注目の集まるニュースとなった。

だが、ニュースになるのは新規開発にとって悪いことではない。ここ数年でマイクロモビリティがそれだけ世界に浸透し、注目されている証拠でもある。小型・超小型モビリティの是非が本格的に問われる年となりはじめた。

注目の小型・超小型モビリティはコレ

ところで、この小型・超小型モビリティとはいったいなにを指しているのか。概念を広義で見るのか、狭義で見るのかによっても変わってくる。モビリティと聞くと、電動キックボードや小型のEVカーなどを思い浮かべる人がほとんどだろう。そこに、シニアカー、車いすを想像する人は少ないはずだ。だが考えてみて欲しい。移動を軸に考えるのなら、これらもれっきとしたモビリティと言えるのだ。

HERO Xでも度々取り上げている電動車いすのWHILLは、当初から近距離モビリティとして売り出していた。お年寄りやハンディのある人の乗り物というイメージの強かった電動車いすのイメージを払拭、羽田空港での自動操縦、自動運転の実証実験などを通して新たなモビリティというイメージを根付かせた。

近距離の移動など、暮らしに根付く移動として注目したいのはやはり、電動キックボードなどの超小型モビリティだ。現状では自転車以上、バス・電車以下というポジショニングだが、近距離移動の手軽な手段として東京では受け入れ始められている。パリの一件はあるものの、今年は日本では法改正も進むため、利用者増に期待がかかる。

2020年にモビリティ構想を打ち上げた三井不動産株式会社では、すでに電動キックボードレンタルサービスの優遇が受けられるマンションの建設を始めている。その一つが、2023年11月に入居開始予定で開発を進めるパークホームズ浜松町だ。1Kと1DKの全102邸を予定しており、居住者専用の電動キックボードシェアサービススペースを設けることが発表されている。電動キックボードを提供するのは株式会社Luup。同社は国内における電動キックボードレンタルを牽引する存在となっている。

こうしたマンションが定着すると、不動産価値が変わる可能性も出てくる。最寄り駅からの近さは徒歩やバスなどでの距離や時間が評価基準になってきた。だが、超小型モビリティによる移動が実現すれば、駅からちょっと離れた物件であってもモビリティを使えば移動時間が短縮される。つまり、物件の価値を上げてくれる可能性が出てくるのだ。

キックボード以外の気になるモビリティ

世界中で開発の進む小型・超小型モビリティ。様々なものが出てきているが、シェアリングサービスで利用するか、個人所有での使用となるかはモノによって分かれそうだ。レンタルか、所有かという視点を考慮しつつ、気になるモビリティを見てみよう。

キックボードと同じくらい目にする機会が増えてきたのが3輪のモビリティだ。三輪バイクやトライクと呼ばれるものたちは、転ばないバイクとして開発が進められている。

画像元:https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/lineup/niken/ ヤマハ発動機が作ったNIKENはマンガとのコラボも話題に。

見た目はバイクそっくりの三輪バイクはバイクのスポーティーさをそのままに、転ばない安全性を確保した。もう一つの注目はゴツさもカッコイイ乗り物トライク。三輪構造のモビリティで、法律上はバイクではなく自動車扱い。そのため、免許も普通自動車免許で運転できる。ただし、メーカにより一部オートマ限定免許では運転できないものもあるので注意したい。

このトライク、よく話題になるのは、ヘルメットがいらないということだ。法律上は普通自動車に分類されるため、ノーヘルで乗ることができる。これら三輪バイクやトライクは、シェアリングサービスというよりも、個人所有による乗車がメインになると思われる。トライクの場合、ある程度大きさもあるため、駐車できる場所の確保も必要になる。

トライクル CAN-AM SPYDER RT
画像元:https://can-am.brp.com/on-road/jp/ja/models/spyder-rt.html

三輪界隈でシェアリングが視野に入るのは東アジアで利用者が多いトゥクトゥク。三輪自動車の代表格で、トゥクトゥクはEV化も始まっている。

画像元:https://www.ev-land.jp/ev-tuktuk.php EV-TUK TUKは1回のフル充電で80キロ走れる。

カンボジアではタクシーのような使われ方をしているのだが、日本でも、観光用のシェアリングモビリティとしての活用に期待が持てそうだ。

日本が再び力を発揮できる道

2025年までに1500億ドルに到達する(Market Research Future)との予測も出ている小型モビリティ市場。どう使いたいかやTPOでチョイスできる時代へ進もうとしている兆しが見える。日本がこの市場で存在感を表すためには、試験場と化してモビリティーのあり方を積極的に検証していけるかにかかってくるだろう。

世界に先駆けて高齢化社会を迎える日本では、高齢者の移動手段の問題を数年前から検討している。すでに数々の実証実験も各地で行なわれる中、その成果をいかに世界にアピールできるかが分かれ道となるだろう。

もちろん、技術革新にもさらに力を入れる必要がある。自動車開発で世界を牽引してきた日本には、各メーカーが長い年月をかけて培ってきた技術と知見が蓄積されている。新しいモビリティの開発にもその知識は十分に役立つはずだ。モビリティは人の命を預かることになる。スタートアップ企業であっても、きちんとした試験を行ない、POCを初めとした実証実験をストイックに続けることは必要だ。

一方で、ものづくりに欠かせない資金調達も考えなくてはいけない。日本のユーザーのほとんどは、完成したものを購入するという購買活動が主流であった。投資は投資家がやるもので、開発に一般ユーザーが関わることとは分けられていた。ところが最近は、クラウドファンディング型の投資も多く見られる。つまり、開発に伴走しながら商品ができるのを待つという消費者が現れているのだ。伴走に対する意識の高いユーザーとのコミュニケーションをいかに上手くとれるかも、開発者たちに必要な要素となるだろう。

グローバル化がこれだけ進んだ現在は、国内だけでなく、海外からの支援者をどれだけ取り込めるかもカギとなる。海外のモノづくりの現場では、デポジットで資金調達することも多くある。デポジットとは、保証金のこと。日本では、テスラの購入に高額なデポジット必要だったことが話題となったが、海外では多くの分野でこのデポジット方式が採られている。

理由は、販売開始前に市場規模を予測することができるからだ。例えば、開発中の100万円の商品を購入する場合、だいたい10%ほどのデポジットを請求される。支払いを完了した人が予約客となる。初回ロットの数が読めるだけでなく、予約の段階で100台の注文が入った場合はすでに1億円規模の市場になることも予測が付くのだ。

もちろん、キャンセルも発生するが、仮に半数がキャンセルするとしても5000万円規模の市場が生まれる予測を出すことができるのだ。この市場の見える化により、投資家からの注目をさらに集めることもできる。現在もアメリカのある会社がEVトラックメーカーがデポジットをうまく活用して開発を進めている。

アメリカでEVトラック開発を手がけるBollinger Motorsが公表しているEVトラック
画像元:https://bollingermotors.com/b1-b2/

日本の文化としてはあまり根付いていないデポジット方式だが、世界を相手にする場合、デポジットは開発資金調達に有効な手段となる。こうしたテクニック的なことも必要だが、一番の要はやはり、開発するモノがいかにカッコイイかだろう。特にモビリティの場合、いくら性能面で優れていても、見た目が台無しでは売れない。見た目と性能の両立を叶えるモノができあがれば、もう一度、移動で世界を取る未来も見えてくることだろう。

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(text: HERO X 編集長 杉原行里)

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“色気のある車いす” これって贅沢ですか?

杉原行里

世界のCare Design Classificationsランキングが発表になった。1位を受賞したのはJulien Codet氏。車いすのデザインが評価されてのランクインとなったのだ。2位には、光栄なことに、私の名前が書かれている。ケアデザイン部門には、様々なプロダクトがある中で、車いすが1位、2位を獲ったことを興味深く感じる。

Julienが所属するのは、アメリカにあるインバケア社。車いすメーカーとして、世界的に有名な会社だ。そんなインバケアに籍を置く彼が作り上げたのは、肥満の人向けの車いすだった。2019年、アメリカのハーバード公衆衛生大学院の研究チームは、このままいけば、10年後には国民の50%が「肥満」と判定されると警告を出している。肥満はただ太っているというだけではなく、糖尿病など、様々な疾病に繋がるリスクがあるため、肥満の解消について、アメリカでは各分野の専門家による研究も進められている。そんな中、開発されたのが、この車いすだった。

体重が増えすぎた体は、自重に耐えられず、歩くことすらできなくなることもある。しかし、動かないことが悪循環になるということは、誰でも想像がつくことだろう。Julienが考えたのは、外出が難しくなってしまった肥満の人が車いすに乗ることで、外出の機会を増やそうというものだった。自宅のベッドで寝たきりの生活を送るよりも、リハビリのために外へと出る。肥満解消の第一歩を、そこからはじめてもらおうという気持ちだったのだろう。説明には「太り過ぎた人たちの自信と自尊心を取り戻す」と書かれていた。

対肥満患者を対象としたこの車いすは、耐荷重なんと300キログラム。これだけの重さに耐えられる車いすにするためには、相当の努力がいる。耐荷重を重くするためには普通、支えるものの重量も重くせざるをえない。ところが、このインバケアの車いすは、300キログラムの耐荷重を実現しつつも、車体を軽くする工夫が凝らされているのだ。加えて、折りたたみ方にも特徴がある。従来、横折りになるものがほとんどのところ、まるでパイプ椅子のように、縦方向に折りたたむことができるのだ。

 

利用者の心を動かす優れたデザイン性と利便性、そして、対象とするユーザーを絞り込んでいるという点が、実に面白い。私が手がけている車いすも、対象とするユーザーを絞っている。車いすユーザーと一括りにされがちだが、ユーザーの状況は千差万別だからだ。今、私の率いる会社RDSがターゲットとして考えるのは、アクティブなユーザーだ。
仕事も遊びも健常者と変わらずに行える人々。僕の考えでは、車いすは、洋服と変わらない、外出する時には必ず身につけるものなのだが、これまでファッション性を追求したものはあまり見当たらなかった。

車いすユーザーがそれほど多くないということも、デザイン性の高い車いすが発展しなかった要因だろうが、これからの日本は違う。超高齢化社会を迎えている日本では、車いすユーザーは増えると予測されている。今は健常である自分も、いつなん時、車いすのお世話になるか分からない。自分事化して考える時、はたして、既存の車いすで自分は満足するだろうか。私の答えはNO。だからこそ、ファッション・デザイン性の高い車いすを目指して開発をしている。

日本の保険は素晴らしくて、私たちはいつでも医療を受けられるという恩恵を受けている。だが、平等という名のもとに、押し殺している心もある。車いすの購入には補助金が出る制度などがあるため、なんとかその範囲内で収めたいという人もいるだろう。しかし、考えてみてほしい。もしも、車だったらどうだろうか。車を選ぶ時、「動けばなんでもいい」と考える人は少ないだろう。同じデザインの車しか走っていない、そんな街をあなたは想像できるだろうか。かっこいいスポーツカーもあれば、小回り重視のコンパクトカーもある。デザイン、性能などいろいろ吟味して、自分が乗りたいと思う車を人は手に入れるはずだ。たとえ、レンタカーだとしても、どんな車に乗りたいかで選ぶのではなかろうか。足にハンディを負った人にとって、車いすとはモビリティである。日常に欠かせない乗り物であり、自分を自由に移動させてくれる相棒のような存在だ。そこで、考えてみよう。「カッコイイ車いすに乗りたい」 そんな色気を出すことは、果たして贅沢なのか。
そしていつの日か、誰もが乗りたいと思うモビリティー化する未来が待ち遠しい。
「ここまでだ」と諦めずにすむ世の中を、読者と共に作っていきたい。

(トップ画像引用元:https://competition.adesignaward.com/gooddesign.php?ID=76707

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(text: 杉原行里)

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