福祉 WELFARE

介護現場の敏腕スタッフはロボット!?自動駆け付け介護ロボット「SOWAN」

HERO X 編集部

職場で共に働く同僚は、ロボット。そんな近未来を舞台にしたアニメのような世界が、現実になろうとしている。株式会社高山商事から発表された「SOWAN」は、自動駆け付け介護ロボット。施設内の巡回、緊急時の駆け付け、利用者への声掛けなどを、ケースごとに自動で認識して行うロボット。人手不足にあえぐ介護業界の救世主になるのではと、業界からの期待も高まる。

人間とロボットが共に働くイメージと言えば、人がロボットを遠隔で操縦したり、工場の製造ラインなどに設置された大型のロボットが、指示に沿って単純作業をひたすら行うような場面を思い浮かべる方が多いだろう。しかし、「SOWAN」はそんなロボとはひと味違う。指示に従って単純作業を行うだけではなく、共に現場を担う働き手の1人として十分に役割を果たしてくれるのだ。

「2025年に、37.7万人の介護人材が不足する」。これは、団塊の世代が75歳を迎える2025年に向けて、厚生労働省が発表した数字だ。超高齢化社会に向けて、働き手不足が深刻化する介護業界。特に、24時間体制の現場での夜間帯の状況は、待ったなしの状態だ。巡回や緊急時の駆け付けなど幅広い業務を、少ない人員で対応せざるを得ないケースが少なくないという。こうした当直職員の大きな負担につながる状況は、離職のリスクを生み、さらに人手不足に…という悪循環にもつながりかねない。夜間帯の当直職員の負担軽減は、人材確保と併せて介護業界の大きな課題となっている。

そこで開発されたのが、自動駆けつけ介護ロボット「SOWAN」。当機器の主な特徴は、まず施設内の自動巡回機能。利用者の活動量計と連動し、健康状態を見守りながら施設内の自動巡回を行う。さらに、サーバーが異常を検知した際は部屋まで駆けつけ、その状況を映像で職員へ伝えるとともに記録を残すことも可能。負担の大きい夜間の巡回・駆け付け業務を担うことで、当直職員をサポートする。また、優れた個人認識機能もSOWANの特徴の一つ。高機能360度センサーが、巡回中にひとり歩きする利用者を発見すると、個人を認識し声掛けまで行う。このほか、オプションで転倒者発見時の通報機能や、自動で充電まで行う機能を搭載することもできる。高山商事は「SOWAN」の提供にあたり、関連企業が運営する住居型有料老人ホームで検証を重ねてきた。

現場に必要とされる機能を、パッケージプランとして低価格で提供することを実現。介護職員の負担軽減と、利用者の安全・安心に向けたいくつものサポート機能を有する「SOWAN」だが、そのリース料を時給に換算すると、なんとたったの88円。介護職員1人あたりの人件費と比較すると、圧倒的な低コストで見守り業務を推進することができる。利用者の異変をいち早く察知し、誰よりも早く駆け付けるSOWANは、まさに介護現場の敏腕スタッフ。人間とロボットが当たり前のように共に働く日は、既に始まっていると言えそうだ。

(text: HERO X 編集部)

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ANAが“車いす”や“義足”を開発する納得の理由【2020東京を支える企業】

宮本 さおり

英国・SKYTRAX社が実施する世界の航空会社格付けで、国内唯一の最高ランク「5スター」を5年連続で獲得している全日本空輸株式会社(ANA)。東京2020での“おもてなし力”にも期待がかかる企業です。これまでの経験とノウハウの蓄積は東京2020や、障がいのあるないに関わらず、誰もが利用しやすいユニバーサルサービスの観点でどのように発揮されるのでしょうか。

義足や車いすの開発に参加。航空会社のANAがなぜ?

樹脂製でありながら強度も万全の「morphモルフ」(写真提供 ANA)

世界有数の航空会社となったANA。そのANAが、車いすや義足の開発に積極的に参加しています。航空会社でなぜ車いすの開発なのか、答えはANAのおもてなしの精神にありました。「飛行機に搭乗するには空港内でのさまざまな手続きが必要です。全ての方に快適な旅をお楽しみいただきたいとの思いから、開発に参加することになりました」と話すのはANAで企画部東京2020企画推進チーム リーダーを務める松村宏二郎さん。ANAは岐阜県の車いす製造メーカー、株式会社 松永製作所と共同で日本初となる樹脂製の車いす「morph モルフ」を開発、2016年には国内の空港で実際の使用を開始しています。

飛行機の搭乗には、必ず保安検査が必要です。誰もが通過するセキュリティーゲートですが、実はこの検査、車いす利用者にとっては少しわずらわしいものでした。車いすは金属の塊。そのままゲートを通れば必ず「ピーピー」と探知機が反応してしまうため、通常のルートでは検査が受けられません。別の場所へ移動して個別に身体検査を受ける必要がありました。この状況を緩和しようと開発されたのが樹脂製の車いす「morphモルフ」です。利用者はチェックインカウンターで「morph」に乗り換えるだけで、通常のセキュリティーゲートが使えるようになったのです。

車いすでも利用しやすい高さになったチェックインカウンター(写真提供 ANA)

また、羽田空港国内線のカウンターには車いすの人も利用しやすいSpecial Assistanceカウンターを設置、この取り組みは2016年度「グッドデザイン賞」にも選ばれました。中でも車いす利用者たちを安心させているのがローカウンターの存在。「通常のチェックインカウンターは高さがあるため、カウンター越しに車いすのお客様と視線を合わせてのご対応が難しい状態でした。ローカウンターの導入で、お客さまとの対面のご対応が可能になり、より安心してお手続きを進めていただけるようになりました」。

外からだけでなく内からも利用者の声が集まる仕組み

ユニバーサルな視点に欠かせないのは障がいのある方々からの声。近年、ANAグループ全体で障がい者雇用の取り組みを進めてきました。現在はグループ全39社で680名を超える障がいのある社員が在籍しています。外からの声だけでなく、内側からも声を集める組織づくりを進めてきた同社、その強みを生かして参加したのが、車いすや義足の開発だったのです。

JSR株式会社と共同開発を進める3D義足。製作は株式会社SHCデザイン(写真提供 ANA)

現在開発中の義足も、こうした利用者の声が大きく活かされています。義足も車いす同様に、セキュリティーゲートをそのまま利用することはできません。3D義足が実用化されれば、通常のゲートを使うことができ、例えば健常の同行者がいる場合、離れることなく一緒に同じ経路で進むことができるのです。

また、利用者からは、利便性だけでなくファッションに対する期待もかかります。「好きな靴を履きたい…」こうした思いを常日頃から抱いている義足利用者、その望みを叶える可能性も3D義足は秘めていると言うのです。ANAが進める義足の開発は、障がいの有無にかかわらず、おしゃれを楽しめる、そんな未来を作りだそうとしています。

道具の多いパラ選手、航空会社は万全の態勢でサポート

大量の車いすが並ぶカウンター(写真提供 ANA)

これまでも数々の種目のパラリンピアンの遠征をサポートしてきたANA。パラリンピックの競技では多くの機材が必要です。「選手ごとに特注で頼んだものも多いため、取り扱いには注意が必要になります」(松村さん)。中でも特に量が多くなるのが車いす。競技用2台、通常の生活用1台など、1人が持ち込む数が多いため、積み込みには工夫が必要です。「飛行機に積める量には限りがあるため、お手荷物関係は事前に綿密な打ち合わせをさせていただきます」と松村さん。

前回のパラリンピックについて語る松村さん

搭乗ゲートのギリギリでスタッフが待機

また、搭乗の直前まで選手が快適に過ごせるようにと、普段の環境で飛行機に乗り込めるように気を配ります。「車いすを機内にそのままお持込いただくことはできません。車いすの微妙な使い心地の差がコンディションを左右することもあるパラアスリートの方々は、搭乗直前までご自分の車いすの利用を希望される方がほとんどです。搭乗口に少し多めにスタッフを配備して、車いすを受けとり、速やかにお預かりするようにしています」(松村さん)。細心の注意をはらいながら進めるパラリンピック関連の輸送。人、物を移動するインフラであり、ホスト国となる東京2020では、担うべきことも多くなります。そんなANAからみた東京2020はどんなイベントなのか。「バリアフリーやユニバーサルな考え方など、企業も国も成長する大きなきっかけになると思います」と松村さん。ANAの様々な取り組みは、日本のユニバーサルな対応をけん引していくことでしょう。

あったらいいな

聴覚障がい者の方が使える同時通訳の機械。ANAではすでにホワイトボードの設置や遠隔操作で手話通訳が使えるサービスを始めていますが、周知が行き届かず、知らない人も多いそう。もっと手軽に使ってもらえるものがあればと話します。例えば、音声がすぐに文字として画面に見えるポータブルな機械など。「スタッフとお客様の直接のやりとりがよりスムーズになると思います」(松村さん)。また、視覚障がいのある方への音声ガイダンスの強化や、自閉症の方の体験搭乗なども“できたらいいな”と思う取り組み。「これらを実現するための道具、あったらいいですね」。

(text: 宮本 さおり)

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