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パラ卓球を盛り上げて、世界へ!立石兄弟が挑む東京2020への道

下西 由紀子 | Yukiko Shimonishi

近年、日本の卓球界が盛り上がっているが、実はパラ卓球の世界も熱い! 昨年開催されたアジアパラ競技大会では、あるクラスが団体戦で中国を倒して金メダルを獲得するなど、着実に実力をあげてきている。そんな中、選手とコーチとして東京パラリンピックでメダル獲得を狙う兄弟がいる。

パラ卓球の肢体不自由者枠は、「車いす利用」と「立位」に分かれおり、さらに障がいの程度により、それぞれ5クラスに分類される。ルールは「立位」については、一般の卓球とほぼ同じだ。立石アルファ裕一さん(以下、アルファさん)は、立位のクラス8の選手で、現在世界ランキング36位(取材時)。このクラスの日本人選手の中では、トップの位置にいる。しかし、パラリンピックに出場できるのは世界ランキング15位まで。アルファさんが東京パラに出場するためには、海外遠征に複数回参加してポイントを重ね、ランキングを上げていくか、今年7月に開催されるアジア大会で優勝することで参加資格を得るかしかない。「アジア大会優勝、そして東京パラに出場し、メダルを獲得する」この夢をともに追いかけているのが、弟であり、コーチを務めるイオタ良二さん(以下、イオタさん)だ。

イオタさんは健常者の卓球競技の選手として活躍し、全日本卓球選手権大会7位という実績を持つ。卓球を始めたきっかけは、幼い頃から仲の良かった兄のアルファさんと一緒にプレーしたいという気持ちからだったという。東京の大学を卒業後、地元の福岡に戻り選手生活を送っていたが、2010年、アルファさんから「試合の時、コーチをしてほしい」と頼まれ、ベンチコーチとして入った。次第に兄を支えたいという想いが強くなり、家業である立石ガクブチ店 (福岡市博多区) の四代目店主を務めながら、コーチとして、兄とともに東京パラを目指している。

コーチの存在がパラ卓球の環境を変えていく

イオタさんは日本肢体不自由者卓球協会(パラ卓球協会)の渉外広報担当としても活動中。パラ卓球では、試合にコーチがつくことがなかった中、2016年のリオパラリンピックにチームのコーチとして帯同。コーチの必要性を強く感じ、2017年からはどの大会にもコーチを派遣できるだけのスポンサーをとりつけた。以前は、海外遠征の際、英語ができるということでアルファさんが選手全員の航空券やホテルの手配など、チーム全員の庶務的な作業も行っていたというが、その役目をコーチが引き受けることで、アルファさんも試合に専念できるようになった。

「日本では、まだプロのコーチという概念が根付いていないけれど、海外では選手1人で試合に勝っているプレイヤーなんていない」とイオタさん。実際、イオタさんがコーチとしてつくと「全然違う」とアルファさん。「試合中は熱くなってしまって、自分ではわからないところを、冷静に伝えてもらえる。たとえば、相手が自分の不得意なゾーンにばかり打ち込んでくると思い込んで、同じ方向ばかりで構えていると『そこには最初の1回だけしか来てない』と言われて、ハッとしたことがあります」1セットごとに1分間しかないブレイクタイムだが、相手の分析や戦術についてアドバイスをもらえることは、メンタル面にも大きな効果をもたらす。

一方、「いっぱい言いたいことがある中で、どれを選んで言うか、どんな言い方をしたらうまくのせられるかは、時と場合によって違う。それは、コーチとしての自分の課題」とイオタさん。

「兄の武器は、攻撃力と守備力の両面を備えたセンスの良さ、そして体格の良さ。手足が長く、筋肉が柔らかいので、瞬発力がある。サーブの回転量とボールの威力が強みです」「自分は、かかと重心でしか立てないので、動くことでバランスが崩れる。よりカスタマイズした打ち方を追求し、もっと強くなりたい」兄弟で最強のタッグを組み、世界に挑む。

パラ卓球の普及にも力

弟のイオタ良二さんはコーチとしてだけでなく、パラ卓球全体の盛り上げ役としても一役かっている。そのひとつが、日本肢体不自由者卓球協会(パラ卓球協会)が開発、選手の感じている世界を再現した「PARA PINGPONG TABLE」のプロジェクト。イオタ氏はパラ卓球協会の渉外広報担当としてプロジェクトの中心メンバーとなって牽引する。

PARA PINGPONG TABLE」のプロジェクトには、大手広告会社TBWA/HAKUHODOの浅井雅也氏、QUANTUMのデザイナー、門田慎太郎氏、卓球台製造会社「三英」の社長、三浦慎氏など、そうそうたる面々が関わっている。予算など無いに等しかった中、イオタさんの想いに共感しプロジェクトに関わるようになったという。

パラ卓球の選手は、同じ長方形の卓球台でも、一人ひとり卓球台の感じ方、見え方が違う。たとえば、左足が動かない選手にとっては、左端がとても遠く感じるし、手が短い選手にとっては、長方形の卓球台が円形に感じられるという。「パラ選手が感じている世界をわかりやすく表現したい。『楽しい』『かっこいい』『すごい』と思ってもらえたら」イオタさんらはパラ選手20名へのインタビューを行い、選手それぞれの卓球台のイメージをデザイン。さらにリオパラ五輪と同じ技術で、卓球台を完成させた。競技用卓球台の規定をクリアしつつ、造形美も兼ね備えた3台だ。

その卓球台を使い、健常者にパラ卓球の世界を体験してもらうイベントにも取り組んでいる。「実際にプレーすると、たとえば、遠い左端のボールを返すことがどんなに大変なことなのか実感してもらえる。そうすると、試合に左足にハンディのある選手が登場し、左端に落ちたボールを返した時、そこが拍手の贈りどころだとわかるんです」

東京パラの卓球会場、東京体育館のある渋谷区では、オリンピック・パラリンピック推進事業を行っており、その一環として、小中学校でこの卓球台でのプレーを体験してもらっている。「子どもたちが学校で体験したことを親に話すことで、パラ卓球に関する理解が深まっていけば」とイオタさん。今後も各地の行政や企業等と連携してイベント等を行っていく予定だ。

変形する卓球台は相互理解のためのツール

「これまでは、障がい者を理解してもらおうとすると、目隠しをしたり、足におもりをつけたり、車いすにのったり、と制約を課すものが多かった。マイナス要素ではなく、ポジティブにアプローチしたかった」幼い頃から、兄のアルファさんと卓球で真剣勝負をしてきたイオタさん。卓球を通じて、楽しさや苦しさを共有し、高みを目指して突き進んできた。お互いを理解することで、障がい者と健常者の壁が消え、一緒に楽しめることを誰よりも知っている。

「障がいを持つ人間は、自分から発信することに慣れていない」とアルファさん。「この卓球台なら、何も説明しなくても、一目見ただけで『何これ?』『面白い』というワクワク感から、パラ卓球に興味を持ってもらえるのでは」と目を輝かせる。

入院中の子どもたちを慰問する機会があるアルファさん、子どもたちに伝えたいことがあるという。「たとえ病気でベッドにいても、テーブルさえあれば、家族や友達と卓球ができる。それがどんな形のテーブルだとしても。とにかく体を動かすことの楽しさを知ってほしい」

アルファさんを含むナショナルチームのメンバー20名の卓球台のデザインについては、

パラ卓球協会のHPで公開中。https://jptta.or.jp/

立石アルファ裕一(たていし・あるふぁ・ひろかず)
パラ卓球・立位8クラス選手。1983年福岡市生まれ。生まれつき脊椎の一部が形成されず、ひざから下の筋肉が弱く両足ともにつま先に力が入らないため、かかとだけの歩行で生活。2017年全日本パラ選手権優勝、2018年アジアパラ団体3位。家業の立石ガクブチ店を支えながら、東京パラ出場を目指す。

立石イオタ良二(たていし・いおた・りょうじ)
創業大正10 立石ガクブチ店四代目。一般社団法人日本肢体不自由者卓球協会 渉外広報担当。1985年生まれ、アルファ裕一さんの弟。小学5年生の時、兄の影響で卓球を始める。大学時代、全日本学生選手権大会団体銅メダル、ダブルス7位。全日本卓球選手権7位。現在は、コーチとして兄を支える。

「アルファ」「イオタ」というミドルネームは父親の武泰さんが「世界で通用するように」と付けた。ふだんはミドルネームで呼び合うことが多いという。

(text: 下西 由紀子 | Yukiko Shimonishi)

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ホーク・アイ・ジャパンの代表を務める山本太郎氏。

弊社の事業は、大きくはスポーツコンテンツの制作、VR、ARなどによる新しい視聴体験の提供、そしてホーク・アイによる競技の質向上・選手のサポートやファンエンゲージというものがあります。

ホーク・アイは、2001年に創業したイギリスの企業ですが、2011年に弊社(ソニー)が買収致しました。世界で浸透しつつある(ホーク・アイの提供する)審判補助システムは、様々なスポーツに対応して、公平性や選手の安全、ファンのエンゲージメントを高めていこうというモットーのもと、多くのサービスを生み出しております。

HAWK-EYE

ホーク・アイは、もともとはクリケット競技のテレビ放送に対応したボールトラッキングの技術からスタートしまして、(2018年の)サッカーのワールドカップで使われたビデオ判定(VAR)やゴールラインテクノロジーなどに代表される、正確な判定システムの提供へと発展してきました。

そのトラッキング技術は、野球のホームラン判定にも使っていただけますし、車のレースでは、車体のスキャニングをして、レギュレーションに則したサイズかどうかという判定にも使われています。

いまでは、トラッキング及びビデオリプレイの技術を使ったサービスが、90カ国、500スタジアム以上で実績がありまして、年間15,000程度の試合やイベントで活用されている状況です。

スポーツ界に与えた具体的なインパクトの例ですと、昨年(2018年)のテニスのオーストラリアオープンが記憶に新しいと思います。大坂なおみ選手が準決勝で勝利が決まったシーンは印象的でしたが、ホーク・アイのCGが出てきて判定がわかるまで10秒ぐらいの間、観客が祈ったり、拍手したりしていました。そういう行動を垣間見て、ファンエンゲージに関して新しい価値観が生まれたという実感がありました。

実際には、数値を見ればアウトかインかは瞬時にわかるのですが、コンピューターグラフィックを作成させて頂く10秒ぐらいを頂く事で、観客・選手を巻き込み、判定結果を想像して盛り上がるわけですね。CGにスポンサーのロゴを入れることで、新しいビジネスモデル、マネタイズの機会を与えることもできます。もちろんホーク・アイのボールトラッキング技術を線審の代わりに導入し、時短を実現する試みも行われています。

また、一球一球のデータを取っていますので、ボールのスピード、スピンの回数、そういったデータを大会のオーガナイザーにお渡しして、可視化することでコーチングに役立てることも可能です。

(昨年の)FIFAワールドカップでいいますと、VARが審判の補助という役割を担いました。放送では、1試合最低35台のカメラが使われていましたが、審判が一番見たい角度でプレーを確認することで、より確かな判定ができます。

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さらに新たなテクノロジーの導入は、判定だけでなく、選手の健康管理にも役立てようとする動きが強まっています。ラグビーの試合では、選手が脳震盪を起こしたプレーをピッチサイドのお医者さんが見ていて、スローにしたり、角度を変えて確認することで、顎や頭などへの衝突箇所を判断し、ケガをした選手への的確な処置を素早くすることにも活かされています。

もっと日常風景のなかにパラスポーツが
親しめる空間があっていい

澤邊芳明氏(以下澤邊):私は、ワントゥーテンというデジタルテクノロジーの会社の経営者です。様々な取り組みを行っていますが、ひとつは、テクノロジーを通してパラスポーツの普及に努めています。それを“サイバースポーツプロジェクト”と名付けておりますが、例えば、サイバーウィルという車いすのVRを活用したロードレーサーで400mを走る疑似体験をしていただいたり、サイバーボッチャを通して、ボッチャに触れていただく機会を作ったりしています。

澤邊芳明氏は、テクノロジーの力でパラスポーツを普及させてきた第一人者。

サイバーウィルで400mを走る場合、一般の方が全力で車いすを漕いでも、だいたい1分前後ぐらいかかります。ちなみに都知事の小池(百合子)さんがトライしたときは、1分39秒ぐらいでした。

ところがパラリンピアンがこれをやると20秒程度でゴールします。プロのラグビー選手や松岡修造さんでも30秒はかかりますから、いかにパラリンピアンがぶっちぎりかがわかると思います。


CYBER WHEEL

私は、難しく考えずにパラスポーツに関われる機会を設けて、多くの人が実際に触れて、体験して、理解していただくことで、パラスポーツの選手の凄さがわかってもらえるのではないかと思っているんです。

パラスポーツは、競技に対する理解者がなかなか増えないという課題があります。パラリンピックというのは、福祉スポーツという側面が強かったので、体験会やいろんなドキュメンタリーなどを通じて、選手や競技への理解がある程度は進んできたのですが、結局、「みなさん頑張ってるんだねぇ」ということで終わっていた。

そこから、実際に応援に行こう、試合を観に行こうという形には繋がっていないので、競技会場はガラガラなんです。その状況を変えようと思った時に、日常風景のなかに、もっともっとパラスポーツに親しめるような空間があってもいいのではないかと思うようになりました。

サイバーボッチャにしても、自動計測をして点数表示をして勝ち負けを判定するというものですから、簡単にのめり込めるんです。そもそもボッチャそのものが競技性が高いですし、カーリングみたいで面白いんですよ。

それもあって開催したサイバーボッチャのイベントは、非常に話題になりました。特に子供たちは、体験会よりもサイバースポーツですと、何回も行列に並んでまでやろうとするんですよ。しまいには、お父さんが、もう帰ると言い始める(笑)。そういう体験をすると、車いすの見方が大きく変わって、選手に対する見方も変わるんです。実際にイベントでは、「今度応援しに行こう」という声もたくさん聞きました。

もちろん分析面もありますけど、こういった新しいテクノロジーをエンタテインメントという形で楽しく理解してもらう。そして競技の支援に繋げていくというのは、パラリンピックのみならず、様々なマイナースポーツにも必要なのではないでしょうか?

後編へつづく


山本太郎(やまもと・たろう)

ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ スポーツセグメント部担当部長。ホーク・アイ・ジャパン 代表。米国の大学を卒業後、ソニーに入社。通算18年の海外駐在で、マーケティング及び新規事業立ち上げに従事してきた。2013年からは、インドのスマートフォン事業を統括。2016年に帰国し、現在は、スポーツテック・放送技術等を活用したスポーツや選手のサポート、チャレンジ・VAR等判定サポートサービスを提供するホーク・アイの事業展開を担当。

澤邊芳明(さわべ・よしあき)
1973年東京生まれ。京都工芸繊維大学卒業。1997年にワントゥーテンを創業。ロボットの言語エンジン開発、日本の伝統文化と先端テクノロジーの融合によるMixedArts(複合芸術)、パラスポーツとテクノロジーを組み合わせたCYBER SPORTS など、多くの大型プロジェクトを手がける。 公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 アドバイザー。

河本敏夫(かわもと・としお)
NTTデータ経営研究所 情報戦略事業本部 ビジネストランスフォーメーションユニット スポーツ&クリエイショングループリーダー Sports-Tech & Business Lab 発起人・事務局長。総務省を経て、コンサルタントへ。スポーツ・不動産・メディア・教育・ヘルスケアなど幅広い業界の中長期の成長戦略立案、新規事業開発を手掛ける。講演・著作多数。早稲田大学スポーツビジネス研究所 招聘研究員。

(text: 長谷川茂雄)

(photo: 増元幸司)

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