テクノロジー TECHNOLOGY

遠隔医療はコロナの脅威に打ち克つか?現場で闘うロボットたち

Yuka Shingai

コロナウイルスの感染拡大を食い止めるために、遠隔医療、非接触医療の重要性が叫ばれ、現場に耐え得るソリューションの開発、提供にテック企業も奮闘し続けている。前回記事に続き、感染患者を受け入れる医療機関でウイルスと闘うロボットを紹介しよう。

あの4足歩行のロボットが
医療機関でミッション始動!

大胆なビジュアルと動きでこれまでも多くのロボット好きを驚かせてきた、Boston Dynamicsの四足歩行ロボット『Spot』が、コロナウイルスの最前線に立つ医療従事者たちの負担を軽減すべく、動き出した。

同社はマサチューセッツ州にあるブリガム・アンド・ウイメンズ病院に派遣したロボットの作業結果をシェアし、ハードウェアとソフトウェアのデザインについてもオープンソースにするなど、他の開発者やロボット技術者に対しても、医療従事者へのサポートを促している。

現在『Spot』が行っているタスクはiPadを背負い、救護テントにいる患者と医療従事者のビデオ通話を取り持つこと。医師は自宅からでも患者とコミュニケーションが図れ、感染の危険性を軽減することができるだけでなく、人員削減にも大いに貢献することができる。

次のステップとして、赤外線カメラ技術を使って患者の体温や心拍、酸素飽和度などを測定することも検討中。また、UV-Cライトでウィルスの除去や殺菌を行うことも今後、視野に入れており、テストや検証次第で詳細が公表できそうとのこと。販売開始時(http://hero-x.jp/movie/8156/)には予測もつかなかった事態を前に、『Spot』がどこまで威力を発揮するか、続報を待とう。

世界中が注目する
テレプレゼンスロボット
『OHMNI ROBOT』

OHMNI ROBOTはシリコンバレーのロボティックス新興企業OHMNILABSによるテレプレゼンスロボット。解像度13メガピクセル、4Kワイドアングルという高性能カメラやファーフィールドマイクなどの高スペックをほこり、ANAホールディングス初のスタートアップとなるアバター事業でもパートナーとして採用されるなど、日本国内でも認知を拡大してきた。ISOコンサルタントのISO総合研修所はコロナウィルスの感染患者と医療従事者、また患者の家族との遠隔でのコミュニケーション支援として、医療機関にてOHMNI ROBOTの提供を開始した。

また、ベトナムで2016年に発足した、スタートアップが集結する国家プロジェクト「Project 844」においても、OhmniLabs がコロナウイルス対策を行うチームの一員として選出されるなど、世界各国からの注目度も高い。テレプレゼンスのソリューションが数あるなか、デバイスが全て3Dプリンターで製造されている点も、全世界に市場を広げる上でのアドバンテージとなるかもしれない。

人間の代わりとなり得るか、あるいは、人間の能力をも超えるのか。ロボットが秘める可能性はまだまだ未知数だ。

(text: Yuka Shingai)

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テクノロジー TECHNOLOGY

「半分、青い。」に登場した、ピアノを弾くロボットハンドの生みの親とは?【the innovator】後編

飛田 恵美子

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業において、ダブル技研と共に高性能ロボットハンドの開発を行う東京都立産業技術高等専門学校医療福祉工学コースの深谷直樹准教授。前編では、開発した3種類のロボットハンド「F-hand」「New D-hand」「オリガミハンド」の特徴を紹介した。後編では、深谷氏の経歴や、義手としてのロボットハンドの可能性について伺った。

答えのないものに取り組む

深谷氏は東京生まれ。父親が技術屋だったため、子どもの頃から工場で遊んでいたという。ものづくりが好きで、東京都立航空工業高等専門学校(現東京都立産業技術高等専門学校)に入学。3年生のときに「アイデア対決・全国高等専門学校ロボットコンテスト(高専ロボコン)」で全国ベスト8を勝ち取ったことがきっかけとなり、ロボット開発の道へ進んだ。東京農工大学機械システム工学科で学び、同期が立ち上げたベンチャー企業を手伝った後、母校に戻り教鞭を執ることになった。

「高専や大学でいい先生に恵まれたおかげでいまがあるので、その恩返しというか、次の世代への橋渡しがしたかったんです」

授業で大事にしているのは、答えのないものに取り組む姿勢を育むこと。最近の学生は子どもの頃にものづくりをした経験が少ないので、できるだけ多様なものをつくる課題を出しているという。

「たとえば、“3階から卵を落としても割れない構造を、10センチの箱でつくってきなさい”といった課題を出すと、生徒たちは“自分が一番いいものをつくる”と目を輝かせて取り組みます。箱の中に気泡緩衝剤を入れたり、ポップコーンを使ってみたり。そういった試行錯誤が意外なところで将来の研究に役立ったりするんです」

深谷氏の研究にも学生たちが携わっていて、前編で紹介したピアノを弾くロボットハンドの調整は学生と共に行ったという。撮影現場の雰囲気に刺激を受け、より良いものにしようと更に研究を進めているそうだ。

義手を必要としている人々を
落胆させてはいけない

深谷研究室で行っているのは、ものづくりを中心とした医療福祉・ロボット関連の研究だ。「人助けがしたい、福祉にまつわる研究がしたい」という学生が多かったことから、研究室の専門テーマに据えた。

「私自身も東京農工大学時代に福祉分野の研究に取り組みましたが、やればやるほど難しいと感じました。たとえば、足に障がいのある方が“階段で苦労しているんですよ”と言うのを聞いて、階段を軽々と登れる靴を開発したとします。しかし、その機構が入った分靴は重くなり、普通の道を歩いているだけで疲れてしまう。そういったミスマッチが多い世界なので、福祉器具を必要としている方から厳しい意見をいただくこともありました。

最近は義手を開発している若手研究者も多く注目が集まっています。それ自体はいいことですが、きちんと“いまはここまでしかできない”と伝えることが必要だと思っています。そうでなければ、義手を必要としている方々は“来年にも暮らしが楽になるんじゃないか”と期待してしまう。それで蓋を開けてみたらまだまだ実用化にはほど遠いとなったら、どんなに落胆することか。学生たちにも、“誇大広告はしないように、便利な義手を待ち望んでいる人をがっかりさせることがないように”と伝えています」

F-hand汎用型の把持実験(研究室OB設計)

冒頭に載せた動画や上の動画には、目覚ましを止め、スプーンで食事し、歯磨きや身支度を行い、ドアノブを開け、自転車に乗り、文字を書き、運動し、料理をして……と、F-handでさまざまな日常動作を行う様子が映し出されている。シリコンをかぶせ、見た目をより人の手に近づけることもできるという。となるとやはり、「義手として使えるのでは?」と思ってしまうが、深谷氏の姿勢は慎重だ。

「人の手に近づいてできることが増えると、その分危ないんです。使用する人は本当の手のように何でもできると過信してしまいがちです。自転車には乗れるけれど、誰かとぶつかって転んだとき、片手では体重を支えられない。包丁を使って簡単な料理はできますが、ちゃんと掴まないと落としてしまう可能性がある。そうすると命に関わりますから。義手はロボットハンドの究極の形なので、ハードルはかなり高いと考えています」

F-handはまだ開発段階で、産業利用を始めるまでもう2年ほどかかる見込みだという。まずは共同研究を行う企業に試用してもらって問題点を洗い出し、一つひとつ改良していく。そうして完成度が上がった先に、ようやく義手として使える可能性も見えてくるかもしれない。

前編はこちら

深谷 直樹
東京都立産業技術高等専門学校荒川キャンパスものづくり工学科医療福祉工学コース准教授。工学博士。ものづくりを中心とした医療福祉・ロボット関連の研究を行う。

(text: 飛田 恵美子)

(photo: 壬生マリコ)

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