テクノロジー TECHNOLOGY

新しい体験価値で大人をアップデート BAKERUの挑戦

川瀬拓郎

クリエイティブの会社でありながら飲食店や都心で楽しめるサバイバルゲーム場などを運営し、自由な発想で新しいエンターテイメントを発信し続けている株式会社BAKERU。代表の小林氏を迎えて、今まで語られることが少なかった起業までの経緯や、これから仕掛けようとしているプロジェクトについて語り合った。

業界のお約束をあえて無視して
大成功を収めた「アソビル」

杉原:まずはBAKERU設立のきっかけとなった、横浜のアソビルについて伺いたいと思います。地下がアミューズメントバー、1Fが横丁をイメージした飲食店街、2Fがエンタメ体験型セレクトショップ、3Fが多目的イベントスペース、4Fがキッズスペース、屋上がフットサル場。今までの商業施設にはない提案だと思ったのですが、どんな狙いがあったのでしょうか。

小林:昔からある商業施設は、シャワー効果(*1)を狙っていますけど、アソビルでは1Fを一番人が来やすい飲食街にして、ライブやDJイベントができるステージも設置しました。目に見える賑わいがあると人が集まってくると思いませんか?「遊べる駅ビル」というコンセプトが明確だったから、他の商業施設とは差別化ができたのだと思います。

(*1)上階に飲食店やイベント会場などの施設を充実させ、上から下への人の流れをつくり、店舗全体の売り上げ増加につなげる

杉原:やっぱり今はコンセプトがしっかりしていて、専門性があるものが求められているんですよね。“Make Today, Tomorrow Bakeru”という企業メッセージが秀逸だなぁと思っていました。

小林:僕たちが自分の会社を紹介するときによく使う言葉が、「社会実験推進ベンチャー」。社会課題の解決を実験する会社であると。実はASOBIBAでやりたかったことを全部詰め込んだのがアソビルなんです。

知らないを知る楽しさ
ポイントはチュートリアル

杉原:ASOBIBAは人気のコンテンツとして定着していますよね。ASOBIBAをつくるきっかけはなんだったのでしょう?

小林:日本酒の店を手掛けたことがきっかけです。日本酒がウリの飲食店はいくつもあったけど、どれも中級者以上の人しか本当の意味では楽しめないお店ばかりだなと。それで、自分であれこれ調べているうちに、地域性や料理との相性など学ぶことが多くてのめり込みました。日本酒のうんちくや雑学を通じて、もっと日本酒を好きになってもらえるように、僕が今学んでいるチュートリアルを提供するお店があったら面白いんじゃないかと思い、やってみました。

杉原:初心者でもチュートリアルさえあれば、もっと身近なものとして楽しめるということですよね。それがサバゲー(サバイバルゲーム)ってコンテンツに変わった訳ですね。人をエンターテインしたいっていう欲求は根本的に同じなのでは?

小林:そうですね。ゴルフも一緒だと思うのですが、成熟した業界こそ入門編があると、(それを)好きになる人が増えると思うんです。だから初めての人こそ楽しめるサバゲーを目指しました。ASOBIBAが多くの人に来てもらえたのは、ハードルを下げて、今までとは違う環境で人と接することで新しい発見があるからだと思うんです。大人になればなるほど、なかなか新しい友達ができにくくなるものだけど、サバゲーをやれば意外なほどすぐ仲良くなれる。僕は「知らない」を「知る」に変えることが好きなのかも知れません。

南青山のレストラン開業で得た独自の成功法

杉原:これまでに、いくつかの飲食店経営会社を立ち上げ、合併や買収を経て現在のBAKERU代表取締役になられましたが、そもそもどんな仕事を経て起業することになったのですか?

小林:広告代理店にインターンとして勤務したのですが、やっぱり自分はサラリーマンには向いてないなと。権限と責任と報酬がセットになっていないと感じて、この3つは完全にイコールにならないとはいえ、ちゃんと比例させるべきだと考えた事があって。それを実現したいと考えたのが起業のきっかけですね。

杉原:なるほど。そうすると、昔から独立志向が強かった?

小林:仲のいい友達が次々と独立して、自分の会社を立ち上げていく姿に影響されたんだと思います。シンプルキッチンというレストランを友達と立ち上げたのが(独立の)きっかけで、確か27歳の頃だったかな。当初のコンセプトは、南青山のお洒落なサイゼリヤ。フルサービスのレストランなのに390円で生ビールを提供していました。

杉原:南青山でビールが390円って破格ですね。それでちゃんと儲かったんですか?(笑)

小林:飲食の経営で成功する基準というのが僕の中にあって、立地、人(=サービス)、コンテンツ(=コスパ、デザイン)、PRという4つの要素。それぞれが100点満点ではなく、立地は90点、人は50点、コンテンツが70点、PRが90点とそれぞれ満点の数値は違いますが、この総合点数が120点〜150点あれば、大抵の飲食店はうまくいくと思っています。

杉原:300点満点の指標って面白いですね。

好奇心と新しい発見が
ビジネスパートナーを引き寄せる

杉原:その後に手がけたのが、テキーラバーでしょうか?

小林:本物のテキーラを日本に紹介したら面白いよねというビジネスパートナーのコメントがきっかけです。というのも、テキーラって悪酔いするイメージがあるじゃないですか? それは副材料でカサ増しした安物を乱暴に飲んでいるから。本物のテキーラは風味も良くてじっくり味わえるとても深いお酒。それをいろんな人に知って欲しくて、自らテキーラソムリエにもなってお店を作りました。加えてテキーラは割り方でも味が変わってくるから、硬度が違う水を10種類も用意してみたのです。これも振り返ると実験でしたね。

杉原:確かに、美味い酒には美味しい水が欠かせない。ちなみに現在もビジネスパートナーである、小谷翔一さん(以下、翔ちゃん)との出会いがこの頃ですよね?

小林:そうです。常連で酔うとめちゃくちゃ面白いお客さんがいて、それが翔ちゃんでした。組織って、特にエモーショナルな部分とロジカルな部分の両面を備えていないと務まらないですよね。でも、チームが大きくなるとどうしてもどちらかに傾きがちで…。欠けていたロジカルな面を支えてくれたのが翔ちゃん。彼と一緒にやれたことで、僕はグランドデザインに集中することができました。

杉原:それ、すごい分かりますね。最近「杉原さんはもうデザインしないんですか?」ってよく訊かれるんですけど、デザイナーから離れることで経営に集中できるし、グランドデザインを見ることができるんですよね。勉強することばかりで本当にキツイんだけど、それが本来の経営者の役割だと僕は思っています。

ナラティブという手法を取り入れた
エンタテインメント型レストラン

小林:それで今取り組んでいるのは、コロナ禍における新しいコミュニティ作りで、渋谷の宮下パークのホテル最上階にオープンさせたSOAKというレストランです。

杉原:渋谷の街を一望できるレストランにお風呂があるのはびっくりしました。これってまさか裸じゃないですよね?(笑)

小林:もちろん水着ですけど、面白いでしょ。刺激を体験するレストランというのがコンセプトなんです。語り手から聞き手へ、その聞き手が次の語り手となり、我々が提供する体験価値が連動していく場所。そうしたナラティブな仕組みを実験するレストランを目指しています。

杉原:小林さんがやろうとしていることって、まさに前述でもおっしゃっている新しい文化を作る社会実験なんでしょうね、きっと。

小林:淘汰された上で残ったものが文化で、30年くらい継続して認知されたコンテンツは文化として認められる。決して難しい話ではなくて、トライ&エラーをしながらも新しい価値を提示していきたいですよね。

RDSとの協業の可能性と
これからの日本に必要なこと

杉原:小林さんと今一緒にやりたいなと思っているのが、お客さんのDNAを検査するバー。そこで得た情報から、その人にベストマッチの異性を紹介するなんてことができたら面白くないですか。

小林:そうですね。人間ドッグって、みんな面倒くさいから1年に1回の受診ですよね。でも、お気に入りのレストランだったら3ヶ月に1回は足を運びませんか? 例えば、飲食店でお客さんの身体データが取得できるようになったら、その人に足りない栄養素を補給できるメニューを提供できる。しかも、帰り際に最新の健康状態も教えてくれて、お土産には足りない栄養素を補給するサプリメントがもらえる。そんなレストランやバーができたら面白いですよね。

杉原:データ解析の技術がもっと進んで、身体データをエンタメ化することができたら、未病の段階で自分の身体と向き合えますからね。そんなレストランがあったら絶対に行きたい! それでは最後に、これから小林さんがやりたいことを教えていただけますか。

小林:これからやりたいと思っているのは、大人をアップデートすること。大人になればなるほど、自分の専門分野や狭い世界にとどまってしまいがちです。だからこそ、今まで知らなかった世界を体験して、さらに共有していくことが大人になっても大事かなと。だって、大人が面白くないと子供はワクワクできないじゃないですか(笑)。新しい体験をして大人が変わっていかないと、この先の日本の姿も楽しく見えてこない。だから大人のワクワクを増やせるコンテンツを色々な角度から創っていきたいですね。

小林肇

1982年、千葉県生まれ。飲食店運営会社を3社創業。2013年にASOBIBAを創業し、CEO就任。2018年にASOBIBAを株式会社アカツキに売却し、株式会社アカツキライブエンターテインメントの代表取締役に。2006年創業のクリエイティブ系起業の東京ピストルを2020年に買収し、株式会社BAKERUに社名変更。現在は同社の代表取締役として、多岐にわたる事業やコンテンツをプロデュース。

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(text: 川瀬拓郎)

(photo: 増元幸司)

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センシング技術のプロが、「帝人フロンティア」とタッグを組んだ理由【the innovator】

富山 英三郎

未来のウェアラブル機器に欠かせない、エレクトロ二クス、通信、繊維という3大要素。これらを一気通貫に行える新会社『帝人フロンティアセンシング』が2018年4月に誕生した。スポーツ分野での普及を皮切りに、今後はヘルスケアや労働時の作業管理へと広げていくという。近い将来、同社からどのようなイノベーションが生まれていくのかに迫った。

世界でも類を見ない新会社が誕生

独自の無線技術をベースに、主にスポーツ分野における動きや生体信号を計測するデバイスの開発。さらには測定した数値の分析までを得意とする『スポーツセンシング』。そして、繊維製品を中心とした大手商社兼メーカーであり、近年はスポーツやヘルスケアにおけるウェアラブル製品の研究・開発にも注力してきた『帝人フロンティア』。そんなふたつの会社が『帝人フロンティアセンシング』という新しい会社を2018年4月に設立した。

代表取締役社長に就任したのは、スポーツセンシングの代表も務める澤田泰輔氏。新会社では、それぞれの強みを活かしながら、スポーツやヘルスケア分野における革新的なウェアラブル製品の開発をおこなっていくという。そこで、澤田氏にこれまでの軌跡と新会社が描く未来についての話を訊いた。

「スポーツセンシングという会社についてまずご説明しますと、スポーツバイオメカニクス(生理学、解剖学、力学を融合して身体の特徴をとらえる)分野における研究開発用機器の販売からスタートしています。前身の企業時代から数えると10年になります。きっかけとなったのは、当時はまだ海外の高価な計測機器しかなかったこともあり、より広く国内で普及させるための新たな製品作りが求められたことがあります」

指導者としての経験から生まれたテクノロジーへの興味

澤田氏は、U-12世代のサッカー指導者という経歴を持つ。その際、スポーツ分野におけるテクノロジーの必要性に気づき、スポーツセンシングを立ち上げることとなった。

「人口減少の時代、教えられる子どもの人数にもまた限りがあります。そのなかで、いかに素材を伸ばすかを考えたとき、教育という行為だけでは実現不可能な部分があることを感じたんです。私がコーチをしていた20年前であれば、ハーフタイムに前半戦の映像を活用するということは、到底考えられなかった。現在も根底にあるのは、計測 → 分析 → フィードバック → トレーニング/試合という循環をいかに適格かつ効率的におこなうかということ。そういうツールやサービスの種類が増えてスポーツ界に広まれば、より継続的な育成ができると思うんです」

スポーツセンシングの主力製品のひとつに『DSPワイヤレス筋電センサ』がある。これは、6軸センサ(加速度3軸/角速度3軸)を備えた計測機器で、表面筋電図と同時に取り付けた部位の運動データを詳細に読み取ることができるものだ。しかも、コンパクトな機器のなかに演算装置も組み込まれている。これをどう使うかは、スポーツの特性によって変わってくるので一概にはいえない。

「加速度センサーを活用するといっても、ボクシングならばパンチ力という評価軸になり、リハビリであれば身体の姿勢という評価軸になることもあります。つまり、計測自体は同じでも計算の仕方がまったく異なるんです。だからといって、パソコンにすべてのデータを漏れなく転送することは難しく、計算精度を得られないことが多々ある。そのために、小さいセンサーの中に演算装置を組み込んでいるのです」

計測した数値を、どのような評価軸で提示する(フィードバックする)のか。そこもまた重要なのだ。

「もうひとつは無線技術です。我々が独自の無線方式(国内電波認証取得済み)を開発しているのは、複数を同時に測るため。ラグビーやサッカーのような競技では、20人や30人を同時に計測したい場面があるんです。そうなると、Bluetoothのような一般的な技術ではマッチしません」

DSPワイヤレス筋電センサ(乾式)

スポーツジャンルを問わず、競技技術の向上を目的とした製品作りをおこなってきたスポーツセンシング。一方で、計測という意味では応用範囲が広いため、ヘルスケアはもちろん、ロボット工学や人間工学など、人の動きを取り扱うジャンルの研究者にも広く活用されている。すでに、500を超える大学の研究室で使われているというから驚きだ。

ウェアラブル化により、いつもと変わらない動きが計測できる

さて、ここからが本題。そんなスポーツセンシングが、革新的なウェアラブル製品へと注力する際に、なぜ帝人フロンティアと組んだのだろうか。

「計測機器を身体に取り付ける際、選手や被験者の方々にとって違和感のないものであることが重要です。機器を取り付けたことで、いつもとは違う動きになったら意味がありませんから。そこを突き詰めていくと、ウェアと一体化したものになっていく。そのためには、繊維の技術、糸を作る技術、ウェアを作る技術が必要不可欠になってきます。そこを自前で開発するということは不可能です。ですから、日本を代表する繊維商社であり、さまざまなグループを持つ帝人フロンティアさんと協業できることは大きな強みなんです。繊維、エレクトロニクス、通信、そこを一気通貫してできる会社は世界に類を見ません」

ウェアにポケットを取り付けて装置を入れたり、サポーターのようなものに貼り付けるのではなく、ウェア自体がデバイスも兼ねていれば計測していることを忘れてしまう。吸汗速乾性やストレッチ性など、快適な着心地を備えていることも重要だ。そんな世界を目指して、帝人フロンティアセンシングは誕生している。

帝人グループがこれまでに開発したウェアラブル技術の一例:関西大学と帝人株式会社の共同開発によって生まれた、圧電体を組紐状にしたウェアラブルセンサー「圧電組紐」。柔軟かつ屈曲性のある紐状のセンサーなため、目的に合わせてさまざまな太さや長さ、形状に調整可能。脈拍計測など広い用途での使用が可能。

「心電・心拍や加速度を計測するものなど、スポーツセンシングがすでに発売しているものはすべてウェアラブル化していきます。早いもので今年の秋には発表できると思います。分野としては、スポーツ、ヘルスケア、作業管理が大きな柱。スポーツは運動強度が高く、リハビリなどのヘルスケアは運動強度が弱く、作業管理はその中間といった感じ。作業管理に関しては、発汗の管理やストレスのようなものを計測しながら、居眠りや疲れを予想していくアルゴリズムを作っていきます。まずは熱中症対策からスタートする予定です」

高みを目指す、すべての人が活用できる社会へ

ウェアラブル、つまり計測機器がウェア化することで、今後はB to Cの領域が広がっていく。では、パラスポーツに関しては、どのような動きが生まれるのだろうか。

「スポーツセンシングとしては、すでにパラリンピック競技をされている方々と深い関わりがあります。開発中のウェアラブルデバイスにおいても、さまざまな競技で導入の流れが進んでいます。パラ系競技の場合、疲労度などが外見から判断できないことが多いのです。なので、いまは選手交代もプレイ時間で見ていくしかない。今後は良質なデータを得ることで、より安全で高レベルな競技ができるようになればと思っています」

最後に、革新的なウェアラブル計測器を生み出すことで、どんな未来がやってくるのかを聞いてみた。

「私の夢は前述のように、計測 → 分析 → フィードバック → トレーニングという循環のスピードを速めることなんです。その実現のひとつにウェアラブルがある。また、古くからトップアスリートの方々とご一緒してきましたが、たとえマイナーな競技であってもトップを目指している人の熱量は変わらないんです。お金が多く集まる競技ばかりにツールやソリューションが集中するのではなく、どの競技でもどんな世代でも、高みを目指そうとしたら手に入るツール、システム、ソリューションを提供することで、社会に貢献できればと思っています」

澤田泰輔
帝人フロンティアセンシング株式会社・代表取締役社長
九州芸術工学大学(現九州大学) 芸術工学部 音響設計学科卒。学生時代よりU-12世代のサッカー指導者として活躍。音響機器メーカー入社後も、指導を行っていた。その後、フリーランスのエンジニアとなり、株式会社ロジカルプロダクトへ参加。2015年、スポーツ分野向け計測機器の開発・販売を行う株式会社スポーツセンシング代表取締役社長へ就任。2018年より、帝人フロンティアセンシング株式会社の代表取締役社長と兼務。

(text: 富山 英三郎)

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