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パラ車いす陸上伊藤選手クラス変更 メダル厳しく “ハイレベルなショック”

HERO X 編集部

東京2020パラリンピック車いす陸上で、メダルが有望視されていた伊藤智也選手(バイエル薬品)が、大会直前のクラス分け審査で今までよりも障がいの軽いT53クラスに振り分けられることが分かった。これにより、最もメダルに近いとされていたT52男子400メートルへの出場が絶望的となった。25日に開かれた記者会見に登壇した伊藤選手は「ハイレベルなショック」と話し「(車いすレーサーを)共同開発してきたRDSチームに対して、最高の場所で(レーサーを)デビューさせることができなかったことを申し訳なく思っている」と、悔しさをにじませた。

パラリンピックは障がいの度合いに応じてクラス分けがされる。伊藤選手が出場を予定していたT52は、指の曲げ伸ばしに制限があり、自力で座位を保つことができないというのが一つの基準だ。IPCからの審査スコアの公表がまだされていないため、どの部分で今までよりも軽い障がいクラスに認定されたのか正式な発表はこれからだが、伊藤選手は、自力で座位を保つことに必要とされる「体幹機能が残っていると判断されたのではないか」と話す。伊藤選手は多発性硬化症という進行性の病気を抱えており、昨年11月には大きな再発もあった。本人は身体機能の回復は全く感じていないという。

「競技クラスだけが軽くなって、体(の状態)は重いまま」(伊藤選手)

会見に同席した日本パラ陸上競技連盟強化委員長の指宿立監督は、これまでの審査(2019年ドバイ世界パラ陸上など)や、エビデンスの結果を見ても「体幹機能が残っているという結果はない」と話し、今回のクラス分け審査について「日本チームとしては納得していることではない」と、記者団に対し強く伝えた。

パラ競技のクラス分けの
「公平性」はどこにあるのか

T52は肩関節、肘関節、手関節の機能は、正常もしくはほぼ正常である。指の曲げ伸ばしに制限がある。 自力で座位バランスを保つことが出来ない。(C7/8 頚髄損傷レベル)。
T53は両上肢の機能は、正常もしくはほぼ正常である。 腹筋と下部背筋の機能がなく、自力で座位を保つことが出来ない(T1~T7 脊髄損傷レベル)。(一般社団法人 日本パラ陸上競技連盟 「分かりやすいクラス分け」より)

パラ陸上競技のクラス分けは、①身体機能評価、②技術評価、③競技観察という三つから確定する。今回の伊藤選手のクラス変更の結果は、このうちの①と②の結果として通知されたもの。現在は③の競技観察という項目がまだ残っている状態だ。競技観察については、当初申請していたクラスで様子を見るという認定方法もあるのだが、認定を行う審査員にあたる「国際クラシファイヤー」は今回、変更後のT53男子400メートルでの観察を指定してきた。伊藤選手によれば、車いす陸上にとって、障がいの度合いクラスが一つ下がることは、高校生と小学生が戦うほどの違いがあるという。伊藤選手は手を動かすことが難しいという障害も残っているが、T53となれば、腕や手の機能は正常という選手たちと同じ土俵で戦わなくてはならなくなる。

これまでの実績考慮されず

伊藤選手はこれまで、2008年の北京パラリンピックでT52クラス男子400メートルと、800メートルで金メダルを獲得、引退を表明したロンドンパラリンピックでは銀に終わったものの、2016年にパラリンピック再挑戦を宣言、トレーニングに励んできた。東京2020パラリンピックに先駆けて行われた2019年のドバイ世界パラ陸上ではT52クラスで400メートル銀メダルを獲得していたが、この大会を含め、過去の大会でクラス変更の判定をされたことは一度もなかった。
指宿監督は「(これまでの)データやエビデンスを見ても、T53に変更になるようなデータは見られない」と話す。

選手ファーストの審査を考えるならば、競技観察はこれまで実績のあるT52クラス400メートルで行うことが妥当と思われるが、今回、「国際クラシファイヤー」は、初挑戦となるT53クラスでの競技観察を指定、変更となったT53の最初の種目となる男子400メートルで、クラス分けの最終決定が行われることになった。

しかし、金メダルに期待のかかるT52クラス400メートルの予選は、競技観察レースとなるT53クラス400メートルよりも前に試合が終わる。競技観察でクラス判定が覆り、再びT52と認められても、すでにレースは終わっているため、現段階で“400メートル金メダル”の夢は失われたことになる。

「(T52クラス)400メートルを目標にトレーニングをしてきたので、非常に無念です」(伊藤選手)

50代で現役復帰を宣言し、このパラリンピックを目指してトレーニングを積み重ねてきた伊藤選手。会見では、長年、伊藤選手の取材を続けてきた記者が、涙混じりに質問する姿も見られた。

「まだ、パラリンピックも終わっていない」

持ち前の前向きな姿を見せようとする伊藤選手は「これまで、沢山の方々に支えられてきた。(その人たちと)一冊の本をつくってきたのだとすれば、たかだか1ページ、イレギュラーがあったということだけ。まだパラリンピックも終わっていません。ならば、勇気を持って、つぎのページをめくりにゆく姿勢が自分には必要なのかと」と、出場が決まったクラスについて、とにかく全力で挑む姿勢を見せた。

「結果また、自分にとって嬉しくないページがくるのかもわかりませんが、その時に、自分一人で背負いきることができなければ、チームのみんなに一緒に背負ってもらって、一緒に泣こうかなと思っています」(伊藤選手)

伊藤選手が登場するのは29日(日)11時25分~行われる車いす陸上T53男子400メートル予選だ。競技観察で審査が覆り、元のT52となれば、その後に開かれるT52男子1500メートルと、100メートルに出場することもできる。まずは、29日の行方を見守りたい。

(text: HERO X 編集部)

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フリースタイルパークを沸かす16歳!BMXライダー中村輪夢はどこまで高く跳ぶ!?

朝倉奈緒

昨年、東京2020の新種目に決定したBMXフリースタイルパーク。そのニュースとともに、若きトップライダーに注目が集まった。ゼロ年代生まれ、16歳のBMXトップライダー・中村輪夢 (なかむら・りむ) だ。

生れながらのニューヒーロー?

BMXライダー・中村輪夢 (なかむら・りむ) 画像提供:First Track Inc

彼の強みは、なんといってもジャンプの高さ。BMXフリースタイルを観たことがあってもなくても、バイクと彼とがひとつになり、軽やかに空中に舞い上がる様を観たら、思わず感嘆の声を漏らさずにはいられないだろう。

若干13歳で、エックスゲームの本場・米国の世界大会 (RECON TOUR [13-15歳クラス] / 2015) で優勝した後も輝かしい成績を納め続け、トップライダーとしてのその実力に、エクストリームスポーツではお馴染みのレッドブル社、オークリー社など数多くの企業がスポンサードしている。

それに、誰もが応援したくなるキュートなマスク。テレビ番組等だけでなく女性誌の取材があるのも頷ける、新世代のヒーローである。

HERO X 編集部がインタビューをしたのは、昨年のこと。15歳 (取材時) の中村輪夢は、少年から青年へと変化する、そんな表情をしていたように思う。「仲間と日本のエクストリームスポーツの未来について語ったりは?」という大人の愚問を、「まさか!」と無邪気にかわし、内なる野心も具体的な言葉で表すことは少ない。しかし10代半ばとは、大人たちよりずっと敏感に自分自身を見つめ、推し量り、向き合うことを日々行える年齢でもある。その探り方は、感覚値かもしれないが。

数々の質問を投げかけた際、いつも一瞬の静寂がある。空中に舞い上がり、トリックを決めるあの一瞬のように。在るが儘に、しかしきちんと「決めて」答えを示すその様や、「間」の取り方に、BMXが染み入るように身体に馴染んでいることを感じた。

「テクニックを磨くにはどんな練習を?」との問いに、「毎日1cmでも、意識して高く飛べるようにしている」と、ふんわり答える中村だが、それもそのはず。中村輪夢は、元BMXライダーで、現在BMX専門店を経営している父・中村辰司さんの影響で、3歳から自然とBMXに乗り始めた。輪夢の名は、車輪の一部「リム」にちなんで辰司さんがつけたものだ。

「乗っていることがあたり前で、乗っていないことが不自然」というくらい、もはやBMXは彼にとって身体の一部のような存在なのだ。

殺さず、静かに。

BMX競技のフリースタイルパークとは、もともとスケートボーダー向けに作られた、“バンク” と呼ばれる斜面や、“ランプ” (ハーフパイプ) など、大小様々なセクションが設けられたスケートパークで、規定の時間内で技 (トリック) を競い合う種目。採点基準は、トリックの難易度やジャンプの高さ、独創性やスタイル、多様性や達成度など多岐に渡り、スピードや完成度だけでなく、オリジナリティやパフォーマンス力も問われる。

中村の強みであるジャンプの高さについて、「通常なら減速してしまう、ランプのRの部分。輪夢はそこが他の選手と違う。身体をうまく使い、上っていくときのスピードを殺さず、高さに還元できる。あれだけ高いジャンプから着地したときに、音もさせず次にスッと繋げるスムーズな動作も秀逸だ」と、マネージャーが彼に代わって解説する。

「全てを合わせるタイミングが絶妙で、ではなぜそれを可能としているのかといったら、感覚でやっているとしか本人には言いようがないですね」

この見解は、客観的に彼のライディングを観察しているからこそ見えてくることなのだろう。しかし中村本人にとっては、その「感覚」を掴むまで乗り続けることが、テクニックを磨き、目標を達成する一番の近道なのだ。

自分の実力に驕ることはない。彼はとにかく「乗る」ことに夢中なのである。

文平龍太氏がエグゼクティブプロデューサーを務める「CHIMERA GAMES vol.4」でのライディング

あと2年でどこまで飛ぶ?

現在高校2年生の中村輪夢だが、プロのBMXライダーとして活動しているため、学業は通信制度を利用している。朝から日が暮れるまで、スケートパークで思う存分練習に励める環境だ。

「自分のできることをひとつずつこなすこと。次の大会で自分の思い通りのライディングができるようになることが、いつも今一番近い目標です。そういった目標をオリンピックまでにひとつずつ立てて、クリアしていけたらいいなと思っています」

技がなかなか決まらなかったり、BMXのメカニック部分で気になることがあれば、父・辰司さんに相談することもあるという。米国メーカーに特注したという世界で一台のバイクは、軽くて強度が高い。練習量が多く、アクロバティックな技を駆使する彼のバイクは、日々、細部にわたる調整が必要だろう。バイクに不具合が生じたら、すぐに辰司さんが的確な処置をしてくれるという絶好の環境は、親子二人三脚というよりもプレイヤーと技術者の関係だ。

東京2020まであと2年。BMXなどストリートシーンからなる競技が、オリンピックというメインストリームの舞台で正式種目となれば、これからより広く注目されることになる。既にそのアイコンのひとりとなっている中村輪夢も、18歳・成人となる。どんなライディングを、エキサイティングな未来を見せてくれるのだろうか? そして、より高く飛んだ彼の未来が、これから楽しみでならない。

中村輪夢
BMXライダーBMXショッも経営している父親の影響、3歳から自然とBMXに乗り始める。5歳大会に初出場をすると、小学校高学年の頃にはキッ クラスにおいて全ての大会優勝。中学生でプロ転向を果たした。2015年にBMXの本場アメリカ行われたRECON TOURの13~15歳クラスにおいて優勝し、その世代の世界一となる。
2016年には世界の強豪も参戦したG-Shock Real Toughness優勝を飾り、日本中を驚かせた。
2017年の11月に開催された第1回世界選手権では最年少でファイナルに進出し7位入賞。12月に開催された第1回全日本選手権では初代チャンピオンに輝く。

主な成績
2015年 FISE World成都大会 優勝 (アマチュア部門)
2016年 RECON TOUR 優勝 (13~15歳クラス)
2016年 PERUGIA CUP 優勝
2016年 G-Shock Real Tougness 優勝
2017年 FL BMX Series 3位
2017年 JAPAN CUP大会富山大会 優勝
2017年 UCI UCIアーバンサイクリング世界選手権 7位
2017年 第1回全日本BMXフリースタイル・パーク選手権大会 優勝
2018年 UCIワールド杯広島大会 9位

動画転載元:Red Bull Youtube 公式チャンネル]
世界一クールな “通学スタイル”
【中村輪夢】BMX界の若きエースが学ラン姿で大爆走!? その笑撃の結末とは……
https://www.youtube.com/watch?v=ZmudxqA0lyY&t=6s

(text: 朝倉奈緒)

(photo: 長尾真志)

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