対談 CONVERSATION

スポーツ弱者を減らせ!「ゆるスポーツ」の仕掛け人、澤田智洋の挑戦 前編

宮本さおり

シニアがヘッドホンマイクを付けて楽しむ様子が斬新なトントンボイス相撲など、柔軟な発想から生まれる誰もが楽しめるスポーツの創造を続けている「ゆるスポーツ」という取り組みをご存じだろうか。スポーツの新たなジャンルを切り拓く仕掛け人となっているのが一般社団法人 世界ゆるスポーツ協会の代表理事 澤田智洋氏だ。スポーツクリエーター・福祉クリエーターの肩書を持つ澤田氏が考えるスポーツとはどのようなものなのか。『HERO X』編集長 杉原行里が鋭く迫る。

誰もが楽しめる「ゆるスポーツ」

杉原 :澤田さんが手がけられている「ゆるスポーツ」にすごく興味があって、お話を伺いたいなと思いました。トントンボイス相撲とか、いろいろな競技がありますよね。

澤田:はい。表に出しているだけでも70競技くらいあって、でも、アイデアとしては何千とあるんです。「ゆるスポーツ」は2015年に立ち上げて、もうすぐ4年になりますけれど、例えばトントンボイス相撲はマイクを使ってトントンと声を発することでステージが振動し、紙相撲力士を動かすことができるものです。

杉原:僕はこのキービジュアルが好きです。おばあちゃんがヘッドホンマイクをつけている違和感がなんとも言えないですよね。

年齢とともに機能が低下すると言われる喉を鍛えるリハビリ的要素もあるトントンボイス相撲。

澤田:ありがとうございます。僕は、マイノリティっていろいろなものがあると思っていて、例えば、スポーツができない、苦手というのもひとつのマイノリティじゃないかなと。つまり、特別な人だけがマイノリティなのではなくて、全ての人の中になにかしらのマイノリティ性があるのではないかと。僕自身も運動が本当に苦手でして…。

杉原:そうなんですか? 見た目では全然そんなふうに見えないですが。

澤田:いや〜、本当に苦手なんです。いわゆる運動音痴。改善はされない。そこであえて、スポーツ弱者という言葉を作ったのですが、スポーツができない人は結構いる。統計的には日本人の48.5%がスポーツをしてないと言われていています。スポーツって、ひとつのコミュニティなので、スポーツ弱者というのはスポーツをする人と比べて人との接点がそれだけ少ないわけです。そして、健常者はもちろんですが、障がい者の場合、成人している人の5人に1人くらいしか運動をしていないというデータもあります。つまり、運動不足って、新しい人間関係を作るチャンスが1個減っているみたいなことがある。その部分に僕は着目していて、2020オリパラに向けて、日本は大胆でポジティブな提案を世界に示すべきではないかと思っているわけです。

障がいをも攻略できる 新しいスポーツの姿

 

杉原:大胆でポジティブな提案、なるほど。そのための取り組みのひとつが「ゆるスポーツ」ということですか?

澤田:そうですね。「障害攻略課」というのをやっていて。

杉原:それも立ち上げられたのですか。

澤田:そうなんです。スポーツ弱者はもともとスポーツとの接点がないわけです。高齢者や障がい者の方もスポーツ弱者の方が多い。そうしたスポーツ弱者とスポーツとの接点を作るためにどうしようかと考えて、既存スポーツを無理やりやるとかよりも新しいスポーツを作るほかないであろうと。バリアフリーとかダイバーシティとかインクルージョンとか言葉はいっぱいあるけど、全部外来語なのが気になっていて。障がい者と高齢者ってバリアフリーだとか言っても分からない。もっと分かりやすくしたいと思って、「障害攻略課」という言葉をつくり、それを会社にしたのです。

杉原:ちょっとネーミングがロボットチックですよね。

澤田:そうですね。社会にある障害、差別意識をゲームをクリアする感覚で皆でワイワイ言いながら攻略して行こうぜみたいな。

杉原:なるほど。アプローチの仕方は違うのですが、僕らが考えていることはすごく近いと思います。僕は、社会にある障害というのはデザインで超えられることだと思っていて、超える方法、アプローチの仕方はいろいろあるなと。

澤田:すごくいいと思う。僕も福祉機器を美しくカッコよくはメインストリームだと思うので。あと、みんなが「カントリーデザイン」をしていくべきだと思っていて、これも勝手に僕が作った言葉なのですけどね。

杉原:「カントリーデザイン」。面白い言葉ですね。

澤田:ありがとうございます。つまり、この国をどうデザインしていくか一人ひとりが考える必要があると思っていて、民間だからこそできる国作り。特に先進的なことをやっている人にはこのことをよく考えてほしいなと思っています。

杉原:その文脈でいくと、僕が思うに2020東京オリパラは好機ではないかと思うのですが。

澤田:そうだと思います。マイナーチェンジだけで終わらずに何か日本だから発信できることができたら面白くなると思っています

後編へつづく

澤田智洋
1981年生まれ。幼少期をパリ、シカゴ、ロンドンで過ごした後17歳の時に帰国。2004年広告代理店入社。映画「ダークナイト・ライジング」の『伝説が、壮絶に、終わる。』等のコピーを手掛けながら、多岐に渡るビジネスをプロデュースしている。誰もが楽しめる新しいスポーツを開発する「世界ゆるスポーツ」協会代表理事。一人を起点にプロダクトを開発する「041」プロデューサー。視覚障がい者アテンドロボット「NIN_NIN」プロデューサー。義足女性のファッションショー「切断ヴィーナスショー」プロデューサー。高知県の「高知家」コンセプター。

(text: 宮本さおり)

(photo: 増元幸司)

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対談 CONVERSATION

全国の公務員を繋げたら世の中が良くなった理由

富山英三郎

世の中を良くするため、人と人を繋げる。神奈川県理事の脇雅昭氏は、プライベートな時間を使ってそのことに専念してきた。全国の公務員をリアル・オンラインで繋ぎ、出会いの場所を創造していく。近年は民間とのマッチングもスタート。そんな脇氏と交流のある本誌編集長・杉原行里がその真意を紐解く。 ※対談は、ソーシャルディスタンスに配慮して実施。撮影時のみマスクを外しています

進化し続ける出会いの場

総務省から出向し、神奈川県庁で理事(未来戦略担当)を務める脇雅昭氏。同氏が各所で注目されているのは、人と人を繋げる活動を続けていることにある。

スタートは2010年、47都道府県の地方公務員と中央省庁の官僚の交流の場となる『よんなな会』を立ち上げたことだ。コロナ禍の前は年2〜5回のイベントを開催し、休日を利用して全国から集まる公務員たちに向け、講演会や懇親会を実施してきた。

その後、2020年には全国の公務員が東京出張時に気軽に立ち寄れ、さまざまな職業の人たちとリアルに出会える場所として『よんななハウス』を東京にオープン。さらに、全国の公務員によって運営される、公務員限定のオンラインプラットフォーム『オンライン市役所』もスタートさせている。

公務員とは世の中が良くなるために頑張る仕事

杉原:まず率直に、脇雅昭とは何者なんだろうという疑問があるんです。

脇:あははは、ひとことで言えば「公務員」です。公務員とは、世の中が良くなるために頑張る仕事。なので、自分が思いついた世の中にとって良いものは何でもやってみようとしています。

よんなな会発起人であり神奈川県理事の脇雅昭氏 ※撮影時のみマスクを外しています

杉原:本業である神奈川県での仕事では、さまざまな社会課題に取り組まれていると思います。現在はどのようなことをされているのでしょう。

脇:最近はワクチン接種に関することばかりです。本来は「未来戦略担当」で、未来と名のつくものすべてに関わっています。

簡単に言えば、社会課題をいかに解決するかを考える仕事。皆様から税金をいただいて、予算を作って、事業を作ってというのがこれまでの解決方法でした。しかし、社会課題のすべてに税金を投入するのは難しい。では、何か新しい解決方法はないか? そこを模索するのがチームの仕事です。

例えば、税金ではなく各種ポイントを寄付のように使っていただくとか。実際、クレディセゾンさんの永久不滅ポイントを活用している例があります。

杉原:プライベートな時間を使って『よんなな会』を始めたきっかけは何だったのでしょう。

恩返しの気持ちからスタートした『よんなな会』

脇:きっかけは、大分から総務省に赴任していた同僚です。赴任してから、働き過ぎてどんどん元気がなくなってしまった。私も熊本県へ赴任した経験があって、そのときは県庁や地元の方にたくさんお世話になったんです。でも、その逆ができていないと感じたので、いろいろな人を紹介する飲み会を開くようになったんです。

杉原:純粋な恩返しの気持ちから始まっていたんですね。

※撮影時のみマスクを外しています

脇:はい。同期も地方に赴任した経験があったので、それぞれお世話になっている方を呼んで、60人くらい集まったのが『よんなな会』の発端。今ではFacebookに約6000人いて、コロナ前は毎回500~600人集まってイベントをしていました。それができなくなったので、『オンライン市役所』を作ったわけです。

公務員に限らず、所属している組織の「あたりまえ」に脳が支配されて、自分の限界を決めてしまいがちです。だからこそ、いろんな人たちに会うことが大事で。自分の組織のやり方が唯一ではないと知れば、もっと頑張れるんじゃないかと思っていたんです。

杉原:すごくよくわかります。

同じような仕事をしている
全国の公務員をオンラインで繋げる

脇:『よんなな会』というのは、全国の公務員が自腹でリアルに集まる場所なので熱気もあるし仲間もできる。でも、少しモヤモヤしていた部分もあって…。休日の熱気そのままに月曜も頑張れているのかな? ということ。非日常のお祭りも大事ですが、もっとも必要なのは日常での「気づき」や「出会い」なのではないかと。

杉原:地元に帰っていつもの組織に戻った途端、逆にテンションが下がることはありそうです。

脇:そう、そんなときに熊本県時代を思い出したんです。ある町から届いた資料が滅茶苦茶だったんで、電話でクレームをいれようとしたんです。担当者名簿を見たら、僕らが10人くらいでやっている仕事をその方ひとりで全部やっていて、「こりゃ無理だわ」と思ったんです。

そこで初めて市町村の大変さを知ったと同時に、そんな日常の中で新しいことを始めたり、前に進もうなんて相当大変なことだよなと。

杉原:もうすでに十分頑張っているわけですから。

脇:その出来事をふと思い出したとき、これは「縦の組織だけを見ているから大変なんだ」と。横で見たら1741市町村、47都道府県も合わせると1788の自治体があって、そこには同じような仕事をしている。ここを「横でつなげば相談できる人がいっきに増えるな」と思ったんです。「それができるのはデジタルの力だ!」と。

コロナ禍で大変ではありましたが昨年4月にオープンしました。現在、1788自治体ある中で1015の自治体が参加するまでになったんです。

杉原:それはすごい!

オンライン市役所のホームページ

脇:『よんなな会』のときから主催者と参加者という関係がすごくイヤで、とにかくみんなを巻き込みたかった。なので、自分の関心ごとを立ち上げてもらい、5人くらい集まったら「課」にすることにしたんです。仕事に直結するような「みんなの財政課」、「生活保護ケースワーカー課」や、スキルを高めるような「パワポ課」、サークルに近い「子育てサロン」とかすでに50課くらいあります。

頑張るべきところを正しく頑張れる仕組みづくり

杉原:そんな『オンライン市役所』から、どんなものが生まれることを期待していますか?

脇:頑張るべきところを正しく頑張れるようにしたい。ワクチンを例にすると、今回は国で方針を決めずに、自治体の実情に応じて決めるように任されたんです。過去に実例がないことで、みんなそれぞれで考えているのですが、これは知の無駄遣いなんですよ。

杉原:しかも検証ができない。

脇:そうなんです。誰かが考えた良いものを共有すれば、それを基礎にそこから頑張ればいい。今回、大阪にシステムに詳しい方がいて、彼が仕組みを簡潔にまとめてくれたんです。それをオンライン市役所でシェアしたところ、みんなが(簡単に)理解できた。そういう土台(基礎)があると、「その地域にとってのベストアンサーを考える」という一番大事なことに割く時間が増やせるわけです。

神戸市・長井伸晃氏を中心に全国の公務員がオンライン上で集まり、ワクチン体制についての情報を毎週交換。毎回200名近くが参加している。

また、社会課題が先進的に起きている自治体もたくさんあって、「将来こんな課題がくるよ」とわかるだけで備えられる。災害における避難所の棲み分け問題とかもそう。「うちはまだ検討していなかった」ということがわかることが大事で。現場にいる1788自治体の参加者がいるからこそ気づける、リアルな課題なんです。

杉原:公務員は医療の現場と似ていて、トライ&エラーが許されないですよね。どうしても石橋を叩きながら渡らないと批判されてしまう。その結果、サービスが遅れたり劣化したりしてしまう。

脇:どこかで誰かがトライ&エラーしてくれたら、同じエラーをする必要がなくなるんです。また、エラーした担当者が「批判」を抱え込むのではなく、みんなにとっての「価値」に生まれ変わる。青臭い話ですけど、結局は「みんなで世の中をよくしていこう」ということなんです。

※撮影時のみマスクを外しています

利害関係のない公務員だからこそ「ハブ」になれる

杉原:月に1回、民間の方も呼んだ『オンラインよんなな交流会』も開催されています。それは何故でしょう?

脇:行政だけでは解決できないことってたくさんあるんです。一方で、利害関係のない公務員だからこそ「ハブ」になることができる。稼ぐことが許されない公務員だからこそ、自分が本当に素晴らしいと思う人、社会課題の解決に尽力している人たちを繋ぐことができる。

杉原:そこには脇さんの知り合いしかいないというのもポイントですよね。

脇:いい人かどうかだけで判断しています(笑)。朝9時から夜11時までの4部制にして、毎回20人程をマッチングしています。参加するまでどんな人が来るか誰もわからない。「誰々が来るから行きます」というのがイヤなんです。

杉原:これまでのマッチングで成功例などはありますか?

脇:う~ん…あるはずなんですけど本当に覚えていなくて。最初の頃はメモもしていましたけど、そこに時間を割くくらいなら、人を繋ぐことに注力したほうが意味があるんじゃないかって。「ありがとう」とはよく言われますけど(笑)。

杉原:そのピュアさが素晴らしい。脇さんのフィルターが通っているから、みんな気持ちよくディスカッションできるんです。そして、起業家にとって社会課題は貴重なんですよ。「それ、俺ならできるよ!」とか「困ってるのになんで声かけてくれないの?」というのはそこら中にあると思うんです。

※撮影時のみマスクを外しています

脇:「課題」って誰がボールを持っているかで変わってくるんですよね。行政が持っていたら課題でも、民間に渡すと「ビジネスチャンス」になったり「財産」になるんだなって。それもまた人と出会うことでわかるんです。自分たちが持っているものが「悲観」的なものではなく、「価値」あるものだと思えるようになるんです。

杉原:僕は脇さんにお会いしてから、公務員のイメージがアップデートされたんです。こんなに頑張っている人がいるんだって。脇さんはよく「公務員の志が1%上がったら、世の中はめちゃくちゃ良くなる」と仰っています。まさにその通りだなと思うんです。

脇:みんなすでに頑張っているので1%でいいんです。それでも公務員は人口の3%、338万人もいるので、その力を合わせたらすごいことができると思います。

※対談は、ソーシャルディスタンスに配慮して実施。撮影時のみマスクを外しています

脇雅昭(わき・まさあき)
神奈川県理事(未来戦略担当)。よんなな会発起人。
1982年生まれ、宮崎県出身。2008年総務省に入省。現在は神奈川県庁に出向し、官民連携等の取り組みを進める。プライベートでは、国家公務員と47都道府県の自治体職員が、ナレッジや想いを共有する「よんなな会」「オンライン市役所(https://www.online-shiyakusho.jp/)」を立ち上げるなど、地方創生のためのコミュニティ基盤づくりを進めている。

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(text: 富山英三郎)

(photo: 増元幸司)

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