対談 CONVERSATION

音を感じる世界が、声を出すきっかけに!「Ontenna」開発者・本多達也が届けたいもの 前編

宮本さおり

光とバイブレーションにより、音を伝えてくれるデバイス「Ontenna」(オンテナ)。この新しいデバイスが聾学校の子ども達が言葉を話すきっかけをも作り出しているという。そんな「Ontenna」の開発者、本多達也氏は「Ontenna」を使いどのような未来を切り開こうとしているのか。開発当初から親交のある編集長・杉原行里が迫る。

杉原:お久しぶりです。「Ontenna (参考:http://hero-x.jp/movie/2692/)」やっと実用化になりましたね。この日を心待ちにしていました。

本多:ありがとうございます。行里さんにぜひ見ていただきたいと思っていました。

杉原:パッケージもこだわりを感じますね。充電もこれでできるっていうところがいいですね。

※注:充電にはmicro USBでの接続が必要です。

本多:よくぞ気づいてくれました。そうなんです。試行錯誤しながらやっとここまできまして、3段スイッチにしています。スライドを真ん中にカチッとしていただくと、電源が入るようになっています。「あー、あー」(発話)

杉原:バイブレーションがしっかりと伝わります。感度がものすごくいいですね。

本多:はい。大きい声だとバイブレーションの強度も強くなり、小さな声だと弱くなります。音の強弱も伝えることができるようにしています。それから光。音に反応して光も出ますから、見ていても楽しいですよ。

杉原:本当だ!

本多:「Ontenna」は何を話しているかまでは分からないのですが、音が出ていることを掴むことはできる。そこに特化させたものです。聾学校の生徒さんたちに体験していただいているのですが、太鼓を叩いたり、笛を吹く合奏で「Ontenna」をつけてもらったところ、音を感じることができるので、リズムが取れるようになったんです。もちろん、彼らが発する声にも反応する。言葉の受け手はバイブレーションで音をキャッチできますし、発話者は光で自分の声が相手に届いていることが分かります。聾学校に通う子どもの中にはなかなか発話をしない子もいるのですが、「Ontenna」を使うことで子ども達が声を出しはじめたというケースの報告も先生方から受けています。

当事者との出会いから開発へ

杉原:なるほど。聞こえないと、本当に自分は声を発しているのかとか、声が届いているのかは分かりにくいものですが、こうしてきちんと見えて感じられたら、確かに楽しいでしょうね。子どもたちが飛びつくのも分かります。そもそも、なぜ、本多さんはこれを開発しようと思われたのですか?

本多:大学1年生の時にある聾者の方と出会ったのがきっかけでした。手話の勉強をはじめて、手話通訳のボランティアをしたり、手話サークルを作ったり、NPOを立ち上げたりと、いろいろと活動していました。

杉原:やはり、人との出会いがきっかけなのですね。

本多:そうですね。僕が出会った聾者の方は、生まれてすぐに出た高熱により、神経に障がいがでてしまい、全く耳が聞こえないという方でした。人工内耳も補聴器も使えなかった。なので電話が鳴ってもわからないし、アラームが鳴ってもわからない。動物の鳴き声なんかもわからないなかで生活をしていたんです。もともと自分がデザインやテクノロジーの勉強をしていたので、そういった知識を活用してなんとかできないものかと考えはじめたのがきっかけでした。そこで思いついたのが、バイブレーションと光で音を伝えるということでした。「Ontenna」は、60〜90dBの音の大きさを256段階で光と振動の強さにリアルタイムに変換し、リズムや音のパターンといった音の特徴を着用者に伝えます。

杉原:60~90㏈っていうのはなにか医学的領域の話ですか?

本多:聾学校に行っていろいろとヒアリングをすると、「喋りかけている声を知りたい」「声の大小の出し方を練習したい」という話が出たんです。60㏈は人がしゃべっているくらいの大きさ、90㏈はものすごく大きい声を出したり、楽器を強く叩いたりだとか、工事現場の雑音くらいの音の大きさです。ここのグラデーションを伝えたい、表現したいというので、この値を設定しました。ただ、「小さな音にも反応してほしい」というリクエストもあって、販売製品はサウンドズーム機能を取り入れたり、ユーザー自身で感度を変えられたりできるようにしています。

サードパーティーの可能性

杉原:ここの振れ幅を思いっきり変えるというよりは、振れ幅の補完、拡張みたいなものをほかのデバイスを使ってやるってことですね。

本多:そうです。そして、見た目にこだわりました。クリップ型になっているので髪の毛につけたり服につけたり、いろいろな場所につけていただけます。

杉原:いやー、本当によくここまできたと思います。これだけコンパクトにするにはかなりの苦労があったのではないですか?

本多:ハードウェアは作るのが本当に大変で、とくに、「Ontenna」のようなものの場合、ソフトウェアのエンジニアと、ハードウェアのエンジニアの協力が必要です。あんまり小さすぎるとバッテリーの持ちが悪くなるし、大きくしすぎるとアクセサリーのようなお洒落さがなくなる。バイブレーションも、マイクと振動マットがこれだけ近い位置にあると、ハウリングの問題も出てきます。どうやったらハウリングせずにできるか。ここも頭を悩ませたポイントでした。

杉原:初期のころはほんと、まだビヨンといろいろと線が出ている状態でしたもんね。

本多:本当に苦労しました。

杉原:「子供たちを笑顔にする」っていうのがビジョンなのですか? すごくいいですね。

本多:開発する時に思い描いたのが、聾学校の子供たちに使ってもらうことだったんです。だからキービジュアルも聾学校の子どもさんにモデルになってもらいました。聴覚に不自由を感じる人の数でいけば、おじいちゃんおばあちゃんのほうがビジネスになるんじゃないかっていう話も何度もあったのですが、やっぱり子どもの時にリズムを知っておくってことがめちゃくちゃ大事なので、子どもたちのために作りたいという気持ちが強かったんです。

杉原:未来を感じるね。今後、サードパーティーとか、これを使って何かビジネスをしたいっていう人たちも増えてくるのでは?

本多:前振りありがとうございます!(笑) それがまさに今富士通でやっている研究の話にもなるんですけど、「Ontenna」って、今のものだとうるさいところに行くとずーっと振動してしまうんです。これを機械学習などを入れることによって特定の音を学習し、それに対してのみ振動するように研究をはじめています。

杉原:具体的にはどういう使い方を想定しているのかなど、興味が湧きますね。後編ではそのあたりをもう少し掘り下げて伺いたいです。

後編へつづく

本多達也(ほんだ・たつや)
1990年 香川県生まれ。大学時代は手話通訳のボランティアや手話サークルの立ち上げ、NPOの設立などを経験。人間の身体や感覚の拡張をテーマに、ろう者と協働して新しい音知覚装置の研究を行う。2014年度未踏スーパークリエータ。第21回AMD Award 新人賞。2016年度グッドデザイン賞特別賞。Forbes 30 Under 30 Asia 2017。Design Intelligence Award 2017 Excellcence賞。Forbes 30 UNDER 30 JAPAN 2019 特別賞。2019年度キッズデザイン賞 特別賞。2019年度グッドデザイン賞金賞。現在は、富士通株式会社にてOntennaプロジェクトリーダーを務めている。

(text: 宮本さおり)

(photo: 増元幸司)

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対談 CONVERSATION

防災感度ゼロから1を生み出す起業 オシャレ防災カタログが運ぶ安全

宮本さおり

東日本大震災でのボランティア活動がきっかけとなり、防災関連で起業をした若者たちがいる。防災と社会を繋ぐハブになろうと頑張る株式会社KOKUA。事業が軌道に乗り始めようとした矢先に彼らを襲ったコロナ禍だったが、自粛期間を経た今、防災グッズを「ギフト」として提供する新たな挑戦をはじめた。同社の代表取締役・泉勇作氏、共同代表・疋田裕二氏の両名に話を伺った。

東日本大震災が繋いだ縁

杉原:元々は皆さん、会社を立ち上げるというより、3.11のボランティア活動で出会ったと伺っています。

泉:そうなんです。

疋田:大学入学の年に東日本大震災が起きました。ちょうど高校の卒業直後で、大学の入学式直前という時期だったんです。

当時の様子を語る泉代表(右)と共同代表の疋田氏(左)。

杉原:その時は皆さんどちらにいらしたんですか?

泉:全員関西です。

杉原:東日本大震災が起きた時のことを思い出すと、ニュースを見れば確かに被災地の状況が映像として流れてはいたのですが、関東に暮らす人と関西に暮らす人との温度差を少し感じた記憶があるのですが、そのあたりはどんな風に思われますか?

疋田:そうですね。関西の場合、実際に帰宅難民になった人もいませんでしたし、地震で揺れることもなかった。計画停電もなかったので、確かにあまり実感はなかったかもしれません。

杉原:その中でみなさん大学に行かれるわけですよね。入学後すぐにボランティアに参加されたのですか?

泉:被災地へのボランティアの橋渡しをしているNPOがあり、僕と疋田は同じNPO経由で被災地に行きました。バス移動で11時間くらいかかったのですが、移動中のバスで出会いました。

杉原:みなさん大学生時代から防災関係の仕事をと考えていたのですか?

疋田:いいえ。卒業してからはみんな民間企業で自分のやりたいことをやっていました。それが、2018年からアクセラなどに参加するようになり、自分達の会社を立ち上げて事業としてやろうという流れになりました。

杉原:ボランティアに行こうという最初の一歩が難しいと思うんです。皆さんはどういう気持ちで一歩目を踏み出したんですか?

泉:僕は神戸出身で阪神淡路の時は3歳くらいでした。年上の姉弟や家族は被災の記憶が鮮明にあり、、震災の日が近づくと家族の中でトピックスとして出てくるというのがありました。その年もそんな話しをした矢先に、東日本大震災が起こったので、僕らも自然と一歩を踏み出した感じでした。特に(大学)1年生は動く人が多かったと思います。

疋田:大学に入って時間ができて、そこに大きな出来事があったので、若い自分がなにか貢献したいなという気持ちはありました。

良いアイデアが売れるとは限らない現実

杉原:そこは僕ら世代とは少し違うかもしれません。もしかすると、SDGsも僕ら世代とは違う感覚で見ているのかもしれませんね。アクセラや世界防災フォーラムなどいろいろなプログラムへ参加する中で、防災で起業しようと思った時のお話しを伺いたいのですが、元々この防災カタログをメインビジネスにという考えだったのですか?

疋田:僕はエンジニアなので、介護業界向けの災害時安否確認システムみたいなことを考えていました。

泉:介護の現場は被災したときにすぐに入所者のケアを考えなければならないのですが、当時はまだ紙ベースだったので、苦労されていました。そこを解消するシステムができないかということでスタートしたのが最初です。

杉原:いいアイデアだと思っても、それを事業化するのは意外と難しいですよね。自分たちが良いと思っても、ユーザー側が必要性を感じてくれないと導入されない。
ビジネスモデルを作る時って、ユーザーマターが重要じゃないですか。しかし、実際に不便を経験してみないと実感が沸かないというのが人間です。

ユーザー側が必要性を感じなければビジネスとして難しいと語る編集長杉原

そういう背景から考えると、病院だとか介護施設に特化したシステムやアプリというのはアイデアとしては良かった。しかし、なかなか受注にはいたらなかったということで、次はどこに目を向けられたのですか?

泉:いくつかありまして、一つはNPOへの支援です。NPOを支援することで防災支援に関わるという道を考えましたが、やっぱりこれも違うねとなって。その後、防災をメインに据えた研修を開発することを始めました。

杉原:企業向け研修ということですか。

泉:はい。しかし、災害はいつ起こるか分からないことですし、起らないかもしれない。しかも、売り上げに直接関わるものでもないため、予算を投下していただくのは難しいというところがありました。

杉原:また壁にぶつかったわけですね。

泉:そうです。そこで考えたのが研修プログラムで、社員研修と防災研修を組み合わせたものをリリースしました。

杉原:防災対策が大事なことはみんなわかってる。だけど訓練にしてもなかなか真剣に取り組む方は少ないですよね。どうやったらみんなが真剣に参加するかが課題かなと思うのですが、そのあたりは何か工夫されたのでしょうか。

泉:僕らが考えたのは災害救援を疑似体験できるプログラムで、オフィスでもし、災害がおこったらという想定で研修を行ないます。例えば「骨折、骨が飛び出ている」というような要救助者の役を設定して、救助をしてもらうというものです。疑似体験でしかありませんが、体験の質を高めれば高めるほど、意識は高くなるかなと思います。

杉原:大手企業に対する研修だったら、スコアなどをつけても面白いかもしれませんね。そのスコアが人事評価に繋がるとかなったら、みんな真剣にやるかもしれない(笑)。

ピンチが生んだ新たなビジョン

泉:確かにそうかもしれません。外資系企業で危機管理対策の一つとして導入くださるところが出てきたのですが、コロナ禍に突入してしまい、研修ができない状況になりました。研修は全て対面を想定していたので、発注いただいていたものも軒並みキャンセルになりました。

杉原:いよいよ「LIFEGIFT」にたどり着くわけですね。
研修などから比べると、「LIFEGIFT」は逆にコストがかかるようになるじゃないですか。こちらにスイッチするという発想は私の中ではあまり考えにくい発想なのですが、この英断をしたのはなぜですか。

泉:防災についてどうやって知ってもらうかということを考えた時に、2021年は3.11から10年というメモリアルの年だったので、防災に関するプロダクトを出せば、メディアからも注目されて、一般の方への認知も進むのではないかと考えていました。ただ、在庫を抱えるビジネスモデルだと負担も大きい。その点、カタログギフトだと、冊子の印刷代は必要ですが、それ以外のコストは注文が入るまではかからないんです。

「あなたの無事が一番大事」というキャッチコピーの元、販売が始まった防災ギフトカタログ。お祝い事にもふさわしいようにと装丁にもこだわった。カタログに掲載されているのはオシャレさも追求した防災グッズの数々。

杉原:いままで、防災グッズに特化したカタログギフトというのは他社さんでもあったのでしょうか?

泉:ないです。

杉原:なぜ皆さん手を出さなかったと思いますか?

泉:ギフトを渡すシチュエーションはお祝い事が多いと思うのですが、防災や災害はネガティブなイメージをさせるものなので、その場面にふさわしくないということもあったと思います。例えば、新築祝いで消火器を渡すというのは、大事な物ではあるけれども考えにくいですよね。

杉原:最近、ふるさと納税で防災グッズを買ったのですが、ソーラー発電機や、水、食事から、段ボール型のトイレなど各種揃えたところ、最終的に邪魔でしょうがない(笑)。防災のために買うというのが結構ストレスでもある。できれば、日常的に使っているものが災害の時にも役立つというデュアルプロダクトであるといいなと思うのですが。

疋田:そうかもしれません。

杉原:それから、何をどれくらい購入しておけばいいか分からないという部分もありますよね。グッズ〇点入ったバックですと言われても、実際そのバック一つで足りるの?みたいなところもある。

泉:おっしゃる通りです。「LIFEGIFT」は、全く興味を持っていなかった人が防災に目を向けるきっかけになるかなと思っていて、プレゼントとして受け取るので、ゼロからの一歩を強制的にできるものだと考えています。はじめて防災アイテムが家に来たという家庭もあると思うので、これをきっかけに、徐々に防災アイテムを揃えていただけるようになったらと思っています。新しいサービスも考えていて、例えば、家族構成を入力すると、どのくらいの備蓄が必要かが分かり、それに見合った商品をリコメンドするようなことを考えています。

杉原:それができたら面白くなりますね。今日はありがとうございました。

泉勇作 (いずみ・ゆうさく)
株式会社KOKUA代表。幼少期に神戸市にて阪神淡路大震災で被災。その時の記憶は断片的だが、周りの話などから強く災害を意識して人生を過ごす。 自分も何か役に立ちたいと学生時代は災害ボランティアを中心に活動。新卒で約3,000名の人材ベンチャーに入社し、入社2ヶ月目で過去の新卒月間売上ギネスを達成し表彰される。 その後、転職した会社で、広告の新規事業、ライブ配信サービスの法人向け企画、動画制作事業などを手がける。
2019年に一般社団法人防災ガールのアクセラレータープログラムに参画し、2020年、防災サービスの開発、販売を行うためKOKUAを立ち上げる。

疋田裕二 (ひきた・ゆうじ)
株式会社KOKUA共同代表。大震災のボランティア活動に従事。そのことがきっかけで、NPOの事業企画や運営に携わることになり、世界には様々な社会課題があることを知る。卒業後は「仕組みを変えることによって多くの人の生活を変えたい」と思い、新卒で大手IT企業に入社。PMやセールスエンジニアとして、大手マスメディアのデジタルトランスフォーメーションや新規AIサービスの立ち上げなどを経験。2019年に一般社団法人防災ガールのアクセラレータープログラムに参画し、社会事業を立ち上げることを決意。

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(text: 宮本さおり)

(photo: 増元幸司)

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