福祉 WELFARE

渋谷の街が、クールな福祉機器&テクノロジーでいっぱいに。『超福祉展』に行ってきた!

岸 由利子 | Yuriko Kishi

障がい者やLGBTなどのマイノリティや福祉に対する心のバリアを溶かそうと、「カッコいい」デザインや「ヤバイ」テクノロジーを備えた福祉機器の展示をはじめ、多彩なジャンルのプレゼンテーターが登壇するシンポジウムなどが開催される『超福祉展』。4回目となる今年は、渋谷ヒカリエ「8/(ハチ)」をメイン会場に、ハチ公前広場や渋谷キャストなどにサテライト会場が設けられ、渋谷の街を舞台に開催された。今回、注目を浴びた展示やイベントを早速紹介しよう。

『超福祉』に染まる渋谷の街

初日に開催されたオープニングセレモニーには、渋谷区長を務める長谷部健氏をはじめ、東京大学 先端科学技術研究センター教授の稲見昌彦氏、タイムアウト東京代表取締役の伏谷博之氏、FCAジャパン株式会社マーケティング本部長 のティツィアナ・アランプレセ氏など、豪華な面々が勢ぞろいし、同展にかける想いや取り組みなどについて語った。

今年のキャッチコピーは、「ちがいを探しに、街へ出よう!」。「ハンディキャップや困りごとを抱えている方も、遠慮なく、渋谷という街に出てこよう。困ったら、遠慮なく声をかけてね。道行く人が、『手伝いましょうか?』と声をかけてくれるから。その風景が、イケてる!オシャレかも!という街の文化を作っていきたいという願いを込めて、さらに街の外側に出ていくアクションを強化したのが、今年の企画です」と話すのは、超福祉展を主催するNPOピープルデザイン研究所代表理事 須藤シンジ氏。

サブ会場の一つである渋谷キャスト スペースでは、今年5月11日に創刊95年目を迎えた国内唯一の点字新聞の発行など、バリアーゼロ社会の実現に向けて活動を続ける毎日新聞社と協力し、「ヒューマンライブラリー」を開催。障がいや難病を抱える人、LGBT当事者やその家族らを、貴重な物語が詰まった“本”に見立て、参加者との対話を通して相互理解を深めるというかつてない取り組みだ。

みずほ銀行渋谷支店では、「認知症VR」や、震災時に認知症の人や外国人が感じる恐怖や困難を疑似体験する「防災VR」プログラムが開催された。「ATMでの告知という異例の試みをはじめ、多大なるご協力をいただきました」と須藤氏は話す。

 ハチ公前では、髪の毛で音を感じる装置「Ontenna(オンテナ)」を使った、来場者参加型のパフォーマンスや、リオパラリンピックの競泳で銅メダルを獲得した山田拓朗選手(男子S9クラス50m自由形)によるトークショー「2020年への想い」などのイベントが行われた。SHIPS渋谷店とモンベル渋谷店では、ファッションと超福祉のコラボレーションが実現。ショップのディスプレイに最新技術を搭載した車いすなどのモビリティが登場し、注目を集めた。

「最初、須藤さんから『超福祉』という言葉を聞いた時、すごくいい言葉だなと思いました。今、渋谷区の福祉分野での掛け声も、超福祉になっています。“意識の壁も超えていこう”という、色んな意味を含めての超福祉です。どんどん広がってきていることを(区長という立場から)本当にありがたく、心強く思っています。渋谷区としても、超福祉をもっともっと広めていくことが務めだと思い、取り組んでいます」と、オープニングセレモニーに登壇した渋谷区長の長谷部氏は、熱いメッセージを送った。

インクルーシブ社会の発展が垣間見える、
クールなプロダクトの数々

メイン会場の渋谷ヒカリエ「8/(ハチ)」で、ひと際注目を浴びていたのが、数々のモビリティの展示。ヤマハ発動機株式会社の「07 GEN」は、本物を知るシニア世代の快適な外出をサポートし、多彩なライフスタイルにマッチするためにデザインされた電動三輪コミューターだ。

「オーディオや楽器を使っていくうちに、どんどん味わいが出て、愛着が湧くように、新しくもあるし古いものにも感じるような質感にこだわって、デザインしました」と話すのは、同社デザイン本部デザイン推進部部長の田中聡一郎氏。

「5kmでも、楽しんで走って欲しい。短い距離でも、旅を楽しむような感じで、味わっていただければ、愛着が湧くものになるのでは―そんな願いを込めて作りました」

人体の能力を拡張するテクノロジーやITを駆使し、人機一体の新たなスポーツを創造する超人スポーツ協会は、車輪を回転させることで、ターンテーブルのように音楽をプレイできる「車いすDJ」や、横すべりが可能な電動アシスト全方向車いすを使って、ドリフト走行などのテクニックで競い合う車いすレース「スライドリフト」などの体験会を、渋谷駅13番出口地下広場とケアコミュニティ・原宿の丘の2箇所で実施した。

今回、超人スポーツ協会は、超福祉展のための超人スポーツを開発するために、「超福祉スポーツ共創プロジェクト」を立ち上げ、2日間のアイデアソン、ハッカソンを行い、また新たなスポーツを生み出した。全身にキャスターとローラーを、手元にインフォイルモーター同様のものを装着し、地面に寝転がり滑走する「GRAVITY ZERO」など、まさに超人的なスポーツを一般来場者も楽しんだ。

慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科による「タッチ・ザ・サウンド・ピクニック(Touch the sound picnic)」は、音の抑揚やリズムを振動に変換し、手や指先で感じることのできるデバイスを活用したワークショップ。これは、聴覚障がい者の音楽鑑賞や、会話の補助手段を想定して開発されたプロダクトの一例だ。

「ミュージアーム(Musiarm)」は、義手業界のエンターテイメント性の向上を目的とし、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科が進めてきたプロジェクトから生まれたプロダクト。楽器の機能が備わった上腕義手を装着することで、誰もが楽器演奏を楽しめるようになるだけでなく、そのユニークな音楽とパフォーマンスを通じて、新たなコミュニケーションを提供することを意としている。

東京メトロをはじめ、LINEARITY、大日本印刷(DNP)らが連携して構想を進めている「&HAND(アンドハンド)」は、LINEなどを活用して、手助けを必要とする人と手助けしたい人をマッチングし、具体的なアクションを後押しするためのサービス。電車内で、身体的、精神的な不安や困難を抱えた人がメッセージを送信すると、周囲の乗車客にLINEメッセージが届く。手助けを必要としている人の状況は、手助けしたい人にChatBotを通じて知らされる仕組みになっている。

2017年12月11日からの5日間、東京メトロ銀座線の電車内で座りたい妊婦と、席を譲ってくれる乗車客を繋ぐスマート・マタニティマークの実証実験が実施された。どれくらいの妊婦が着席できるのか、やりとりはスムーズに行えるのかなど、検証結果が公開される日も近いだろう。

回を追うごとに、ダイナミックに進化を遂げていく超福祉展。渋谷からスタートしたこの画期的なムーブメントが東京へ、そして、日本中へと広がり、真にインクルーシブな社会が実現することを願ってやまない。

(text: 岸 由利子 | Yuriko Kishi)

(photo: 壬生マリコ)

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あのトヨタ自動車を動かした、パラリンピアンの言葉とは?【2020東京を支える企業】

宮本さおり

「トヨタが自動運転の開発に本気になった」。そんな話がニュースサイトのあちこちで見られるようになっている。それまで自動運転には消極的な姿勢も見せていたトヨタ。変化の裏にはパラアスリートとの出会いも大きく関係していた。

日本語には車のことを「愛車」と呼ぶ表現があるが、「愛」という言葉がつく工業製品は車だけ、豊田章男社長自らがそう話していたトヨタ自動車。ハンドルがなくなるような完全なる自動運転は誰が乗っても同じとなり、トヨタの描く自動車からは離れるのではないかという思いが強くあった。そのトヨタが一転、自動運転を含むモビリティーの開発に積極姿勢を見せだしたのだ。自動車関連のジャーナリストの中には、あれほど自動運転車の開発に消極的な姿勢だったトヨタも、自動車産業の大きな転換期に危機感を募らせてついに開発に乗り出したなどと話すものもいる。しかし、ビジネスの舵を切ったそのワケはそれだけではない。

2015年に行なわれたIPCワールドワイド・パラリンピック・パートナー(Worldwide Paralympic Partner)契約の調印式、檀上の豊田社長のことばにもトヨタが秘めた思いはにじみ出た。「クレイヴァン会長は、『障がいのある方が、より社会に参加するためには、移動の自由が鍵を握る』と言われています。一方で、「今の社会では、移動が本当に大変だ」という声も伺っています。誰かが何かにチャレンジしたいと思っている時、もし、「移動」が障害になっているのであれば、私たちトヨタはその課題に正面から向き合いたい。「移動」がチャレンジするための障がいではなく、夢を叶えるための可能性になってほしい。これがトヨタの思いです。」

(画像:TOYOTA提供)

今年に入り、自動運転技術の先行開発に向け、トヨタはデンソー、アイシン精機と共同で新会社も設立、米国ミシガン州では、トヨタの子会社Toyota Research Institute, Inc. が自動運転開発用の施設の建設をはじめている。着々と開発の力を強めるトヨタ。6月、私たちの取材に応じてくれたトヨタ自動車 オリンピック・パラリンピック部 部長の伊藤正章氏は、東京で行われた調印式での出会いも「自動運転開発を加速させるきっかけのひとつになった」と話す。JPCにてパラ教育「I`m POSSIBLE日本版」の開発リーダーを務めるマセソン美季氏(旧姓 松江美季)の発言だ。マセソン氏は、大学1年生の時の交通事故がきっかけで車いす生活者となった元アイススレッジスピードレースの選手。現役時代には金メダル3個、銀メダル1個を獲得した人物だ。

「私の下半身の自由をうばったのは車ですが、自分の未来に光を与えてくれるのも自動車だと思った」。

マセソン氏の言葉は、自動車というものをトヨタが狭い意味の中でしかとらえていなかったのではないかという思考の変化へと誘うことになる。こう話してくれた伊藤氏から手渡された名刺には点字が施されていた。

「移動が人を制限するものであってはいけない」と語る、オリンピック・パラリンピック部 部長 伊藤正章氏

「トヨタはこれまで、必ずしも自動運転に積極的ではなかった面があります」伊藤氏は躊躇なくこう話しはじめた。「自動運転は誰が乗っても同じ運転、同じモノになってしまう。トヨタが考える自動車というのは、社長が常々言っているとおり「愛」がつく工業製品としての車(=愛車)でした。人が運転するからこその愛着が生まれる。自動運転はその理念とマッチしない」。ところが、マセソン選手をはじめとする多くのパラリンピアンとの出会いが、そんな気持ちを少しずつ変化へと導いた。冬季パラリンピックの常連、パラスキーヤーの森井大輝選手をはじめ、多くのパラ選手を従業員として迎え入れ、社内で多様な人材が活躍できる職場づくりにも注力しているトヨタ。彼らとの出会い、仕事を共にすることで「全ての人に移動の自由を」というスローガンは生まれてきた。

「多様性を受け入れる会社になりたいという思いが強くあります。その一歩として関わる取り組みが、パラリンピックだと考えています。自動運転の開発も「全ての人に移動の自由を」提供するために必要なことという認識に至りました。これまで抱いてきた「愛車」という考えを大切にしつつ、誰もが移動の自由を手に入れられるアイテムとして自動運転の開発にも力を入れるのだ」と話す。

「トヨタ自動車は三河の地で生まれ、創業以来ずっと三河を基盤としてやってきました。このため組織も同質的になりがち。同質的な中で育ってきましたが、それでは先はない。狭い視野にとどまらず、今後はもっと多様性を受け入れる会社となり、そうした社会にするための貢献をしなければという気持ちがあります。トヨタ個社だけでなく、グループとしてもそこは念頭に置きたいところです。また、社会との絆という面でもパラリンピックへのかかわりは重要だと考えています。安全や環境への影響を考えた時、車はこれまで、人間に必ずしも良いものだけを提供したとは言いきれない。会社として社員みんなで観戦、応援、支援することで、社会にもっと目を向け、社会のために汗をかき、安全で環境にやさしいモビリティーカンパニーへと変わるきっかけとしたいと思っています」(伊藤部長)。

パラリンピックに力をいれるもうひとつの理由には、世界の自動車業界をけん引してきたトヨタが、モビリティーカンパニーへ変革し、よりよいモビリティー社会の実現に貢献していこうという気概が見える。「人が動く移動の観点は変わってきています。純粋な車というモノづくりだけでなく、移動サービスという視点も必要です」人々の自動車への視線は“所有”に加え“シェア”への広がりも見られる。また、モビリティーの開発はITジャイアントをはじめとする異業種からの参入も目立ち、自動車業界の敵はもはや自動車メーカーだけという時代ではない。高齢化社会が進む世の中において、いくつになっても安全に乗れる乗り物として、今やモビリティーの開発は世界の一大関心事だ。

(画像:TOYOTA提供)

「従来の枠にとどまっていてはいけないでしょう。車づくりを変える、チャレンジしていく人を育てたい」という願いがあると伊藤氏。その意志の表れともいうべきサイトも立ち上がった。「START YOUR IMPOSSIBLE」。この記事のトップ動画も「START YOUR IMPOSSIBLE」のサイトに使われたものだ。サイトでは、「移動」がチャレンジするための障がいではなく、夢を叶えるための可能性になってほしいと、いくつかのコンセプトモビリティーを紹介、未来の乗り物を見せてくれている。

また、トヨタは2020東京オリンピック・パラリンピックを日本の技術を世界に紹介する「格好のチャンス」ととらえているのも事実。今年に入って発表された物販やライドシェアを視野に開発が進む箱型のEV車「イー・パレット(e-Palette)」も東京2020でのお披露目を目指している。

(text: 宮本さおり)

(photo: 河村香奈子)

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