対談 CONVERSATION

変革期を迎えたデジタルアートの最前線

あらゆる情報がデータ化され、これまで見えづらかった事象が可視化されるようになった現在。エンタテイメントやスポーツ分野におけるデジタルテクノロジーの可能性について語り合った前編に続き、後編ではさらに突っ込んだデジタルアート、さらには金融や医療分野についても話が及んだ。まだ混沌としているブロックチェーン技術や、倫理の問題が立ちはだかる身体データの活用など、今を生きる我々が避けては通れないトピックスについてのヒントがここにある。いずれにせよ、しばらく真鍋氏の動向から目が離せないことだけは確実だ。

東京現代美術館にて展示された
《Rhizomatiks × ELEVENPLAY “multiplex”》2021

《Rhizomatiks × ELEVENPLAY “multiplex”》2021 「ライゾマティクス_マルティプレックス」展示風景(東京都現代美術館、2021年) photo by Muryo Homma(Rhizomatiks)

杉原:さて、今東京都現代美術館で開催している「rhizomatiks_multiplex」についてお伺いしたいです。僕はまだ動画でしか拝見していないのですが、実際に見た人の感想を訊くと、みんな口を揃えてすごい!って絶賛していますよ。

真鍋:お客さんにわざわざ足を運んでいただくだけの価値がある体験にしようというコンセプトがありました。生で、肉眼で見てもらって、リアルなオブジェクトを動かすことや空間を上手く使うことなどを感じてもらいたかったんです。

杉原:白いオブジェクトが動くのは、ルンバとかで使われているSLAM(自己位置推定と環境地図作成の同時実行)ですか?

真鍋:《Rhizomatiks × ELEVENPLAY “multiplex”》では、外からセンサーカメラを使ってオブジェクトについているマーカーを認識して位置と角度をトラッキングしています。外で動いているロボットはGPS、RTK-GNSSですね。映像だけでなくかなりたくさんのアナログ装置を用いています。残念ながら4月は丸々緊急事態宣言でクローズしていました。

杉原:もったいない! せっかくの機会だからもっと延期してくれればいいのに。コロナで気分が落ち込んでしまいがちですが、こういう時期こそアートやスポーツの力で、個々の価値観を再定義できたらいいと思っているのです。

NFTの抱える問題と可能性について

杉原:そうした中で、NFT(ブロックチェーン技術を使って固有の価値を持たせる)が昨年から急激に注目されるようになりましたね。知人が「真鍋さんの作品を買ったぞー」という話をしていて、びっくりしていたんですよ。

真鍋:今はほとんどのクリエーターが既存のマーケットプレイス、OpenSea、Rarible、Foundationなどで作品をミントしていると思うのですが、ライゾマは独自のマーケットを作りました。実践を通じて現状分析、未来予測を行うという意味合いが大きいですね。

杉原:ライゾマのNFTを使ったマーケット知らなかったです! とはいえ、この種のマーケットはまだきちんとしたプラットフォームになってないですよね。どちらかと言えばアイデア先行で始まって、まだアーリーアダプター向けなんですよね。

真鍋:6年前にドイツのカールスルーエ・アート・アンド・メディア・センターではビットコインのトランザクションのビジュアリゼーションや自動取引をテーマにした作品を展示したこともあり、ブロックチェーン関連は興味がある分野だったのでNFTも早くから注目していました。

杉原:この間、レブロン・ジェームズのダンクシュートの動画が2000万円で売られたことも話題になりましたね。

真鍋:NBAトップショットですね。いやぁ、海外の動きは早いですね。まだ黎明期で何が本命かは判断が難しいところもあるのですが、そこを含めて面白いと思っています。

杉原:ちょうどiTunesで楽曲を購入できるようになった頃、WinnyとかNapsterとか(ファイル共有サービス)が出てきて、問題になった時と似ていますよね。ある程度の不正には目を瞑りながらもサービス自体を普及させていくという。結局大事なことは、アーティストの権利をどう守るのかということですよね。

真鍋:NFTには可能性があることは揺るぎない事実かと思います。特に永続性の部分は大きいのではないでしょうか。例えば、YouTubeの画像はYouTubeのサービスが終わってしまったら無くなってしまいますよね。しかしNFTアートでよく使われているIPFSというハイパーメディア分散プロトコルを使えば、対改ざん性、耐障害性、対検閲性など作品が存在する上でのメリットがあります。もちろん、画像や動画、3DデータなどだけではなくDNAデータをアップロードするなど、貴重なデータを保存することにも使えますし、ゲームから始まってアートに移行して、これからはさらに広い分野でこの技術が使われるだろうなと思います。

杉原:遊休資産が一気に値上がりするパターンがありますよね。例えば、昔作ったプロモーションビデオの一部の切り取りを買える訳じゃないですか?

真鍋:眠っていたコンテンツがNFTをきっかけに蘇って価値が出てくるということもあるでしょうね。よく言われていることではありますが、音楽の流通やミュージックビデオも形態が変わっていくんじゃないかなと思います。日本ではまだまだ事例が少ないですよね。海外だとWarp Recordsの代表的なアーティストであるAphex Twinがオーディオビジュアル作品を出していたり、有名どころでも面白い事例もたくさんあります。
杉原:たしかBLURもやっていますよね。僕個人としては、今後さらにNFTを利用したサービスが支持されると思うし、自分自身でもライゾマの作品を購入したいと思っています。ただ気がかりなのがめちゃめちゃ薄型でかっこいいスクリーンというか、デジタルアート作品にぴったり合うモニターがあればいいなと。やっぱり自分が惚れ込んだ絵画作品には、それ相応の額装が必要になるじゃないですか? ライゾマの作品はライゾマのディスプレイとセットにして鑑賞したいですものね。

真鍋:まさにおっしゃる通り! 先読みされた感じがしました。作品を買った人がどうやって鑑賞するのかというと、結局ディスプレイが必要になります。ですから、僕らはウォレット搭載のNFTディスプレイの開発も検討しています。

先端医療におけるデータ活用とこれから

杉原:今回お話をして、ライゾマとRDSに親和性があるなと思ったことが、身体の可視化についてです。単純にデータを医療につなげようとしているのではなく、新しい項目を見つけて、今僕らが生活している中での当たり前をもう少し面白くできないだろうかと考えているのです。歩くという単純な行動が、ドラゴンクエストウォークとかポケモンGOとか、コンテンツが付与されるだけでエンタテイメントになる。そうした背景とかコンテキストみたいなのをぶち込んでいきたいなと考えているのです。そこで大事なことは、コミュニケーションでありUXなんですよね。僕らはあくまでもテクノロジーの基礎とツールを提供しているだけで、出口をどうするかが課題なんです。例えば、医療データを解析して「あなたの身体はこんな状態です」とぶっきらぼうに言われるような、しょっぱいUXだったら「そんなの要らない!」ってなっちゃうと思うから。

真鍋:たしかに、いきなりエクセルのグラフを見せつけられても興醒めしてしまいますよね。そもそもセンシティブな情報ですし、そんなこと知りたくないという人も多いですから。

杉原:真鍋さんの作品を見ていると、奥深いところにあるメッセージのように見えて、実はすでに身近にあったことを可視化してくれているのではと思ったのです。健康状態をダイレクトに伝えるだけではなく、どういう風に生活を改善した方がいいとか、コーチングから始めたらいいのかなと。だから、真鍋さんが取り組んでいるテクノロジーとアートを掛け合わせる手法を使って、1つのアライアンスになればいいなと。点と点が面になっていくように医療データを掛け合わせて、人々のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)につなげていきたいのです。

真鍋:人の脳に埋め込んだ方がQOLが上がるというレベルまで行けるかどうか、いう話ですよね。個人的には早くやってみたいんです。この間も京都大学に行ってMRIのデータを取らせてもらって作品を制作したり、特任教授をやっているSFCでは藤井先生の協力を得てTMSと呼ばれる電気刺激を用いた作品制作を行っています。普段は主に医療に使われるものですね。

杉原:わっ! 痛そうですね。頭蓋骨も通り抜けて、脳に通電させているのですね。

真鍋:モーキャプのシステムとMRIのデータをTMSのシステムと組み合わせています。ちょっと痛いです(笑)。視覚野を刺激してどのような映像体験が出来るかを調べました。その時は思うような結果は得られなかったのですが、今後は作品の体験や制作に繋がればと思っています。

杉原:先ほども話しましたが、イーロン・マスクがやっていることにも通じますよね。デバイスを装着して脳に電流を流すことで、手を動かすことなくテレビゲームのキャラクターを動かすことができるという。

真鍋:それから最近面白かったのが、ドルビーの人たちと一緒にスタンフォード大学の研究所に1週間滞在して行った実験です。最近のテレビゲームはHDRが進化して、眩しいくらいに高解像度かつ高階調度になっています。それを利用してゲーム中の爆発シーンを見ると、本当に火災が起きたと思って顔の表面温度が上がる。脳波のデータはノイズが多くて使いづらいのですが、サーモのデータは使いやすいんです。

杉原:高所の映像を見ただけで手に汗をかく現象と同じですね。脳に刺激を与えることで、実際に火を使わずに火傷をさせることもできると聞きました。僕のプロジェクトでもサーモを利用した歩行実験で、その人の身体状態が大体わかるんですよね。

真鍋:僕は昔骨折したところがあって、ちゃんと治療せずにいたので歩き方がおかしくなっていると思うので、是非杉原さんのところで実験してもらいです。

今後のデジタルアートはさらなる変革期に突入

杉原:それでは最後に、コロナ以降のデジタルアートの展望について、どんな風に予想しているのかを教えてください。

真鍋:コロナの反動でリアルスペースに対する欲求が高まっている。それは来年の秋ぐらいまでには必ず戻ってくるでしょうね。

杉原:たしかにそうでしょうね。僕はデジタルに対してそれほど好意的ではなかった人たちが、コロナを通じて一気にデジタルにシフトしてきたと実感しています。

真鍋:本当にものすごく変わりましたし、実際アート界も変わってきています。現代アートの人たちはVRとかに懐疑的でしたが、そういう人たちですらオンラインギャラリーやバーチャルギャラリー、NFTを普通に使うようになってきた。もはやデジタル、リモート、オンラインは現代の必需品ですね。あっという間に人々が合意して価値観が変わった。

杉原:多くの人たちにとっては大変な時期だけれども、既にその前から取り組んでいた人たちからしたら、半歩先かなと思っていた未来が、もうここまで来たという感じですよね。

真鍋:もうここまで来て、あっという間にその先に行こうとしているというか(笑)。例えばミュージシャンがグリーンバックでオンライン配信ライブをやったり、少し前ならすごく特殊なことが今や普通のことになっていますよね。だから僕たちは、その更に先を行かないと。

真鍋大度(まなべだいと)
1976年、東京都生まれ。大学卒業後、大手電気メーカーに就職するが1年で退社。2002年 IAMAS(岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー)に進学しプログラミングを学び、2006年Rhizomatiksを設立。以後、さまざまなアーティストのMVやライブ演出、スポーツイベントやファッションショーの演出を手がける。現在も東京を拠点に、アーティスト、インタラクションデザイナー、プログラマ、DJとして活動。

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テクノロジーによる課題解決で持続可能な農業を AGRISTの挑戦

吉田直子

長い間、農業は「儲からない職業」といわれてきた。その農業に今、変革が起こっている。ICT化などによって、採算性の高い農業をめざす個人や企業が増えてきたのだ。宮崎県で収穫ロボットを使った実証実験を行っているアグリスト株式会社は、そんな農家を支援している筆頭だ。代表取締役兼最高経営責任者の齋藤潤一氏は、地方創生のプロフェッショナルでもある。地域再生とも密接に絡む農業の課題解決とは? 齋藤氏とアグリストの挑戦を、編集長・杉原行里が聞く!

「儲かる農業」を
AI収穫ロボットでめざす

杉原:まずは簡単に御社の概要を教えてください。

齋藤:拠点にしているのは宮崎県新富町という人口1万7千人くらいの町です。我々の一番の強みは、農家のビニールハウスの隣でロボットを作っているということです。ハウスの中でロボットをテストし、ハウスの隣で機械を修正しながら、今、宮崎県で生産の多いピーマンを育てています。農業従事者の平均年齢は、現在67歳といわれています。担い手がいないとか、生産環境などの関係で、農家が儲からなくなっています。そこで、我々は農家と話し合いながらロボットを作り始めました。下がぬかるんでいたり雑草があったりすると、ロボットは走行不可能になります。そのために、吊り下げ式のロボットを発明しました。この小さな町からテクノロジーで農業課題を解決していくというのをミッションにしているのが、アグリストです。

杉原:素晴らしいなと思います。宮崎県でやる理由はあるんですか?

齋藤:僕はもともとシリコンバレーにある音楽配信のベンチャーで働いていたのですが、2011年の東日本大震災をきっかけに、ビジネスでの地域課題解決を使命にするNPOを立ち上げました。当時、その発想が面白いということで“シリコンバレー流・地域づくり”として日経新聞が記事を書いてくれて、全国10か所くらいの市町村の地方創生プロジェクトに携わりました。その取り組みが評価されて、2017年4月に宮崎県新富町に設立された地域商社「こゆ財団」の代表理事に就任しました。なぜ宮崎なのかというと、いわゆるスーパー公務員のようなかたがいて、そのかたと一緒に一粒千円のライチをブランド化したり、特産品を活用したふるさと納税で累計50億円以上集めました。農業の課題解決をするには稼げないといけないと考え、財団設立時から「儲かる農業研究会」という勉強会をやっていたんですね。その中で、「農業にはロボットが必要だ」という話を農家からずっと聞かされていて、そこで資金調達をしてロボットを作ったというのが現在です。

杉原:今、日本は先進国の中でも食糧自給率が圧倒的に低いですよね。その理由としては農業へのハードルが高い、参入障壁がある、3Kであるとか、儲からないなど、様々なものがあります。これらについてはどう思われますか?

齋藤:そうですね。一番は平均年齢67歳ということで、実際に収穫する人がいないというところですね。農業がどんどん儲からなくなってきて、農業をやめる人が増え、空きハウスと耕作放棄地が増えて、数字上の食糧自給率が低下している。このような負のサイクルに入っていることが一番の課題だと思います。

杉原:僕が無知なので教えてください。農業が儲かっていた時期はあるのでしょうか。

齋藤:それはいい問いですね。儲かっていた時期というよりも、収穫に人手が困らなかった時期があって、人口が伸びていた時はそれだけ出荷量も増えていますから、儲かっていたと思います。その時に儲からないと言われていた理由は、農家はほとんどが個人事業主なので、黒字が見えにくかったのだと思います。あとは、健全な市場の成長がなかった部分はありますね。

杉原:一方では、今、日本で農業関係者の株式化がかなり増えていますよね。

齋藤:そうですね。農業をビジネスとしてとらえる若者が増えてきています。先ほど、農家の平均年齢が67歳と言いましたが、これは土地を持っているなどの条件下での平均です。インターネットで産直ビジネスなども始まったので、そこがポイントだと思います。

杉原:そんな中で齋藤さんをはじめとしたアグリストのかたたちはスマート農業への参入を決めたということですよね。

齋藤:そうです。やはり空きハウス、空き屋が増えてきていたので、なんとかしなければいけない、絶対ロボットが必要だと。要は担い手がいないということは、収穫する人がいないということなんです。

杉原:僕はみんなに、これから仕事をするなら絶対に農業が儲かると言っているんです。

齋藤:農業はスモールビジネスもできますし、露地栽培だけで工夫をして、しっかり育てることができれば、ほぼ原価がかからず人件費だけで作物を育てていくことができるので、そこは大きいです。

杉原:今、取り組まれているスマート農業は実証フィールドでのピーマンの収穫がメインですか。

齋藤:そうです。すでにきゅうりの収穫には成功していて、今後はトマトもやっていく予定です。

杉原:吊り下げ式の収穫ロボットは世界でほかにやっているところはないんですか?

齋藤:ないですね。それで特許性が認められるということで、今、国際特許を申請しています。ワイヤーを張って、そこにひっかけてロボットを稼働させています。

齋藤:1人で収穫する時でも、“withロボット”のほうが、よりたくさん収穫できるということです。例えば、16トンくらい収穫できていた農家が、パートがいなくて10数トンに落ちたというデータがあります。そこをロボットで補うことができれば、1つのハウスで16トン収穫することができるという形になります。うちがロボット技術で絞っているのは精度ですね。収穫できる精度こそがすべてだと思っています。

ハウスとロボットのセット販売
だれでも気軽に農家になれる?

杉原:もうひとつ聞きたいのが、例えば僕が農家になりたいと考えた時にどうやって始めればいいですか?

齋藤:自分で畑を借りて露地栽培でやるというのが一番いいと思います。別の視点でロボットを使ってやりたいというのであれば、我々が今後、開発しようとしているビニールハウスごと販売する商品です。

杉原:パッケージ化されるんですね。

齋藤:おっしゃるようにパッケージそのまま売って買ってもらえるようにしようと思っています。そこまでくると、もう種を置いて、生えてきたらロボットを動かして、というふうなります。ロボット自体が剪定もするものにしようかと思っています。

杉原:じゃあ、極端な話、本当にロボットに管理されたビニールハウスのパッケージを購入することができたら、1人か2人の作業で10数トンという最大収穫量が見込めるビジネスになりますよね。面白いですね。僕、農業の参入障壁が高いことが大きな問題だと思っていて。今後、アグリストさんはじめとする多くの企業のかたたちがスマート農業に参入すると、一気にイメージが変わる感じがしますよね。

杉原:まずは、現場にいる農家の人たちに「これが儲かるよ」とか、「このテクノロジーを導入すると人間が時間を有効活用できるよ」という発想を浸透させることが、一番大事ですよね。

齋藤:そうですね。ロボットに関する問い合わせは、頻繁にアグリストに来ています。全国各地の農家の人たちが、「なんとかしてくれ」「買いたい」「値段を教えてほしい」と、電話をかけてこられます。あまりにも問い合わせが多すぎるので、今、個別相談はお断りしていて、近くの行政機関かJAに聞いてもらうことになっています。

人口1万7千人の町から
世界を変えていく

杉原:今後アグリストさんはどのようなロボットを作っていくのでしょうか?

齋藤:やはりテクノロジーで農業課題を解決していくというのがすごく大事で、あくまで テックカンパニーとして、最高の製品を作って社会の課題を解決していきたいと思っています。我々がめざしているのは、農家と話しながら、農家が欲しいものを、農場の周囲で作っていくことなんです。そうしたら、ロボットがもうロボットと呼ばれなくなる。人の隣に当たり前のようにいて、切っても切れないものになる。それが、社会の課題解決になる。国内の市場ももちろんですが、将来的にはアフリカなどの食糧問題の解決にこのロボットがなりえると思っています。人口1万7千人の新富町の町を見ながらも、世界の食糧問題の解決というところまで、データビジネスも含めてやっていくというのが、アグリストの1つのゴールになります。

杉原:実は僕らも身体の解析を行うロボットを開発しているので、すごく共感します。座位を計測するロボット「SS01」では、車いすユーザーの課題を抽出しながら、ロボットをどんどんアップデートしていっている最中です。いずれ、課題先進国である日本が直面する未病や健康寿命などに役立てる考えています。御社もこれから来年、再来年に向けて様々な農家さんにロボットを出荷していくのですよね。

齋藤:そうですね。そういう予定です。まずは宮崎県でしっかり結果を出して全国展開をと考えていますが、宮崎以外にも様々な自治体に声をかけていただいていて、まさに国ぐるみでやっていく事業かなと思いますし、僕らの中には国力を上げるぞみたいな気概もあります。

杉原:かっこいいですね。

齋藤:中国やインド、アフリカなど、世界の課題解決に取り組むことができればという思いでやっています。

杉原:素晴らしいです! 本日はどうもありがとうございました。

齋藤潤一(さいとう・じゅんいち)
スタンフォード大学 Innovation Masters Series 修了/SBI大学大学院(MBA経営学修士・専攻:起業家精神)。米国シリコンバレーのITベンチャー企業で音楽配信サービスの責任者として従事。帰国後、東京の表参道でデザイン会社を設立。大手企業や官公庁のデザインプロジェクトで多数実績をあげる。2011年の東日本大震災を機に「ビジネスで地域課題を解決する」を使命にNPOを設立(2015法人化)。慶應義塾大学で教鞭をとりながら、全国各地の起業家育成に携わる。2017年4月新富町役場が設立した地域商社「こゆ財団」の代表理事に就任。1粒1000円のライチのブランド開発やふるさと納税で合計50 億円の寄付額を集める事に貢献。2018年12月に首相官邸にて国の地方創生の優良事例に選定される。2019年に地域の農業課題を解決するべく農業収穫ロボットを開発するAGRIST(アグリスト)株式会社を設立。

(text: 吉田直子)

(photo: アグリスト株式会社提供)

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