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スポーツとサブカルをつなぐナビゲーターに。義足モデルGIMICOの東京2020

朝倉奈緒

剥き出しにした義足をいくつも履きこなし、被写体となって著名フォトグラファーやミュージシャンのミュージックビデオに登場するGIMICO。そのビジュアルは実にインパクトがあり、斬新で刺激的。2016年リオパラリンピック閉会式の東京2020プレゼンテーションでは、ゲームやアニメなどのポップカルチャーが国を特徴づけるこの日本で、彼女の存在は際立っていた。ミステリアスな印象のGIMICOだが、果たしてどんな人物なのか?

「自分は素材。新しい価値観に気づく
きっかけになれればいい。」

プロフィール情報も少なく、自身が経営しているブラジリアンワックスの所在地も非公開と、謎の多い義足モデルGIMICOだが、実際会ってみると、驚くほど気さくで話しやすい。ニコニコと常に笑顔というわけではないが、初対面なのに久しぶりに会った遠縁のような距離感で接してくれた。そんな彼女が初めて義足を履いたのは14歳のころ。中学生の女の子なのだから、その後の生活や、自分の周りの世界はさぞ変わったのだろうと勝手に想像してしまったのだが。

©藪田修身

「人生の歴史的に14歳ってまだ真っ白ですよね。真っ白なところに出来事が起きたというだけで、義足がきっかけで人生が変わったということはありません。それまでの人生にガラリと変わるほどのことがなかったわけだし、その後の人生の方が濃いのが当たり前。義務教育だから、みんなと同じ時間に同じ行動をするというのも良いリハビリになりましたね。」

そう淡々と話すGIMICOがモデルになったのは、「素材になりたい」と思ったからであるという。自分自身をプロダクトとして客観視し、セルフプロデュース能力が高いかもしれない、と自己分析する彼女は、発想を転換し、義足であるビジュアルを生かしてアンダーグラウンドな世界でデビューした。そして、リオパラリンピック閉会式では、東京2020を象徴するアイコンとして、表舞台で世界に圧倒的な存在感を見せつけた。モデルをはじめ、表現を生業にしている人間なら誰もが夢みる大ステージに立ったことにおいて、本人は

「あの場には私が適任だった、ハマっていたのだと思う。ただそれだけです。」とコメントする。あくまでも自分が何かをアピールするというスタンスではない。

「人があまりやっていないことをやってみたり、できるだけオーディエンスが見たことがないことをすることで新しい価値観に気づいてもらえたらいい。こういう世界もあるということを、他人の価値観を尊重することで自分を肯定できることもあると思う。」

©藪田修身

義足モデルが望むのは、
使い捨てできるシリコンライナー

「義足モデル」なだけあり、撮影などで実に様々な義足を履いているGIMICOだが、彼女にとって理想の義足とはどのようなものだろうか。

「生活用の義足に関してはアップデートされているけど、2030年変わっていないという印象です。テレビで紹介されるような最新の義足はとても高額で、一般障がい者が使える義足とはズレがあります。例えば足と義足をつなぐシリコンライナーという、いわば靴下みたいなものがあるのですが、一年に一度しか補助金を申請できず、自腹で買うと10万くらいかかるんです。なのでそういった消耗品を安価で毎日使い捨てできるように開発し直してほしいですね。私は運動量が多いというのもありますが、一年に一度の交換では衛生上問題があります。あとは汚れや水に強い義足が欲しい。義足向きなもっと万能な素材があればいいなと思います。生活用の義足は多種多様、ニーズも様々でどこに焦点を置くか定めにくいというのもありますが、これだけ色々なことが発展している世の中において、アナログすぎるところがある現状です。」

これは義足を日常的に履いている人にしかわからない意見だ。改善すべきポイントを知るためにはユーザーの意見に耳を傾けること。それはどんなアイテムにおいても同じである。殊に毎日体の一部として使っている義足なのだから、より快適に過ごせるよう早急に開発が進むことを願う。

©藪田修身

日常生活において「運動量が多い」というGIMICOだが、実は障がい者スポーツの大会に出場経験があり、金メダルを獲得したこともある。

「東京2020に向けてスポーツの機運が高まっていくならば、障がい者ももっと気軽に運動できる機会が増えればいいですよね。障がい者が運動するとなると、どうしても競技を目指されがち。私が上京して板バネを借りるときも、話の流れで義肢装具士の臼井二美男さんがやっている陸上チームに入り、ジャパンパラリンピックや色々な障がい者スポーツ大会に出場することになりました。私はタイムを競うような陸上競技に興味が持てなくて結局辞めてしまったけれど、健康上、適度な運動はしたいという気持ちはある。けれど、例えばヨガや簡単なエクササイズがやりたくてネットで検索しても、健常者の人のものしか出てこない。片足がない人はどこに重点を置いてどういうポーズをしたら体に効くんだろうとか、どこにも情報はないんです。軽くジョギングしたいけど、それ用には板バネは借りられないのか。競技まで本格的な運動でなくても、もっと手軽な値段でレンタルできて、スポーツができるようになれば。そういうチャンスがくればいいなと思っています。」

パラリンピックは、
サブカル好きにもハマる
!?

義足モデルとブラジリアンワックス店の経営者。次に夢中になれる職業が降りてくるのを待っているというGIMICOだが、2018年が始まった今、彼女はすでに新しいポジションで、世の中をざわつかせ始めている。

「例えば、そこまでスポーツに興味が持てないけれど、どうせなら東京2020を少しは楽しみたい、という人にも興味を持ってもらえる可能性が、パラリンピックにはあると思っています。健常者のスポーツはもう確立されているけど、障がい者スポーツというのは、足のない人はどう調整しているのとか、目の見えない人はどういう感覚を持っているのかとか、それにプラスメカ的なものが合体して、近未来的なイメージがあるから、アニメとか漫画の世界にコネクトできる。そういった特徴がスポーツに関心の少ないサブカルチャー寄りの人たちの興味をそそるのでは、と直感しているんです。私はそのナビゲーター的な役割を担いたい。」

それまでは受け手に自由なイメージを持ってほしいと発言を控えていたが、リオパラリンピック以降はインタビューやトークショーといった仕事を積極的に受け、ラジオやニコニコ動画の番組にも出演したりと、GIMICO” を解禁。

「以前は素材として、ビジュアルで十分インパクトがあるので、そこにメッセージを乗せてしまうと強くなりすぎるし、場合によっては福祉的なメッセージのみに繋がっていってしまうのを避けて、一切発言していなかった。でもリオ以降は、私が何かを発信してもいいのかもしれないと思い始めたんです。」

年齢不詳でミステリアス。エッジィなビジュアルでありながら懐の深さ、母のような温かさを感じさせる人柄。東京2020とその先に、日本を代表するポップ・アイコンとしてGIMICOの姿を頻繁に見かける日が来るかもしれない。

GIMICO
中学2年生の時に骨肉腫のため右足大腿を切断、義足となる。2009年より義足モデルとして活動を開始。森美術館「医学と芸術展」で蜷川実花デザイン義足のモデルを務めたのを皮切りに、そのエッジの効いた存在で多くの作品に出演。浜崎あゆみ、DIR EN GREYのミュージックビデオや写真、映画、イベントやショーなど一つのジャンルに捉われることなく常に大胆に表現を続け、それらを通じて今までにない新しい価値観が生まれている。2016年にはリオパラリンピック閉会式にてフラッグハンドオーバーセレモニーに出演し世界中から注目の的に。NTTdocomo、ワコール、アディダス、NTTdocomoなど大手企業のCMにも大抜擢をされ2020年へ繋ぐ時代のニューアイコンとしてその活躍がますます期待されている。

(text: 朝倉奈緒)

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生き残る芸人は、ただひとり!?【車いすハーフマラソン 芸人白熱バトル】Vol.1 前編

岸 由利子 | Yuriko Kishi

『車いすハーフマラソン2018、芸人白熱バトル!』は、2018年10月に岐阜県海津市で開催予定の「第23回長良川ふれあいマラソン大会」の出場を目指して、チャレンジ精神に溢れる芸人たちが奮闘する姿をお届けする連載企画。パラリンピックの北京大会で金メダル2個、ロンドン大会で銀メダル3個を獲得した車いす陸上スプリンターの伊藤智也選手が、各自の素質を見極めつつ、直々、指導にあたっていくという贅沢極まりない内容だ。

今夏、HERO X上で現役復帰を発表し、「57歳を迎える東京2020」で金メダルを狙うトップアスリートの伊藤智也選手。

勝負の舞台は、
2018年秋、岐阜県のハーフマラソン

毎年秋に開催される長良川ふれあいマラソン大会は、ハンディのある人もない人も一緒に走れるマラソン大会で、ハーフ(約21km)、クォーター(約10km)、2kmの3種目がある。今回、芸人たちが挑むのは、出場者全員が競技用車いすで走るハーフコースへの出場。制限時間は2時間だ。

競技用車いすは、日常用の車いすとは違って、背もたれはなく、細長い車体に三輪が付いた構造になっている。プロの陸上競技アスリートのほとんどは、正座の姿勢でシートに乗り、後輪の内側にあるハンドリム(駆動輪)を樹脂製のグローブで蹴って、走行する。健常者も操作方法は同じだが、足を降ろした状態でシートに乗るタイプの車いすを使う。足を折りたたんだままでは、30分も経つと、しびれて感覚がなくなってしまうからだ。

「基本は、前かがみの姿勢を保つこと。肘を張り、両手の親指を進行方向に向けて、蒸気機関車になったイメージでこぐことが、上達のポイントです」と伊藤選手は話す。

大蜘蛛&みんなのたかみち。
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初回の走行スピードは、6 km前後。フォームは、中々上手く決まらない。こぎ続けても、ホイールが一向に回らない。遅い、下手くそ…。周囲のスタッフから浴びせられる辛辣なコメントに火が点いたのか、たかみちさんは、メガネが吹っ飛ぶ勢いでこぎ出した。

「そうそう、いい感じ。腕が下に行く時は、胸をドーンとフレームにぶつけていくイメージでこいで。フォームもいいよ、きれい。8km、10km、11km、13km…」と走行スピードの計測メーターをチェックしながら、細かなアドバイスを続ける伊藤選手。フォームは少しずつそれらしくなり、スピードも、突如上がり始め、ついに15kmを超えた。

たった1度のアドバイスで、腕のリズムを習得したが、たかみちさんの顔は赤らみ、すでに息は上がっている。初体験に、少しお疲れのようだ。「こいでいる時、腕を外したら切れるから、外さないように」と注意を受けた矢先のことだった。

「痛~っ!!ホイールで、思いっきり、肌、擦ってしもたんですけど。めちゃめちゃ痛いです…」。一旦練習を中断し、痛みが鎮まるのを待っていると、伊藤選手が涼しい顔でこう言った。「15~16kmなら、まだ切れないから大丈夫。25km出たら切れるけどね。その程度の痛みは、勲章。さあ、もう一回走ってみよう!」。


今度は、走行スピードが15kmに達した時点から1分間、同じ速度を保って走り切ることが目標だ。たかみちさんがこぎ出すと、伊藤選手は、再び走行スピードの計測メーターに目をやった。

「同じテンポで、リズム良くこぐことを意識して。まだ10kmしか出てないよ。そうそう、その感じをキープ、キープ。ラスト30秒。15、13、12、11…はい、終了!」。無事、ノルマ達成だ。

伊藤選手が伝授する“肉体改造計画”とは?

「たかみち君は、腕が長いのが得ですよね。ただ、筋はいいけど、基本的に体を変えていく必要があると思います。ストロークが長い人は、より大きなフォームを作っていかないとダメなので。胸筋、二頭筋、三頭筋など、競技用車いすを乗りこなすために必要な筋肉を鍛えるためには、腕立て伏せが、一番。1日30回くらいやれば、自然と30km近いスピードまで上がると思います」

「僕、体力は全然あるんですよ。さっき、15kmで1分間こいだ時も、体力的には、楽勝やったんですけど、ただ腕が全然上がってきぃへんのですね。今もまだ手が震えてます。普段使わへん筋肉を使ったからか、体のあちこちが痛いです」

次は、いよいよ期待の星、大蜘蛛さんの出番だ。

後編へつづく

伊藤智也(Tomoya ITO)
1963年、三重県鈴鹿市生まれ。若干19歳で、人材派遣会社を設立。従業員200名を抱える経営者として活躍していたが、1998年に多発性硬化症を発症。翌年より、車いす陸上競技をはじめ、2005年プロの車いすランナーに転向。北京パラリンピックで金メダル、ロンドンパラリンピックで銀メダルを獲得し、車いす陸上選手として、不動の地位を確立。ロンドンパラリンピックで引退を表明するも、2017年8月、スポーツメディア「HERO X」上で、東京2020で復帰することを初めて発表した。

シンプル 大蜘蛛英紀
サンミュージックプロダクション所属。キングオブコント2012 / 2016にて準決勝進出の実力 を持つお笑いコンビ「シンプル」のボケ担当。
http://www.sunmusic.org/profile/simple.html

みんなのたかみち
ワタナベエンターテインメント所属のお笑いコンビ「プリンセス金魚」のツッコミ担当。2016年10月より、相方の大前亮将が拠点を名古屋に移したため、『遠距離コンビ』となる。以来、単独でライブなどに出演し、ピンネタを披露する機会も増えている。
http://www.watanabepro.co.jp/mypage/4000019/

(text: 岸 由利子 | Yuriko Kishi)

(photo: 増元幸司)

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