対談 CONVERSATION

悲惨な事故を激減できるか?データ活用が可能にする〝未事故〟社会

宮本さおり

ドライブレコーダーの普及と共に、もはや当たり前のようにいわれ始めた運転にまつわるセンシング。先日、高齢者の運転により母子の命を奪われた痛ましい事故の初公判が行われたばかりだが、被告はあくまでも「車の不具合」が理由だと主張し注目を集めた。交通事故は誰にでも起きうることだが、裁判で白黒がついたとしても失われた命が戻ることはない。ドライバーや歩行者が気をつけるべきこともあるが、人間の感覚だけに頼らない、事故を未然に防ぐ試みが多方面ではじまっている。あらゆる移動にまつわるセンサーデータを収集、解析することで社会に役立てようとする株式会社スマートドライブでは、事故を未然に防ぐことにも活用できそうなデータ活用プラットフォームを構築、今後は渋滞緩和などにも役立てたいと語っている。同社CEOの北川烈氏を編集長・杉原行里が訪ねた。

技術と実生活を結んで
革新をおこす

杉原:実は、僕がRDSでやっていることと、スマートドライブさんがされていることで近いなと思うところがありまして、今日はお話を伺いにきました。

北川:ありがとうございます。

杉原:僕たちはセンシングで全身を可視化して、今後はプライベートブロックチェーンで、未病や自分の身体の最適解を知ることなどをやっていきたいと思っているんです。スマートドライブさんがされていることは、考え方として非常に近いことを「移動」という分野においてされているなと感じているのですが。

北川:我々は〝動くもの〟を軸に考えてデータプラットフォームを作ろうとしています。一番多いものとしては車なんですけど、最近ですと人の動きや、そのセンサーデータ、さらにその周辺の情報で、例えば、事故を起こした場合に、その周辺情報をひとつのプラットフォームに集めて解析するようなこともはじめています。例えば運転にまつわるデータですと、集めたデータを解析するアルゴリズムがいくつかあって、それを他社に提供して、新しい保険を一緒に作るとか、自動車メーカーの新しいサービスを作るとか、マーケティング戦略を一緒に作るといったような事業と、そのプラットフォームを活用し我々自身がSaaSのサービスを展開しています。

事業概要を説明する株式会社スマートドライブ北川氏

 

杉原:なるほど。もともとスマートドライブって、北川さんが立ち上げられたのですか?

北川:そうです。私が大学院にいるときに、移動体などの時系列処理のデータ分析研究をやっていたのですが、それを社会実装したいなと思ったことがきっかけで創業した会社です。

杉原:創業はいつ頃ですか?

北川:2013年の末ですね。

杉原:ものすごくいいところに視点を置かれましたね。これから一番トレンドになるところですよね(笑)。日本はいま、海外の先進国と比べるとデータサイエンティスト不足で大変なことになっているといわれていますが、御社には盤石な体制がありますよね。データの集積や解析に、そもそも興味を持たれたきっかけは何かあったのですか?

北川:大学院って、研究テーマがたくさんあると思うのですが、私の場合は技術的な領域と自分の実生活が密接に結び付くところがいいなと思っていました。大学院の研究領域だと、技術的にはすごいけど、リアリティーがない世界ってあるんですよね。私はそういうものよりは、やはり実生活の課題を解決するとか、自分では “肌触りがある領域” という言い方をするんですけど、そういった領域のものがいいなと感じていて、研究室でも実世界の問題に応用が効くとか、技術をメディアアートなどの表現に応用することを推奨されて、自由に研究することを許してくれていました。そんな中、このテーマに出会って腹落ちをしたというのがきっかけです。だから、車の渋滞をどうしたら解消できるのかなど、身近な問題に目を向けるようになっていったんです。

〝車に乗るのが嫌い。〟
から始まった開発

杉原:僕たちがRDSでプロダクトを開発するときに、“自分ごと化” という言葉をよく使うんですけれども、それと近いのかなと。自分の身の回りに起きていることではない、もう少し先のことまで言ってしまうと、その感覚値にズレが生じてしまいますよね。例えば今の北川さんのお話だと、車の渋滞をどうやって解消するかって、渋滞を解消してほしくない人なんていないですもんね(笑)。

北川:そうですよね。私がこの話をするとネタっぽくなってしまうんですけど、実は私、あまり車が好きではないんです。車酔いをしてしまうので、できれば乗りたくない。
そんななか、事故や渋滞、車酔いといった移動における負の部分が、今後自動運転技術などの進歩で解決されていくという社会を早く実現させたいなという思いで創業しました。

杉原:北川さんの会社では、異業種とのパートナーシップや提携をされている。いろんな領域にプラットフォームで培われたアルゴリズムを提供されているという印象を受けたのですが、根幹となる技術やアルゴリズムになにか違いはあるのですか?

北川:基本は同じです。そのベースとなるものを保険に使うか技術に使うかによっての差はありますが、根底の部分は同じです。

杉原:今はどのようなことをされているのですか?

北川:分かりやすい例でお話しすると、一日の運転を数十万通りの軸でデータポイントを取り分けて、そこで機械学習をさせたりしています。だいたい2週間くらいかけてデータを取ると、その人が事故を起こす確率をかなりの高確率で当てられるんです。また、エンジンをかけた瞬間にその人がどこに行くかを推定するような研究開発も行っています。

杉原:それはすごい!!

北川:そういったR&D(研究開発)要素も含まれたアルゴリズムもあれば、リアルタイムにいろんなところから上がってくるセンサーデータを、APIとして様々なサービスに使えるようにすることもしています。

杉原:今のお話の中に出てきたR&D的な要素でいくと、例えばステアリングを握った感覚とか、ドアの開閉時の力の強弱なんかも含めて、この人がこれからどこに行くのかを推測したりするということですか?

北川:今はまだそこまではいっていないのですが、そういったデータが取れるようになれば、もっと精度は上がってくると思います。今我々が取っているのはGPSとかカメラの情報なので、その時の天気とか、エンジンをかけた時間帯とか、過去の行動履歴から推定できないかということをやっています。あとは、タイヤのメンテナンス時期をお知らせできるといったようなことです。集積したデータを使えば、故障を予測することも出来るようになります。

事故を未然に防ぐ仕組み

杉原:医療の側面から考えると未病を認知する感じですよね。僕は車が好きなので、タイヤ交換しない人やタイヤの空気圧を調べない人が信じられないんです(笑)。事故の要因として、車の整備不良もかなりの割合を占めていると思われますし、整備不足を指摘してくれるだけでも事故や故障を未然に防ぐことにつながりそうですよね。そのほかには、どんなことをされているのでしょうか。

北川:2つあります。ひとつは、我々はDX1.0と呼んでいるのですが、企業運営を考える時、社員であったり、物であったりがどこを移動しているかが分かったり、安全運転の度合いが分かるだけで、移動効率が上がるんですよね。例えば、営業車両の位置が分かれば、どういう動きをしていたのかを把握できる。そのデータを使えば、個人がいちいち日報を付けなくても、自動で日報が上がってくるとか、そういった移動にまつわる業務プロセスがDX化されるみたいなものって、実はまだまだ出来ていない。そこに対して我々は車両の管理とか、ドライバーの事故を無くすといったプロダクトや見守りみたいなものを出しています。

杉原:つまり、移動にまつわるDXを広く浅くやっていこうとされている。

北川:そうです。

杉原:その仕組みは物流などにも広く利用できそうですよね。

北川:そうですね。先ほどご質問いただいた、リスクや故障、行動を予測するというのは、我々としてはプラットフォーム事業と呼んでいるところで、これをパートナーと一緒に、例えば保険と組み合わせることで、安全運転をしている人は保険が安くなるといったような価格が変動する保険が作れますよとか。車を買ったら終わりではなくて、その後のメンテナンスまで完璧にサポートされている車が手に入りますよといったように、弊社のプラットフォーム×他社のサービスで、より深いDXをしていけないかと考えているのです。それをDX2.0と呼んでいて(笑)。広く浅くと、パートナーと深くつくっていくという、この2つの事業を展開しているところです。

杉原:おもしろいですね。DX3.0 、DX4.0はどうなっていくのか、これから楽しみですね。先ほど北川さんがおっしゃっていたように、物流にその技術が入っていったとき、僕たち消費者側もデータ提供を行っていれば、家にいて受け取れる時間帯に事前確認する必要なく配達してらえたりしますよね。

北川:弊社の強みは、そういったプラットフォームとして他社にいろんな形で提供できるということと、それによって、いろんなものとデータを連携しやすいということなんです。

杉原:ビッグデータが集まってくるということですよね。ということは、そのビッグデータにアクセスできる権利を、パートナーと契約しながらやっていくというのが現在のスマートドライブさんのビジネスモデルということですよね。

北川:おっしゃる通りです。ゆくゆくはマーケットプレイスみたいなイメージで、いろんな会社をつないでいくと、自動的に他社とつながってサービスの幅が広がっていくというというところまで出来てくれば、そこがDX3.0 といったところでしょうか(笑)。

杉原:すごいな。もう3.0まできましたね(笑)。楽しみです。

(プロフィール)
北川烈(きたがわ・れつ)
SmartDrive 代表取締役 (CEO) 。慶應義塾大学在籍時に国内ベンチャーでインターンを経験、複数の新規事業立ち上げに参加。その後、1年間米国に留学、エンジニアリングを学んだのち、東京大学大学院に進学。研究分野は移動体のデータ分析。その中で、今後自動車のデータ活用、EV、自動運転技術が今後の移動を大きく変えていくことに感銘を受け、在学中にSmartDriveを創業した。
https://smartdrive.co.jp

(text: 宮本さおり)

(photo: 増元幸司)

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対談 CONVERSATION

エンジニアとして世界と戦う、終わりなき挑戦。Xiborg代表 遠藤謙 × HERO X編集長 杉原行里【サイバスロン】

中村竜也 -R.G.C

今回は、先日HERO Xでも記事が公開された、“すべての人に動く喜びを与える”をモットーに義足開発するXiborg代表の遠藤謙氏と、弊誌編集長・杉原行里(あんり)の対談をお届け。

実際にXiborg立ち上げにも関わった杉原だからこそ感じる鋭い視点から、義足を通じて世界に貢献するその意味を紐解いてもらった。それでは、友人同士ゆえに話せるざっくばらんな対談をお楽しみください。

杉原行里(以下、杉原):まずは、Xiborg所属の佐藤圭太選手、リオデジャネイロ・パラリンピック男子400mリレーでの銅メダル獲得おめでとうございます。

遠藤謙(以下、遠藤):ありがとうございます。

杉原:実際にテレビで手に汗握りながら応援していたんだけど、正直な気持ち、もっと上を狙えたんじゃないかなと感じたのが本音です(笑)。それは、エンジニアに対してもう少しハードな要求を誰かがしなくてはと感じているからこそなんですが。そこを踏まえて、同じく昨年開催されたサイバスロンでの結果は、世の中はどう思っているかは分からないけど、個人的には「魅せたな」と感じています。2015年からリハーサルを始め、少ないリソースでよくあそこまで完成させましたね。

遠藤:そう!本来作っている人間がこんなことを言ってはいけないと思うんですが、あの義足の完成度に誰も気づいてくれていないんです(笑)。

杉原:逆にあえて厳しい言い方をすれば、やっぱり自分たちのやっていることが世間に伝わらないと、あまり意味がないとも感じていて。

遠藤:よく分かります。

杉原: 本人たちが一番分かっていますよね。だとしたら、2020年の東京パラリンピックに備え、エンジニアを増やして完成へのスピード感を上げていくようなことは考えているのかな?

Xiborg代表の遠藤謙氏

遠藤:そこに関してはものすごく考えたし、それが正解かも分からない中導き出したのは、やっぱり僕は、自分で全てをハンドルできる規模に抑えながら面白いことをやっていくのが合っているんじゃないかという答えに辿り着いています。スケールアップするような事業の中に自分がいると、恐らく好きなことが出来ないんじゃないかという直感を信じました。とはいうもの、今の体制ではエンジニアが少なすぎるのも分かっているので、あと2、3人増やし少数精鋭で進めていきたいと思っています。

左 2016サイバスロン出場時の様子。右 Xiborg社で開発した義足。写真提供:http://xiborg.jp/

義足を通じて世界に貢献

杉原:次に聞きたいなと思っていたのは、“D-Leg (https://www.facebook.com/DLegJapan/)*1”について。各発展途上国の義肢装具士と連携して義足ビジネスでフォローしていくというプロジェクトについての進捗を知りたいなと。

*1 D-Leg(ディーレッグ)
発展途上国を中心とした世界中の切断障害者のために、安価で高機能な適正技師装具の開発やその普及を行っているMIT D-lab、MIT MediaLabからスピンオフしたNPO団体。

遠藤
:D-Legも自分が持っているリソースが限られている中で始め、どうやったら進めていけるかということをかなり考えました。MIT(マサチューセッツ工科大学)にいた頃は授業の一環としてやっていたから学部生の人たちと進めていたんですね。その時は時間が無限にあったので、まずはやる気で進めていくというプロジェクトだったんです。

それから帰国し、日本でこのプロジェクトを継続するためにはどうしたらいいかと模索していたところ、東京工業大学の学生が毎年インドに行っているから、何かできないかという話になったんです。そこで僕も義足を作り彼らに持って行ってもらい、僕が行かなくてもインド側のパートナーと手を組んでテストをするというサイクルが、去年の3月から再開し、今はいいペースで回せるようになってきているところです。

杉原:謙が言っている“動く喜び”というものを必要としている一番つま先にいる人たちって、義足なんか夢のまた夢と思っているそういう途上国に住んでいる方たちかなって思うと、D-Legってつくづく素晴らしいプロジェクトだと感じていて。だからこそスピード感を持って進めてもらいたいし、協力できることはどんどんしていきたいと思っています。もちろんサイバスロンは面白い試みなんだけど、実装をすぐにしなければいけないという部分と、大幅なコストが掛かるわけじゃないですか。そういう意味では現実的ではないとういうかね。

ビジネス面から見た、Xiborgの目指すべきところ

やはり企業としてやっている以上は、収益を上げなくてはいけない。なぜならニッチなことをやっているからこそ、先駆者はこれから同じ道を目指す人間にも夢を与えなくてはいけないという使命を持っているからだ。

杉原:会社設立から4年目に入り、企業としての成長はどう感じているのかな?

遠藤:もの凄くというわけではないけど、少しずつ伸びてはきているかな。ただ、2020年の東京オリンピックを目処に世の中がまた違う方向に動き出すはずなので、それ以降のことを視野に入れ、ちゃんと価値を見出す研究をしていかないと、とは考えています。正直、ビジネスとして収益を上げることに特化して、東京オリンピック・パラリンピックまでコンテンツを作り続ければ、間違いなく儲かると思うんだけど、やっぱり僕はそれに魅力を感じることができない。自分たちは、義足周辺の物に対して持っているテクノロジーを他にも展開できるよう突き詰め、しっかりと研究していく方向で判断しました。

なので、言っているように飛び抜けた成長はまだしていないけど、2020年以降に向けたやるべきことを、今まさに進めている最中です。物を作っていく過程の中で世の中のために役立つものがあり、それを横展開できた瞬間がもの凄く楽しいので、だからその瞬間を味わい続けられるように頑張っていきたいなと。

HERO X編集長 杉原行里

エンジニアとしての遠藤氏の本質

杉原:よくメディアでは、義足エンジニアとして紹介されていますけど、謙のことを実際にそう思ったことがなくて(笑)。それについてはどう感じているのかな?

遠藤:義足だけのエンジニアではないから、はじめは違和感あったけど今は慣れました(笑)。正直肩書きはどうでもいいです。僕は、生粋のエンジニアなので、まだまだ物作りに対する欲は尽きません。もっと時間をかけていい物をたくさん作りたいですね。欲深い人間なので(笑)。

杉原:僕らが共通して言えることは、お互い格好いい物が好きで、さらにそこにはこじ開けたい穴があるってこと。だからこそHERO Xとして色々なプロダクトやエクストリームなスポーツなどをフォーカスしていく中で軸があるんだけど、それは、記事として取り上げているモノやコトを文化として日本に根付かせていくために、定期的にイベントを開催することなんです。

失敗したとしてもそれを続けていかないと、意味のないものになってしまうような気がしていて、紹介してはい終わりじゃダメだなと。出る杭は打たれるじゃないけど、これからは人がやらないことをやり続けていかないと。その一つの方法が、エンターテイメントとしての見せていくことではないのかと感じています。

そこで最後の質問なんだけど、例えばHERO Xが立てた誰かと謙が組んで新しいものを作るとしたら、どんな人がいい?

遠藤:嫌われ者がいいです。なぜなら、無いものに対してチャレンジするのがすごく面白いと思っているので。その意味は二つあって、一つは新しいことをやろうとする人。もう一つは、失敗を恐れない人。そういう人って日本では煙たがられる傾向にあるんです(笑)。

“すべての人に動く喜びを与える”。このような志は誰もが持てるものではない。なぜならきっと、多くの人が他の誰かがやってくれればいいと思っているからではなかろうか。もしかしたら、少しの思いやりを世界中の人、全員が持てれば、もう少し優しい世の中になるのではと、遠藤氏の話を聞いていると少し夢を見てしまう自分がいた。理想や夢を口にすると冷めた目で見られることを恐れずに信念を貫く遠藤氏の動向を、今後もHERO Xでは追ってみたいと思う。

Xiborgオフィシャルサイト
http://xiborg.jp/

(text: 中村竜也 -R.G.C)

(photo: 壬生マリコ)

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