対談 CONVERSATION

F1ガスリー初優勝!アルファタウリ・ホンダ スポンサーキーアカウントマネージャーが話すスポーツビジネスの裏側

宮本さおり

2020年F1第8戦となったイタリアGP、株式会社RDSもパートナーシップを結ぶスクーデリア・アルファタウリ・ホンダが予想を超えるパフォーマンスを魅せ、見事優勝を飾った。同チームのF1優勝はこれが初。Hondaのパワーユニットを搭載したマシンということもあり、国内メディアでも大きく取り上げられたのだが、このチームを支える日本人はHondaだけではない。本拠地イタリアで暮らし、スポンサーキーアカウントマネージャーとしてチームを支える本村由希さんもそのひとりだ。8月某日、モータースポーツが生み出すレガシーとは何かについて、編集長杉原行里が対談を行なった。

杉原:今日は大好きなF1について、お話しできるので、とても楽しみにしていました。ところで、本村さんはいつからスクーデリア・アルファタウリ・ホンダ(以下アルファタウリ・ホンダ)に入られたのですか?

本村:2019年の夏ですから、ちょうど1年になりました。スポンサーキーアカウントマネージャーとして、主に、車体を含めてのスポンサー企業との連携などのマネージメントに従事しています。アルファタウリ・ホンダはHondaさんがエンジンサプライヤーだったので、現地で架け橋となるような日本人スタッフを探していて、ちょうど私の経験とスキルが合致し、お世話になることになりました。その前は、リヴァプールや、マンチェスター・ユナイテッドなど、イギリスのプロサッカーチームでスポンサー関係の仕事をしていました。当時はスポンサーのケアというよりは、新しいスポンサーを探すスポンサーセールスがメインでしたが。

杉原:それは、今のお仕事とは少し違うということですか?

本村:そうですね、今はスポンサーさんが獲得した権利を使ってどうやってアクティベーションしているかということをモニタリングしたり、アドバイスしたりしています。

杉原:サッカーチームの時にされていたような新規でスポンサーを獲得する仕事というのは、人数的には結構いるのでしょうか?

本村:はい、いますよ。

杉原:それは、6大陸またがっているのですか?

本村:いいえ。リヴァプールのオペレーションは全部イギリスでした。親会社がフェンウェイスポーツというアメリカの会社でしたから、アメリカのビジネスは彼らに任せていることが多かったです。フェンウェイスポーツはボストンレッドソックスやナスカーなど、プロバスケットボールのスポーツマーケティング、スポースビジネスを行うプロフェッショナルです。だから、アメリカに関しては彼らに任せていたのだと思います。

マネージメントから見た
サッカーとF1ビジネスの違い

杉原:へぇ~。サッカーからF1にこられたと。1年携わってみてビジネス的に見たときに、F1とサッカーの違いなど、感じられることはありますか?

本村:F1はかなり面白いです。ビジネスのお金の回り方というか、エコシステムに違いがあるなと。サッカーはスタジアムがあるので、そこでいろいろなお金の回し方をする、つまり、自前でビジネスができます。これに対し、F1はそうした箱を持っているわけではなく、自分たちがぐるぐると世界のサーキットを回るじゃないですか。そこの違いが大きいと感じます。

杉原:サッカーとF1では権利関係の属している部分が違うということでしょうか?

本村:F1自体がいろいろな権利を持っているので、少し自由さに欠けるという部分はあるのですが、その分、私たちがいわば〝サーカス団〟のように世界をぐるぐると回るので、各国でチーム自体のブランディング効果が見込めます。ものすごくグローバルなスポーツだと思います。

杉原:大衆スポーツとしてのサッカーと比べて、華やかな社交場の雰囲気も持ち併すスポーツみたいな印象はあると同時に、熱烈なファンが多いですよね。小さい頃から僕もそのひとりなわけですが、そもそも、ファッションブランドであるアルファタウリがF1に参戦する理由はどこにあるのでしょうか。

本村:突き詰めるとレッドブルなんです。ご存じの通り、アルファタウリはレッドブルが展開するアパレルブランドなので。アルファタウリ・ホンダは前身のスクーデリア・トロ・ロッソから今年名前を改称しました。レッドブルはアルファタウリ・ホンダの他にレッドブル・レーシングを持っていますが、アルファタウリ・ホンダ(旧トロ・ロッソ)はセカンドチームとしてはじまったチームですから、スポーツをプラットフォームとしていかにあの青い缶を宣伝するか、アルファタウリの知名度を上げるかが狙いです。F1以外のエクストリームスポーツにもレッドブルは参戦していますが、いずれも目的は同じです。

杉原:ちょっと斜めな言い方になりますが、そこは別にF1じゃなくてもいいわけじゃないですか。F1には破格の開発費や運営費が必要で、もしかしたらそのままそれを広告費に充てた方が宣伝効果的には上がるかもしれない。宣伝というだけでは、F1に魅力を感じにくいと思うのですが。

本村:そこはやはり、レッドブルの創設者であるマシテッツ氏のこだわりもあるのでしょうね。彼はモータースポーツも飛行機も好きですから。そして、なんというか、王道を行かずにニッチなところにいく傾向もありますよね。

アルファタウリ・ホンダとRDSの共通点
F1が向かうべき道は内ではなく外

杉原:僕はアルファタウリのファクトリーに伺って、イタリア人のイメージが変わりましたよ。個人的に、正直なところ陽気で、暖かい気候と重なってすごくのんびりした地域性のある人たちという印象を持っていたのですが(笑)、アルファタウリのファクトリーは想像とは全く違っていた。僕が今まで見たどこのファクトリーの中でも群を抜いて綺麗でカッコよかった。タトゥーの入ったゴリゴリのお兄さんたちがものすごく真面目に緻密な作業をしている姿を見て、クラフトマンシップに感銘を受けました。

本村:そうなんです。イタリア人って実はすごく細かいんですよ。細かい上にきれい好き。あとはやっぱり職人気質で、私は日本人と似ていると思っています。こだわりの強い方も多いですし。

杉原:僕たちRDSがアルファタウリ・ホンダのオフィシャルパートナーとして契約を結んでいるなかで、僕は相乗効果というものに期待をしていかないといけないと思っています。アルファタウリ・ホンダとして、僕らRDSに期待してくれていることってありますか?

本村:私が一度工場に行かせていただいてからずっと思っていたのは、工程やバックグラウンドが似ているなということです。似ていませんか?私たちって。

杉原:それは凄く思いますね。

本村:製品生産をするプロセスもそうですし、マシンに乗るパラリンピアンの方たちと綿密に話し合って、本当にフィットするものを作り出す。その工程はF1とすごく似ているなと感じました。F1のマシンとドライバーの関係と同じですよね。アスリート本人の力による部分ももちろんありますが、好成績を残すためにはマシンに頼る部分も大きい。何年もかけてそのドライバーだけにフィットするマシンを作り上げていくという、本当に長くて複雑な工程を経て、それを成し遂げていく。

杉原:そうそう、似ていますよね。僕たちがアルファタウリ・ホンダと一緒に作りたい未来は、パーソナルモビリティーの部分です。例えば、僕らがつくる車いすもそう。僕は小さい頃からモータースポーツが好きで、自分でもレーシングカートのハンドルを握っていた。幼い頃から言われてきたことは「速いものはかっこいい、かっこいいものは速い」だったんです。そのうちに、タイヤがついているものはカッコイイと思うようになる。ところが、車いすって、タイヤがついているのにあんまりかっこよくないじゃないですか。最近徐々にカッコイイものも出てきていますけれど、僕は車いすを足の悪い人のためという狭い枠から外していきたいなと。世の中のマインドを変えて、オープンマインドにすることで、レースとの親和性みたいなものが生まれてきたらいいなと思っているんです。

本村:私もずっと考えていることは、F1の技術を落とし込む “その先” なんです。日本は高齢化社会と言われていますが、実はイタリアも高齢化社会を迎えています。高齢化率は日本が1位でイタリアが2位。ですから、F1の技術と医療で結びつけられるものがあるのではないかと。

杉原:それができたら面白いですね!

本村:私がコマーシャルサイドで見ている限り、その親和性はモータースポーツの中ではなくて、社会福祉だったり、環境問題にリンクする──つまり、内ではなく外に向かっていくというのがF1自体が今後向かうべき方向なのではないかと思っています。

杉原:ここですよね。今回のアルファタウリ・ホンダとRDSのパートナー契約に意義を持たせて、アクティベーションさせていきたいですよね。凄いワクワクしてます。

本村由希(もとむら・ゆき)
イングランドプレミアリーグのサッカークラブでの勤務を経て、2019年よりスクーデリア・アルファタウリ・ホンダでスポンサーキーアカウントマネージャーとして全レースに帯同。各スポンサーの獲得権利のモニターや管理、現地広告代理店とスポンサーの調整から、新規スポンサーの開拓などを担当している。

(text: 宮本さおり)

  • Facebookでシェアする
  • LINEで送る

RECOMMEND あなたへのおすすめ

対談 CONVERSATION

人の走りを可視化したスマートシューズがアスリートを変える!?「ORPHE TRACK」開発者・菊川裕也が見る夢 前編

吉田直子

センシング技術を組み込んだスニーカーを履くことで、自分の歩行や走りをスマートフォンやタブレット上で簡単に計測・分析できるスマートシューズ「ORPHE TRACK 」。企画・開発したのは株式会社no new folk studioの菊川裕也氏だ。「楽器のような靴を作りたい」という発想から生まれたスマートシューズが、いかにプロダクトとして成熟していったのか。アメリカのクラウドファンディングサイトで$110,000以上の資金を調達し、2016年に一般販売されるまでの経緯と、「ORPHE」シリーズに込められた菊川氏の哲学を、編集長・杉原が伺った。

楽器づくりから始まった
「ORPHE」シリーズ

杉原:実は僕、菊川さんの講演会には何度も行っています。「ORPHE」もかなり早い段階で注目していました。まずは、開発のきっかけからお伺いしたのですが。

菊川:そもそも大学は文系で、どちらかというと商学部よりも軽音楽部に通っていたような大学生活でした。音楽が好きだったのですが、普通の音楽がやりたいわけではなく、楽器から作りたかったんですね。それで、首都大学東京の大学院で芸術工学を専攻して、単位取得をした頃にはこの会社を立ち上げていました。大学院の時に一番時間をかけて作ったのが、目の見えないユーザーが使える電子楽器。ユニットを押したり、つかんだりすることで音が鳴る楽器です。直感的なインターフェースというと電子楽器やDJが思い浮かびますが、DJといっても、音とジェスチャーが本当に1対1で対応しているかわからないじゃないですか?

杉原:確かにそうですね。DJは直感的なインタラクションというけれど、レコードを回すマネだけをしているかもしれない。

菊川:テクノロジーの進化によってインターフェースのデザインの幅が広がって、時代的にも音とジェスチャーの分離が激しくなってきていたので、逆にそれがつながる意味を考えていました。その後、サントリーさんの「響」というウイスキーのプロモーションで、楽器になるコップを作りました。金細工の部分が静電容量センサーになっていて、グラスを持ったらそれがわかる、加速度センサーでグラスの傾きがわかる、唇に触れたらわかる。飲んでいる行為が合奏になるのです。要はもともと知っているものが楽器になると、「これ、飲むものですよ」と言わなくても、人は勝手に飲むんです。

杉原:飲む時にコップを持つというのは当たり前の行為だから、使い方を教えるコミュニケーションやらなくて済んだ、ということですね。

菊川:まさにそうです。どれだけ直感的に作ったとしても、新しいものだったら、説明しなきゃいけない。そこで、真新しい楽器を作るよりは、すでにあるものが楽器になっていくことをやったほうが、あらゆる人を演奏者に変えられると思いました。靴は本当に誰でも履くので、靴自体が楽器になれば、普段みんなが意識していない、「歩く」「走る」が演奏行為になると思ったんです。

杉原:その発想は面白い!

菊川:最初はシンプルにタップダンスのシューズを電子化することを考えていました。靴は買ってきて、そこにセンサーを付けて、みたいなことを1人で夜な夜なやっていたら、じょじょに「面白い」「製品化したら?」と言ってくれる人が出てきて、一部を出資してもらってクラウドファンディングまで持っていくことになった。それが会社設立の経緯です。

スマートシューズ市場が
思ったよりなかった

杉原:これ、出た時は覚えていますよ。すごく欲しいと思いました。

菊川:ありがとうございます。この時点ではあまりモノ作りの制約を抱えていなかったので、こういうものがあったら楽しいよねという素直な気持ちに基づいて作られています。

杉原:濁りがないですよね。僕も車いすが最初に出来た時の喜びはいまだに色あせないのですが、今モビリティを作るときには、「これ量産は無理だな」とか、「ここをちょっと変えなきゃダメだな」とか、少しずつ加点より減点になっていく。そこを、いかに食い止めるかが課題ですよね。

菊川:本当にそうですね。とはいえ、ちゃんと量産して販売するところまで、それほどお金をかけずに達成できたことは、今でもノウハウとして引き継がれています。スマートシューズ系で大風呂敷を広げたところは、わりと出す前に破綻したりしていますから。

杉原:最初のスマートシューズの時代を振り返った時に、今も残っている考え方やテクノロジーというのは、何かありますか。量産のノウハウと、あとは?

菊川:いや、全部残ってはいます。プロダクトとして成立しやすい部分を抽出して、製品になっているのですが、成立しにくい部分も別に捨てたつもりはなくて、多分戻ってくると思います。ただ、思ったよりもモノ作りの世界の発展がスローでしたね。スマートシューズに関しては2014年くらいから考えているから、クラウドファンディングが終わる頃には、ランニング系のスマートシューズなんて世の中で当たり前になっているはずだと思っていました。だから、もっとニッチな、ダンスに特化したものでないと売れないと思っていたんです。でも、2020年でも、全然当たり前になっていなかった。

杉原:わかりますね。オリパラが決まった時に、大企業もスタートアップもみんな色々な風呂敷を広げたじゃないですか? でも、2020年になった今、予想よりはプロダクトが出てこないですもんね。想像以上にあまり変わっていないというのが自分の中の認識です。

菊川:打ち出すことはできても、実際に新規性が高いことをやる場合って、当然障害があるわけじゃないですか? それをちゃんとやりきる人は、実はかなり少ないですよね。

ランナーのためのシューズを
新しく開発

杉原:2015年に発表して「Indiegogo」(サンフランシスコを拠点にするクラウドファンディングサイト)で資金調達したんですよね?

菊川:そうです。それをもとに製品を開発することができました。その先の話をすると、僕らの場合、一般のコンシューマにどんどん市場が広がっていったというよりも、むしろ様々な場でコンテンツとして使ってもらえたことが大きかったですね。例えばAKB48さんや乃木坂46さんのライブに使ってもらったり、21世紀美術館での展示や、TVCMにも使ってもらったり。ちょっと目新しいものとして話題になったことで、ほかの仕事にもつながっていきました。

杉原:2015、2016年からプロモーションをやってきて、今の活動は、会社としてはどういう主軸になっていますか?

菊川:主軸はスマートランニングシューズの開発ですね。アプリをオープンにするというのは最初から思想的にはあったので、3年間くらい、SDKを無償配布して、大学とかに使ってもらったりしていました。そういう中で、為末大さんとも出会って、「ORPHE」を最初に見せた瞬間に、「子どものランニングの教育に使いたい」と言ってもらえたんです。パンと踏んだ瞬間に音と光が出るので、しかも、もともとタップダンスの動きを模していたこともあって、かかとから着地するのと爪先で着地するのでは音色が変わるようになっていた。IoTというとデータだけ貯まっていけばあとはなんとかなる、みたいなところに行きがちですが、僕たちの場合はデータを録るというのと、即自的なフィードバックの両方をやっています。フォームを変えるみたいな、その人にとって直接ベネフィットがあるようなタイプのことが得意だなと思っていたのと、為末さんというのもあったので、そこでランニングフォームを見えるようにして、「ORPHE TRACK」にたどりついたという形ですね。

ランニングフォームを分析できるスマートフットウェア「ORPHE TRACK」。スマホアプリと連動し、今まで大がかりな設備でしか計測できなかった「着地」「プロネーション」「左右バランス」も解析できる。2019年発売。

引用元 https://nonewfolk.shop/

杉原:やっぱりコミュニケーションというか、伝え方にすごくこだわっていますね。

菊川:そうでしょうね。もともと会社自体は表現行為だと思ってやっているので。

杉原:うん、うん。

菊川:とはいえ、2016年に発売した「ORPHE ONE」はわりと漠然とやりたいことをやっているのに対して、「ORPHE TRACK」という世代では、きちんとこの技術が欲しい人たちに伝えることを意識しています。いろいろ調査したのですが、特にランナーの中でも、着地は、なかなか変えられないんです。勉強するけれど、そもそも自分がどうなっているかよくわからないというのがあって。

杉原:それを音で知らせてくれたり、光で知らせてくれたりしたら、フォームの直し方がわかりやすいですよね。

菊川:はい、全然違いますね。あとはセンサーと靴を切り離したというのは大きいです。前のモデルは全部スマートシューズだったので、一部が壊れたら全部替えないといけなかったのですが、ORPHE TRACKではセンサーと靴を分離しました。また、センサーとしては同じような仕組みですが、中のアルゴリズムはめちゃくちゃ進化させていて、履いているだけで歩幅や速度や角度など、ひとつひとつのデータを切り出せるようなアルゴリズムを社内で開発しています。

杉原:すごいな、このアルゴリズムは。結構変数が多いですよね?

「ORPHE」のアプリUIを見て、驚く杉原編集長。データを見ながら練習することでランナーの着地改善なども容易になる

菊川:センシング自体はシンプルで、アウトソールの真ん中に3軸加速度センサとジャイロセンサを置くというだけです。でも、そのほうがスケールしやすい。で、それを料理するアルゴリズムの部分をがんばって開発しているという感じです。

<後編へ続く>

菊川裕也(きくかわ・ゆうや)
1985年、鳥取県出身。一橋大学 商学部 経営学科を卒業後、首都大学東京大学院芸術工学研究科に進学。音楽演奏用のインターフェース研究・開発を行う。視覚的インターフェース「PocoPoco」が、アジアデジタルアート大賞優秀賞を受賞。その後、スマートシューズ「ORPHE ONE」を開発し、2014年10月にno new folk studioを設立。クラウドファンディングでの資金調達に成功し、「ORPHE ONE」を量産化する。2019年7月よりランナー向けシューズ「ORPHE TRACK」を発売。

(text: 吉田直子)

(photo: 壬生マリコ)

  • Facebookでシェアする
  • LINEで送る

PICK UP 注目記事

CATEGORY カテゴリー