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コロナ禍で物流を支えるラストワンマイルモビリティの運用が加速する中国。日本はどうなる?【Mobility Watchers】

Yuka Shingai

医療従事者、公共交通機関の職員、スーパーやドラッグストアの従業員と並んで、コロナ禍でも休むことなく最前線で活躍していた配送業者。食料や日用品の注文もちろんのこと、外出できない分、ネットショッピングを楽しむなど、お世話になった人も少なくないだろう。 しかし、最終拠点からエンドユーザーまでの区間「ラストワンマイル」は常に非常にひっ迫した状況だ。当日配送の撤廃、宅配ロッカーやコンビニ受け取り、置き配や、非対面の受け取りを推奨するなど各社が知恵を絞るも、配達員の負担はなかなか軽減されず、緊張を強いられている。 慢性的な人材不足を始めとする課題にテクノロジーがどう応えていくか。今回【Mobility Watchers】はこれからの物流システムを支えるモビリティを紹介する。

HERO Xでは、これまでもコロナウイルス流行下で活躍するロボットを多数紹介してきたが、医療機関や公共交通機関以外で存在感を発揮したものとして配送ロボットが挙げられる。これからのモビリティの活躍は、“人” だけでなく “物” も運ぶ存在であるのだ。

中国大手ECサイト京東(JD.com)傘下の物流会社「京東物流(JD Logistics)」は、コロナウイルス流行後、間もない2月に武漢第九病院へ医療物資を配送するためスマートデリバリーロボットを初運用した。
北京にいる技術者がクラウドプラットフォームを通じてリモートで無人配送車を武漢に配置し、実際の配送業務は現地スタッフが行い、見事に連携を成功させた。
コロナウイルスの流行中に自前の物流インフラを持つ京東物流が請け負った物流は大きく、これからは配送拠点を強化し、地方や農村エリアでも24時間以内の配達を目指していくという。

街を走行する京東物流(引用元:https://mp.weixin.qq.com/s/AaDVBDWaOOXtJgKXx1jXMw

また中国最大の検索エンジンを提供するBaidu社が率いる業界横断型の技術開発コンソーシアム「アポロ計画」も自動運転技術に注力しており、無人配送車を上海の病院と北京の隔離拠点で採用している。
これまで中国では、前述の京東と、食品配達大手のMeituan(美団)以外は自動運転での配送サービスを許可されていなかったが、コロナを契機に規制が緩和されたため、競合が多く出現することになるだろう。
アリババの創設者ジャック・マー氏は、その成長規模について「10年以内に中国国内で毎日、無人車両が10億件以上の荷物を配達できるようになる」と予測しているほどだ。

一方、日本における物流は属人的な部分が残り、中国や欧米と比べるとITやシステムによる標準化が遅れているが、以前HERO Xでも紹介したオムロンの「LD-250」(http://hero-x.jp/movie/8405/)や、パナソニックの「STR-100」シリーズ、日立製作所の「Racrew」など、物流支援ロボットを手がける企業は少なくない。

Hakobotプレスリリースより引用 :https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000035462.html

なかでも、以前HERO Xにも登場した石田繁樹氏(http://hero-x.jp/article/7003/)率いる三笠製作所と業務提携により開発が行われている「Hakobot」はGPSを使って自分の位置を認識し、LiDARなどのセンサーや画像認識で周囲の状況を把握しながら無人配送を行う期待の星だ。
堀江貴文氏がアドバイザーとして経営戦略に立っていることでも大きく話題となり、昨年11月の実証実験を経て、次のステップが待たれている。

法整備や諸々の課題について議論がどこまで煮詰まるかもDXを起こす上では気になるところ。今後の動きにも要注目だ。

【Mobility Watchers】前回記事はこちら:http://hero-x.jp/movie/9403/

(text: Yuka Shingai)

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物流・移動 動き出した「モビリティ」の潮流

HERO X 編集長・杉原行里

すでに日本でも多用されはじめている「モビリティ」という言葉。街に目を向けると、僕たちの暮らしはなんと多くの「モビリティ」に囲まれているのだろうかと思わされる。そんな「モビリティ」について、HERO Xでは、特集企画として3ヶ月をかけてとことん深掘りしていくことを決めた。

コロナが起こした追い風

私たちが置かれた日常に「コロナ」という大きな危機がやってきてはや半年。「撲滅」から「共生」へと、人々の感情は変わり始めている。しかし、このコロナがもたらしたものはなにも負の産物ばかりではなかった。多くのマスメディアが取り上げているように、人々の移動と接触が制限されたことで、テレワークの推進や、社会におけるIoT化が加速したことは紛れもない事実だろう。時代は常に動いている。技術革新における追い風は、緊急性を要する問題にぶち当たった時こそ強く吹く。そして、そんな追い風は、モビリティの世界にも吹いている。

そもそも、モビリティとは何なのか。今のところの定義は、移動を助ける物というところだろうか。人間は長い歴史の中で様々なモビリティを創造し続けてきた。馬車や牛車、人力車、自転車、電車、バスなど、多くの乗り物が存在し、人々の暮らしを豊かにしてきた一方で、それによる弊害も人々は被ってきた。よく言われる環境問題の話ではなく、進歩と思考の停止という弊害だ。

最新モビリティは途上国ほど
浸透するかもしれないという未来

日本の場合、とくにその影響は都会に出ている。移動の選択肢について、私たちはさほど迷うことはなくなった。スマホに話しかければ最適な交通機関を教えてもらえるし、カーナビに行き先を入力すれば迷うことなく目的地までたどり着ける。複数の交通手段の選択肢を得たことに満足し、それ以外の新たな方法を自ら考えるということからは遠ざかる方向にあった。いや、正確に言うならば、技術者が開発を続けていても、人々は今の状況に満足し、それほど強く進化を求めていないという現状があった。

だが、今回のコロナでその思考は一変した。人との接触が避けられない満員電車をどう回避するか、自宅にいながらにして快適な生活を送るためにはどうするかなど、コロナによって引き起こされたニーズは、これまで、限られた地域などで行われていた実証を、より広いフィールドでできるようにしてくれた。先日、航空会社が行った五島列島へのドローンを使った物資輸送実証が行われニュースとなった。新たな取り組みを行うとき、開発者たちは実証フィールドを求めて自治体などとの交渉を進めていくのだが、受け入れてくれる自治体とのマッチングにかなりの時間がかかることはあまり知られていないことだろう。ルワンダでは輸血用の血液を運ぶため、すでにドローンが使われはじめている。人々の需要が様々な形で増している今、実証フィールドとしてエリアを開放する都市は世界レベルで増えていくことになるだろう。実証ができるということは、それだけ開発のスピードも加速される。

そして今、モビリティの定義は、新たなフェーズを迎えている。それも、世界的な追い風を受けてだ。結果、モビリティの定義は大きな広がりを見せており、その潮流は大きく二つあると感じている。車や電車など、人を運ぶためのモビリティと、物を運ぶ物流におけるモビリティという二つの潮流、これらは今後、わたしたちの生活を確実に変化させていくことだろう。

モビリティ×ロボティクスがもたらすもの

そしてこの潮流と密接な関係になるのがロボティクスだ。SFの世界観が現実のものとなる日は近い。いや、すでにはじまっている。ロボティクスの活躍は、私たちの日常に多く溶け込んでいる。だがその形態は、大型ロボットのような目に見える形ではなく、もっと身近なシステムとして入り込んでいるのだ。例えばカーナビがそうだろう。目的地まで案内してくれる機械が現れることを、誰が想像していたであろうか。IoTとモビリティとのつながりは、私たちの未来、日常の様々なシーンでの選択肢をさらに広げてくれることになるはずだ。

また、多彩なモビリティの出現は、個人の移動手段の幅を広げ、所有だけでなく、シェアリングをより身近なものにしてくれる。満員電車を避けるため、需要が増えているという自転車のシェアリング。MaaSの加速は今後、新たな乗り物の出現で、市民権をさらに伸ばす可能性が高い。人々の生活に大きな変革をもたらして来たモビリティ分野が、コロナという追い風を受け、世界的に次のフェーズに大きく動きだそうとする今、われわれがその潮流に乗り遅れれば、国としての遅れを引き起こすことにもなるだろう。この潮目にどう乗っていくべきなのか。様々な立場の専門家の取材を通し、3ヶ月をかけて考察していく。

(text: HERO X 編集長・杉原行里)

(photo: 増元幸司)

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