対談 CONVERSATION

始まりは“かめはめ波を撃ちたい!”という発想。テクノスポーツ「HADO」開発者インタビュー 前編

宇都宮弘子

「かめはめ波を撃ちたい!」という圧倒的にシンプルな発想から、AR技術を駆使して生み出された最先端・新感覚スポーツの「HADO」。“テクノスポーツ”という新たなジャンルの創造を手掛ける株式会社meleap のCEO・福田浩士氏からHADOの誕生秘話についてHERO X編集長・杉原行里がお話を伺った。

テクノスポーツ「HADO」の誕生 

杉原:福田さんとは初めてお目にかかるのですが、僕は新しい領域・新しいスポーツを創っていくということに大変共感していて、御社の開発された“テクノスポーツ”「HADO」を興味深く見ていました。まずは「HADO」について教えていただけますか?

福田:頭にヘッドマウントディスプレイ、腕にアームセンサーを装着し、体を動かして戦うという新しいスポーツです。公式の大会は3人対3人の対戦型で、80秒という制限時間の中でどれだけスコアを取るかを競い合います。技のメインは手を動かして放つ「エナジーボール」と呼ばれる攻撃と、その攻撃を防御する「シールド」の2つです。チームの3人はそれぞれ役割分担を決めて、戦略を立てながら戦っていくというものです。

杉原:おもしろそうすね。僕は最初に“テクノスポーツ”というこれまで耳にしたことのない言葉に惹かれました。“テクノスポーツ”って、いったいどんな領域のものなのでしょうか?

福田:“テクノスポーツ”とは、僕たちが創った言葉なんですけど、当初はスポーツジャンルにしようとは思っていませんでした。ただ単純に「身体を拡張したい」というのが一番の目的だったのです。そんななかで、一番シンプルで分かりやすかったのが「マンガの『ドラゴンボール』みたいにかめはめ波を撃ちたい!」と。じゃあ、かめはめ波を撃って何がしたいのか。ゲームとかエンタメのコンテンツでは、そもそも大手との競争には勝てない、せっかくコンテンツを作るならスポーツにした方が楽しいんじゃないかっていう発想にたどり着いたんです。例えば原っぱにボールが1個あるだけで、そこからいろんなものが創造されるというように、ユーザーが自分で考えて僕らが想像もしなかったような新しい遊び方を開発してくれたらおもしろいんじゃないかなって。そこからスポーツという路線に進んだのです。

杉原:“テクノスポーツ”はITの文脈だったり、新しいテクノロジーによって創られていくスポーツという広義な捉え方ができるということですよね。実は僕もずっとかめはめ波を撃ちたいと思っていたんです!(笑) ですので、「HADO」を知ったとき「やった! ついに撃てる!!」と興奮しました。身体的な拡張はもちろん、心の拡張という面もありますよね。ところで、「HADO」が最初に導入されたのが長崎のハウステンボスだったと伺ったのですが。

福田:そうです。本木 (株式会社meleap CCO・本木卓磨さん) がハウステンボスに泊まり込みで行きましたね。初めてのことで分からないことが多すぎて、長崎まで行ったものの、宿泊している部屋から一歩も出られずにひたすら開発していたそうです(笑)。

杉原:新しいことってとにかく不安だから現地に行きますよね。動かなかったりしたらどうしようとかね。でも、未知のコンテンツでいきなり最初からハウステンボスってすごいですね。

福田:当初はスポーツというよりも少しアトラクションよりのものを作ったんです。たまたま当時社長をされていた澤田秀雄さんをご紹介いただいて、最初はこんなものを作りたいというイメージVTRを制作して、是非導入して欲しいとお願いしたら「いいよ」って言っていただけて。そこから頑張りましたね。

杉原:では最初はコンテンツとして出来上がっていたわけではなく、イメージVTRで売り込むところからスタートしたということですか?

福田:そうですね。プロダクトがなかったので、素人ながらCG合成した動画を作って持って行きました。今改めて見るとクオリティの低い動画です(笑)。

スポーツやeスポーツとの違いはどこにあるのか

杉原:「HADO」の他とは違うところやコンテンツの強みについて教えていただけますか?

福田:明らかにサッカーや野球とは違って、新しいテクノロジーを使わないと実現できないスポーツであるということ。さらに、eスポーツとはフィジカル面で全く違うんですよね。指先だけを動かすのではなくて、身体を根本から鍛えないと勝てないような競技です。

杉原:ARのスポーツ化って、世界的にはどのくらい進んでいるのでしょうか?

福田:実はまだ競合はなく、うちしかやっていないんです。市場がゼロの状態から形にするのが難しいからでしょう。「HADO」には既に公認チームを対象とした日本ランキングもあって、最近はスポンサーの付くチームも増えてきています。

杉原:すごいですね! スポンサーも付いているなら、もう完全なスポーツですよね。僕は努力を重ねて戦うという点で、eスポーツもテクノスポーツもどちらもスポーツだと思っているんです。IT革命が進化し続けるなかで、今の子どもたちは、eスポーツもテクノスポーツもサッカーも同じスポーツだよねって言うようになるでしょうね。もうその段階にきているのではと。グランツーリスモっていうゲームがありますが、そこから実際にプロドライバーが生まれています。違いと言えば、画面の中の世界かリアルな世界かということだけ。実際に、F1ドライバーもコースをインプットするために、ちゃんとGをかけながらシミュレーターを使って練習していますから。

福田:すごい! それは知りませんでした。既存スポーツでシミュレーション系のeスポーツはみんなにとって分かりやすいから、スポーツとして認められやすい傾向にありますよね。

後編へつづく

福田浩士(ふくだ・ひろし)
1986年新潟県生まれ。明治大学工学部卒業後、東京大学大学院を修了。2012年に株式会社リクルートに就職。退職後、2014年1月に株式会社meleapを設立。CCOの本木卓磨らと共にAR(拡張現実)技術とウエラブル端末を用いたテクノスポーツ「HADO」を開発、レジャー施設やイベントなどでサービスを展開している。

 

(text: 宇都宮弘子)

(photo: 増元幸司)

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日本でも浸透中!頭のフォルムを美しく再成形する、赤ちゃんのヘルメット 前編

富山英三郎

街を歩いていると、1歳前後の赤ちゃんがヘルメットをしている姿を見かけることがある。実はこれ、絶壁頭(頭蓋変形)を矯正するために作られたオーダーメイドのリモルディング・ヘルメット。「パーソナライズの量産化」を目指すRDSの代表であり、本誌編集長の杉原行里は、甥っ子が使っていたこともあり興味津々。そこで、国内での治療実績が豊富な西宮協立リハビリテーション病院の三宅裕治院長にお話を伺うため、兵庫県の西宮市に向かった。

使用目的の多くは、
頭部の「見た目」を改善させるため

杉原行里(以後、杉原):実は以前、私の甥っ子が頭蓋変形の矯正ヘルメットを使っておりまして、そこで初めて知ったんです。素人なのでつい、「頭蓋変形」ではなく「絶壁」という表現をしてしまいますが、これは何か悪さをするものなのでしょうか?

三宅裕治院長(以後、三宅):主な使用目的は見た目です。頭蓋変形には、斜頭症、短頭症、長頭症がありますが、通常重い病気ということではないんです。頭の形がいびつだと、髪を坊主にしたときにイジメられるとかいう程度ですね。

杉原:歯科矯正みたいなものですね。

三宅:頭蓋骨には、「頭蓋冠」という脳を覆う蓋のような骨があります。厳密に言えば、ここが歪むと「頭蓋底部」も歪むことになります。頭蓋底というのは頭の骨の底部、脳がのっている部分ですね。そこには神経が通る穴がたくさん空いていて、そこが歪むと神経麻痺を起こす可能性がある。ほとんど症例はないですけど。

杉原:なるほど。

三宅:頭蓋変形で起こりやすいのは、耳の位置が左右で違ってしまうことです。人間は左右の耳の中央でモノを視るので、斜めの姿勢になりやすい。そうすると、体全体のバランスが崩れて背骨が歪んだり、肩こりの原因になったり。そのほか、頭蓋骨につられて顔が歪むと、噛み合わせが悪くなるとか…。どれも命に関わる問題ということではありません。

赤ちゃんを仰向けに寝かせるようになってから、
頭蓋変形の子どもが増えた

杉原:それを聞いて安心しました。ヘルメットを使う矯正方法は、1990年代にアメリカで始まったと聞いています。それ以前はどういう対処をしていたのでしょうか?

三宅:昔のことはよく知りませんが、うつ伏せ寝をさせている赤ちゃんは頭蓋変形が起こりにくいんです。一方で、「乳幼児突然死症候群」はうつ伏せ寝をさせていると起きやすいというデータがあって、1990年代初頭から世界的に赤ちゃんを仰向けで寝かせるようになった。その結果、頭蓋変形の子が増えてきたようです。アメリカ人は日本人よりも頭の形が長細いので、余計気になる。頭蓋変形の矯正が、米国から生まれたのはそういう背景があると思います。


杉原:アメリカ人は歯の矯正も熱心ですよね。また、そこをケアするのは親の責任だという感覚がある。

三宅:そうですね。日本だとこだわる人は少なくて、寝返りができる月齢になったら勝手に治るだろうと。あまり気にしていない方が多いです。

杉原:日本に入ってきたのは2006年頃ですが、三宅先生はどういうきっかけで導入されたのですか?

三宅:昔からの知り合いが、リモルディング・ヘルメットの輸入を始めたことで知りました。当初は東京女子医大さんしかなく、彼らが関西の拠点を探していたなかで、お話をいただいたんです。しかし、私の専門は脳外科なので本筋ではないですし、小児脳外科でもないので子どもの扱いに慣れていない。無理やりヘルメットなんて被せたら、泣いちゃって大変なんじゃないかと最初は思いました(笑)。でも、泣いて大変ということはほとんどないですね。

杉原:うちの甥っ子も違和感なく受け入れていました。

三宅:また、導入したのは2011年でしたが、頭の形を気にする人がそんなにいるのかな?と当初は半信半疑でした。始めてみたら、関西圏の方はもちろん、沖縄やマレーシア、シンガポールなどから通われる患者さんがいて驚きました。

ヘルメットの購入や調整は自由診療

杉原:ヘルメット作りに関して、主な流れを教えていただけますでしょうか。

三宅:頭蓋骨は7つのピースに分かれていて、それぞれのつなぎ目を「頭蓋縫合」と呼びます。乳幼児の頭蓋縫合はゆるやかに結合していて、脳の発育に応じて広がっていきます。しかし、発育途中で頭蓋縫合が部分的に、あるいは全体的に閉じてしまう病気があるんです。そうなると、その閉じた部分だけが広がらずに歪な形になってしまう。それは病気であり、ヘルメットをしても治らない。まずはその病気ではないかを調べます。その他、神経症状や骨に異常がないかを見て、ヘルメットを着用しても問題がないかを診断していきます。

杉原:リモルディング・ヘルメットは、保険診療と自由診療のミックスですよね。

三宅:最初の診断は保険診療ですが、ヘルメットの購入や発育に応じたサイズの微調整の部分は診療行為ではなく、ヘルメットメーカーと直接契約していただくかたちになるので、いわゆる混合診療ではありません。

杉原:ヘルメットメーカーのスタッフが、病院や関連施設で調整をおこなうのですね。

三宅:そうです。

杉原:来院された方の何割くらいが、ヘルメットによる矯正を選ばれますか?

三宅:うちでは約7割ですね。

後編へつづく

三宅裕治(Hiroji Miyake)
1954年生まれ。西宮協立リハビリテーション病院院長/脳神経外科専門医、脳卒中専門医。1979年、大阪医科大学卒業。1989年、大阪医科大学講師(脳神経外科学教室)。1989~1990年、米国バロー神経研究所留学。1997年、大阪府三島救命救急センター部長。2002年、医療法人社団甲友会 西宮協立脳神経外科病院・院長。2019年、社会医療法人甲友会 西宮協立リハビリテーション病院・院長。著書として、『脳神経外科手術アトラス』(医学書院)、『最新小児脳神経外科学』(三輪書店)、『特発性正常圧水頭症診療ガイドライン』(メディカルレビュー社)など多数。

(text: 富山英三郎)

(photo: 衣笠名津美)

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