コラボ COLLABORATION

観客を一番魅了した人が勝ち。「Wheel Style」初代王者決定戦をレポート!

岸 由利子| Yuriko Kishi

毎年お台場の野外特設会場を舞台に開催される、エクストリームスポーツの祭典「CHIMERA GAMES」。2度めの本格参加となる今年、HERO Xが新たにプロデュースしたのが「Wheel Style」。プロアスリートやダンサーたちが “Wheel Chair=車いす” で独自のスタイルを披露し、「誰が観客を一番魅了できるか」を競うというものだ。飛ぶか、回るか、踊るか。技術で魅せるのか、それともパワーか、アイデアか。どんなスタイルで勝負に挑むかは、プレイヤー次第。Wheel Styleは、新しいスポーツであり、ゲームであり、かつてないエンターテインメントでもある。初代王者を決めるべく、CHIMERA GAMESの初日に行われた「Wheel Style NO.1決定戦」のもようをお伝えする。

豪華プレイヤーが魅せるそれぞれのWheel Style

Wheel Style NO.1決定戦に参戦したプレイヤーは、チェアスキーヤーの村岡桃佳選手、森井大輝選手、松葉杖ダンサーのダージン・トクマックさん(Dergin Tokmak)、元チェアスキーヤーの夏目堅司さん、RDSの岡部氏、そしてお笑い界からは、芸人みんなのたかみちさん。加えて、CHIMERA GAMESに遊びに来ていた車いすレーサーの伊藤智也選手が、HERO X編集長 杉原行里の指名を受けて飛び入り参加し、急遽計7名による戦いとなった。

絶妙な“チェアさばき”で観客を沸かせるチェアスキーヤーの森井大輝選手。

Wheel Style NO.1決定戦は、5分間のJAMからスタート。アップテンポな曲に合わせて、各プレイヤーは順繰りにそれぞれのWheel Styleを披露していった。7名の中から決勝戦に残るのは、たったの2名。勝ち残るツワモノは、一体誰なのか。

必死の形相で森井選手と張り合うみんなのたかみちさん。

観客に視線を送りつつ、車いすのハンドリムを巧みに操り、駆動輪を浮かして見せた森井大輝選手。負けじとステージの中央にやってきたのは、みんなのたかみちさん。これまでにも、HERO Xの企画で競技用車いすにチャレンジした経験があることから、ハンドリムの操作はお手のもの。見よう見まねで駆動輪を浮かして見せたが、185cmの巨体を支えながら、微妙なバランスを保つのはやはり難しかったようだ。次の瞬間、車いすごと後方に倒れてしまった。しかし、この転倒は、たかみちさんならではの戦略的Wheel Styleだったのかもしれない。

次に登場したのは、元チェアスキーヤーの夏目堅司さん。車いすの操作で難しいのは、いわゆる段差の上り下りだが、ステージ中央に置かれた台にスイッと上り、際どいポジションで駆動輪を浮かしたまま、軽快なリズムで前後して見せた。

アスリートたちの華麗なる技に“愛嬌”で対抗したのは、RDSの岡部氏。上半身のロボティックな動きで会場に笑いを誘った。対して、車いすレーサーの伊藤智也選手は、空を仰ぐように身をよじらせ、ドラマティックな演出を見せた。ご本人は真剣そのものだったが、なぜか観客からドッと笑いが起きた。関西出身、サービス精神あふれるエンターテイナーの伊藤選手には、生来のお笑い魂が宿っているのかもしれない。

森井選手らのチェアスキー開発を手がけてきたRDS気鋭のエンジニア、岡部氏。

北京パラリンピックで金メダル2個、ロンドンパラリンピックで銀メダル2個を獲得した車いすレーサーの伊藤智也選手。

続いて登場したのは、松葉杖ダンサーのダージン・トクマックさん。今回、CHIMERA GAMES出演のためだけに、ドイツから来日した。松葉杖でブレイクダンスを踊るという突出したダンススタイルがシルク・ドゥ・ソレイユの目に留まり、その一員として大抜擢された世界的ダンサーである。

近年は、松葉杖だけでなく、車いすを使ったパフォーマンスを披露する機会も増えているというダージンさん。車いすを自由に操り、蝶のようにステージを舞う姿を前に、最前列にいた少年たちは、口をポカンを開けたまま見とれていた。シームレスな動きでいて、キレのあるダンスは、まさに神技。

続いて、紅一点、チェアスキーヤーの村岡桃佳選手。2018年のピョンチャンパラリンピックで日本選手史上最多のメダル5個を獲得した“冬の女王”の登場だ。村岡選手は、4歳の頃から車いすに乗り始め、成長期もずっと車いすで過ごしてきた。姿勢の崩れなどで背骨が変形し、片側に曲がったまま固まっているため、通常の車いすに座る時、重心は片方に寄った状態になる。だが、なぜかチェアスキーのマシンに乗る時だけは、寸分違わずど真ん中を的中させる驚異の身体感覚の持ち主である。

JAMでは、ステージ中央の台上で、駆動輪を浮かしたまま、なんとハンドリムから両手を離して静止するという離れ技を披露した。正面からは少し分かりづらいかもしれないが、上体はかなり反った状態。これには観客はもちろん、他のプレイヤーたちからも拍手が起こった。

左から、HERO X編集長 杉原行里、文平龍太氏、TSUTOMU氏。

審査員を務めたのは、「CHIMERA Union」のエグゼクティブプロデューサー、文平龍太氏、TSUTOMU氏、そして本メディア編集長の杉原。圧倒的なパフォーマンスで観客を沸かせたダージンさんと村岡選手が、決勝戦進出となった。

世界のトップ同士の一騎打ち。
初代王者に輝くのはどちらか!?

決勝戦は、世界のトップダンサーとトップアスリートの一騎打ち。持ち時間はそれぞれ45秒。ブレイクダンスをルーツとするダージンさん特有の繊細な技術と力強いエネルギーが融合したダイナミックなダンスパフォーマンス。対して、車いすが体の一部になったかのように、自由自在に操る“技”を披露した村岡選手。果たして、初代王者の座を手にしたのは、どちらか?

今にも空に舞い上がりそうなほど、軽やかで機敏なパフォーマンスが特徴的なダージンさん。

絶妙なバランスで静止する姿から、観客は目が離せない様子だった。

接戦をみごと勝ち抜き、Wheel Style初代王者に輝いたのは、村岡選手。世界の頂点に立つトップアスリートが、またひとつ新たなレジェンドを築いた。

「車いすはテクノロジーの進化とともに洗練され、美しいモビリティのひとつになった。今、車いすは、環境の一部として認知されている。人々が車いすに対して持つイメージも大きく変わったと思う」と話すのはダージンさん。そのイメージは今や環境に溶け込むかのように、ボーダレスに進化を続けている。車いすが、歩行を補助するためのツールであるだけでなく、身体能力を拡張させるクールなギアであること。Wheel Styleは、それをエンターテインメントバトルのかたちで具体的に示してみせた。障がいのある人もそうでない人も一緒になって楽しめるWheel Style、今後の発展にご期待あれ。

初代王者の座に輝いた村岡選手には、Wheel Styleのスポンサーを務める「JUSTIN DAVIS」のリングが贈呈された。

(text: 岸 由利子| Yuriko Kishi)

(photo: 増元幸司)

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選手と開発者をつなぐ“感覚の数値化”伊藤智也×RDS社【究極のレースマシン開発】Vol.2

岸 由利子 | Yuriko Kishi

北京パラリンピックで金メダル2個、ロンドンパラリンピックで銀メダル3個を獲得し、世界の頂点に立つも、引退を表明した車いす陸上スプリンター・伊藤智也選手。今夏、約5年の沈黙を破って、HERO X上で現役復帰を発表し、「57歳で迎える東京2020で金メダル獲得」を目指して、着々と準備を進めている。そんな伊藤選手と共に、RDS社は、エクストリーム・スポーツのマシン開発に精通したエンジニアや気鋭のプロダクト・デザイナーらと「チーム伊藤」を結成し、目下、通称“レーサー”と呼ばれる車いす陸上用マシンを開発中だ。世界に1台のレーサー・伊藤モデルの行方はいかに?今回は、RDS本社で開かれた2度目の研究開発ミーティングのもようをお伝えする。

東京2020に向けて極限まで進化する、
マシンと伊藤智也

本題に入る前に、前回までの内容を少しおさらいしておきたい。9月初旬に行われたキックオフ・ミーティングでは、伊藤選手を囲んで、開発の指揮を執る同社クリエイティブ・ディレクターで、HERO X編集長を務める杉原行里(すぎはら・あんり)をはじめとする「チーム伊藤」の主要メンバー5名が初顔合わせした。5時間以上に及ぶディスカッションでは、車いす陸上という競技そのものやマシンについての質疑応答などが行われたのち、「2018年夏、プロトタイプ完成」を一つの目標に決めた。が、ここで不思議に思う人もいるだろう。東京オリパラの開催は2020年夏なのに、なぜ2年も前にプロトタイプを作り上げるのか?

理由は、主に二つある。まず、乗り心地やポジションなど、選手側からの細かな要望を反映するべく、マシンには、極限のレベルまで改良・調整が加えられていくからだ。RDS社のエンジニアたちは、これまで手掛けてきたチェアスキーのマシン開発を通じて、この段階がいかに重要で、かつ膨大な時間を要するかを熟知している。

もう一つは、伊藤選手がマシンに体を慣らせるために、十分な時間が必要だからだ。とりわけ今回は、自分の体にぴったり合ったオーダーメード・マシンに乗るのは、20余年のアスリート人生の中で、伊藤選手にとって初めての経験であり、新たな挑戦でもある。パラリンピックが「身体と技術の融合」と言われるように、最高のパフォーマンス力を発揮し、勝利を掴み取るためには、自分の体の一部となって共に疾走するマシンと、寸分の狂いなく一体化するレベルに到達するまで、馴染ませていくことが不可欠なのだ。

トップアスリートとの共同開発は、
『感覚の数値化』から始まる

秋晴れの空が美しい10月の朝、チーム伊藤のメンバーがRDS本社に集まり、第2回目となる研究開発ミーティングが行われた。今回、メインとなる課題は「計測」。まず、マシンの“動き”や“しなり”を計測すること。伊藤選手が長年使用してきた長距離用のマシンを3Dスキャナーでスキャンし、走行中の力の分散バランスなども含めた力学的なデータを、モーションキャプチャやフォースプレートを使って計測し、解析していく。次に、伊藤選手の走りを同様の機器を使って計測する。ハンドリムをこぐ時、腕や首、肩などの部位が、どのような角度で、どのように動いているのかということをエンジニアリングの観点から解析していく。

「往々にして、アスリートと開発側のコミュニケーションは一方通行になりがちです。例えば、“こんな感じになれば、もっといい”と選手が言う時の感覚は、当然ながら目に見えるものではなく、いわば、本人にしか分からない体感的なもの。それらを開発側の僕たちがきちんと理解するためには、『感覚を数値化する』ことが不可欠です。そうすることで、選手の意図をより正確に捉えることができると共に、数値という明らかな指標があれば、伊藤選手と開発チームの互いにとって、現状を把握する助けにもなりますし、ひいては、最大限に力が発揮できるマシンの開発に活かすことができます」とクリエイティブ・ディレクターの杉原は話す。

いざ、感覚の数値化へ。伊藤選手の頭、肩、肘、手首などの可動部と、ホイールなど、マシンの各部には、“マーカー”と呼ばれるモーションキャプチャの計測点が取り付けられた。伊藤選手が、100m走を想定して、屋内練習用マシンをこぐ間、天井の四方に設置したカメラが、伊藤選手とマシンの動きを多方向から撮影すると、認識されたマーカーが、パソコンを介してデジタル化した動作として取り込まれ、スクリーン上に映し出される。

車体のフレームに鼻がぴったりつきそうなほど頭を深く下げた前傾姿勢で、伊藤選手が全力疾走を繰り返す間、計測は続けられた。固定された屋内練習用マシンが、今にも超高速で走り出しそうなパワフルな動きに、開発チームの視線が釘付けになる。「マシンとグローブが“ギア”なら、伊藤選手の腕は“車のエンジン”」と杉原が語る意味が腑に落ちてくるようだ。測定したデータを解析用ソフトに取り込むと、各マーカーの変位量が表示され、それらを繋ぐと、車体や伊藤選手のフォームや動きが浮かび上がる。インターバルを挟みつつも、立て続けに走った伊藤選手の額は、汗でびっしょりだった。

ここで一旦、計測は終了。今回、モーションキャプチャで取得したデータを基に、ハンドリムをこぐ時のフォームや、グローブとの整合性を解析するなどして、伊藤選手にとって最適なハンドリムとグローブの開発が進められていく予定だ。

vol.1  獲るぞ金メダル!東京2020で戦うための究極のマシン開発に密着

vol.3  100分の1秒を左右する“陸上選手のためのグローブ”とは?

vol.4  フィーリングとデータは、分かり合えるのか?

伊藤智也(Tomoya ITO)
1963年、三重県鈴鹿市生まれ。若干19歳で、人材派遣会社を設立。従業員200名を抱える経営者として活躍していたが、1998年に多発性硬化症を発症。翌年より、車いす陸上競技をはじめ、2005年プロの車いすランナーに転向。北京パラリンピックで金メダル、ロンドンパラリンピックで銀メダルを獲得し、車いす陸上選手として、不動の地位を確立。ロンドンパラリンピックで引退を表明するも、2017年8月、スポーツメディア「HERO X」上で、東京2020で復帰することを初めて発表した。

(text: 岸 由利子 | Yuriko Kishi)

(photo: 増元幸司)

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