対談 CONVERSATION

大切なのは、東京2020のレガシー。「HERO X」プロデューサー佐藤勇介が登場 前編

宮本さおり

Webメディアから飛び出して、ラジオやリアルな展開を進める「HERO X」。この度、さまざまな広告やプロジェクトをプロデュースする株式会社マグネットの佐藤勇介氏が総合プロデューサーとして就任。就任したての佐藤氏と編集長、杉原行里がこれからの「HERO X」について語り合う。

「HERO X」 対談から生まれた繋がり

杉原そもそも、私たちが知り合ったのはHERO Xの対談(http://hero-x.jp/article/4252/)で本村さんとお話したのがきっかけで、会うことになったのですが。

佐藤本村さんから僕に、「すっごいおもしろい人がいるのでどうしても佐藤さんに会わせたいから、是非一度時間を作ってもらえませんか」って言われて。それは是非にということで紹介してもらうことになって。僕は、2年に渡って、パラスポーツ推進の企画に携わらせてもらっています。

「ロンドンパラリンピックをどうやって成功させたのか」ということを聞き出したいと思い、ロンドンパラ6年後、ロンドンがどのような状況になっているのかを研究するため、2018年に本村さんとロンドンでパラリンピックに貢献した17名程度の人々にインタビューをしました。そこでいろんな人の話を聞くなかで、「なんだ、オリンピック・パラリンピックって、お祭りとして盛り上げるだけじゃなくて、本当はそれ以降の方が世の中にとってめちゃくちゃ大事なんだ」っていうことを知ったんです。じゃあ果たして僕たちは、東京2020以降のその先を見据えて動けているのかな?って。その後に繋げようって誰か思ってるの?と、その時漠然と思ったわけです。杉原編集長を紹介してもらった時はちょうどそうしたことを考えている時期で、話をしてみるとやはり同じように、東京2020以降をどのように繋げていくかっていうところをすごく考えていて。ただね、最初に会ったときは…なんていうのかな、もうとにかく延々と質問攻めで、まさに尋問でしたね(笑)。

杉原え? 本当に? 全然覚えていませんけどね(笑)。

佐藤なんで僕、初対面の人にこんなに質問攻めにされてるんだろうって…(笑)。そんなことを思いながらその時は帰ったんですけど、それから2日後ぐらいに杉原さんから「食事行きましょう」ってお誘いがきました。

杉原僕はファーストインプレッションで「この人おもしろそうだな」と思うと探求心や興味がすごい出てきてしまうんです。

佐藤で、尋問になるわけですね(笑)。

杉原尋問じゃなくて質問です(笑)!

佐藤2日後、編集長に「本当にやる気あるの?」と聞かれたんです。本気で行動して変えていかないと何も変わらないじゃないですか。だから「佐藤さんは本気で行動して変える気があるの?」っていうことを再三確認されたんですよね。でもその時の僕って、漠然とやりたいなって思ってたけど、聞かれたことできちんと考えるようになりました。実際に行動して、果たして自分がその渦中になってちゃんとやれるんだろうか…っていうことを。さらに「子どもたちにいい未来を見せたくないですか? 子どもたちにお父さんカッコイイって思われたくないですか?」って編集長の言葉も印象的で。そう言われて僕は、パラスポーツを盛り上げていくということは結局、高齢化社会をはじめ日本が抱えている様々な課題を解決していける世の中を創っていくことに繋がっていくんじゃないか、日本の未来を考えたときに自分が子どもたちにどんな未来を残してあげることができるのかと本気で考え、行動していく時期に来ていると強く思いました。

杉原僕が佐藤さんにやるのかやらないのかを問うた理由のひとつには、オリンピック・パラリンピックの話になった時によく感じることがあって。みなさん熱い議論を重ね、もちろんそれは間違っていませんが、僕には、ただ議論をしたことで満足してしまっているような雰囲気に思えたこともよくあって。別の例で言えば、何のために勉強しているのかは分からないけどとりあえず宿題はやっておく、みたいなね。過程や目の前にあるものだけにフォーカスしていたら勿体ないですよね。僕もいろんな会議に出席させていただいて、熱い議論の後に点と点が繋がっていってはいるんだろうけど、もっと爆発的なモノがつくれるはずなのになって悶々とすることもあります。

お酒の席なんかでは、アルコールも入ってくるのでみんな結構いい話をするんですよ。でもなぜか翌日にはみんなトーンダウンしちゃう。自分が言った言葉に対して責任を持つのって結構大変じゃないですか。そういう思いもあって、佐藤さんに「今日の話、明日になって忘れちゃってたりしないよね?」っていう確認作業をしたまでです(笑)。

佐藤さんとの出会いがきっかけで二人が持っている点と点コミュニティなどの種がいま少しずつ蕾になろうとしていると思います。それと東京2020は通過点という見方をしている人って意外と少なかったりするんですよね。

懐かしむだけで終わらせてはいけない

佐藤もともと東京にオリンピック・パラリンピックを招致するという話になったとき、みんなの視点は、東京2020がどんなオリンピック・パラリンピックになるのかなというところに主眼があった。

それは僕もすごく大事なことだと思うし、まずそこが盛り上がらなければ全く意味がないから、とにかくそこを盛り上げたいっていう気持ちはめちゃくちゃ分かるんですよ。でもね、国を挙げて盛り上げていった結果が、「あの頃はよかったよね」っていうような、懐かしさとか、ただ過去のモノとして捨て去られていってしまうのはすごく危険なことだと思っていて。

やっぱり東京2020以降に、どんなふうにビジネスや生活環境がよくなって、それがどれだけ多くの人たちに幸せをもたらしていくのかっていうことが指針とならないと。オリンピックで観客が満席になったという話だけで終わらせちゃいけないなって思うんですよね。

後編へつづく

佐藤勇介
株式会社 マグネット取締役。1981年生まれ。北海道出身。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、制作プロダクションに入社。広告プランニング部門のマネージャーを経て株式会社マグネットを設立。大手菓子メーカーや日用品、化粧品など、多くの広告プランニングを手掛けてきた。WEB、MOVIE、GRAPHIC、EVENTなどを横断、コンテンツプロデューサーとしても活躍、上海、台湾など海外でのブランディングも行っている。

(text: 宮本さおり)

(photo: 増元幸司)

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対談 CONVERSATION

シーディングポジションのデータから、想像を超えた次のイノベーションへ!「SS01」後編

長谷川茂雄

未来のためのロボット開発を行うfuRo(千葉工業大学・未来ロボット技術研究センター)と、編集長・杉原が代表を務めるRDSとの念願のコラボプロダクト「SS01」が発表となった。技術面の核になったのは、日本を代表するロボットクリエイターの一人、fuRo所長、古田貴之氏。前編では、「SS01」が生まれた背景やモノづくり哲学について盛り上がった杉原と古田氏の対談は、いま日本が直面している問題とその処方箋という大きなテーマへと話が進んだ。画期的な技術やサービスが、ワクワクする未来を作るために必要なものとは?

高齢化の著しい日本は
最高のモニター国家

古田「これからの日本社会の課題は、ベタなところで言えば、少子高齢化ですよね。でもみなさん問題の本質を勘違いしている部分があります。よく、医療、福祉、介護の充実が大切だと言われますが、本当の素敵な未来は、アクティブシニアっていわれる高齢者が主役でも成り立つような社会なんです。若者には負けないぞって言って高齢者が文化活動とか、経済活動を引っ張るような社会」

フューチャリスティックなデザインのSS01。シーティングデータを計測するシミュレーターという新たな発想がついに形になった。

杉原「確かにそうですね。世代に関係なく活躍できるような社会ですね」

古田「若者も高齢者も盛り上がって、コンヴィヴィアルな共生社会って素敵だと思うんです。65歳以上の高齢者は、老後のためや医療のために、お金を貯めていればいいということではないんです。そういう見方をしたときに、今回、杉原さんと作ったSS01のようなもので、ビッグデータを集めると、うまく活かせるところはいろいろと出てくる。そうすると世の中変わるはずなんですよ。だからデータを取ることは重要なんです」

杉原「僕もそう思います。日本はこれから最高のモニター国家になると思っていますよ。(これだけ高齢化する国は)日本が一番はじめですからね」

古田「ですよね、ピンチはチャンス! 北欧も(高齢者は)多いけど、先進国では日本が群を抜いて高齢化が進んでいる。だからこのピンチを突破できるインフラとかサービスなんかができれば、輸出大国になるはずでしょ」

古田氏は、日本の高齢化は、逆に大きなチャンスだと語る。

杉原「そのままパッケージとして他国に売れますからね。例えばユーザー各々がデータを提供する事で、収入やトークンを手に入れられるシステムの構築って面白いと思うんですよ。高齢者も住んでいるだけで、収益を上げられるような未来作りがしたいですね」

ハンディをマイナスと捉えずに
人間の想像を超えたものを目指す

古田「確かに、ビッグデータや生体データは重要ですね。実は、今年からfuRoは改めてドロイド研究所になると宣言しているんです。これから少子高齢化が進んで圧倒的に人が少なくなるから、4足や2足のロボットというのは絶対的に需要が高まるんです。でも、いまは、人ができないことをやるロボットがまだちゃんと出てきてない。そういったものをしっかり作ろうと」

杉原「人ができないことをやって不自由を無くしたり、人に選択肢を付与したりすることは、これまでもfuRoさんはやられてきましたし、他を圧倒していますよね。それを改めて新しいロボットで実現するということですね」

杉原が運転にチャレンジしているのは、古田氏が開発したライドロイドの一号機「カングーロ」。2018年に発表され、世界で絶賛されたこのプロダクトは、人への自動追従機能も搭載している。単なる移動手段ではなく、馬のようにパートナーにもなる。

古田「杉原さんが時速50kmで走る車いすを作るというのも、そういうことですよね。不自由をマイナスと捉えて、それを0に戻そうとするのではなくて、人を越えようとする。そこが重要。それが振り切るってことです」

杉原「ハンディがマイナスで、それを0に戻すという補完的な考え方は、もう終わっていますよね。例えば、おばあちゃんがすごく高くジャンプできたら、びっくりするし面白いと思うはずです(笑)。なんでそう思うかというと、“おばあちゃんはそんなことできない”と誰もが思い込んでいるから」

 古田「そういうことです。でも人類の歴史を振り返ると、最初は補完的なものだったのに、新たな価値が加わったケースはいくつもあります。服だって、もともとは体毛が少ないから体を守るだけのものだったのに、ファッションって概念が生まれたじゃないですか。眼鏡だって、今では単なる視力補正の道具ではなくなっている。そういう事実を忘れると、ワクワクするもの、ワクワクする社会を目指そうという気にならないんですよ」

杉原「僕は、(古田さんが作った)カングーロを見て、ワクワクしない人は正直話が合わないと思いますけどね(笑)」

古田「マイナスを0にする発想じゃダメってことですよ。斜め上、いやもっと圧倒的な到達点を目指さなければ、人を惹きつけることはできないんです」

杉原「そういうことですよね。今回のシミュレーターSS01で得られる情報をもとに、これからは、僕も自分たちが考える新しいモビリティやプロダクトを改めて作っていきたいんです。例えば座るポジショニングが変わるモビリティですかね」

古田「SS01は、計測してビッグデータ化した情報をもとに、最適化するわけですよね。そこから車いすや様々なモビリティを作るのはもちろんいいんですが、時間が経ってから、あれ?作ったときよりも筋力が弱ってきたぞ、とか、押す力が強くなってきたとか、生体の健康状態がセンシングできますよね」

杉原「そのとおりですね。自分は、すでに3漕ぎで左腕の力が弱まることがわかったんですが、それで体のバランスが変わってくるので、そういうところをチェックしていけば、腰痛とか体の負担とかがコントロールできるようになるんですよ」

古田「つまりSS01は、生体センシングそのものですよね」

正面から見ると流線型のフォルムが美しいSS01。

杉原「はい。次はそれをモビリティ化したもので、いろんな人に体感、体験してもらうという段階ですね」

古田「例えば、SS01の技術を使って、ゴルフスイング矯正システムなんかもできるかもしれないですね。あるいはモーターアクチュエーターを入れて、プロの人のショットを体験させるとか。いろいろできることはありそう」

技術のダウンサイジングが
新しいワクワク感を生む

杉原「そうなんです。このシミュレーターを有効活用して、選手にパラリンピックで金メダルを取ってもらうというのが、すべての目的ではないんです。高めた技術力が、そのあとどうやって転用されていくのか、どういうワクワクする未来に繋がっていくのか? そこが重要ですよね。感度の高い人たちは、もうそこを予測して見てると思います」

古田「アポロ計画みたいなものですね。ランドマークプロジェクトというのですが、月に行くことが主たる目的だったわけではなくて、あのワクワク感に加えて、あそこで生み出された数々のテクノロジーをダウンサイジングして、民生用にする。そして、いろんなプロダクトを作ることが目的だったわけです。

オリンピックに向けたモノづくりも、選手が勝つことだけではなく、そのワクワクを次にどう繋げていくか。大事なのはそこですね」

杉原「古田さんは、次に発売されるパナソニック製のロボット掃除機も手がけているんですよね。そこには、超カッティングエッジなカングーロの技術が、使われていると聞きました。言い方がちょっと悪いですが、超最先端の技術が、家庭のゴミを拾うためだけに使われるって、すごいことですよね(笑)。ダウンサイジングってそういうこと。日本人は転用とか、応用とか、それほど得意ではありませんが」

古田「応用って、本来難しい話をどうシンプルにするかっていう話なのにね。そういうことがわかっていれば、可能性はいくらでも広げられるし、そういう人が集まれば、イノベーションが生まれる。1+1を3にできるってことです」

前編はこちら

古田貴之(ふるた・たかゆき)
1968年、東京生まれ。工学博士、fuRo(千葉工業大学未来ロボット技術研究センター)所長。青山学院大学大学院理工学研究科機械工学専攻博士後期課程中退後、同大学理工学部機械工学科助手を経て、2000年、博士(工学)取得。同年、国立研究開発法人科学技術振興機構で、ロボット開発のグループリーダーとしてヒューマーノイドロボットの開発に従事。2003年より現職。自動車技術とロボット技術を融合させた「ハルキゼニア01」、大型二足歩行ロボット「コア」、搭乗型変形ロボット「カングーロ」ほか、世界から注目を浴びる開発プロダクトは数知れず。著書に『不可能は、可能になる』(PHP出版)がある。

(text: 長谷川茂雄)

(photo: 壬生マリコ)

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