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乙武洋匡が人生初の仁王立ち!話題のロボット義足を手掛けた小西哲哉のデザイン世界【the innovator】後編

岸 由利子 | Yuriko Kishi

11月13日、東京都渋谷区で開催されたイベント「2020年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう展(通称:超福祉展)」の大トリを飾ったシンポジウム「JST CREST x Diversity」で乙武洋匡さんがロボット義足を付けて電動車いすから立ち上がる姿が公開され、大きな話題を呼んでいる。乙武さんの義足は、科学技術振興事業機構CRESTの支援のもと、遠藤謙氏が率いるソニーコンピュータサイエンス研究所(Sony CSL)のチームによって開発された。その一員として、ロボット義足のデザインを手がけたのがexiii design代表のプロダクトデザイナー小西哲哉氏。電動義手、ヒューマノイド、車いす型ハンドバイク、リハビリ用の長下肢装具など、多彩な分野で手腕を発揮している小西氏のデザイン世界に迫るべく、話を伺った。

使う人のことを一番に考えたプロダクトデザイン

常時、複数のプロジェクトに携わり、同時進行でデザイン開発を行っている小西氏。どのようにスケジュール管理をしているのかと尋ねると、「こればかりはもう感覚ですね。このプロジェクトなら、これくらいの時間がかかるだろうと余裕を見てやっていくのですが、デザインってやろうと思えば、いくらでもできてしまうので、どこで区切りをつけるかという見極めが非常に大切になってきます」

EXOS arm unit + 5 finger grove ©exiii design

近年、小西氏が手掛けてきた代表的なデザインをいくつかご紹介したい。目下、量産に向けた開発が進行中の触覚提示デバイス「EXOS」からは、「EXOS arm unit + 5 finger grove」(上記画像)を取り上げる。従来、力加減をしながら遠隔地にあるロボットアームを操作することは困難とされていたが、HMD、トラッキングシステム、触覚提示グローブ、アームユニット、ハンドユニットから構成されるこのデバイスは、触覚の提示によってその問題を解決した。

「5本の指すべてにアクチュエーターを付けることで、ロボットハンドを動かすという仕組みになっています」

C-FREX ©exiii design

「C-FREX」は、下半身のリハビリを必要とする人が使用するための長下肢装具。この外骨格(画像左)を足に装着し、松葉杖を使って体を支えながら、体重移動によって上半身の重心が移動する力を、足が前に蹴り出す力に変えるというもの。下半身を能動的に動かすことが難しい人でも、足を動かして下半身の筋肉を衰えさせることなく、歩くためのリハビリを行える。

「C-FREXは、国立リハビリテーションセンターの河島則天先生(http://hero-x.jp/article/5242/)が技術研究に取り組んでおられて、ご縁あって、デザインさせていただいています」

特筆すべきは、メインフレームの膝を曲げ、専用の車いすユニットに接続すると、そのまま車いすとして使用することができること。

「C-FREXに乗って病院に行き、C-FREXを使ってリハビリをして、またC-FREXに乗って帰るといった、そんな日常に組み込める装具を目指して開発を進めています」

TELEXISTENCE Model H Prototype ©exiii design

「Model H」は、TELEXISTENCE(遠隔存在)を体験することができるというソリューションを開発するTelexistence株式会社のプロジェクトで小西氏がデザインを手掛けるヒューマノイド。

「へッドマウントディスプレイとグローブを付けることで、遠隔地にいるロボットの中に憑依することができます。色んな人がこの中に入るので、ロボットの個性が全面に出すぎないよう、可能なかぎりシンプルで美しいデザインを目指しました。誰が憑依しても違和感のないように、体のサイズをはじめ、人の関節と同じ可動域、広い視野角を確保しながら、繊細で力強い動きが再現できるよう、形状を最適化しています」

使う人の喜ぶ顔が、何より嬉しい

WF01 ©exiii design

近年は、工業デザインを主軸とした多彩なプロダクト開発を行うRDS社のデザインにも携わっている。同社代表であり、HERO X編集長の杉原行里(あんり)と対話を重ねながら、さまざまなパーツを取り付けることで、ミニ四駆のように思い思いのカスタマイズが可能なカーボン車いす「WF01」や、ハンドバイクに車いすを取り付けることで、サイクリングのように車いすを楽しむことができるコミュニケーションモビリティ「RDS hand bike」など、新しい競技や乗り物の楽しみ方が増えることを予感させるデザイン開発を手掛けている。

RDS hand bike ©RDS

「人の心を動かすデザインとは何?」と尋ねると、「単純に、欲しいと思えるかどうかだと思います」と小西氏。

「作り手としては、デザインしたものをユーザーやクライアントが喜んでくださる時が何より一番嬉しいですね。集中できる時は、ひとりでずっと籠もり続けるほうで、図面を引いてはまたやり直しというのを2~3週間続けることもあります。どんな風になるんだろうと思っていて、想像した以上に良いものが上がってきた時は、嬉しいですね。逆に、良くなかったという時は焦りますけれど(苦笑)。完成までの過程で、トライ・アンド・エラーを繰り返す中、山あり谷ありですが、その時々で喜びを感じる瞬間はさまざまにあります」

「それって、今までなかったね」
をデザインしていきたい

最先端のテクノロジー、独特の感性を駆使して、この世あらざるモノを次々と生み出す小西氏、インスピレーションの源はどんなところにあるのだろうか。

「動物や魚とかを見るのが好きですね。色とか、やっぱり自然界に存在するものが一番キレイだと思います。水族館や動物園にはよく行きます。これを言うと、“ちゃんと仕事してるのか?”と親しい仕事仲間には指摘を受けそうですが、動物を見るためだけに、10日間アフリカをぐるっと周ったこともあります(笑)。自然界には説明のつかないような不思議な造形や色がたくさんあるじゃないですか。例えば、硫黄が湧いているような温泉地帯などに行くと、真っ白な山の中に目の醒めるような青い池があって、黄色い岩が転がっていたり。ずっとCADばかりやっていると、頭の中もCAD一色になって、凝り固まってきますし、日常を離れて違うことをすると、リフレッシュできて、新鮮な気持ちになれますね」

最近では、ブランディングも含めて、コーポレートカラーやロゴ、パッケージなど、企業のイメージそのものをトータルにデザインする仕事も増えていると言う。「今後、どのような領域とコラボレーションしたい?」と尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「領域というよりは、“この世の中に、それって今までなかったね”というモノをデザインしていきたいと思います。ベンチャー系のお仕事を受けさせていただく機会が多いのですが、それはやっぱり、“今までなかったけど、コレがあったらすごくいいよね”という想いに共感するからだと思います。中には、お話を伺った時点で、いかにも難しそうなプロジェクトがあったりもしますが、だからこそチャレンジしてみたいという気持ちが湧いてきたり。余談ですが、僕、釣りが好きなんですね。例えば、釣り具とか、当事者として普段から親しんでいるモノも、面白いかもしれません」

近く、HERO Xで小西氏のコラム連載がスタートする予定だ。さまざまな分野の垣根を超え、世の中に驚きと感動を、使う人に喜びをもたらすプロダクトデザイナー小西哲哉の動向をお見逃しなく。

前編はこちら

exiii design
https://exiii-design.com/

小西哲哉
千葉工業大学大学院修士課程修了。パナソニックデザイン部門にてビデオカメラ、ウェアラブルデバイスのデザインを担当。退職後、2014年にexiiiを共同創業。iF Design Gold Award、Good Design Award金賞等受賞。2018年に独立しexiii designを設立。現在も継続してexiii製品のプロダクトデザインを担当。

(text: 岸 由利子 | Yuriko Kishi)

(photo: 増元幸司)

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まさに雪上のF1。極寒の舞台裏にある、エンジニアたちの闘い【KYB株式会社:未来創造メーカー】前編

岸 由利子 | Yuriko Kishi

チェアスキーほど、命の危険と背中合わせのパラ競技は他にない。時速100km以上の豪速スピードで、雪山の傾斜面を一目散に滑降するアグレッシブさとスリルが、アスリートを奮い立たせ、観客を熱狂させる。2014ソチパラリンピックでは、森井大輝選手がスーパーG(スーパー大回転)で銀メダル、鈴木猛史選手がスラローム(回転)で金メダル、狩野亮選手がダウンヒル(滑降)とスーパーG(スーパー大回転)の2種目で金メダルを獲得。日本のヒーローたちは、圧倒的な強さを世界に知らしめた。そんな彼らの疾走を裏舞台で支えているのが、日本トップクラスのシェアを誇る総合油圧機器メーカー、KYB株式会社(以下、KYB)のショックアブゾーバ開発者、石原亘さんだ。別名・油圧緩衝器と呼ばれるこの部品、一体どのように作られているのか?目前に迫る2018ピョンチャンパラリンピックに向けての開発は?石原さんにじっくり話を伺った。

KYB所属のチェアスキーヤー、ソチ金メダリストの鈴木猛史選手。

日本が誇るショックアブゾーバ開発の最高峰メーカー

1935年、株式会社萱場(カヤバ)製作所として創業したKYBは、「一歩先のモノづくり」をミッションに、高度な油圧技術を創り出す独立系油圧機器メーカー。自動車・二輪車用ショックアブソーバのリーディングカンパニーとして、世界の主要自動車メーカーとの取引を行い、業界を牽引するかたわら、独創的な技術開発を活かして、鉄道・建設機械・航空・新幹線・特装車両・免制震など、油圧をベースにした制御機器を幅広い分野に供給している。

長野パラリンピックの開催を控える中、ヤマハ発動機株式会社、神奈川県総合リハビリテーションセンターや横浜市総合リハビリテーションセンターなどが、連携して取り組む競技用チェアスキーの開発プロジェクトがあった。KYBが手掛ける二輪用リアクションユニットが、チェアスキーで使用するショックアブゾーバの形状に似ていることから声がかかり、同社独自のチェアスキー用ショックアブゾーバの開発が、本格始動した。

以来、ソルトレイク、トリノ、バンクーバー大会で、日本代表選手にショックアブゾーバを提供し続け、2015年8月より、日本障害者スキー連盟アルペンスキーナショナルチームのオフィシャルスポンサー及び公式サプライヤーとなり、前述した同社所属の鈴木猛史選手をはじめ、森井大輝選手、狩野亮選手ら計5名の強化指定選手に対し、強力なサポートを行っている。

挫折があったからこそ、大切な今がある

冬季パラリンピックにおける日本人初の金メダリストであり、通算10個のメダルを獲得した大日方邦子選手や、長野パラリンピックのスラローム(回転)で銀メダルを獲得した青木辰子選手など、名だたるトッププレイヤーたちにショックアブゾーバを提供してきたKYB。しかし、現在に至る道のりは決して平坦ではなかった。「ソチ以前と以後とでは、体制は大きく変わった」と石原さんは話す。

「ソチ以前の当社は、選手の要望をしっかり聞いて仕様を変更するなど、満足のいくサポート体制を提供することが厳しい状況でした。ちょうどその頃、スウェーデンの自動車部品メーカー、オーリンズが開発するショックアブゾーバが、チェアスキーの世界でも注目されていました。製品の性能はもちろんのこと、日本のアンテナショップで各選手の話を聞いて調整を行うなど、サポート体制も含めて、当時の弊社よりも優れていたため、当然ながら、選手の方たちは、そちらのメーカーにシフトしたのです」

これを受けて、KYBは心機一転、社内体制を立て直すことに。選手たちからの信頼を取り戻すべく、ショックアブゾーバをほぼゼロから作り直していくという命運をかけた一戦に挑んだ。マイナスからの厳しいスタートだったが、たゆまぬ努力と熱意が実を結び、選手たちは皆、KYBに帰ってきた。そして今、目前に迫るピョンチャンパラリンピックに向けて、一歩ずつ、着実に歩を進めている。

極上の乗り心地を実現するために
調整、改良、試乗を繰り返す

チェアスキーの競技用マシンは、一枚のスキー板の上に、シート、フレーム、サスペンションが取り付けられた構造になっている。滑走中の風の抵抗を減少するために、足元にカウルを付ける選手もいる。石原さんらが開発するのは、サスペンションの中枢を担うショックアブゾーバ。滑走中の衝撃を緩衝するための部品で、人体に例えるなら、身体にかかる衝撃を和らげる役目を持つ膝や股関節にあたる部分だ。

重量は、スプリングを抜いた状態で、約1200g。各部品において必要のない肉をできる限り削ることで、軽量化を目指す。

こちらが、KYBのチェアスキー用ショックアブゾーバ。基本的には、二輪車用のショックアブゾーバをベースとしているが、チェアスキー用ならではの工夫や難しさがあるという。

「シリンダーやガスタンクは、できるだけ大きくしたいのですが、フレームのサイズは予め決っているので、いかに性能を上げながら、その中に収まるものを設計するかということが、私たちの課題です。製品が出来上がると、実際に選手に乗ってもらい、率直な感想や要望などをヒアリングします。それを踏まえて、スプリングの長さを調整したり、シリンダーの中にあるさまざまな部品を一つずつ見直すなどして、仕様を煮詰めていきます。全ては、各選手にとって、快適な乗り心地を実現するためですが、最適な落とし所を見つけるのは喜びであると共に、苦心するところですね」

ショックアブゾーバの中身をばらして、仕様を変えて組み直し、また試乗する。これを可能にするのは、現状日本だけだという。

無限大の中から、最適な仕様を見つけ出す

「高性能なオートバイやレーシングカーに使用するショックアブゾーバの中には、油が入っています。それをピストンで押した時に発生する“減衰力”で、ダンパーの動きを制御しているのですが、より精度良く制御するためには、ガスによる加圧がポイントになります。それによって、性能がより安定します。この技術は、チェアスキーのショックアブゾーバにも活かしています」

シリンダーの中には、何枚もの金属の板が積まれている。ピストンに取り付けられたピストンロッドの前進運動によって、油がそれらを押し上げる時に発生する力で、減衰力を発生させるという仕組みだ。減衰力の強弱をコントロールするのも、これらの板だ。

「金属の板の大きさは1mm違いで、板厚も0.1mm違いのものを数枚用意しています。選手からの要望で、仕様を少し変えたいという時は、この板を1枚抜いたり足したりして微調整を行い、試乗してもらうことを繰り返します。選手ごとに、枚数も仕様も違います。試験機にかけてデータを取るのですが、選手が実際に感じている領域はデータに現れないことが多いです。例えば、1枚抜いても、データ上ではほとんど差がないのに、体感では違いを感じてもらえたり。板の組み合わせですか?無限大ですね(笑)」

後編へつづく

石原 亘(いしはら・わたる)
チェアスキーショックアブソーバ開発者。2009年、KYBモーターサイクルサスペンション株式会社に入社。スノーモービル、ATV用ショックアブソーバの設計を経て、2015年よりチェアスキー用ショックアブソーバの設計に携わる。また、設計開発を行う傍ら、チームの国内遠征にも同行し、現地での仕様変更などのテクニカルサポートも対応する。趣味はモトクロス、自動車ラリー競技への参加や、スキー、スノーボードなどのウィンタースポーツ。

(text: 岸 由利子 | Yuriko Kishi)

(photo: 増元幸司)

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