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獲るぞ金メダル!東京2020で戦うための究極のマシン開発に密着 伊藤智也×RDS社【究極のレースマシン開発】Vol.1 後編

岸 由利子 | Yuriko Kishi

今年8月、メディア初となる現役復帰をHERO X上で宣言した車いす陸上アスリートの伊藤智也選手が、いよいよ動き出した。北京パラリンピックで金メダル、ロンドンパラリンピックで銀メダルを獲得した歴戦の勇士がめざす復帰の舞台は、東京パラリンピック。本連載では、2020年に向けて、RDS社が手掛ける伊藤選手のマシン開発の軌跡を追っていく。9月4日、開発に携わる主要メンバーがRDS本社に顔を揃え、キックオフ・ミーティングが行われた。

欲しいのは、滑らず、耐久性に長けたグローブ

車いす陸上において、グローブも、マシン並みに大事だ。既製品の柔らかい布製のグローブに松ヤニを付けるのが今のトレンドだそうだが、伊藤選手が現在使用しているのは、2パーツに分かれた樹脂製のグローブ。走行中は指を折り、固定した状態でこぐ。

「布製のグローブは、ホイールに“面”で当たるので、非常に滑りにくいのですが、接地面のゴム部分は裂けやすく、耐久性は乏しい。対して、樹脂製は耐久性に優れていますが、“点”で当たるので、ほんの数ミリのズレでバーンと外して、滑ってしまう可能性もあります。そうなると、トップから最下位まで一気に落ちてしまいますね」

2020年東京パラリンピックの開催期間は、8月25日から9月6日。ことにグローブに関しては、「季節的にも、雨が降ることを考慮した改良が必要になってくる」と伊藤選手は話す。

「例えば、樹脂のような硬い素材で、接地面だけは柔らかくて耐久性があるものに変えていくとか。目を閉じていても、7時の位置にジャストに降りてきて、蹴ることができたらベストです。あと、グローブは、軽ければ軽い方が好ましいですね。こんなに重たいのを使っているのは、多分僕くらい(笑)。理由ですか?不器用なだけです」

いよいよ計測、解析の第一歩へ

こちらは、伊藤選手が愛用してきた長距離用のマシンを3Dスキャナーでスキャンしている様子。マシン全体の形状をじっと眺める開発チーム一同から、新たな質問が投げかけられた。

―後部の車輪に“ハネ”は付けない?

ハネをはめると、横風を食らった時に全部持っていかれるので、あまり使ったことがありません。あと、目を閉じると、自分の手がどの位置にあるのかを把握しづらくなる、僕が抱えている障害はそういうものなので、漕いでいる時に、ほんの少しのズレで滑ってしまうと、腕がすぽーんとハネの中に落ちてしまう危険性があります。100mの選手は、総じてハネを付けていますが、今のところ、僕はあえて使わないようにしています。知るかぎり、後部の車輪がフルカーボンの選手もあまりいないですね。ハネを使うのは、重さがあるからじゃないかな。

次に、走り方を解析するために、モーションキャプチャを使って計測を行った。マーカーと呼ばれる計測点を、肘、肩、手首、背中などの可動部に貼り付けた状態で、伊藤選手がマシンを漕ぐ。その動きを天井に設置された複数のカメラで撮影すると、計測点だけが認識されて、デジタル化した動きとして取り込めるというものだ。

モーションキャプチャのカメラが認識するのは、平面として見えるマーカーの位置(2次元座標)だが、各カメラの位置と角度、原点と座標軸を定義する「キャリブレーション」による情報と、各カメラの2次元座標の情報を組み合わせることで、3次元座標がはじき出されて、映像となる。

上記は、走行中の伊藤選手の動きを表した画像。(実際には動画)どれほど正確で精緻なものかは、伊藤選手のコメントが教えてくれる。

「思ったよりもきれいでびっくりしました。良いリズム刻んでますね(笑)。自分の意識の中ではなかったけれど、左腕の方が、肘が上がっているし、漕ぎ方が柔らかいです」

「各分野のエキスパートの方たちとマシンのことをじっくりお話できて、さまざまな可能性があるんだなと感じました。勝ちにいくために、勝てる状態を自分なりに作っていくので、皆さんよろしくお願いします!」

次回のミーティングまでに、5パターンのハンドリム(持ち手部分)を打ち出すことになった。現段階では、材質にはこだわらず、伊藤選手の手に最も吸い付く形状を探すことが目的だ。2020年に向けて、一つずつ形になっていく伊藤モデル。今後も、その過程を密着取材で追っていく。

前編はこちら

vol.2  選手と開発者をつなぐ“感覚の数値化”

vol.3  100分の1秒を左右する“陸上選手のためのグローブ”とは?

vol.4  フィーリングとデータは、分かり合えるのか?

伊藤智也(Tomoya ITO)
1963年、三重県鈴鹿市生まれ。若干19歳で、人材派遣会社を設立。従業員200名を抱える経営者として活躍していたが、1998年に多発性硬化症を発症。翌年より、車いす陸上競技をはじめ、2005年プロの車いすランナーに転向。北京パラリンピックで金メダル、ロンドンパラリンピックで銀メダルを獲得し、車いす陸上選手として、不動の地位を確立。ロンドンパラリンピックで引退を表明するも、2017年8月、スポーツメディア「HERO X」上で、東京2020で復帰することを初めて発表した。

(text: 岸 由利子 | Yuriko Kishi)

(photo: 増元幸司)

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チームRDSを語る!【HERO X RADIO vol.17】

HERO X 編集部

ウェブマガジンの枠を超え、リアルに会い、リアルに繋がり、リアルに広がるしかけを作り出すメディア「HERO X」のラジオ番組『HERO X RADIO』。本記事では、前回第17回の様子をレポート。次回の公開収録は10月25日(金)となっている。

リアルと繋がる場としてスタートしたラジオ番組『HERO X RADIO』は、Shibuya Cross-FM(http://shibuyacrossfm.jp/)にて、毎週第2・第4金曜 13:00-13:50 にオンエア中。渋谷のシダックススタジオから生放送でお届け、ネットからのリアルタイム視聴もできる。

パーソナリティーを務めるのは「HERO X」編集長の杉原行里と、株式会社マグネットにて様々なプロジェクトや広告のプロデュースを手がける傍ら「HERO X」プロデューサーを務める佐藤勇介。毎回、次世代を見据えて活躍する“HERO”をゲストに迎え、日本のあるべき未来をディスカッション、番組内で出たゲストとのアイデアのうち、より具体性のあるものについては製品やイベントに落とし込むことまで考えていく番組となっている。

前回第17回のゲストは、小西哲哉さん、中川雅俊さん、みんなのたかみちさん。

小西哲哉 (こにし・てつや)
千葉工業大学大学院修士課程修了。パナソニックデザイン部門にてビデオカメラ、ウェアラブルデバイスのデザインを担当。退職後、2014年にexiiiを共同創業。iF Design Gold Award、Good Design Award金賞等受賞。2018年に独立しexiii designを設立。現在も継続してexiii製品のプロダクトデザインを担当。

中川雅俊 (なかがわ・まさとし)
RDSのPRプロデューサー。コミュニケーション設計からコンテンツ開発、メディアアプローチまで現場経験が豊富で、PR会社(株)マテリアルでは、IT・航空・レジャー施設・飲料・菓子メーカーなど幅広い分野の企業PR、地方自治体PRを担当。東京都のパラスポーツ応援プロジェクト「TEAM BEYOND」のPRも担当し、2017年に様々な領域のメンバーで事業をつくるCrystallize firm quodを設立。NPO法人 plususの理事長も務める。

みんなのたかみち
ワタナベエンターテインメント所属のお笑いコンビ「プリンセス金魚」のツッコミ担当。2016年10月より、相方の大前亮将が拠点を名古屋に移したため、『遠距離コンビ』となる。以来、単独でライブなどに出演し、ピンネタを披露する機会も増えている。TBSラジオ『アフター6ジャンクション』 TEAM BEYOND のコーナーを担当。パラ芸人としての立ち位置を確立しつつある。

今回、杉原編集長は、週末に鈴鹿サーキットで行われる「2019 F1世界選手権日本グランプリレース」に参加するため欠席。プロデューサー佐藤と、杉原が率いるRDSでプロダクトデザインを担当する小西さん、PR担当の中川さん、そして、同社関連のイベントなどでMCを務めているみんなのたかみちさんの4人で放送をお届けした。

今回のテーマは「チームRDS」について。RDSという組織の魅力や、今後の展望について熱く語り合う…はずだったのだが、本人がいないのをいいことに!?、RDSメンバーから見た杉原編集長についての話題で、スタジオは大盛り上がり。ある意味レアなトークが展開された。

番組前半は、六本木ヒルズアリーナで開催されるイベントの話題から始まり、杉原編集長の魅力を徹底討論。彼について「人がうまく言葉にできない思いを言葉にするのがうまい」と話す中川さん。プロデューサー佐藤は「無邪気なのに、その場の空気や行間を読む力がある」と評価する。ポジティブな意見が挙がるなか、みんなのたかみちさんは少々思うところがあるようで…!?(笑)

番組後半のトークテーマは「一歩先のチームRDS」。単発のプロジェクト同士がつながり、強固な力になりつつあると話す小西さん。中川さんも、この勢いで一つひとつの思いを形に変えていくことで既存の概念を変えていけるはず、と手応えを感じているという。

杉原の「つなぐ力」や行動力が、今の勢いにつながっていると話す一方、彼に「これだけはやめてほしい」ことを語る場面では、一同の本音トークが炸裂! チームRDSの熱さと楽しさが目一杯伝わってくる放送となった。

次回第18回となるオンエアは、10月25日(金)13時~。

前回欠席だった杉原編集長とプロデューサー佐藤が熱いトークの続き⁉︎をしつつ、「HERO X」のさらなる展開について公開会議を断行する予定。

※本編の動画は都合により掲載しておりません。

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HERO X RADIO
毎週第2・第4金曜 13:00-13:50 ONAIR
http://shibuyacrossfm.jp/

アーカイブ動画はこちらからCHECK!:YouTube

(text: HERO X 編集部)

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