プロダクト PRODUCT

1つのプロダクトに生活とスポーツを融合。ミニマルを追求するドイツ発車いす「PARAFREE®」

「世界で一番、ボーダレスなメディアへ」を掲げるHERO Xが紹介してきた数々のプロダクトの中でも、「車いす」はあらゆるボーダーを取っ払ってくれる、夢や希望に満ちたモビリティだ。 「世界の車いす市場における成長機会」の市場レポートによると、2017年から2022年までの車いすの市場規模は年平均成長率5.9%で拡大すると予測されており、特に電動車いす市場は、グローバルで年平均成長率(2016-2022) 17.1%と堅調な伸びを示している。 今回の記事では、加速する超高齢化社会と並走するように、進化が止まらない車いすの最先端に迫ってみよう。

「世界の車いす市場における成長機会」の市場レポート

参照:https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/H30FY/000114.pdf

ジュニアを含めて約180もの車いすバスケットボールのクラブチームがあり、競技人口は約2500人にのぼるほど車いすバスケットボールが盛んに行われ、パラスポーツ先進国としての呼び声も高いドイツ。
世界的にシェア上位に輝く大手、SUNRISE MEDICALや義肢・装具のテクノロジーにおいても世界をリードするオットーボック、キッズ用車いすにも注力するマイラなど、車いすの開発・販売を行うメーカーも数多く、日本での認知度も高い。

車いす=生活に根差した身近で手軽に使えるプロダクトであって欲しいが、日本では福祉機器扱いであるのに対し、ドイツでは電動、手動ともに医療機器としての規制があるようだ。
つまり、製造や販売、品質管理に対してそれぞれ医療機器としての基準を満たす必要があるし、アフターメンテナンスとして定期的な検査も義務付けられるなど、厳しいハードルをクリアした上で世に流通しているということになる。

事細かい制約が設けられるなかで、ドイツ北東部の町シュヴェリーンに拠点を置くLangefreunde Design Studioは2011年から下半身不随の人向けのモビリティ「PARAFREE®」の開発と改善を続けている。

工学デザイナーの Felix Lange氏が2011年に発表した論文をベースとした「PARAFREE®」のデザインはとことんミニマル。最大積載重量は130kgとパワフルながらもカーボンモノコックを採用したフレームはわずか900グラム、総重量は6.9kgとストイックなまでの軽量っぷりだ。

「1つのプロダクトの中で日々の生活とスポーツが融合するような、ニュータイプの車いすを作りたいのです」とLange氏が語るように、「PARAFREE®」はユーザー一人ひとりがいかに日常生活において、心地よく使えるかにこだわっている。
シートは6サイズ展開で、座面のクッション部分は3Dスキャンにより、個々の動きや状態にフィットするように調整できる。
座面部分以外にもバックレストのクッションも交換可能、キャンバー角(車両の車輪がなす角度)を0° / 3° / 7°と切り替えて好みの車幅に設定できるなど、ほぼすべてのパーツを自分の希望通りに寄せていけるのはオーダーメイド感覚とも言えるだろう。
フットレスト部分の車輪を2つにして3輪から4輪に変更することも可能だし、パーツごとに自分で取り外すこともできるので、使わないときは折りたたんでおけば置き場所にも困らない。

足し算して複雑にするのではなく、必要ないものをそぎ落としてシンプルに仕上げることで、自分だけのオリジナルが出来上がる。

車いすに限らず、これからのプロダクトのあり方として、新たな常識となっていくかもしれない。

TOP動画転載元:https://www.youtube.com/watch?v=kfhUW7s5mPY

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所有車稼働率わずか1割という衝撃!モビリティで切り込む新しい交通戦略

御堀 直嗣

 世界の自動車保有台数は、約13億台にのぼる。このうち乗用車は75%を超える約10億台だ。  気候変動抑制のため二酸化炭素(CO2)排出量を減らす取り組みが行われ、ここへ来て、急速に進んでいるのがクルマの電動化。電動化がもたらすものは単に燃料が変わるということだけではないだろう。車の所有を変える新たな動きが連動することは間違いない。私たちの暮らしがどう変わるのか、車をとりまく未来の扉はすでに開き始めている。




実は、電気自動車(EV)はエンジン車より先に現れ、普及しはじめた時代がある。しかし20世紀初頭に米国フォードから大衆向けエンジン車T型が誕生し、同時に米国のカリフォルニア州やテキサス州で大油田が発見され、メジャーと称される大規模エネルギー企業が誕生したことから、エンジン車が世界を制した。

しかしガソリンや軽油を燃やし排出ガスを伴うエンジン車は、大気汚染と気候変動という二大環境問題を起こした。誕生から134年を経て世界に広まったクルマは、EVへの転換が求められている。

ところが、スマートフォンやパーソナルコンピュータ(PC)も使うリチウムイオンバッテリーの素材となるリチウムは、地球資源として限界があり、13億台ものクルマをEV化することはできないとされる。その影響はスマートフォンやPCにも及ぶだろう。
環境保全と、資源の限界、それらとともに世界75億の人々が快適で幸せな生活を続けるため調和していく鍵を握るのが、共同利用である。

クルマの共同利用は、2つの形態で進んでいる。1つは、日本でも広がりを見せているカーシェアリングだ。もう1つは、米国を中心に広がったライドシェア、すなわち同乗である。カーシェアリングは、事業者がクルマを用意し、会員が使用料金を支払う方式だ。ライドシェアは、同じ方向へ向かう人たちがスマートフォンなどを通じて声をかけ、個人所有のクルマに同乗しながら移動する。こちらは情報を提供するアプリケーションが希望者を結び付ける。
共同利用をもっと効率的に広げようというひとつの案として、リチウムイオンバッテリーを発明し、ノーベル賞を受賞した吉野彰が提唱する AIVE(エイアイ・イーブイ)という構想がある。人工知能(AI)と電気自動車(EV)を組み合わせた交通社会の未来像だ。
その未来を描き出した映像が公開されているので紹介しよう。

車にかかる経費
7分の1に減少

個人が所有するクルマの稼働は世界的にも約1割といわれる。残りの9割は駐車場に止まっているわけだ。ほとんど車庫に眠っているのが実態なのである。
買い物をする喜びはある。しかしクルマの場合、購入の後の利用段階においても、燃料代や有料道路代、自宅に車庫がなければ駐車場代、年間の税金や保険代などさまざまな経費が継続的に掛かる。
AIVEは、所有から共同利用へ転換することにより、移動に掛かる経費を所有の1/7に減らすことができると試算する。当然ながら自動運転であり、端末から呼び出せば、自分の居る場所に迎えに来てくれる。
共同利用すればクルマの稼働率が高まり、世界の保有台数を大きく減らしても、消費者や利用者は不便を感じずに済む。限られたリチウム資源を有効に使いながら、個人が好きなときに好きな場所へ自由に移動できるクルマを、存分に利用できるのである。
新型コロナウイルスの世界的な感染で、公共交通機関の利用や、個人所有のクルマを使ったライドシェアは、敬遠されるかもしれない。事業として管理されたクルマを使ったAIVEのほうが、消費者の安心につながっていく可能性がある。日本の抗菌技術や、殺菌、滅菌、また空調の浄化技術が応用されていけば、衛生的になる。

緊急時には発電の役割も

AIVEの構想は、移動の利便性だけでなく暮らしの安心にもつながる。
AIVEが普及すると、50基の発電所が何かの事情で停止しても、AIVEから10時間電力を供給することができるという。EVは移動だけでなく、電力の保管場所としても機能するということだ。
もう少し詳しく説明すると、既存の日産リーフなどEVは、搭載するリチウムイオンバッテリーで約400km走行できる。その電力は、家庭での消費電力に換算して3日前後に相当する。すべて使い切ってしまえばクルマとして移動できなくなるが、部分的であれば、停電に対処しながら、移動を両立できる。
さらに人工知能を活用し、地域の電力情報として管理すれば、必要な場所へ必要な分だけ電力を供給できる。充電ステーションを点在させ、普段はEVの充電に使うが、万一の際はそこにAIVEを止めて蓄えられている電気を供給するのである。
いわゆるスマートグリッド=賢い電力網のひとつだ。
さらにスマートグリッドとEVを結べば、既存の発電所の数を減らすことができると日産自動車は試算する。再生可能エネルギーと呼ばれる太陽光や風力による発電の電力安定化に蓄電設備を設けるのではなく、EVとの連携が活用できる。エンジン車からEVに替わると、移動と蓄電、そして電力調整の役目を果たせるのである。

EVと人工知能をあわせた共同利用は、個人による比較的近距離の移動に適しているといえるだろう。

日産の電気自動車「リーフ」を手がけた井上眞人氏も近距離移動における小型モビリティへの期待を語る。紹介されたモビリティは二人乗り。コンパクトなボディのおかげでパーキング問題も緩和。駐車も外付けのレバーを手押し車のように押すだけのため、ちょっとした隙間に止めることができる。

東京~大阪、あるいはそれ以上の長距離移動は、鉄道やバスなどの利便性が将来的にも続くのではないか。ただし、既存の鉄道やバスとは違った快適さの提供が伴わなければならない。
拠点となるターミナルへは、上記の共同利用のEVで向かう。そこでの乗り換えは、EVなら排出ガスを出さないので屋内へそのまま入っていくことができ、そこを考慮したターミナルビルの構想が期待される。
共同利用のEVはバリアフリーなユニバーサルデザインである必要があり、車いすや目の不自由な人、あるいは高齢者も、鉄道やバスの扉口までEVでそのまま近づくことさえできるだろう。子供連れの家族も、大きな荷物を抱えることなく、戸口から戸口へそのまま乗り換えることができれば旅も楽になるのではないか。
そのEVは、観光用などでしか今は使われていない超小型モビリティでもいい。超小型であれば、ターミナルビルのなかを比較的自由に移動できるのではないか。さらにAIVEならその場に駐車して客待ちをする必要がないので、人を降ろしたらビルの外へ出て、次の場所へ移動するなり、別の待機場所で止まればよい。同じことは、空港のターミナルについてもいえるだろう。

そうなると、行政組織の在り方も変わらなければならない。たとえば国土交通省内の現在の自動車局や、鉄道局、航空局という部署は専門集団として残るとしても、それらを統括する総合的な部署が上に立つ必要がある。そして分野を越えた交通政策を俯瞰的に計画し、実行していく。
道路やターミナルビルの建設なども、EVが屋内まで入って走ることを前提に、計画や管理をしなければならない。自動運転であれば、通信の総務省も関わる。
自動運転と同様に、これは国造りの話であり、単に交通だけの問題で終わらない。交通と建物や国土が絡み合う点では、まさに国土交通省が本領を発揮する時代の到来ともいえる。そして国土交通省の立場は、省庁のより重要な位置づけになるべきだろう。

クルマに限らず、万人の移動を自由で快適に行えることを国が支える重要性は、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言や海外でのロックダウンをみれば明らかだ。人が移動しないことで経済が破綻しそうになる。つまりモビリティ(移動)の課題と未来像は、まさに国土強靭化の一翼を担うのであり、省庁の縦割りに任せていては実現できない総合的な政策による、次世代の国造りとなっていくのである。

(text: 御堀 直嗣)

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