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乙武洋匡が人生初の仁王立ち!話題のロボット義足を手掛けた小西哲哉のデザイン世界【the innovator】前編

岸 由利子 | Yuriko Kishi

11月13日、東京都渋谷区で開催されたイベント「2020年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう展(通称:超福祉展)」の大トリを飾ったシンポジウム「JST CREST x Diversity」で乙武洋匡さんがロボット義足を付けて電動車いすから立ち上がる姿が公開され、大きな話題を呼んでいる。乙武さんの義足は、科学技術振興事業機構CRESTの支援のもと、遠藤謙氏が率いるソニーコンピュータサイエンス研究所(Sony CSL)のチームによって開発された。その一員として、ロボット義足のデザインを手がけたのがexiii design代表のプロダクトデザイナー小西哲哉氏。電動義手、ヒューマノイド、車いす型ハンドバイク、リハビリ用の長下肢装具など、多彩な分野で手腕を発揮している小西氏のデザイン世界に迫るべく、話を伺った。

引用元:乙武洋匡FACEBOOK

使う人がワクワクできる
“モノ”として魅力的なデザイン

『身体の障がいは現時点では障がいかもしれないけれど、10年後には障がいでなくなるかもしれない。もし足がなかったとしても、足と同じように動くテクノロジーがあれば、その人は普通に歩くこともできるし、走ることもできる。そうなったら、足がないことは障がいなのだろうか。きっと未来は、誰もが身体に不自由はなく、自由に身体を動かすことができるに違いない。そうした未来を目指して、ロボティクスで人間の身体を進化させていく』―このビジョンのもと、ソニーコンピュータサイエンス研究所のチームが始動した「OTOTAKE PROJECT 2018」。義足を付けて歩くには最も難易度が高いとされる四肢のない乙武さんが、最新のテクノロジーと融合することによってロボット義足を付けて歩くという、世界でかつてないハードルの高いチャレンジに挑むというものだ。

SHOEBILL Ototake Model
©ソニーコンピューサイエンス研究所

乙武さんの義足は、Xiborgと同研究所が開発するロボット義足「SHOEBILL」をもとにカスタマイズされた。普段、乙武さんは、常に座位の状態で生活しているため、膝付きの義足を付けて立ち上がろうとすると、重心位置が前になって前方へ倒れやすくなり、膝折れが起きやすくなってしまう。両手がなく、受け身の姿勢を取ることも難しいため、安全性を考慮して膝の回転軸を後ろ側に付けるという特殊な構造になっている。小西氏はデザインについてこう話す。

「今回は、人の足のシルエットを大事にしたいと考えていました。乙武さんが今までなかった足を手に入れて、長ズボンを履いたり、好きなスニーカーを選ぶなど、私たちが当たり前にしていることができるようになることは、義足を使って“歩く”ことと同じくらい大切だと思うからです。シルエットをより人の足に近づけるため、従来ふくらはぎ部分にあったバッテリーをすね側にレイアウト変更しました。膝の回転中心を含め、全体のシルエットをできるだけ前側に移動させることで、後ろ側にある膝が不自然に目立たないように配慮しました」

このロボット義足は、単に人の足にシルエットを似せているだけではない。

「健常者にはできない自分の足の外装を簡単に取り外し、カスタムができるようにしていたり、装着するだけで美しいラインの足が手に入ったり、使う人がワクワクできる“モノ”として魅力的なデザインになるよう心がけています。すべてのモノのデザインに対して、常に考えていることのひとつですが、義肢や生活に使うモノはあくまで道具であって、大事なのはそれを使うことで日常をより良い状態にすることができるということです。乙武さんの義足で言うと、このロボット義足を使うことで、日常をもっと楽しくできるということです」

ユーザーと心の距離を近づけ、
チーム一丸となってモノづくりする喜び

「今後、歩くのがどんどん上達して、乙武さんが街中を歩いている姿を想像するとワクワクが止まらない」と話す小西氏。福祉機器から家電に至るまで、さまざまな分野のプロダクトデザインを手掛けているが、「そのモノを“使う人”がしっかりと見えているプロジェクトほど、良いモノが出来上がる」と言う。

「どんなプロジェクトでも、必ずユーザーの方と会って話をするようにしています。実際に話し合うと、どんな人なのか、どんなモノが欲しいのかといったことが見えてきますし、特に義手や義足、車いすといった福祉機器など、自分自身がユーザーではない場合は、話を重ねることでユーザーとの心理的な距離が近づくと、より具体的にイメージできるようになります。自分だったらこうあって欲しい、こんな風に動いて欲しいということが考えやすくなりますし、その方のために、もっといいモノを作りたいという気持ちが湧いてきます」

Handiii ©exiii design

小西氏は、パナソニックデザイン部門でビデオカメラやウェアラブルデバイスのデザインを担当したのち、2014年にメカエンジニアの山浦博志氏、近藤玄大氏とexiiiを協同創業。GUGENやジェームズ・ダイソン・アワード、iFデザインアワードなど国内外のコンペで受賞した、低コストで優れたデザインを兼ね備えた3Dプリント筋電義手「handiii」を皮切りに、その進化版であるオープンソースプロジェクト「HACKberry」、義手プロジェクトで培った知見を活かして開発したVR空間に存在するデータに触ることができる触覚提示デバイス「EXOS」など、革新的なプロダクトを次々と生み出してきた。

Hackberry ©exiii design

EXOS ©exiii design

exiii創業から目まぐるしく過ぎた4年を経て、よりモノづくりに集中するために、新しいデザイン事務所「exiii design」を立ち上げ、独立したことを2018年10月17日に発表した小西氏。exiiiのフルタイムメンバーからは卒業するが、社名からも分かる通り、exiiiのプロダクトデザインは今後も担っていきながら、新たな気持ちでモノづくりに挑んでいく次第だ。

「デザイナーにも色んなタイプの人がいると思いますが、僕はどちらかと言うと、尊敬し合えるメンバーとチームを組んで、一緒にモノづくりしていくのが楽しいですね。これは、exiii時代からずっと変わっていないです。“ここ、もうちょっと削れないですか?”、“ここ、スペースに余裕がありますよね?”というように、エンジニアをはじめ、関わるスタッフとは包み隠さず、ひとつずつ洗い出していくタイプです。そうすると、目の前にある課題の解決策も一緒に探していくことができるので」

後編では、小西氏が手掛けたデザインをさらに紹介するとともに、インスピレーションの源など、その人物像に迫っていく。

後編へつづく

exiii design
https://exiii-design.com/

小西哲哉
千葉工業大学大学院修士課程修了。パナソニックデザイン部門にてビデオカメラ、ウェアラブルデバイスのデザインを担当。退職後、2014年にexiiiを共同創業。iF Design Gold Award、Good Design Award金賞等受賞。2018年に独立しexiii designを設立。現在も継続してexiii製品のプロダクトデザインを担当。

(text: 岸 由利子 | Yuriko Kishi)

(photo: 増元幸司)

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ランニングライフをさらに楽しく、奥深く!スマートフットウェア「ORPHE TRACK」

HERO X 編集部

現在、日本国内でジョギング・ランニングを年1回以上実施している人の数は、推定964万人。皇居外苑周辺にはランナー向けの施設が乱立し、ランニングイベントも全国各地で盛んに開催されている。2012年をピークに、ここ数年はやや落ち着きがみられるものの、ランニングは根強い人気を誇るスポーツだ。 「ORPHE TRACK」は、専用センサーを身につけて専用シューズを履くだけで様々なランニングデータを計測・分析してくれるスマートフットウェア。ただ走るだけではなく、タイムやランニングフォームなど「走りの質」にもこだわるランナーも増えつつあるなか、注目を集めているデバイスだ。

ランニングは誰でも手軽に始められるスポーツだが、唯一欠かすことができないのが、シューズ。日本製のシューズが競技を席巻した1960年代から、メーカー各社は究極の1足を目指し、時代ごとに最高性能のシューズを生み出し続けてきた。その結果、シューズは驚異的な進化を遂げ、今日に至る。そんななか、進化の過程でみるみると技術に磨きをかけていったのが職人達。多くのランナーを虜にするシューズを作り続け、『現代の名工』に選ばれた三村仁司氏は、日本のシューズ業界をけん引してきた1人だろう。

参考記事:http://hero-x.jp/article/4140/

だが、各社の切磋琢磨が進んだ現在ではどのメーカーのものも及第点以上の性能を有することとなり、差別化を図ることが難しくなってきた。こうした現状を踏まえ、シューズの性能以外の観点から “より良く走る” を追求したのが「ORPHE TRACK」だ。

このデバイスは、専用のセンサーと専用シューズを装着して走るだけで、自身のランニングデータを計測・分析することができる。ペースや距離はもちろん、ランニング中のフォームや着地法、ピッチ、足の傾きなど、従来は大掛かりな設備が必要だったこれらのデータを手軽に入手することができる。“走りの質” にこだわるランナーにとって、画期的なデバイスだ。

簡単にデータ分析までの流れを紹介しよう。まず、専用センサーを専用シューズの中にセットする。片足わずか30gのコンパクトなつくりで、装着感はほぼ感じない。このセンサー「ORPHE CORE」は、ランニング中、足裏のどの部分で着地しているか(着地法)、着地時の足の傾き(プロネーション)、地面との接地時間(左右バランス)、ストライドの広さ、ピッチなどを毎歩計測する。次に、ランを記録。いつものように走るだけで、センサーがランニング中の状態を詳細に記録してくれる。あとは、分析結果を専用アプリ「ORPHE TRACK Run」から確認するだけ。アプリでは、安定性や左右バランスの評価を行い、目標達成のためにデータをわかりやすく表示してくれる。ランナーは客観的なデータを得ることで、自身のランニングを新たな視点から捉えることができるはずだ。

「フルマラソン完走に向けてランニングフォームを見直したい」「リハビリにランニングを取り入れて、成果を確認したい」など、あらゆるランナーのニーズに対し、データでその実現をサポートするORPHE TRACK。より充実したランニングライフを送りたい方にとっては、必見のデバイスだ。

[TOP画像引用元:https://orphe.shoes/track/

(text: HERO X 編集部)

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