コラム COLUMN

【HERO X × JETRO】近未来、技術で世界をリードする注目の日本発ベンチャー

編集長 杉原行里

トヨタやソニーといえば日本が世界に誇る企業だが、技術を元に発展し、ビックネームとなった会社は残念ながら近年日本からは育っている印象は薄い。大企業になることが全てとは思わない。ただ、世界をアッと驚かせる、ワクワクさせる企業が出るというのはその国の魅力にもなるだろう。今回の連載で話を伺ったのは、そんなワクワクを醸成するベンチャー企業の方々だった。いずれの企業もぐいぐいと芽を出しており、この間に上場が見えてきたという会社も見られる。

宇宙へ飛び立つWOTA

循環させた水を使ってシャワーを浴びることもできる。

最近は大型商業施設でも目にするようになったWOTAは、NASAに採用が決まった。LIFULLの社長、井上高志氏の言葉を借りれば宇宙ステーションは「究極のオフグリッド」な場所なのだから、水を循環させられるWOTAの技術が導入されれば宇宙空間での暮らしもかなり変わることになるだろう。しかし考えてみれば、WOTAがやろうとしていることは、それほど突飛なことではない。

ただ手を洗うためだけに使われて、蛇口から排水溝に流れ落ちていく水。排水溝に流れた水をその場で循環できないかと至ってシンプルに考えたビジネスモデル。
だがその発想は今、地球規模で拡大し、生物が生きていく上で必要不可欠である水問題解決の糸口として大きな期待がかかる。発明は足元の小さな気づきの中にある。WOTAの技術は、世界40億人が抱えると言われる水に対するストレスを変える装置としての役割を果たしてくれることになるだろう。

記事を読む▶【HERO X × JETRO】使った水はその場で循環する時代へ 世界を変えるWOTA 

関西発!見えないものを操る力

ITバブルを生みだしたシリコンバレー、日本では近年、五反田が「五反田バレー」などと呼ばれるようだが、関西のスタートアップも面白い。ラジコン操作のような手軽さで重機を操縦できる技術を開発した知能技研(大阪)では、空中でタッチパネル操る方法を考案した。コロナ禍で生まれた非接触に対する需要もあり、全国に店舗を構える回転すしチェーンでの導入もはじまった。その名も「UbiMouse(ユビマウス)」。

アマゾンやGoogleなどは音声認識技術を使い、声だけで操作できるものを世の中に送り出してきたのだが、知能技研が送り出した指先をセンサーでキャッチする技術を応用すれば、目の動きだけでものを動かすことだってできるようになるかもしれない。一つのことにとどまらず、多様な使い方ができる可能性を秘めた技術は、世の中を変えるものを生み出しやすい。少し遠い未来に感じる「アイアンマン」の世界が現実味を帯びてきた。

記事を読む▶【HERO X × JETRO】大型ロボット操縦ももはやラジコン並みに!? AIとロボットが生み出す安全 

そして、風を読む会社としてスタートしたメトロウェザーも関西だ。ドローン輸送やドローンタクシーの開発など、道としての空に視線が注がれる今、目に見えない風を読み可視化する技術の需要は高まっている。都会では随分前からビル風の問題も指摘されてきた。新たに建物を建てる場合や、自然災害への対策、そして新たなエネルギーの確保と多方面で、風のデータは必要になっており、今後の需要はもっと高まっていくと予想される。

記事を読む▶【HERO X×JETRO】都市=メトロに風況情報ソリューションを提供。メトロウェザーの「風を読む」テクノロジー 

最盛期を迎える身体データの可視化

私がチームを率いているRDSという会社でも、身体の可視化についての取り組みを強化してきているのだが、自分の健康管理の観点から、自身の身体に関する情報を可視化する動きは確実に高まってきた。

OECDがまとめた報告によると、日本人の睡眠時間は加盟国の中でワースト1。睡眠負債の影響がさまざまなところで叫ばれる中、睡眠の質を測るデバイスの開発が多くの会社で始まっている。HERO Xでは睡眠時の脳波だけでなく、目の動きなども計測することで質の高い眠りが得られているかを計測する「InSomnograf®:インソムノグラフ」を開発したS’UIMIN(スイミン)を紹介した。彼らのアプローチは、計測されたリッチデータを、簡便的に社会実装に落とし込んでいき、より日常生活を豊かにすると期待されている。睡眠が不得意な私としても早く手に入れ、試してみたいプロダクトだ。

記事を読む▶【HERO X × JETRO】睡眠の謎に挑み続けるベンチャー企業「S’UIMIN」 

アウトプットの段階でいくつもの用途が考えられるプロダクトは、社会実装の可能性が格段に高まる。リキッド・デザイン・システムズが開発した体動センサ「IBUKI」はまさにそんなプロダクトだった。バイタルセンサーを使い、呼吸や心拍数を測るもので、寝具の上に乗せるだけで使えるという手軽さも画期的だと言えよう。保育園での導入が増えたのには、子供の安全を見守るのと同時に、現場で働く保育士の負担軽減にもつながるためだろう。

記事を読む▶【HERO X × JETRO】乳児を見守るセンシング 介護現場でも広がる“眠りログ”

そして、糖尿病に特化した計測機を開発したクォンタムオペレーションも、身体データ取得に関わるベンチャーだ。世界的にも患者の多い糖尿病。日本では、男性通院人口の疾患ランキングで2位を占めるほどになっている。病状によっては血液中の血糖値の計測が欠かせないという人もいる糖尿病。指先を傷つけて血液を採取することに慣れる人はいないだろう。そのため、針を刺さずに計測できることを望む声も多かった。同社が開発したのはそんな世界中の患者の声に応えることのできる測定器だ。光センサーを使って血を出すことなくデータを取得できるようにした。多くのユーザーをストレスフリーにできる可能性が十分あるプロダクトなので今後の展開が楽しみだ。

記事を読む▶【HERO X × JETRO】CESで話題沸騰! 針を刺さずに血糖値測定「クォンタムオペレーション」 

国内でも開発に加速がかかる身体計測系のデバイス。しかしすでにここはブルーオーシャンとは言えない。アップルウォッチをはじめ、多くの海外企業も力を注ぐ中、日本のベンチャーがどう戦いを挑んでいくのか。超高齢化社会を一足先に迎えた日本だからこそできることがきっとあるはずだ。すでに財力も技術力も持ち合わせている先進国の大企業と戦うためには、国内で出てくるこうしたプロダクトをガラパゴス化させないための策が必要となるだろう。

だが、残念ながら日本の場合、ベンチャーがGAFAのように一気に大企業に数年で育つ土壌は薄いと言わざるを得ない。資金調達のための機会が海外と比べて少ないなど、その原因はいくつか考えられるのだが、こうした有望な技術をいち早く社会実装できるようにするための実証フィールドの乏しさも、スピード感を削ぐ要因だろう。実証までのタイムラグをいかに短くできるか、資金的なリソースをいかにして受け入れていくのか、受け皿となる自治体が出てくれば、日本のベンチャーの成長はもっと加速するだろう。グローバルに活躍できる力を秘めたベンチャーは確かに日本に多く存在する。芽を枯らさず、伸ばしていく策を、考えていかなければならない。いったい何ができるのか。立ち止まらず、動きながら、問いの答えを見つけていかなければならない。そして何より私たちユーザー側が開発企業のアプローチに対し、トライアンドエラーを許容する余白を持つことが一番大事なことではないかと思う。

 

(text: 編集長 杉原行里)

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新年羅針盤 編集長杉原行里が選ぶ 2023年注目分野はコレだ

杉原行里

長引くコロナ禍にロシアのウクライナ侵攻と、2022年もいろいろなことが起きた。歴史的円安や燃料費の高騰など、予測していなかった事態は私たち庶民の日常にも影響を与えている。2023年はどんな年になっていくのか、未来を考える時、今立っている場所、現状認識は必ず必要な行為だ。新しい年のはじまりに今年注目すべき分野について考えた。

宇宙を制するものが世界を制する時代へ

コロナ禍で一番浸透したものの一つが通信ネットワーク。公立学校でもICT化が進み、全ての産業においてオンラインを介した動きが活発化した。5Gや6Gを制するものが今後はプラットフォームを作り世の中を牽引していくことは間違いない。そこで必ず必要なのが衛生だ。地球上の空間、設備ではなく宇宙空間に衛生を含めいかに設備を搭載できるかがプラットフォームを持つ上では重要になってくる。先進国の多くが宇宙に対する研究に力を入れている。一方で、違いが浮き彫りになってきたこともある。コロナに対する人々の対応は今や世界一律にはなっていない。

日本リサーチセンターが英国YouGov社と共同で行なった公共の場でのマスク着用率の調査では、14カ国の中で日本はトップの87%、最も低いデンマークの9%と比べると、差は歴然だ。他国を見てもイギリスも35%、アメリカ45%と、いずれも着用率が半数を割っている。もともと日本では、冬になると風邪やインフルエンザ予防のためにマスクをつける人が多くいた。一方、アメリカやイギリスは冬でもマスクをつけるという習慣がない。口元を隠す文化が欧米にはあまり見られない。だからこそか、屋外でのマスク着用の義務がはずれたことで、マスクを取る人が増えたのだろう。日本でもこの春には室内でもマスクを外せるようになりそうだが、厚労省が屋外では季節を問わず「マスクは原則不要」という知らせをいくら流しても、マスクを外す人はまばら、むしろ、していないと「落ち着かない」という人も出てきている。もちろん、持病などリスクを抱える人の場合は必要ということもある。だが、「気持ち的に」ということならば、マスクをつける本来の意味からはかけ離れてしまう。ところが、マスク着用者が多数だと、同調圧力が働き、つけていないほうが「違和感」を持ってしまう。春からの脱マスクの動きがどれだけ市民権を得ていくのかは、新しいことを受け入れる素地を見る指標にもなりそうだ。

みんなの足が変わる法改正

われわれが今年最も注目しているのが道路交通法の一部改正だ。多くのメディアで話題になったのが今年7月から電動キックボードを運転する際、16歳以上の人ならば免許不要で乗れるというニュース。だが、この改正はそれだけではない。車体の長さ190センチ、幅60センチ以下で、最高速度20キロ以下といった乗り物を「特定小型原電動機付自転車」と規定、電動キックボードに限らず、規定範囲内の乗り物ならばどれでもいいことになる。今は電動キックボードが主流だが、今後は他のタイプのモビリティが出てくる可能性は高い。特に注目したいのは中小企業やスタートアップの動きだ。免許無しで乗れる次世代の移動手段の開発の行方をHERO Xでは追ってみたい。

【国土交通省が公表した改正に関する資料】

(1)道路運送車両の保安基準及びその細目を定める告示の一部改正
●原動機付自転車のうち、電動機の定格出力が0.6kW 以下であって長さ190 ㎝、幅60 ㎝以下かつ最高速度20km/h 以下のものを特定原付とし、それ以外の原動機付自転車を一般原動機付自転車と定義する。
●道路運送車両の保安基準に「特定小型原動機付自転車の保安基準」を追加し、特定原付に適用される保安基準を定める。
(2)特定小型原動機付自転車の性能等確認制度に関する告示の制定
●国土交通省がその能力を審査し、公表した民間の機関・団体等が、特定原付のメーカー等からの申請に基づき、当該特定原付の基準適合性等を確認する。
●確認を受けた特定原付には、メーカー・確認機関の名称等を含む表示(シール)※2を目立つ位置に貼付するとともに、当該特定原付の情報を国土交通省ホームページ等で公開する。
(3)その他の関係告示等の一部改正等
●今般整備する特定原付の保安基準の適用時期を規定するほか、所要の改正を行う。

(出典:国土交通省 https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001579526.pdf

ロボットの躍進とデータ解析の価値上昇

ここ数年で急速に広がったのが、ロボットの存在だ。ロボットはアニメや映画にでてくるような、いかにも実態のあるものと、コンピュータの中に内蔵される目に見えないものとがあるが、目に見える側のロボットがより身近になってきた。あるテレビ番組でお笑い芸人が配膳ロボットを真似たコントを見て、ロボットの普及もここまで来たかと感じずにはいられなかった。調理ロボ、配膳ロボといった飲食関連のロボットや、コンビニエンスストアで活躍する陳列補充ロボットなど、さまざまなロボットが日常の中に存在するようになってきた。仮にこれがコロナ禍でなかったら、ここまでの浸透スピードにあっただろうか。もしかすると、もう少しネガティブな風潮が蔓延していたかもしれない。だが、このロボット化はするべき場とそうでない場が存在するように感じる。例えば、昔ながらの街中華の店の配膳がある日突然、配膳ロボに変わったとしたら、客足は遠のくかもしれない。

目に見えない部分の進展ではヘルステック分野が堅調だった。コロナ禍で開発の急がれた創薬分野の成長は急激なものだった。健康でいたいというのは誰もが願うことだが、自分が健康か不健康かの可視化を求める人は決してマジョリティではなかったと思う。ところが、コロナ禍により、健康の可視化が注目を浴び、人々が自分のヘルスケアに、より積極的に意識を向けるようになった。人々の身体データの蓄積が新たなヘルスケアテックの技術を生み出す。実際、RDSが開発した歩行解析ロボットや、車いすを開発する際に必要なデータを取れるbespoなどは、海外企業からの問い合わせも増えている。データというものの価値が今後は益々高まるだろう。

こうした期待は高まるものの、民意やデモクラシーとはなんと曖昧なものだとも思うのが正直なところだ。ニュースを見ても、最近は、未来の話しにいささか偏っているような気がしてならない。「将来的にはCO2を削減しないと」と言うが、今現在、どうなっているのかという話しが見えないままでは具体的に進めることは難しい。今年もHERO Xを続けていかなければいけない理由はここにある。垂れ流された情報をそのまま報じるメディア。オールドメディアを見る人の数は減り、SNSでニュースも検索、アルゴリズムによってその人が好みそうな情報しか与えられなくなる中で、HERO Xはあえてその流れに立ち向かいたいのだ。一過性に偏った角度の情報だけでなく、広域な視野を持てるメディアでありたい。今年もわれわれらしい方法で、取材と情報発信を続けていきたいと思っている。

(text: 杉原行里)

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