テクノロジー TECHNOLOGY

リサイクル循環のすべてに関わることで、真のサステナブル社会が実現する

富山 英三郎

サステナブル、SDGs、カーボンニュートラルなど環境にまつわるワードが飛び交う現在。一部ではトレンドとして消費されている側面もあるが、環境への取り組みは地球規模で求められる切実な問題となっている。石灰石を主原料とした素材LIMEX(ライメックス)を開発した株式会社TBMでは、素材メーカーの枠を超えてリサイクル循環の全工程に関わるビジネスを展開。その真意を探った。

環境への配慮が
一過性のトレンドではない時代

環境保全への取り組みだけでなく、貧困や教育、ジェンダー平等まで包括的に盛り込んだSDGs(持続可能な開発目標)。CO2排出量に焦点を絞ったカーボンニュートラルへの取り組みなど、身の回りの環境に対する興味関心が世界的に高まっている。かつて環境問題は賛否両論のある議題だったが、異常気象の発生頻度が世界中で高まっていることもあり、より身近な事柄として捉える人たちも増えた。それはMZ世代(ミレニアル世代とZ世代を合わせた造語)と呼ばれる若い層において顕著になっている。

さらに、新型コロナウイルスの影響によるサプライチェーンの混乱もあり、素材や部品の価格が乱高下する事態も頻繁に発生。従来の枠組みだけでは対応できない状況が増える中、社会全体がシステム変更を求められる場面が増えている。

そんな中、注目を集めているのが、2011年設立のTBMが開発したプラスチックや紙の代替製品を成形できる複合素材「LIMEX(ライメックス)」である。

石灰石を主原料とする
リサイクル可能な複合素材

「LIMEXは炭酸カルシウムなど無機物を50%以上含んだ素材であり、主原料は石灰石になります。石灰石は世界各地で採掘できる安価な素材で、資源の乏しい日本でも自給自足できるほどあります。また、炭酸カルシウムは石灰石を粉砕して製造するので、石油プラスチックと比較して原材料調達段階でのCO2排出量を約1/50も削減できるんです」。そう語るのは、TBM経営企画本部の土井英人氏。

石灰石を原料とする紙の代替製品は以前からあり、ストーンペーパーと呼ばれている。木材パルプを使わないため森林伐採が起きず、製造時に水をほとんど使わないので水不足にも対応するなど環境に優しい。また、水濡れに強く強度もあり、理論上はリサイクル可能といった魅力がある。
TBMの社長もかつては台湾製ストーンペーパーの卸売をしていたが、品質が安定しないという不満により自ら開発に着手。しかし、紙の代替である「LIMEX Sheet(ライメックスシート)は大量生産がうまくいかず苦労を重ねた。

その後、パートナー企業の協力もありプラスチックの代替品製造に成功。世間的に海洋プラスチック問題が浮上し、脱プラスチックが叫ばれるタイミングでもあり大きな注目を集めるようになった。

「実際に触っていただくとわかりやすいのですが、ツルッとした質感が特徴で、そこが類似品との大きな違いです。一般的に炭酸カルシウムなど無機物を50%以上含ませるとザラついたり厚みがバラついたりしてしまうんです。LIMEXシートは最薄で150ミクロン(0.15mm)のものがあり、厚みも均一なので冊子などにも利用されています。現在はさらに薄いシートも開発中です」

LIMEX Sheet(ライメックス シート)

LIMEX Sheetはさまざまコーティングができ、各種印刷方式にも対応。防水性があり汚れが落ちやすいシートは、吉野家やガストといった外食チェーンのメニュー表として採用されている。その他、ポスターとして活用されることも多い。評価されたのは機能面のみならず、アップサイクル(再製品化)可能なサステナブル性を満たしている点にある。

既存の機械でさまざまな
プラスチック製品に成形可能

プラスチックの代替品が成形可能なLIMEX Pellet(ライメックスペレット)においては、さらに熱い視線が注がれている。読んで字の如くペレット状になっているため、これまでプラスチック製品を作っていた機械であれば、多少の調整をかけるだけでLIMEXを使った成形ができる手軽さも魅力だ。

LIMEX Pellet(ライメックスペレット)

「プラスチック代替製品として一番売れているのがLIMEXを使ったバッグです。レジ袋タイプのものからリユーザブルバッグ(リサイクル素材を使ったエコバッグ)まで幅広く人気があります。その他、食品用容器は140℃までの耐熱性があり電子レンジの使用も可能なので、デリバリーはもちろん冷凍食品の容器としても使われています」

ロット数によってバラつきはあるものの、一般的なリサイクル素材よりも安価に作れるというのも魅力。それら複合的な要素が重なり、LIMEX製品を使っている会社はすでに6000社を超えた。

回収からアップサイクルまでの
システムも構築

良いことづくめのLIMEXではあるが、古紙(既存の紙)やプラスチックとして回収されてしまうとリサイクルが難しい。燃えるゴミになる分には問題ないが、あくまでも主成分は炭酸カルシウムなので紙やプラスチックとは再生方法が異なってしまうのだ。

「使用済みのLIMEXは再ペレット化して、新たな製品に生まれ変わらせることができます。現在はそこからさらに発展させて、プラスチックなどの再生材料を50%以上含むCirculeX(サーキュレックス)という新たな素材ブランドもスタートさせています」

CirculeXは、使用済みのLIMEXのみならず一般的なプラゴミなどで作る再生素材・製品およびその仕組みのこと。現在、急ピッチで回収の仕組みづくりをおこなっており、そのひとつに自治体との連携がある。一例としては神戸市との実証実験。これは市民や企業から回収したペットボトルキャップやストレッチフィルムなどを使用して、指定ゴミ袋を期間限定で製造・販売するというもの。その他にもいくつかの自治体と連携する動きを見せている。

さらには専用アプリを開設し、LIMEXまたはペットボトルキャップを提携ショップの回収ボックスまで持参するとポイントがもらえ、集めたポイントは社会貢献団体への寄付やTBMの運営するECサイト「ZAIMA(ザイマ)」で使用することができる取り組みもおこなっている。また、同社は先月末、使用済みのLIMEXと廃プラスチックを自動選別・再生する国内最大級のリサイクルプラントプロジェクトの始動を発表した。

「弊社では“サステナビリティ革命を起こす”というスローガンを掲げています。つまり、サステナビリティ分野でトップランナーを目指すということです。そのためにできることはスピード感を持って進めています」

「CirculeX」という名前を付け、意匠を凝らしたロゴを作り、取り組み自体をブランド化させている点にも大きな意味がある。

「プラスチックのリサイクルは石油価格にすごく影響されるんです。石油価格が上がると再生材料に人が集まり、下がると人がいなくなるということが起きる。そんな状況では廃棄プラスチックの回収業者を含めシステム自体が安定しません。市況に関わらず再生材料の需要を安定させる目的もあって、CirculeXだから買おうというお客様を増やしていきたいんです。それこそがサステナブル社会への近道だと考えています」

水や森林資源に乏しい国々からも
注目を集めている

前述のように国内で6000社以上との取り組みがある同社は、海外にも目を向けている。

「日本にいると認識しづらいですが、水資源に乏しい国はとても多いんです。そういう場所は森林資源も乏しいわけです。わかりやすくイメージできるのは砂漠の多い中東などです。そういう国々に対しては、水を節約しながら紙の代替品が作れることが大きなアドバンテージとなります」

その他の国々においても、原料となる石灰石を自国で採掘できるので、輸入原料を減らしながら自国生産できるというメリットがある。コスト削減のみならず、安定供給ができるという点でも有効だ。

カーボンニュートラルの考え方からもわかる通り、今ではシステムの一箇所だけを抜き出すだけでは「環境対応をしている」とは言えなくなっている。原料採取、製造、輸送、ゴミ処理、再生産などトータルで環境に優しいかという「本質」が求められている。そこには正しい知識や情報の開示など、真摯な姿勢が求められる。TBMでは各種データの公表を積極的におこなっており、サステナブル社会の実現という社会課題に向けて高い技術を用いながら挑んでいる。

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(text: 富山 英三郎)

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新しい体験価値で大人をアップデート BAKERUの挑戦

川瀬拓郎

クリエイティブの会社でありながら飲食店や都心で楽しめるサバイバルゲーム場などを運営し、自由な発想で新しいエンターテイメントを発信し続けている株式会社BAKERU。代表の小林氏を迎えて、今まで語られることが少なかった起業までの経緯や、これから仕掛けようとしているプロジェクトについて語り合った。

業界のお約束をあえて無視して
大成功を収めた「アソビル」

杉原:まずはBAKERU設立のきっかけとなった、横浜のアソビルについて伺いたいと思います。地下がアミューズメントバー、1Fが横丁をイメージした飲食店街、2Fがエンタメ体験型セレクトショップ、3Fが多目的イベントスペース、4Fがキッズスペース、屋上がフットサル場。今までの商業施設にはない提案だと思ったのですが、どんな狙いがあったのでしょうか。

小林:昔からある商業施設は、シャワー効果(*1)を狙っていますけど、アソビルでは1Fを一番人が来やすい飲食街にして、ライブやDJイベントができるステージも設置しました。目に見える賑わいがあると人が集まってくると思いませんか?「遊べる駅ビル」というコンセプトが明確だったから、他の商業施設とは差別化ができたのだと思います。

(*1)上階に飲食店やイベント会場などの施設を充実させ、上から下への人の流れをつくり、店舗全体の売り上げ増加につなげる

杉原:やっぱり今はコンセプトがしっかりしていて、専門性があるものが求められているんですよね。“Make Today, Tomorrow Bakeru”という企業メッセージが秀逸だなぁと思っていました。

小林:僕たちが自分の会社を紹介するときによく使う言葉が、「社会実験推進ベンチャー」。社会課題の解決を実験する会社であると。実はASOBIBAでやりたかったことを全部詰め込んだのがアソビルなんです。

知らないを知る楽しさ
ポイントはチュートリアル

杉原:ASOBIBAは人気のコンテンツとして定着していますよね。ASOBIBAをつくるきっかけはなんだったのでしょう?

小林:日本酒の店を手掛けたことがきっかけです。日本酒がウリの飲食店はいくつもあったけど、どれも中級者以上の人しか本当の意味では楽しめないお店ばかりだなと。それで、自分であれこれ調べているうちに、地域性や料理との相性など学ぶことが多くてのめり込みました。日本酒のうんちくや雑学を通じて、もっと日本酒を好きになってもらえるように、僕が今学んでいるチュートリアルを提供するお店があったら面白いんじゃないかと思い、やってみました。

杉原:初心者でもチュートリアルさえあれば、もっと身近なものとして楽しめるということですよね。それがサバゲー(サバイバルゲーム)ってコンテンツに変わった訳ですね。人をエンターテインしたいっていう欲求は根本的に同じなのでは?

小林:そうですね。ゴルフも一緒だと思うのですが、成熟した業界こそ入門編があると、(それを)好きになる人が増えると思うんです。だから初めての人こそ楽しめるサバゲーを目指しました。ASOBIBAが多くの人に来てもらえたのは、ハードルを下げて、今までとは違う環境で人と接することで新しい発見があるからだと思うんです。大人になればなるほど、なかなか新しい友達ができにくくなるものだけど、サバゲーをやれば意外なほどすぐ仲良くなれる。僕は「知らない」を「知る」に変えることが好きなのかも知れません。

南青山のレストラン開業で得た独自の成功法

杉原:これまでに、いくつかの飲食店経営会社を立ち上げ、合併や買収を経て現在のBAKERU代表取締役になられましたが、そもそもどんな仕事を経て起業することになったのですか?

小林:広告代理店にインターンとして勤務したのですが、やっぱり自分はサラリーマンには向いてないなと。権限と責任と報酬がセットになっていないと感じて、この3つは完全にイコールにならないとはいえ、ちゃんと比例させるべきだと考えた事があって。それを実現したいと考えたのが起業のきっかけですね。

杉原:なるほど。そうすると、昔から独立志向が強かった?

小林:仲のいい友達が次々と独立して、自分の会社を立ち上げていく姿に影響されたんだと思います。シンプルキッチンというレストランを友達と立ち上げたのが(独立の)きっかけで、確か27歳の頃だったかな。当初のコンセプトは、南青山のお洒落なサイゼリヤ。フルサービスのレストランなのに390円で生ビールを提供していました。

杉原:南青山でビールが390円って破格ですね。それでちゃんと儲かったんですか?(笑)

小林:飲食の経営で成功する基準というのが僕の中にあって、立地、人(=サービス)、コンテンツ(=コスパ、デザイン)、PRという4つの要素。それぞれが100点満点ではなく、立地は90点、人は50点、コンテンツが70点、PRが90点とそれぞれ満点の数値は違いますが、この総合点数が120点〜150点あれば、大抵の飲食店はうまくいくと思っています。

杉原:300点満点の指標って面白いですね。

好奇心と新しい発見が
ビジネスパートナーを引き寄せる

杉原:その後に手がけたのが、テキーラバーでしょうか?

小林:本物のテキーラを日本に紹介したら面白いよねというビジネスパートナーのコメントがきっかけです。というのも、テキーラって悪酔いするイメージがあるじゃないですか? それは副材料でカサ増しした安物を乱暴に飲んでいるから。本物のテキーラは風味も良くてじっくり味わえるとても深いお酒。それをいろんな人に知って欲しくて、自らテキーラソムリエにもなってお店を作りました。加えてテキーラは割り方でも味が変わってくるから、硬度が違う水を10種類も用意してみたのです。これも振り返ると実験でしたね。

杉原:確かに、美味い酒には美味しい水が欠かせない。ちなみに現在もビジネスパートナーである、小谷翔一さん(以下、翔ちゃん)との出会いがこの頃ですよね?

小林:そうです。常連で酔うとめちゃくちゃ面白いお客さんがいて、それが翔ちゃんでした。組織って、特にエモーショナルな部分とロジカルな部分の両面を備えていないと務まらないですよね。でも、チームが大きくなるとどうしてもどちらかに傾きがちで…。欠けていたロジカルな面を支えてくれたのが翔ちゃん。彼と一緒にやれたことで、僕はグランドデザインに集中することができました。

杉原:それ、すごい分かりますね。最近「杉原さんはもうデザインしないんですか?」ってよく訊かれるんですけど、デザイナーから離れることで経営に集中できるし、グランドデザインを見ることができるんですよね。勉強することばかりで本当にキツイんだけど、それが本来の経営者の役割だと僕は思っています。

ナラティブという手法を取り入れた
エンタテインメント型レストラン

小林:それで今取り組んでいるのは、コロナ禍における新しいコミュニティ作りで、渋谷の宮下パークのホテル最上階にオープンさせたSOAKというレストランです。

杉原:渋谷の街を一望できるレストランにお風呂があるのはびっくりしました。これってまさか裸じゃないですよね?(笑)

小林:もちろん水着ですけど、面白いでしょ。刺激を体験するレストランというのがコンセプトなんです。語り手から聞き手へ、その聞き手が次の語り手となり、我々が提供する体験価値が連動していく場所。そうしたナラティブな仕組みを実験するレストランを目指しています。

杉原:小林さんがやろうとしていることって、まさに前述でもおっしゃっている新しい文化を作る社会実験なんでしょうね、きっと。

小林:淘汰された上で残ったものが文化で、30年くらい継続して認知されたコンテンツは文化として認められる。決して難しい話ではなくて、トライ&エラーをしながらも新しい価値を提示していきたいですよね。

RDSとの協業の可能性と
これからの日本に必要なこと

杉原:小林さんと今一緒にやりたいなと思っているのが、お客さんのDNAを検査するバー。そこで得た情報から、その人にベストマッチの異性を紹介するなんてことができたら面白くないですか。

小林:そうですね。人間ドッグって、みんな面倒くさいから1年に1回の受診ですよね。でも、お気に入りのレストランだったら3ヶ月に1回は足を運びませんか? 例えば、飲食店でお客さんの身体データが取得できるようになったら、その人に足りない栄養素を補給できるメニューを提供できる。しかも、帰り際に最新の健康状態も教えてくれて、お土産には足りない栄養素を補給するサプリメントがもらえる。そんなレストランやバーができたら面白いですよね。

杉原:データ解析の技術がもっと進んで、身体データをエンタメ化することができたら、未病の段階で自分の身体と向き合えますからね。そんなレストランがあったら絶対に行きたい! それでは最後に、これから小林さんがやりたいことを教えていただけますか。

小林:これからやりたいと思っているのは、大人をアップデートすること。大人になればなるほど、自分の専門分野や狭い世界にとどまってしまいがちです。だからこそ、今まで知らなかった世界を体験して、さらに共有していくことが大人になっても大事かなと。だって、大人が面白くないと子供はワクワクできないじゃないですか(笑)。新しい体験をして大人が変わっていかないと、この先の日本の姿も楽しく見えてこない。だから大人のワクワクを増やせるコンテンツを色々な角度から創っていきたいですね。

小林肇

1982年、千葉県生まれ。飲食店運営会社を3社創業。2013年にASOBIBAを創業し、CEO就任。2018年にASOBIBAを株式会社アカツキに売却し、株式会社アカツキライブエンターテインメントの代表取締役に。2006年創業のクリエイティブ系起業の東京ピストルを2020年に買収し、株式会社BAKERUに社名変更。現在は同社の代表取締役として、多岐にわたる事業やコンテンツをプロデュース。

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(text: 川瀬拓郎)

(photo: 増元幸司)

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