テクノロジー TECHNOLOGY

フードロスを減らし、 “腸活”を劇的に変える!? スマートスターチが描く新常識

長谷川茂雄

バナナといえば、もっともポピュラーなフルーツの一つ。とはいえ、バナナ(とりわけ黄色く熟す前のグリーンバナナ)から、“レジスタントスターチ”と呼ばれる難消化性のでん粉が多く抽出できることは、ほぼ誰も知らない。レジスタントスターチには、腸内環境を整え、人々を健康にする数多くの効能がある。しかもフードロスを減少させ、SDGs(エスディージーズ)にも寄与すると聞けば、注目せずにはいられない。そんなレジスタントスターチの量産化に成功したスマートスターチ株式会社の代表、工藤泰正氏を訪ねた。

消化されずに大腸まで届く
画期的なでん粉=レジスタントスターチ

人の健康に腸内環境が大きく関わっていることは、もう誰もが知っている。ただ、その詳しいメカニズムや、腸内環境を整える=腸活には、どんな方法があるのか? そして何が本当に効果的なのかを、熟知している人は少ない。

腸活のメソッドは、さまざまだ。いわゆる善玉菌である乳酸菌やビフィズス菌を摂取することは基本だが、腸内の善玉菌の餌となる食物繊維などを摂る方法もある。レジスタントスターチは、まさに食物繊維の如く、胃や小腸で吸収されずに大腸まで届く難消化性のでん粉だ。腸内で善玉菌を活性化させ、便通の質を高め、腸内を酸性に近づけるとともに人々を健康へ導く。

「レジスタントスターチは、ジャガイモや豆、さつまいもといった食材にも少しずつ入っていて、誰もが日常的に摂取しています。腸活にいいことは、多くのエビデンスがあって立証済みですが、これまでは、それを効率よく多量に摂る手段は、ほぼありませんでした。含有率が非常に高い、グリーンバナナの長年の研究を活かし、高純度で抽出するとともに、量産化まで実現させたのが、我々、スマートスターチという会社です」

「レジスタントスターチには、複数のイノベーションがある」と語る工藤氏。

グリーンバナナとは、誰もが知っている黄色いバナナに熟す前のいわば“青臭い”バナナ。そのほうが、レジスタントスターチの含有量は高くなる。そんなグリーンバナナの研究が始まったのは驚くなかれ、25年も前だという。本来の目的は、レジスタントスターチの抽出ではなく、フードロス問題の解決にあった。

「岡山には、でん粉から様々な糖を効率的に大量に生産できる技術を、世界で初めて開発した有名なバイオ企業があります。そこで研究者・海外事業責任者として活躍していた林原克明が、グリーンバナナの研究を探求したいと考えたのが約四半世紀前です。中南米のバナナ農園のフードロスの問題に注目する米国の研究者と出会ったことが大きなきっかけです」

林原氏はその夢を実現するために2005年に会社を辞めて、個人で研究を続けたという。本来は、規格外として熟す前に大量廃棄される形の悪いグリーンバナナの有効利用を模索する中で、良質のでん粉であるレジスタントスターチが大量に含まれていることを知る。

では、それを効率的に抽出するにはどうしたらいいか? その技術開発へと駒を進めたが、世界的に見ても成功者が存在しない分野での研究のため、技術の確立には多くの困難が立ちはだかった。年齢も70歳を越え、個人としての活動において、体力、気力に限界も感じはじめた折に、共通の知人を介して工藤氏と林原氏の接点が生まれることになる。

グリーンバナナのレジスタントスターチ含有量は群を抜いている。

「林原と出会い、バナナの研究内容や苦労を知れば知るほど、(レジスタントスターチの)量産化は、個人ではスピードや規模に限界があるため、チームとして資金を集めて取り組むべき事業だと思いました。と同時に、レジスタントスターチは、フードロスの軽減と、人々の健康促進という明確な2つのイノベーションがあることに、大きな可能性と魅力を感じました」

いくつものSDGsに寄与
途上国での新しい雇用も創出

工藤氏は、レジスタントスターチの社会的意義はもちろんのこと、林原氏の研究蓄積、長きにわたり注ぎ込んだ情熱に感化され、事業化の実現を全面サポートする決意を固める。でん粉の開発は全くの門外漢であるにも関わらず、2019年に会社を辞め、林原氏の「この技術で世界を変えたい」という意思を受け継ぐ形でスマートスターチを創業し代表となった。林原氏は共同創業研究者として、工藤氏を全力でサポートする役割で新会社を船出させた。

誰も実現したことのないバナナでん粉の量産化工場創設の難しさ、将来的な海外生産を見据えた特許戦略立案の重要性を考えた工藤氏。そこで本田技研工業社の元副社長・入交昭一郎氏に相談を重ね、量産化プラントの思想や設計、特許戦略などを指南する技術顧問として参画してもらうことになった。

ポップなラベルが目を引くキッドには、すり切り5gの専用スプーンが付属する。

「グリーンバナナから純度の高いレジスタントスターチを抽出している会社は、他にはありません。ニッチなものかもしれませんが、逆の見方をすれば、世界一になれる可能性もある。加えて、環境にも体にも優しいということは、それだけ喜んでもらえる人がたくさんいるということ。それは、何事にも変えがたいモチベーションになっています」

SDGsという観点でいえば、2015年の国連サミットで採択された17の目標のうち、フードロスの問題は、12番目の「つくる責任、つかう責任」に含まれる。世界で、食用として生産された農水産物のうち、実に3分の1は、消費されることなく廃棄されていると言われているが、まさにスマートスターチの行う活動は、その問題解決にリーチすることになる。

「フードロスの問題もそうですが、レジスタントスターチを抽出するために、今後、海外でプラントを建設していけば、途上国での雇用を生み出す契機にもなります。バナナが豊富に採れる場所は、赤道から近い場所に固まっていますが、それらの地域は雇用の課題も深刻です。フードロスと雇用、その両面で寄与していければ本望ですね」

環境にも体にも優しい習慣は
未来の“当たり前”になる

スマートスターチの事業は、持続することで問題解決がなされるという、まさにSDGsと直結している。バナナ由来のレジスタントスターチを製品化してから半年余り。まだまだ挑戦は始まったばかりだが、少なくとも身近なユーザーからは、ポジティブな意見が多いという。

レジスタントスターチは無味無臭。ジュースや水にも簡単に溶ける。

「弊社のレジスタントスターチを摂取し始めたユーザーからの反応は、非常にいいですね。便秘やお肌の悩みの改善、ダイエット効果なども立証されていることから、現在は女性からの反応が主流ですが、将来的には、新常識としてあらゆる方々のライフスタイルに根付いていくと考えています。希望的観測もありますが、腸脳相関など、腸内環境への注目が集まってきている昨今、おそらく3〜4年程度で腸活するのが世の中の“当たり前”になっていくはずです」

レジスタントスターチは、無味無臭の白い粉。パンケーキやパスタといった小麦粉を使うメニューでは簡単に代用ができる。加えて、バナナ以外は何も使っていない食品素材のため、小さい子供からシニアまで、安心して摂取できる。さらには、犬や猫などのペットに摂取させると、便の臭いが気にならなくなるという報告まである。とにかく使い勝手がいいのだ。

「今はとにかくレジスタントスターチの認知度を高めることを、当面の課題にしています。その先は、コロナが落ち着くのを見計らって、一日も早く海外のプラント建設に乗り出す予定です。それが実現すれば、量産スピードは上がり、価格はもっと抑えられる。より世の中に提供しやすくなると思います」

健康促進、SDGsへの寄与、雇用問題の解決etc.……、レジスタントスターチは、大きな可能性を秘めている。長年の貴重な研究成果を活かし量産化まで結びつけたスマートスターチ社のチャレンジャースピリッツは、まだ結実したばかり。“腸活”の新たな常識へ。今後の動向に注目したい。

工藤泰正(くどう・たいせい)
岡山県生まれ。関西大学を卒業後、丸紅株式会社を経て、ソフトバンク・イーコマース株式会社(現ソフトバンク株式会社)へ入社。その後、SBヒューマンキャピタル株式会社に転籍し、本部長、取締役などを歴任。同時に、株式会社シーセブンハヤブサなどの事業会社にて取締役を務め、2019年に退任。同年、スマートスターチ株式会社を設立。以後、レジスタントスターチの普及をすべく、奮闘している。https://smartstarch.co.jp/

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(text: 長谷川茂雄)

(photo: 増元幸司)

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アシックスが開発する、義足のためのスポーツシューズとは?

浅羽 晃

社会は障がい者が抱えるハンディキャップを、できる限り、軽減させなくてはいけない。その実現のために、公共施設や交通機関のバリアフリー化をはじめとして、さまざまな方策が実践されているが、障がい者と健常者がともに集うコミュニティづくりも、極めて有効な策といえるだろう。株式会社アシックスが、ナブテスコ株式会社との研究連携によって開発を進める義足装着者用スポーツシューズは、スポーツによって障がい者と健常者を結びつける可能性を秘めている。開発にあたっているアシックスの坂本賢志氏にお話をうかがった。

障がい者と健常者がともに
スポーツを楽しむ世界観を描く

競技用のシューズやウェア、スポーツ用品などのグローバル企業であり、強いブランド力を持つ株式会社アシックス(以下、アシックス)と、鉄道車両のブレーキ装置やドア開閉装置などが国内市場シェアの1位であり、航空機の飛行姿勢を制御するフライト・コントロール・アクチュエーターの世界的メーカーとしても知られるナブテスコ株式会社(以下、ナブテスコ)。一見、接点のなさそうな両者が研究分野で連携するようになったのは、ちょっとした偶然がきっかけだった。

「神戸市では毎年9月、『国際フロンティア産業メッセ』という産業総合展示会が開催されていますが、2016年には健康医療特別展示があり、アシックスもブースを設けました。アシックスは機能訓練特化型のデイサービスをTryus(トライアス)という名で展開していて、その紹介のためです。近くにはナブテスコさんのブースもあり、展示されている義足を見て、興味を持ちました」

ナブテスコは1993年に世界で初めて電子制御膝継手を商品化しているように、義足においても高度な技術力を発揮している。体重のかかり方や歩くスピードに合わせて、半自律的に膝継手が曲がるナブテスコの義足は、高い活動性を有し、運動を可能にする。

「義足を装着している方の活動性、運動性を上げるためには、膝についてはナブテスコさんの技術で解決できています。課題が残るのは膝から下であり、それをサポートできるのはシューズだろうと考えました。当社の研究所は神戸の西区にあり、ナブテスコさんも非常に近い場所に事業所を持たれているので、“近くで働いている者同士、何かをしましょう”と、展示会の場で盛り上がったのです」

ナブテスコと研究分野で連携するにあたって、アシックスは、まず“世界観”を描いた。

「障がい者のスポーツ実施率は、健常者と比べて、どうしても低くなってしまいます。スポーツ庁が2017年3月に発表した第2期『スポーツ基本計画』によると、障がい者の週1回以上のスポーツ実施率は19.2%で、健常者の42.5%と比較して低い水準です。スポーツ庁は2022年3月までに障がい者のスポーツ実施率を40%に引き上げる方針を立てていますが、そのためには障がい者と健常者が同じステージでスポーツを楽しめるようにすることも大事だと考えました。たとえば、義足のお父さんと健常者の息子さんがいて、いっしょにバドミントンをやるような世界観です」

障がい者と健常者が同じステージでスポーツを楽しむようになると、スポーツ実施率の向上以外にも好ましい効果が見込める。

「障がい者の方は、同じ障がいを持っている方同士でコミュニティを形成する傾向があります。そうすると、災害が起こったときなどは障がい者が障がい者をサポートすることになるのです。1995年の阪神・淡路大震災の際は、神戸でもそのことが理由で逃げ遅れたという方もいたそうです。障がい者と健常者がスポーツを通じて同じコミュニティの仲間になれば、そうした問題を解決することもできるのではないでしょうか」

5mm角の中敷きセンサーで
力のかかり方を測定する

障がい者と健常者が同じステージでスポーツを楽しむ世界観の実現のために、具体的にはスポーツシューズにどのような工夫を盛り込んだのだろうか。

「まず、履きやすさです。健常者は靴を履くとき、足首を曲げます。しかし、義足の足首はL字型で固定されているため、一般的な形の靴では履きづらいのです。そこで、甲の部分は大きく開くようにして、L字を乗せたら、あとは3本のベルトを締めるだけというものにしました」

一般的に靴のベルトは、靴の向きに対して垂直に締めるようになっているが、義足装着者用スポーツシューズのベルトは、斜めに角度をつけて締めるようになっている。これは義足装着者が横方向に動く際の力のかかり方を解析した結果だ。

義足を装着して横に移動する際の力のかかり方を解析し、バンドは斜めに締めるようにした

甲の部分が大きく開くので、容易に履くことができる

「中敷きに5mm角でセンサーを配置した靴を義足の方に履いていただき、どのような動きをしたときに、どのような力がかかるかを測定しました。すると、足を開いて横方向に動き、踏ん張ったときは、斜めに力がかかることがわかったのです。横方向に動き、着地した瞬間の安定性を向上させるために、ベルトは斜めに取りつけました」

この点は、高度な研究施設を持つアシックスならではの研究成果といえるだろう。

「私どもは、トップアスリートを含むスポーツをされている方の、動作分析の膨大な知見がありますから、ある程度は予測できた部分もあります。そして、義足装着者用スポーツシューズにおいても、大きな鍵となるのはソールの溝と考えました。義足の足首に相当する部分は硬いL字型のカーボンで、靴を履く場合は、L字を包むようにして、足部形状の樹脂カバーをつけます。つまり、靴を履いて、つま先に力がかかるときは、ちょうどカーボン部分が途切れ、樹脂のみとなった部分が曲がることで地面とフィットし、反対にかかとに力がかかるときは、カーボンの後ろの樹脂の部分が曲がることで地面とフィットするのです。今回の義足装着者用スポーツシューズのソールは、その曲がる部分が、より曲がりやすくなるように、大きな溝にしています。また、曲がる部分は、ソールの他の部分よりもやわらかい素材とすることで、より地面とフィットするようにしました」

一般的な靴が、つま先部分が低く、かかと部分が高くなっているのに対して、今回、試作した義足装着者用スポーツシューズは全体がフラットになっている。これはナブテスコの半自律的な膝継手に、スポーツ動作に合致した屈曲動作をしてもらうためだ。

「つま先部分が低いと、つま先に力がかかり、意図しない場面で膝継手が曲がってしまうことも考えられます。義足が完全にフラットな状態でシューズに収まることで、そういった事態が発生しづらい構造になりました」

ソールのつま先部分が適正な位置で曲げられる構造になっているため、地面とフィットしやすい

量産化による発売も視野に入れる一方、
さらなる性能の向上にもチャレンジ

見た目にこだわった点にも、アシックスらしさが強く感じられる。現在、義足用の靴は、1足で通勤もウォーキングもできるような、汎用的な使い方を想定しているものがほとんどだ。しかし、今回の義足装着者用スポーツシューズは、スポーツに特化したことで、まさにスポーティなデザインとなっている。

「義足の方に今回のスポーツシューズを見ていただいたとき、“いままで義足向けのかっこいいシューズがなかったけれど、これならみんなといっしょにスポーツをしたいという気持ちになる”という言葉をいただきました」

見た目もスポーツ実施率を向上させる要素となり得るのだろう。

「義足装着者用スポーツシューズは、バドミントン、卓球、テニスといったスポーツのためのシューズとして開発しています。バレーボールやバスケットボールなど、大きくジャンプするスポーツは、膝継手そのものを壊してしまう危険があるため、いまのところ、現実的ではないのです」

試作品による実証試験では、確かな手応えを得られた。

「義足の方にバドミントンをやっていただいたのですが、“膝を曲げたいときには曲げられて、曲げたくないときには曲がらないので、安心してできる”とおっしゃっていました。同じくバドミントンを、一般的なランニングシューズでやっていただくと、“怖くてできない”とのことでした。期待どおりの性能は得られています」

次のステップは、量産化による市販だ。

「性能がいくらよくても、高価だからという理由で使ってくださる方が少ないのでは意味がありません。当社の他商品のパーツを流用するなどの工夫によって、お求めやすい価格とし、将来的な発売も視野に研究開発を進めています」

一方で、さらなる性能の向上にもチャレンジしている。

「足首の前と後ろに人工筋肉を配置して、足首も可動となるような研究もしています」

さまざまな分野で技術開発が進めば、障がい者と健常者のスポーツ実施率が限りなく近くなることも夢ではないのだろう。

坂本賢志(Kenji Sakamoto)
1969年、大阪府生まれ。株式会社アシックスに入社後、研究所にてコート系競技(バレーボール、卓球、テニス等)シューズの研究開発に従事。その後、経営企画室に異動して、IoT/デジタルに関わる事業開発を担当。現在は同社スポーツ工学研究所のIoT担当マネジャーとして、スポーツや健康促進で重視されるようになった「測位」「運動解析」のセンシング研究に注力している。「お客さまに喜んでいただける100%のモノ、サービスをまず考え、販売価格を睨みながら機能・性能を削っていく減点法によるものづくりを常に意識する」のがモットー。

(text: 浅羽 晃)

(photo: 河村香奈子)

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