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パラ代表・伊藤智也選手のマシン開発の裏側 人の“座る”を徹底解析

HERO X 編集部

「直観的に面白いことができそうだと感じた」そう話す株式会社RDS代表・杉原行里と伊藤智也選手の出会いから5年。車いすレーサー『WF01TR』の完成に伊藤選手は「レーサーにどう自分がアジャストしていくか、という新しい楽しみの段階に入っています。とにかく嬉しいという思いしかないです」と、喜びを隠しきれない。

2人は出会ってすぐに意気投合し、開発はスタートしたが、完成までの道のりは難局の連続だった。伊藤選手がライダーとしての感覚で「硬い」と伝えても、その言葉は開発者には響かない。エンジニアはすべてを数値化して話していくが、ライダーにはその感覚が伝わらない。まるで異なる言語を話しているかのような両者。彼らの意見が噛み合うほうが少ない開発現場では、ぶつかり合いも多く、議論が白熱して収拾がつかなくなったことも一度や二度ではなかった。

そこで杉原は、モーションキャプチャーやハイスピードカメラ、フォースプレートなどを使って伊藤選手の体を隅々まで解析し、伊藤の「硬い」や「痛い」といった抽象的な言葉を、すべて数値化し、可視化した。

こうして誕生したのが、杉原の考える共通のコミュニケーションツール『SS01』だ。

記事を読む▶最新車いすレーサー『WF01TR』、シミュレーター『SS01』の完全版レポート!

それだけではない。シーティングポジションの最適解を探すロボット『SS01』は、最新の技術をいかに一般の生活に落とし込むかというRDSの基本精神に則し、車いすレーサーに限らず、シッティングスポーツやオフィスワーカーなどのプロダクト開発も行なっていく予定だという。

「今日の理想を、未来の普通に。」

RDSのコーポレートサイトに標されたコンセプトはシンプルだ。理想を実現するには、試練があり、現状では到底乗り越えられないような限界もある。あくまで、絶え間ない研究と改善を繰り返し、時に挫折もある。それでも一つひとつ問題を解決しながら、普通という目標を達成するための手段を考え抜き、誰も想像しなかった技術を生み出そうとする。

残念ながらこの国には、往年の高度経済成長が忘れられず精神論や根性論だけを振りかざす経営者は多数いても、「未来を創ろう」というマインドを心に宿した経営者は少ないように思う。

杉原はよく「自分ごと化」という言葉を口にする。それは、「大事なことは周りで起きているさまざまなことを、いかに自分のことのように考えられるか」ということ。
そう、選手にパラリンピックで金メダルを取ってもらうことが目的ではない。自らの手で高めた技術力が役立ち、転用されれば、その先に、今まで見たことのないワクワクするような未来が待っている。そんな世界を自らの手で切り開いていくことが重要なのだ。

RDSの未来は現在の延長線ではなく、違うステージの未来にあるのかもしれない。

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(text: HERO X 編集部)

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車いすボクシングが熱い!世界18カ国で広まる新スポーツ

岸 由利子 | Yuriko Kishi

車いすとボクシング。一見すると、何の接点もないように思えるかもしれない。だが今、この二つを掛け合わせた「車いすボクシング」なる新たなスポーツが、英国を中心に世界各地でじわじわと広まりつつある。

英国初の車いすボクサー、ポール・ロビンソン選手(右)とフィル・ボウスフィールド選手
引用元:https://abology.org/ ABO(Adaptive Boxing Organization)

スポーツが好きで障がいを持つ人のために、トレーニングを受けたり、試合に出る機会を創出したい。その想いと共に立ち上がったのが、英国コヴェントリーでスポーツコーチを務めるコリン・ウッド氏。2006年に創立した非営利組織「The Wheeled Warriors Boxing Organisation(WWBO)」を母体に、車いすボクシングを世界に広めるためのさまざまな活動を行ってきた。

創立からの数年間は、中々思うようにいかず、苦戦していたが、イングランド・ボクシングから招待を受け、リバプールで開催されたナショナル・ファイナルに出場するなど、近年は好機に恵まれている。同イベントで闘う車いすボクサーたちは、会場にいた5000人の観客を沸かせただけでなく、その試合の様子は、国営放送によっても大きく報道されたことで、認知度も格段に上がった。

2016年4月30日にBBC Sportが行ったインタビューで、英国初の車いすボクサーの一人、ポール・ロビンソン選手は次のようにコメントしている。「イングランド・ボクシングは、私たちを次のレベルに押し上げてくれた。パラボクシングのイベント企画についても、すでに話し合いが行われている」。現在、ギリシャ、ブラジル、米国、カナダなど約18カ国が、WWBOに国際組織として加わる意向で、話し合いを重ねている最中だという。

WWBOの創立者、コリン・ウッド氏(左から2番目)
引用元:https://abology.org/ ABO(Adaptive Boxing Organization)

今後、ウッド氏が率いるWWBOが目指すのは、車いすボクシングがパラリンピックの正式競技として認められること。国際パラリンピック委員会広報部長のクレイグ・スペンス氏は「このスポーツが、何を提供できるかに興味がある」と前向きな姿勢を見せる一方、こうも話している。「(車いすボクシングというスポーツを)今後、どのように前進させていくのかについて、明確な計画の提示が必要です。(パラリンピックの正式競技として検討するためには)少なくとも4大陸の32カ国で広く、定期的に行われることが必須です」。

「その野望を達成できるのは、最速でも2024年」と慎重なウッド氏に対し、「それを達成するために、車いすボクシングは世界レベルで成長を続けていくことができると確信しています」とロビンソン選手は自信満々でコメント。ボクサーたちの熱い闘魂が奇跡を起こす日は、近いのかもしれない。

[TOP動画引用元]https://youtu.be/9W43CjUjzdc

(text: 岸 由利子 | Yuriko Kishi)

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