対談 CONVERSATION

【HERO X × JETRO】乳児を見守るセンシング 介護現場でも広がる“眠りログ”

JETROが出展支援する、世界最大のテクノロジー見本市「CES」に参加した注目企業に本誌編集長・杉原行里が訪問。「ユニークなテクノロジーを発明・開発し、お客様にサプライズを」をテーマに、現場の声を大切にしながらセンシング技術の開発に情熱を注ぎ続ける株式会社リキッド・デザイン・システムズ。 数年前、保育園で起こった乳児の突然死。午睡中の乳児が保育園で突然死亡したこのニュースは子どもを持つ親たちに衝撃を与えた。事故から数年経った今、自治体の中には昼寝を見守る機器の保育園への導入に補助金を出す所も出てきた。寝ている時の体の状態を可視化する装置を開発、世界への進出を目指している同社の代表・遠山直也氏にお話を伺った。

“何の役に立つの?”
見向きもされなかった草創期

杉原:はじめまして。僕自身はエンジニアやデザイナー寄りなので、遠山さんのお話を伺えることをとても楽しみにしていました。今回、初のオンライン開催となったCESに出展されて、感触はいかがでしたか?

遠山:当社はCESへの出展自体が初めてでしたが、数社の企業が当社の技術に興味を持ってくださり、打ち合わせに発展しました。オンライン開催でしたので製品を実際に手に取って見てもらえなかったのは残念でしたが、海外での認知度が少しでも上がったことはよかったですね。

杉原:それはうれしい反響ですね。そもそも御社のセンサー技術開発のきっかけはどういったことからだったのですか。

遠山:この会社の生い立ちからになるのですが、もともと私はシリコンバレーにある半導体のソフトウェア開発の会社に勤務していました。友人が次々と起業していくのをきっかけに、私も起業しました。立ち上げから約5年は半導体ビジネスをやっていましたが、資金繰りが厳しく行き詰ってしまった。そんなとき、たまたま我々の基幹技術になっている「バイタルセンサー」を紹介されて、技術を買い取ったところから、当社の製品開発がスタートしました。

杉原:なるほど。開発当初から乳幼児向けに使おうと考えられていたのですか?

遠山:実はその前にもうワンステップあるんです(笑)。当初我々は、この技術は介護の世界で需要があるだろうと考えていました。その当時はまだIoTという言葉はなかったのですが、センサーとクラウドを組み合わせて何か作れないかと考えていたんです。

杉原:具体的にはどういった製品を開発されたのですか?

遠山:呼吸や心拍数など、眠っている間の体の状態を計測するものです。通常の医療用具は直接身体に装着するものがほとんどですが、当社の製品はベッドマットの下にセンサーマット を敷くだけ、要は非接触で体動から推測した呼吸と心拍が計測できるという画期的な技術を使ったものでした。しかし当時の介護の世界では、こんなものが何の役に立つのか、と全く理解されなかった。結局、商品を作ったものの全く売れず、再び経営危機に陥ってしまいました。

杉原:介護用品の難しいところですね。今までの介護の世界は、今あるものをいかに安くできるかという方向に目が行きがちで、新たなサービスや付加価値というところにまでなかなか考えが及ばないところがあるのではと僕は常々思っています。

遠山:そうなんです。でもここからがまた面白いところで、この商品を新聞で紹介してもらったら、保育園から次々と問い合わせが来るようになったんです。

杉原:それはすごいですね。保育園からの問い合わせが多かった理由には、「新生児突然死症候群」が関係しているのでしょうか?

遠山:そうなんです。ちょうど話題になっていた時期でした。そこで、保育園に協力してもらって試作品を実際に使用してもらうことを始めました。しかし、小さくて軽い赤ちゃんでは、とにかくエラーばかりで。初めのうちはそれはもう散々な結果でした。現場からもこんなもの使い物にならないと言われてしまって。ところがこの時も、運よく半導体商社の社長がこの商品を大変気に入って出資してくださり、1年ぐらいかけて「IBUKI」という製品を開発しました。それが約3000台も売れたんです。

保育園でのお昼寝見守り用に開発された「IBUKI」は全国の保育園から問い合わせがある。

杉原:それは素晴らしいですね。

遠山:東京都が保育施設に助成金を出したこともあって、「IBUKI」の認知度は急速に高まっていきましたね。

杉原:PoC(概念実証)としての実証フィールドは、提携していた保育園や幼稚園だったのですか?

遠山:はい、そうです。約3か月で問題点をクリアにし、その後は9か月ほどかけて幼稚園で実証実験をしました。他社と比べて、うちの製品は布団の下に敷くタイプのものでしたので、ボタン電池の誤飲などの心配もなく、安全性に関して問題視されることはありませんでした。一番気を使ったところは“誤動作”が起きないようにすることでした。誤動作が起きて頻繁にアラートが鳴ってしまうと、アラートに対しての信頼性が低くなってしまう。なので、アラートに加えて更にアプリを使って呼吸の波形を目で見てわかるようにしたんです。現場の先生方から、眠っている赤ちゃんが呼吸をしているかどうかの確認は非常に難しく苦労していると伺っていました。目で見てわかるという安心感が大変大きいという声が多かったですね。

杉原:赤ちゃんの呼吸を可視化して分かりやすくしたことが、他社製品と比較して、「IBUKI」が現場からの信頼を勝ち得たポイントだったということですね。

遠山:その通りです。画面での操作を細かくわかりやすくして取り扱いを簡単にしたことも大変好評でした。

介護施設や産婦人科が導入
やっとはまった当初の予測

杉原:こちらは保育施設用ですが、うちにもまだ幼い子どもがいるので、個人向けの製品が出てくると親としても安心して子どもを見守ることができますよね。

遠山:そうなんです。「IBUKI」の改良点などを盛り込んで、更に高性能にした個人向けの商品を開発しました。こちらは「Baby Ai」と言うのですが、その後は産婦人科から要望があって「Baby Ai Med.」も開発しました。

杉原:「IBUKI」は3000台売れたということでしたが、そこから得たビッグデータはディープラーニングさせたりしているのですか?

遠山:残念ながら最初の製品はすべてiPadで完結してしまっていたので、現在はクラウドの開発を介護の分野でやっているんです。

杉原:もったいない(笑)!! ということは…創業当初の遠山さんのクラウドの考え方にまた戻ってきたということですね。

『体動センサ 介護log Med.』はコロナ禍で人手不足が叫ばれる医療現場からの引き合いもあるという。

遠山:そうなんです。結局またクラウドを開発する羽目になりました(笑)。

杉原:今後、クラウドを使いながらディープラーニングさせていくとなると、遠山さんはどのような未来を描かれていますか?

遠山:まずクラウド化とAIは必須だと思っています。

杉原:僕たちは1000件近い歩行や座位のデータを使って、歩く・座るといった未病対策やパフォーマンスを上げるために必要なデータを取得しています。それを“データバンキング”と呼んでおり、自分たちが取得したデータだけではなく様々な身体データを集約できるプラットフォーム構築に取り組んでいます。

遠山:それは素晴らしい! 実際にビッグデータがあってもそれをどう集約してどのように活用するかという課題がある。ぜひご一緒させていただきたいですね。

杉原:もちろんです。一つの分野のビッグデータだけを持っていても仕方がないんですよね。やはり様々な分野のデータが欲しい。

遠山:実はいま、“睡眠”の分野で新たな開発を進めています。自閉症など、なにか問題を抱えているお子さんは、睡眠に問題を抱えている場合が多い。我々の製品は非接触で睡眠のデータが取れるので、簡易的な方法で子どもの睡眠の質を見守ることができると考えていています。介護の分野では、オムツ交換のタイミングを知らせるというセンサーの開発を進めていて、クラウドに組み込もうとしているところなんです。

杉原:遠山さんはこれから先、介護をどのように変えていきたいとお考えですか?

遠山:まだお話できないこともあるのですが、バイタルを取れるクラウドと、現場で使う帳票類を一体化させるというシステムの開発を進めています。センサーに関しては、先述のオムツ交換の時期を知らせる尿センサーと、在宅でも遠隔で異常を知らせるナースコール、温室センサーで熱中症を知らせる、離床を知らせるといった5つのセンサリングを一つのパッケージにしていきます。

杉原:なるほど。これから日本が抱えていく社会課題に立ち向かっていくというイメージですね。

遠山:そうですね。現場ではまだそれぞれのセンサーを別々に購入して使用していて、コストもかかるし電源も複数必要になるので、ぜひワンパッケージ化してほしいという要望が多かったんです。それなら我々がいま持っている技術でやれるところまでやってみようと。ワンパッケージ化に向けて、いまクラウドと連携して実証実験の最中です。

杉原:その商品、欲しいです! 僕は自分のデータが可視化されるのが好きなので(笑)。
今回遠山さんとお話させていただいて、いろんな浮き沈みを経験されながら、苦しい時もいつも前向きで楽しんでいらっしゃるような印象を受けました。最後に、いま起業を目指している方たちに向けて、遠山さんから何かアドバイスをいただけますか。

遠山:どんなにつらい時でも諦めちゃいけないということだけでしょうか。辛くて苦しい時ほど、起業したからには社員を守らなくてはならない、とにかく会社を潰すわけにはいかないという強い信念だけは持ち続けていました。起業すると、苦しい時に身を切るのはまず自分です。1年近く役員報酬のない時期もありましたが、会社を潰してしまったらそこで終わりなので、そこだけはなんとか守ってきました。

杉原:素晴らしいですね! 今後は社会の課題になっている分野で活躍の幅を広げていかれるのですね。御社のバイタルセンサー技術を使うことで、いろんな方面に応用が利く。もしかしたら近い将来、遠山さんと何か一緒にできるんじゃないかと期待が膨らんでいます。本日はありがとうございました。

遠山直也 (とおやま・なおや)
東京都出身。1985年ニューヨーク州立大学卒業。 半導体ソフトの米国ケイデンス・デザイン・システムズ社でMarketing Directorを経て、2003年仲間内で半導体関連のベンチャー企業を設立。 2008年に会社を清算して、株式会社リキッド・デザイン・システムズを設立。 当初半導体受託設計中心に事業を進めていたが、2013年に元ソニーの技術者が開発したVitalセンサーと出会い、半導体からヘルスケアのセンサー開発事業に転換。 3つの助成金に採択され、IoT呼吸センサーと空気よる肌の共振マッサージ器(美顔器)を開発した。その後、両技術の事業化を推し進めている。

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fuRoとRDSのコラボから生まれたシーティングシミュレータとは? 「SS01」前編

長谷川茂雄

“機能とデザインの一体化”を標榜し、未来のためのロボット開発を行うfuRo(千葉工業大学・未来ロボット技術研究センター)。実は今秋、世界から注目を集めるこの研究所と、編集長・杉原が代表を務めるRDSとの念願のコラボプロダクト「SS01」が発表となった。技術面の核になったのは、日本を代表するロボットクリエイターの一人、fuRo所長、古田貴之氏。シーティングポジションの最適化を測るプロダクト「SS01」は、単なるシミュレーターではない。その理由と同プロジェクトが生まれた背景、そしてポジティブな社会を実現するために必要な視点について、杉原と古田氏が語り合った。

fuRoは一緒に世界設計や
未来像が作れるチーム

杉原「僕がfuRoと出会ったのは、おそらく8年ぐらい前ですよね」

古田「何かの展示会で会ったんですよね。自分は、杉原さんと出会ってショックを受けましたよ。カーボンでこんなことできるんですか? って思える知らない世界を見せてくれたので。いやー、カーボンやってなくてよかったなって思いましたよ(笑)」

杉原「今まで色々とプロジェクトをご一緒させて頂いていますが、僕は、いつかは自分たち側から発信したもので、fuRoの皆さんと何かをやらせていただきたいとずっと思っていたんです。それが今回、やっと実現しました。結局、8年かかりましたけど(笑)。お互いに足りてない部分を、補完ではなく拡張しながら、一緒に世界設計や未来像が作れる。fuRoは、まさにそういうチームです」

古田「嬉しいな。でも、ワクワクやドキドキが感じられるモノを作って、その先にある未来を作ろうというマインドが共有できる人は、なかなかいないですよ。技術は持てても、マインドは持てと言っても持てない。杉原さんにはそれがあるからやりやすい。別に持ち上げてるわけじゃないですよ(笑)」

古田氏(右)もfuRoもリスペクトしている杉原。コラボをしたいという思いは、8年越しで実現した。

杉原「僕も本当に嬉しいです。今回自分たちが取り組んだのは、人の体の最適解を探す計測シミュレーターですよね。例えば(古田さんが開発した)カングーロでもなんでも、乗り物の最適なポジションを見つけて、その人の身体の特徴を生かしつつシートがフィットすれば、より乗りこなしやすくなる。これからは、ビッグデータが揃って、パーソナライズの量産化が進むわけですから、今回の計測器“SS01”で得たシートの情報は、いろんなことに活かせるようになるはずですよね」

古田「もうグランドデザインも含めて、杉原さんが全部やってくれて(笑)」

杉原「いや、まったくそんなことないです(笑)。僕らができないことを、たくさん助けていただきましたから。ワントゥーテンさんとRDSで製作したCYBER WHEEL Xのときも、fuRoの皆さんには負荷装置の部分を手がけていただきましたけど、今回も自社だけやろうとすると何年もかかるものが、できない部分を拡張してもらえるチームと一緒にやることで、数ヶ月でできることがわかりました」

車いすレースや日常用車いす、さらにはシッティングスポーツ全般を想定して、最適なシートポジションを割り出すSS01は、ユーザーのパフォーマンスレベルを高める。

乗り物は共生社会のなかで
コミュニティを作る役割を担う

古田「それは重要だよね。チームビルドっていうのは、社内も社外もどちらも大切。でも、チームビルドするときに一番必要なのは、さっきも言ったマインドが同じということ」

杉原「僕は、古田さんはチームビルディングが最高にうまいなって思っていますけど」

古田「いや、才能のある優秀な人が周りにいてくれるだけですよ(笑)。僕はのび太くんで、周りにドラえもんがたくさんいるってことです。たった一人でできることなんて微々たるもの。どうやってその分野で振り切ってる人と繋がって、コラボレーションすることで1+1を3以上にするか。それが大切なことですね」

杉原「自分もそう思います。今回の計測器もそうやってできたもののひとつです。そういえば、いま時速50km出る車いす型モビリティを開発していて、これから原付登録をしようと考えているんですね。車いすとしての機能も搭載され、おじいちゃん、おばあちゃんはもちろん、老若男女誰もが乗れて、しかも使って楽しいモビリティって面白いと思いませんか?」

古田「そういう発想は面白いですね。確立された技術ができたら、それは今度大衆に向かっていく。そして、ちょっと面倒くさい言い方ですけど、能動的共生社会に繋がっていく。イヴァン・イリイチという社会学者が、コンヴィヴィアリティという思想を唱えましたけど、どの世代もワイワイ賑やかにやっていける社会を作るということですよね。乗り物もそういうコミュニティを作るひとつの役割を担うと思うんですよ」

杉原「なるほど。自分はよく“自分ごと化”って言っているんですけど、そういう能動的共生社会で一番大事なことって、周りで起きている様々なことを、いかに自分のことのように考えられるかということですね」

古田「いいこと言いますね! そういうふうに、いろんな人や世代が能動的に共生していける社会は、いろんなサービスや技術が必要ですよね。でも、例えば乗り物も、単に移動手段ではなくて、ウキウキ、ドキドキするようなものであるべきなんですよ。その乗り物があるから、外に行きたいなぁとか、乗って走って誰かに会いに行きたいなぁとか思って外に出るようになって、気がつけば友達ができて生活が楽しくなったなぁとか。そうやって人を突き動かす技術やサービスは、結果、社会を変えていくんですよ」

SS01は単なるシミュレーターにあらず。デザイン性の高さにも力点が置かれている。

SS01紹介サイト:http://rds-pr.com/ss01/

シーティングポジションのデータが
面白いことに繋がる未来が来る

杉原「確かにそうですね。今回のSS01という測定器ですが、“そんなものが必要なの?”とか、“無意味じゃない?”という人もいるんですね。でも僕は、絶対にこのような技術が必要な未来が、すぐにやってくると言っているんです。これから来る未来と社会に繋がっていると。今後は、国立障害者リハビリテーションセンター研究所とともに、SS01を使って多くのシーティングデータの集積を行いつつ、解析設計をしていく方針です」

古田「へー! それはすごいですね。さらに先の未来に繋がっていきそうですね」

杉原「体がどういう状態の人には、どういうシーティングポジションが最適なのか? それだけのデータを取るというのは、これまで共有されなかったことです。その一歩としても面白いじゃないですか。その先に、何か素敵なエンタテインメントが繋がっているかもしれないですし」

古田「ウキウキするようなことが、見えてくるかもしれないってことですね」

後編へつづく

古田貴之(ふるた・たかゆき)
1968年、東京生まれ。工学博士、fuRo(千葉工業大学未来ロボット技術研究センター)所長。青山学院大学大学院理工学研究科機械工学専攻博士後期課程中退後、同大学理工学部機械工学科助手を経て、2000年、博士(工学)取得。同年、国立研究開発法人科学技術振興機構で、ロボット開発のグループリーダーとしてヒューマーノイドロボットの開発に従事。2003年より現職。自動車技術とロボット技術を融合させた「ハルキゼニア01」、大型二足歩行ロボット「コア」、搭乗型変形ロボット「カングーロ」ほか、世界から注目を浴びる開発プロダクトは数知れず。著書に『不可能は、可能になる』(PHP出版)がある。

(text: 長谷川茂雄)

(photo: 壬生マリコ)

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