対談 CONVERSATION

テレビゲームの枠に収まらない、本当のeスポーツとは!?犬飼博士がつくりたい未来【後編】

前編ではeスポーツが生まれた背景や現状を語り合った。そして今後は、eスポーツは一般的なスポーツのなかに溶けていくだろうと予測。後編では具体的な未来予想図を展開。犬飼氏が構想する『IT体育館』の可能性について話が展開していく。

人の動きを解析すると未来が見える

杉原:僕は人の動きを解析することが好きなので、リアルイム身体情報を測定してクラウドにストックしていくという犬飼さんの『IT体育館』構想に共感するんです。RDSは車いすレーサーの開発をしているのですが、「人間が45分くらい座り続けるとどんな動きをするのか」、「何回減圧するのか」といったことから、その人の身長や体重、年齢が予測できて面白いんです。

犬飼:そういう研究データはみんな欲しくて仕方がないんですよ。たとえば、『アナグラのうた消えた博士と残された装置』という科学展示が、日本科学未来館にあるんですけど。それは、「空間でどういった情報を取って、どう利用すれば、どう幸せになるか」という空間情報科学に関する展示なんです。面白いのは、僕たちがそれを作っている様子を、京大の先生がさらに研究している。つまり、入れ子構造になっているんです。京大の先生たちは、僕らの会議や制作風景をすべてビデオに録画した後、「犬飼が立ち上がった」「◯◯と喋った」とかを全部書き出して、「犬飼が立ち上がると議論はこう変わる」とか「何分くらいでこう変わる」とかを解析して論文にしているんです。そういうことを自動化させたい。

杉原:そんな研究があるんですね。

人間のためではなくて、
テクノロジーが成長するためにやっている

犬飼:最終的には意思決定に使いたいんですよ。AIがディープラーニングした過去のデータと、リアルタイムで起きていることを対峙させれば未来予想ができる。そうなると、未来の選択肢はAmazonのおすすめ商品みたいに表示される。つまり、「今日の会議は何をする?」という時点で、すでに「結論」が出ている。未来の会議は、その結論に対しての意思決定の場になっていく。

杉原:会議室に入ってきたときの雰囲気やサーモグラフィーだったりを踏まえてですよね。

犬飼:今日のような対談も、最初から結論の記事ができあがっている状態。それが対談のなかでリアルタイムに変化していく。

杉原:そのためのデザインや構造はすでにあって、あとはどう数値化、AI化して使えるコンテンツにするかということですか?

犬飼:いまやっているのは入力部分です。発見のための「眼」を作っている感じ。それは人間のためではなくて、テクノロジーが成長するためにやっているんです。そういうと反感を買うんだけど、僕は「人のために働く」とか「ホスピタリティ」とかいうのがすんなり理解できない人間だから。

杉原:その感覚は僕も少しわかるところがあります。RDSで車いすを作ったり、『HERO-X』のようなメディアをやっていると、「いろんな人の助けをしていて偉いですね」とか言われることがあります。でも、僕はただ「無いものを作りたい」だけなんですよね。時速50kmのスポーツカーみたいな車いすがあったら面白いとしか思っていない。

犬飼:そこには、時速50kmの車いすがあるだけですよね、ただ作ってみたいだけ。

杉原:頭の中に描いている未来をやらないと気持ち悪い。やらないなら、キレイさっぱり消し去りたい。

犬飼:そう、「思いついたから」って結構重要で。思いついたから、作らなければいけないから、作るだけ。「誰のために作っているのですか?」と聞かれたら考えるけど。

杉原:コンクルージョンが大事だと思っていて、イントロは誰かが書いてくれればいいかなと思っています。

犬飼:とはいえ、こういう場所に呼ばれたからには、「自分の言葉で話せ」「批評は自分でしろ」とか、そこも含めてやらないといけない。

東京オリンピックの開催が
決まってから空気は変わった

杉原:eスポーツのプラットフォーム化は、今後どんどん大きくなりますか?

犬飼:はい。先ほどもお話したように、まずは『IT体育館』を作りたいんです。過去のデータと、リアルタイムを対峙させて未来予想をすると言いましたけど、そこにみんなが気づき始めたときに、そういうソリューションを提供したいと考えています。

杉原:多くの人が共鳴して、一緒にやっていくイメージですか?

犬飼:2010年くらいから、苦労して自力でやっていますけど、いまだに始まってない。「いつ儲かるんですか?」と聞かれるから事業計画を書くんだけど、僕がヘタクソなのかそこから動かない。でも、2013年、東京がオリンピックの開催地に決まって、そこから急に空気は変わりましたね。それまでeスポーツなんて誰も興味を持っていなかったですから。日本のターニングポイントだと思いますよ。結局、オリンピックでスポーツへの関心が生まれて、次のスポーツを探したときに、具体的に使えるのがeスポーツだけだったということなんでしょうけど。

杉原:従来型のスポーツとのギャップが面白かったんですかね。

犬飼:2020年までに何かしら投資するに値するものが、そこしかなかったんですよ。「eスポーツ=テレビゲーム」としてくくれば、ゲームプレイヤーの10%が真剣に取り組めば幾らになると試算できる。「超人スポーツ」みたいなものに投資が集まらないのは、その市場がそもそも文化になっていないから。酔狂なエンジェル投資しかあり得ない。

IT体育館が普通になると、
次にくるキーワードは「作る」

杉原:犬飼さんたちは、新たな市場を作ろうとしているんですね。

犬飼:いまはニーズを先に作ればいいと思っているんです。スマホが当たり前の時代になって、次はデータを取ることが当たり前になって、情報が取れる体育館が当たり前になり、取れない体育館に違和感を覚えるようになったら、みんながIT体育館を欲しがるようになる。実際、山口の情報芸術センターでは2015年からやり始めていて、子どもたちは学校にある旧来の体育館に違和感を感じ始めているんです。IT体育館が普通になると、次にくるキーワードは「作る」になんですよ。

杉原:どういうことですか?

犬飼:スポーツ庁のスポーツ基本計画では、「する・見る・支える」をキーワードにしている。するスポーツ、見るスポーツ、支えるスポーツという三角形。その面積を大きくすることで、人々が健康になって、医療費も下がって、健康寿命がながくなるという説明。それを一緒にやっているのが超人スポーツをやっている人たち。

僕らは、そこに「作る」という縦軸を作って立体的に増やしていきましょうという提案をしているんです。やる種目が増えればスポーツ人口が増えるという考え方です。というのも、eスポーツがスポーツに与えた影響のひとつに、スポーツデベロッパーが増えたことが挙げられるんです。テレビゲームでいえば、ゲームクリエーターが増えたのと同じ。問題点としては、スポーツクリエーターには給料や賞がなく、社会的評価もないということ。さらに、新しいスポーツを作ったあとに、それは誰のものかっていうことになる。スポーツって誰のものでもなく、パテントもとれない。

杉原:確かにそうですね。

犬飼:そこで僕が提案しているのは「デベロップレイヤー」、デベロップとプレイをかけた造語です。新しいスポーツを考案して、プレイしながらルールを決めている途中の段階では、「デベロップ」と「プレイ」の境界線がないわけです。プロトタイピングに近い。ITの世界のように、プロトタイピングをアジャイルに作っていき、ちょうどいいところが見つかったら人にプレゼンする。作りながら遊ぶ体験ですよね。とはいえ、これもまだどうマネタイズするのがいいのか、回答は出てないんです。僕たちはまだアイデアがないので、それが「作る」の次にくるキーワード。

杉原:そう考えると、「スポーツ」というワードを使ったほうがいいのか、面白いものが生まれるならスポーツと呼ばなくてもいいのでは? ということになりますよね。

犬飼:そうなんですよね。「スポーツ」や「遊び」という言葉が使いにくくなってしまったので、新たに自分で「運楽」という言葉を作っちゃったんです。運楽の中に、スポーツや音楽があるような感じです。

杉原:なるほど。音楽のなかに、さらにジャズやヒップホップがあって、演歌もあってみたいなものですよね。

犬飼:そうそう、プレイヤーも観客も楽しんでいるに過ぎないというのは、音楽ではすでに起こっている。

杉原:もしかしたらeスポーツはジャズに近いのかもしれない。

犬飼:即興的に作っていくという意味ではジャズに近いかもしれないですね。僕らのやっている『運動会ハッカソン』※1とか、『未来の運動会』2とかね。
——————
1 伝統的な運動会の道具、紙、棒、ボールからドローン、コンピューターなど、使う道具の制限をなくした状態で、みんなで新しい運動会の「種目」や「出し物」を作る試み。
2 『運動会ハッカソン』で生まれた、新しい競技で楽しむ運動会のこと。
——————

杉原:それをテレビのショーとしてやるのか、YouTubeとしてやるのか、ジャズバーでやるのか。

犬飼:そうそう、IT体育館をそういう場所にしたいんです。そういう場所を用意しておけば、コンペティティブな環境が生まれて、そのうちにすごい奴が現れますから。

杉原:xでも、eスポーツというものをテレビゲームの大会では終わらせず、ここまで広げて考えている方は少数派ですかね。

犬飼:そんなに難しくないし、便利で普遍的な捉え方だとおもうんですけどね。でも、eスポーツ=テレビゲーム大会のような認識になってしまったことには、僕も反省があるんです。2005年頃は、「eスポーツって何ですか?」と聞かれたら、みんながわかりやすいように「たとえばテレビゲームをスポーツとしてとらえるようなことです」と答えていたので。

杉原:今後、犬飼さんの考えるeスポーツが普及していくと、「ゲームばかりやっていないで、少しは体を動かしなさい!」という定番文句が家庭から消えていきそうですね(笑)

犬飼:『ポケモンGO』をやって、15km歩いている子どもを否定できないですよ。「お母さん、僕は今日ポケモンがんばったよ。」って言ったら、「ゲームばっかりしてないで外で遊びなさい」と、なぜか怒られてしまう矛盾と戦ってきた人生なんです。僕はお母さんに苦言を言われる理由がわからなかった。そこを説明したくて、苦肉の策で生まれたのがeスポーツでもあるんです。

前編はこちら

犬飼博士
1970年、愛知県一宮市生まれ。運楽家/遊物体アソビウム/ゲーム監督。映画監督山本政志に師事後、ゲーム業界にて『TOY FIGHTER(アーケードゲーム)』、『UFC(ドリームキャスト)』、『WWF RAWXbox)』といった作品を制作。2002年より、スポーツとゲームを融合する「eスポーツ」の事業を開始。『World Cyber Games』、『Cyberathlete Professional League』、『Electronic Sports World Cup』といった国際eスポーツ大会の日本予選をオーガナイズ。2007年度文化庁メディア芸術祭にて、ゲームソフト『Mr.SPLASH!』が審査員会推薦作品に選出。2012年には、日本科学未来館で常設されている『アナグラのうた 消えた博士と残された装置』に参加。2013年には、YCAM公募企画『LIFE by MEDIA』国際コンペティションや、文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門優秀賞などを受賞した『スポーツタイムマシーン』を発表。

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対談 CONVERSATION

遠隔操作ロボットを使った、労働の革新

富山英三郎

VRゴーグルや触覚センサー付きグローブを装着し、ロボットを自分の身体のように遠隔操作する。そんな未来がすでに現実のものとなっている。今回は、そんなロボティクスの世界をリードする、テレイグジスタンス社の共同創設者でありCEOの富岡 仁さんと、弊誌編集長・杉原行里の対談。同社は2020年9月14日から小売店舗の運営をスタートさせたというが、その真意とは?

テレイグジスタンスとは?

対談の前に、「テレイグジスタンス」について簡単に解説しておこう。「遠隔存在」「遠隔臨場」とも訳される「テレイグジスタンス」は、東京大学 名誉教授であり工学博士の舘 暲氏が1980年に提唱した概念。簡潔に言えば、人間がロボットの身体を操作し、自分の身体と同一のものとして行動できるようにする試みだ。館教授が考える最終ゴールはまだ先だが、約40年の研究成果により、かなりの進化と実現性を帯びてきている。そんななか、2017年に同研究の社会実装(商業化)を目的としたテレイグジスタンス社が設立された。富岡 仁さんは、その会社の共同創設者でありCEOである。

商社を辞め、
テレイグジスタンス社を
設立した理由

杉原 まずは、もともと三菱商事に勤めていた富岡さんが、一般的にはアバターと言われる、館先生の「テレイグジスタンス」の領域に興味を持った理由を教えてください。マーケティング的な側面なのか、何か思うところがあったのか。

富岡 それはよく聞かれるんですよ。でも、商社を辞めた時点では「テレイグジスタンス」をまったく知らなかった。商社は扱う金額が大きくて面白いんですけど、やっぱり線形でしか伸びないようなビジネスしか手掛けられない。大きなプロジェクトを2~3回やると、展開が読めてしまうというか。

杉原 パラダイムシフトが起きにくいということですね。

富岡 そうです。そこで、スタンフォード(大学経営大学院)を卒業し、ファンド組成と投資を経験した後、次に何をやろうかというときに、とりあえず複雑なことをしようと。技術的に複雑で難しいだけでなく、事業の仮説が4乗、5乗にも重なっていて、それを(事業としての)実態に変換する際には、複雑に利害が絡まった人たちを巻き込みながら、その煩雑さに糸を通していくような力量が要求されること。事業の経済計算も緻密さが要求され、モデル化が必要なこと。とにかく複雑系なことをやりたかったのです。

杉原 難攻不落かつ、ゼロイチ(世の中にないモノやサービス、価値を生み出すこと)のチャレンジングな仕事がしたかったんですね。

富岡 そうです。そして、いくつかの選択肢のなかで一番革新的で複雑そうなのが、館先生のロボティクスだった。難易度は異常に高いけれど、彼の技術をリサーチからエンジニアリングに引き上げ、ユニットエコノミクス(*1)を証明できれば、その後は事業が非線形で伸びるイメージが生まれました。

*1:SaaSやサブスクリプションサービスで扱われることの多い、ビジネスの最小単位1個あたりの収益性のこと

杉原 設立は2017年1月ですけど、当時はまだ遠隔操作はブルーオーシャンだったのでしょうか?

富岡 研究のひとつとしてはありましたけど、「ヒューマノイドロボット」を操作して云々というのはNASAの世界くらいでした。ですが、ロボットを遠隔操作する「マスター・スレイブ型」はごく一部の専門領域として昔からありました。

杉原 でも、「マスター・スレイブ(主人と奴隷)」ってすごい言葉ですよね。

富岡 あははは。ロボットの専門用語ですね。

2020年9月、遠隔操作ロボットが
コンビニの陳列を開始する

Model T

杉原 2018年に、テレイグジスタンスの技術、VR、通信、クラウド、触覚技術を盛り込んだ、プロトタイプの『Model H』という遠隔操作ロボットを開発されました。そしてついに、商業化に向けたサービスをローンチされるようですね。

富岡 そうなんです。まずは小売りの分野から始めていきます。今度、竹芝にソフトバンクの新本社ビルができるんですよ。AIやIoTを活用したスマートビルになっていて、その1Fに約50坪の、ロボットが導入されたローソンができる予定です。(*2)

*2 9月14日〜現在「ローソン Model T 東京ポートシティ竹芝店」にて導入

杉原 えっ! それはどういうことですか?

富岡 弊社が運営する店舗では、遠隔操作ロボットが多様な商品の陳列業務をするんです。

杉原 その遠隔操作ロボットは、どういうことができるのでしょうか?

富岡 『Model T』という遠隔操作ロボットで、移動しながらいろいろな商品を陳列していきます。従来の産業用ロボットアームは、工場内の極めて静的な環境下で、形状パターンが限定された物体をピック&ドロップすることがメインです。一方、工場の外で使おうとすると役に立たない。なぜなら、工場の外の世界は従来の産業用ロボットにとって環境設定がファジー過ぎるからです。小売りを例にすると、実店舗内でのライティング(照明)のパターンは無数にありますし、把持する商品が、食品と飲料だけでも約3500〜10,000種類以上あります。

杉原 それは画像認識がすごく大変になりますね。

富岡 まさに、すさまじいことになります。これを全て自律的におこなうには、まず画像認識で問題にぶつかります。商品の形状を認識し、さらに商品の傾きなどの姿勢推定、そして「ここを掴む」という把持点も認識しないといけない。現在のマシーンビジョン(*3)の技術レベルでは、実用レベルで解くにはかなり難しい問題設定になります。いわゆるフレーム問題というやつです。そんなとき、「テレイグジスタンス(遠隔存在)」が有効なアプローチになると思います。

*3:画像の取り込みと処理に基づいて機器を動作させるシステムのこと

杉原 インプットが膨大になりすぎて、時間もお金もかかりすぎることは人間がおこなうということですか?

富岡 人間ならば、あるモノを見たときにどう掴むべきかは5歳児でもわかる。それならば、人の目で掴むべき「把持点」を抽出したあとに、それを取ってA地点からB地点に持っていくのは従来のロボット工学の軌道計画でできる。そういう意味で人間が遠隔操作したほうが簡単だし安い。

杉原 遠隔操作する際、その『Model T』自体の距離感をディープラーニングしていくことも必要なのでしょうか?

富岡 現時点では、VRを使って人の目で合わせていきます。

個人がロボットを
所有して働かせる未来

杉原 こんなことを聞いていいのかわからないですが、『Model T』の時給はいくらになるのでしょうか?

富岡 そこがまさにビジネスモデルに関係していて、僕らは『Model T』を売らず、ロボットがおこなう役務提供(サービス提供)への対価を、雇い主からいただこうと考えています。わかりやすくいえば、人間が小売店舗で勤務するのと同等の価値と考えて、例えば陳列した分だけ対価を頂くという感じです。流行りの言葉で言えば「RaaS(robotics as a service)」ですね。 金額的には低賃金の小売業界でも、十分費用対効果が出るレベルにまで価格は抑えて導入可能です。

杉原 その計算でいけるとは、びっくりするくらい安いですね。これが5年前なら、ロボットの価格だけで3~4倍の値段になっていたはず。すごいイノベーションです。

富岡 TXはロボットのハードウェアを9割以上内製化して開発しています。また、ハードのみならず、ロボットの軌道計画、ロボット制御、遠隔制御、クラウド・通信、操作コクピットのUIなどもすべて内製化していて、高い柔軟性で製造コストをコントロールしています。ビジネスモデルの話に戻すと、東京の時給が約1200円。同じ仕事でも、賃金の低い県だと24時間365日勤務と考えた場合、年間200万円くらいの差がでるわけです。

杉原 そうですよね、遠隔操作であれば住んでいる場所は関係ない。しかも、いま話題の在宅勤務ができる。1時間だけスポットで入るとか、これまで通勤することができない事情を抱えた人でも働けるようになる。

富岡 まずは、小売り店舗の食べ物と飲料の陳列からスタートします。実は、それだけでも2200種類程度あるんですよ(笑)

杉原 そういう未来が来るとは思っていましたが、意外に早かったと感じます。ここから新しい職業が生まれ、さらにはこれまで仕事に就けなかった人たちの「選択肢」や「機会」が提示されることにもなる。ロボットが職場に進出することに関する、世間の誤解も解けそうな気がします。

富岡 そう思います。ロボットは今後、最も富を生み出す「資産」のひとつになりえる。でも、これまでのやり方のまま、『Model T』を大企業に売って彼らが使ってしまうと、ロボットから生み出される「富」が個人に「還元」されにくい。その意味でも、我々はロボットを「個人所有」させたい。個人が所有しているロボットが企業に役務提供することで、対価を得られる仕組みを構築したいんです。

杉原 企業からすると「投資」をする必要がない。また、労働者からすると自分がそこにいなくてもいい。さらには、ロボットをひとりで所有しなくてもいいわけですよね。

富岡 もちろん、何人かで所有していただいてもいいですし、それを使って誰が働くのかも問わない。

杉原 すごいビジネスが生まれそうですね。

富岡 5Gなどでインターネットのスピードが上がれば、日本で操作する必要すらないですよ。そうなると、時給差はもっと生まれると思います。逆に、海外の時給のいい仕事を日本でやることもできます。

富岡 仁
テレイグジスタンス株式会社 代表取締役CEO、CFO兼共同出資者。
スタンフォード大学経営大学院修士。2004年に三菱商事入社し、海外電力資産の買収などに従事した。2016年にジョン・ルース元駐日大使らとシリコンバレーのグロースキャピタルファンド「Geodesic Capital」を組成し、SnapchatやUberなどへの投資を実行。東京大学の舘名誉教授のテレイグジスタンス技術に魅了され、2017年1月にテレイグジスタンス株式会社を起業。

(text: 富山英三郎)

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