対談 CONVERSATION

fuRoとRDSのコラボから生まれたシーティングシミュレータとは? 「SS01」前編

長谷川茂雄

“機能とデザインの一体化”を標榜し、未来のためのロボット開発を行うfuRo(千葉工業大学・未来ロボット技術研究センター)。実は今秋、世界から注目を集めるこの研究所と、編集長・杉原が代表を務めるRDSとの念願のコラボプロダクト「SS01」が発表となった。技術面の核になったのは、日本を代表するロボットクリエイターの一人、fuRo所長、古田貴之氏。シーティングポジションの最適化を測るプロダクト「SS01」は、単なるシミュレーターではない。その理由と同プロジェクトが生まれた背景、そしてポジティブな社会を実現するために必要な視点について、杉原と古田氏が語り合った。

fuRoは一緒に世界設計や
未来像が作れるチーム

杉原「僕がfuRoと出会ったのは、おそらく8年ぐらい前ですよね」

古田「何かの展示会で会ったんですよね。自分は、杉原さんと出会ってショックを受けましたよ。カーボンでこんなことできるんですか? って思える知らない世界を見せてくれたので。いやー、カーボンやってなくてよかったなって思いましたよ(笑)」

杉原「今まで色々とプロジェクトをご一緒させて頂いていますが、僕は、いつかは自分たち側から発信したもので、fuRoの皆さんと何かをやらせていただきたいとずっと思っていたんです。それが今回、やっと実現しました。結局、8年かかりましたけど(笑)。お互いに足りてない部分を、補完ではなく拡張しながら、一緒に世界設計や未来像が作れる。fuRoは、まさにそういうチームです」

古田「嬉しいな。でも、ワクワクやドキドキが感じられるモノを作って、その先にある未来を作ろうというマインドが共有できる人は、なかなかいないですよ。技術は持てても、マインドは持てと言っても持てない。杉原さんにはそれがあるからやりやすい。別に持ち上げてるわけじゃないですよ(笑)」

古田氏(右)もfuRoもリスペクトしている杉原。コラボをしたいという思いは、8年越しで実現した。

杉原「僕も本当に嬉しいです。今回自分たちが取り組んだのは、人の体の最適解を探す計測シミュレーターですよね。例えば(古田さんが開発した)カングーロでもなんでも、乗り物の最適なポジションを見つけて、その人の身体の特徴を生かしつつシートがフィットすれば、より乗りこなしやすくなる。これからは、ビッグデータが揃って、パーソナライズの量産化が進むわけですから、今回の計測器“SS01”で得たシートの情報は、いろんなことに活かせるようになるはずですよね」

古田「もうグランドデザインも含めて、杉原さんが全部やってくれて(笑)」

杉原「いや、まったくそんなことないです(笑)。僕らができないことを、たくさん助けていただきましたから。ワントゥーテンさんとRDSで製作したCYBER WHEEL Xのときも、fuRoの皆さんには負荷装置の部分を手がけていただきましたけど、今回も自社だけやろうとすると何年もかかるものが、できない部分を拡張してもらえるチームと一緒にやることで、数ヶ月でできることがわかりました」

車いすレースや日常用車いす、さらにはシッティングスポーツ全般を想定して、最適なシートポジションを割り出すSS01は、ユーザーのパフォーマンスレベルを高める。

乗り物は共生社会のなかで
コミュニティを作る役割を担う

古田「それは重要だよね。チームビルドっていうのは、社内も社外もどちらも大切。でも、チームビルドするときに一番必要なのは、さっきも言ったマインドが同じということ」

杉原「僕は、古田さんはチームビルディングが最高にうまいなって思っていますけど」

古田「いや、才能のある優秀な人が周りにいてくれるだけですよ(笑)。僕はのび太くんで、周りにドラえもんがたくさんいるってことです。たった一人でできることなんて微々たるもの。どうやってその分野で振り切ってる人と繋がって、コラボレーションすることで1+1を3以上にするか。それが大切なことですね」

杉原「自分もそう思います。今回の計測器もそうやってできたもののひとつです。そういえば、いま時速50km出る車いす型モビリティを開発していて、これから原付登録をしようと考えているんですね。車いすとしての機能も搭載され、おじいちゃん、おばあちゃんはもちろん、老若男女誰もが乗れて、しかも使って楽しいモビリティって面白いと思いませんか?」

古田「そういう発想は面白いですね。確立された技術ができたら、それは今度大衆に向かっていく。そして、ちょっと面倒くさい言い方ですけど、能動的共生社会に繋がっていく。イヴァン・イリイチという社会学者が、コンヴィヴィアリティという思想を唱えましたけど、どの世代もワイワイ賑やかにやっていける社会を作るということですよね。乗り物もそういうコミュニティを作るひとつの役割を担うと思うんですよ」

杉原「なるほど。自分はよく“自分ごと化”って言っているんですけど、そういう能動的共生社会で一番大事なことって、周りで起きている様々なことを、いかに自分のことのように考えられるかということですね」

古田「いいこと言いますね! そういうふうに、いろんな人や世代が能動的に共生していける社会は、いろんなサービスや技術が必要ですよね。でも、例えば乗り物も、単に移動手段ではなくて、ウキウキ、ドキドキするようなものであるべきなんですよ。その乗り物があるから、外に行きたいなぁとか、乗って走って誰かに会いに行きたいなぁとか思って外に出るようになって、気がつけば友達ができて生活が楽しくなったなぁとか。そうやって人を突き動かす技術やサービスは、結果、社会を変えていくんですよ」

SS01は単なるシミュレーターにあらず。デザイン性の高さにも力点が置かれている。

SS01紹介サイト:http://rds-pr.com/ss01/

シーティングポジションのデータが
面白いことに繋がる未来が来る

杉原「確かにそうですね。今回のSS01という測定器ですが、“そんなものが必要なの?”とか、“無意味じゃない?”という人もいるんですね。でも僕は、絶対にこのような技術が必要な未来が、すぐにやってくると言っているんです。これから来る未来と社会に繋がっていると。今後は、国立障害者リハビリテーションセンター研究所とともに、SS01を使って多くのシーティングデータの集積を行いつつ、解析設計をしていく方針です」

古田「へー! それはすごいですね。さらに先の未来に繋がっていきそうですね」

杉原「体がどういう状態の人には、どういうシーティングポジションが最適なのか? それだけのデータを取るというのは、これまで共有されなかったことです。その一歩としても面白いじゃないですか。その先に、何か素敵なエンタテインメントが繋がっているかもしれないですし」

古田「ウキウキするようなことが、見えてくるかもしれないってことですね」

後編へつづく

古田貴之(ふるた・たかゆき)
1968年、東京生まれ。工学博士、fuRo(千葉工業大学未来ロボット技術研究センター)所長。青山学院大学大学院理工学研究科機械工学専攻博士後期課程中退後、同大学理工学部機械工学科助手を経て、2000年、博士(工学)取得。同年、国立研究開発法人科学技術振興機構で、ロボット開発のグループリーダーとしてヒューマーノイドロボットの開発に従事。2003年より現職。自動車技術とロボット技術を融合させた「ハルキゼニア01」、大型二足歩行ロボット「コア」、搭乗型変形ロボット「カングーロ」ほか、世界から注目を浴びる開発プロダクトは数知れず。著書に『不可能は、可能になる』(PHP出版)がある。

(text: 長谷川茂雄)

(photo: 壬生マリコ)

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対談 CONVERSATION

全米No.1 進学実績を誇るスタンフォードオンラインハイスクールがしかけるグローバル教育

HERO X 編集部

設立わずか15年で全米トップクラスの進学実績を誇るまでに成長したスタンフォード大学オンラインハイスクール。産業界でのオンライン化が社会変革をもたらしつつあるのと同時に、教育ICT(通信技術を活用したコミュニケーション)のインパクトは世界中に広がりはじめている。そんな中、世界の天才児が集うと言われる同校で現在、校長として陣頭指揮を執るのが星友啓氏だ。コロナ禍の影響で、国内でもオンライン教育の需要が高まりを見せたのだが、先駆者であるスタンフォードは、教育のICT化をどう見ているのか。スタンフォード大学大学院在学中からオンラインハイスクール立ち上げに関わり、世界中から集まる若者を見てきた星氏に編集長・杉原行里が切り込む。

オンラインでありながら全米1位の進学実績

杉原:今日はお時間をいただきありがとうございます。それにしても、目覚ましい発展ですね。オンラインなのに全米トップの進学実績ということですが、まずは、どのような学校なのか、成り立ちから教えていただけますか。

星:ありがとうございます。2006年創立の学校で、我々の学校はスタンフォード大学の一部なのですが、独立した私立の学校となっています。年齢的には日本の中高生にあたる年代の子供たちが学んでいます。ファイナンス的にも独立していて、生徒さんからの学費で経営している学校です。

杉原:そうなんですね。スタンフォードオンラインハイスクールということは、オンラインで授業をする学校ということでいいのでしょうか?

スタンフォードオンラインハイスクールの公式YouTubeチャンネルでは授業の様子も紹介されている。https://www.youtube.com/watch?v=1DZiIpz460A

星:そうです。もともとは、アメリカで伝統的に進められてきた才能ある子どもたちに対しての教育である「ギフテッド教育」のための教材開発から出発したプロジェクトでした。コンピューターと教育の融合を研究されてきたスタンフォード大学のパトリック・スッペス教授という方がいたのですが、この方が1990年代くらいからギフテッドの子供たち向けのCD-ROMベースの教材を開発し、販売をはじめたんです。

杉原:“ギフテッド”というと、あることに対して特別に優れた力を持っている子どものことですよね。

星:そうです。ところが、日本の場合、ギフテッド=障がいを持った子というような図式の形で説明されている専門家もいらして、これはちょっと違うなと思っています。例えば、数学に突出した力があり、同学年の学びでは物足りないような子どもたちなどがギフテッドにあたるのですが、そういった子たちみんなが発達障がいや、学習障がいを持っているかといと、そうではありませんから。

杉原:なるほど。そして、そのギフテッドの子供たちのためのプログラムというのをどうして作ることになったのでしょうか?

星:教育現場では、こうした子供たちに合ったプログラムが必要だという考えがあったのですが、ギフテッドの子供たちは地域の中でそんなに沢山いるわけでもない。学校に数人いるかいないかの状況ですから、公費を使って運営している学校で、数人の子たちに対するプログラムを導入するというのは難しいですよね。そこで、考えられたのが、通信制のプログラムだったのです。これが好評となりまして、オンラインの普及とともに、オンラインハイスクールとして立ち上がることになったんです。

杉原:アメリカは国土も広いですし、国内で時差もあるから、各地にいるギフテッドの子たちが同じ場所に通学するのは確かに難しいですよね。オンラインなら、距離的制約を受けずに授業が受けられる。英語さえできれば国をまたいで受講することも可能ですし。

星:そうなんです。われわれの学校には現在、40か国、900人の子供たちが在籍しています。

シリコンバレーも注目する哲学、
オンラインでしかできないグローバル教育

杉原:面白そうですね。アジア圏の子供たちもいるのでしょうか?

星:はい、います。多国籍になると、時差もありますから、韓国や中国から参加している生徒の場合は、自国の学校にも通いつつ、パートタイムの生徒として、うちの学校に在籍するというパターンが多いです。

各国に広がるコミュニティ。オフラインでの交流会やイベントも行われている。

杉原:教育としては、どのような特徴があるのでしょうか。

星:ギフテッドの子たちというのは、数学的能力が高い子が多く、その子たちに向けての教育プログラム開発から入っていたので、数学や科学の発展的な学びを多く取り入れていました。意識してやっていたわけではないのですが、結果としてSTEAM教育(Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学・ものづくり)、Art(芸術・リベラルアーツ)、Mathematics(数学)の5つの単語の頭文字を組み合わせた教育概念)に強くなっていったというところです。哲学など人文系の学びも必須にしていて、リベラルアーツ的な学びができるようになってます。

杉原:哲学は日本の教育でも最近注目はされているのですが、僕も常に大事にしているのは「説得の三原則」のロゴス、エトス、パトスですね。哲学って人々の失敗の歴史でもあると思うんです。だからこそ、哲学は僕たちにとって最大の教科書とも言われていますよね。

星:そうなんです。うちの学校にお子さんを通わせる親御さんからすると、「サイエンスを学ばせるために入れたのに、息子は哲学に興味を持ってしまった。どうしてくれるんだ」なんて、冗談で言われることもあるんですがね(笑)。

杉原:でも最近は、シリコンバレーの企業も心理学者を入れていますよね。

星:おっしゃる通りです。今度は哲学者も雇うようになってきたんです。

杉原:そうやってシリコンバレーの企業が哲学者や心理学者を雇うというのは、僕は分かる気がします。会社というのは結局人ですから、人を扱う以上、コミュニケーションが発生します。どの職業に就こうが必ず直面することなので、ないがしろにするのは危ないことだと思います。

星:行里さんがやっていることも、プロダクトを単に作るということではなく、価値を新しくつくりだすことをされていると思うんです。まさにそれって、哲学の根本じゃないかと。今あるフレームを問いただして、価値あるものを生み出そうとされていると。

杉原:哲学って、多角的なイメージがあるのですが、スタンフォードオンラインハイスクールで大事にされていることも、ものごとを2Dではなく、3Dで見るということなのでしょうか。

星:自分はこのフレームにいるのだが、ほかのフレームだとどう見えるのかということを感じられるかだと思うのです。

部活動やサークルも充実している。

杉原:違うフレームというと、具体的にどういうことなのでしょうか?

星:オンラン教育というと、録画したレクチャーを見て課題に取り組むイメージかと思うのですが、我々がやっているのは各国にいる生徒と生でつなげるライブ授業が中心です。例えば、先日のオリンピックにしても、各国のニュースでの取り上げられ方が違います。クラスメイトが現に中国のある町に住みながら、見聞きしたことをありありと共有し、意見を交換できる。これが毎日のようにできる。今までは、どれだけグローバル教育と言っても、いろいろな国から来た人たちが、同じ場所に住んで、同じことに触れて、学びあうというスタイルでしたが、「俺の住んでる国の状況見てみてよ」と、リアルタイムで見ることができる。違う目線に自分を投影することがしやすいことではないでしょうか。

杉原:だから、スタンフォードオンラインハイスクールが行っていることは、時代に沿った独自のアプローチによる教育のアップデートというイメージです。コロナ禍の日本の教育で行われたのは、今までの教育と同じものをどうやってオンラインでやるかというところに近い。つまり、手段としてのオンライン化、しかし、星先生のところが考えているのは、オンラインでしかできないことをやろうとされている。大前提である目的が違うと感じます。

星:そうかもしれません。

杉原:今日はなんだか自分の考えをリセットする機会となりました。僕も留学の経験がありますが、グローバルという定義が、自分の思ってきたものとは時代と共に大きくアップデートしていることが分かった気がしますので、自分自身も柔軟に対応していきたいと思います。ありがとうございました。

星友啓 (ほし・ともひろ)
スタンフォードオンラインハイスクール校長。哲学博士。Education; EdTechコンサルタント 1977年東京生まれ。2008年Stanford大学哲学博士修了後、同大学哲学部講師として論理学で教鞭をとりながら、Stanford Online High Schoolスタートアッププロジェクトに参加。 2016年より校長に就任。現職の傍ら、哲学、論理学、リーダーシップの講義活動や、米国、アジアにむけて、教育及び教育関連テクノロジー(EdTech)のコンサルティングにも取り組む。2000年東京大学文学部思想文化学科哲学専修課程卒業。2001年より渡米、2002年Texas A&M大学哲学修士修了。

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トップ画像:https://onlinehighschool.stanford.edu/

(text: HERO X 編集部)

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