対談 CONVERSATION

車いすのレーサー青木拓磨が語る「デザインは障がいを超える」の真意

富山英三郎

アクセルやブレーキ、ギアチェンジなど、すべての操作をハンドドライブでおこないながら、モータースポーツの世界で戦い続けるプロレーサーの青木拓磨。様々な壁を超え続けてきた男が語った「デザインは障がいを超える」という言葉の意味とは? モータースポーツの世界と密接に関わるRDSの代表取締役であり、HERO Xの編集長・杉原行里(あんり)との対談のなかに、これから目指すべき日本の未来があった。

2020年の『ル・マン24時間レース』に出場します

杉原:僕はカーレースが大好きなので、青木選手のことは以前から尊敬の眼差しで追いかけていたんです。なので、今日は貴重な時間をいただけて光栄です。

青木:こちらこそ、よろしくお願いします。

杉原:青木さんは車いすのレーシングドライバーということで、過去の体験が記事になることが多いと思いますが、『HERO X』というメディアは事故の経緯などにはあえてフォーカスしない方針です。それよりも、今ある技術を使って今後どうやっていくのか? そういう未来志向でいきたいと思っています。まずは前段階として、現在の活動について伺わせてください。今シーズンは何カテゴリのレースに出場されるのでしょうか?

青木:今年は3カテゴリですね。まずはル・マンシリーズのウルティメットカップ。これは『ル・マン24時間レース』に向けて、フランスのチームと一緒に出るレースです。現在、『SRT41』というチームと3年契約をしていまして、2020年の『ル・マン24時間レース』まで一緒に戦います。

杉原:ル・マンに出場されるというニュースを見たときは驚きました。

青木:『SRT41』というチームは全員が障がい者のチームなんです。僕のほかにベルギー人の車いすの選手がいて、もうひとりは左手首を欠損しているフランス人。チームオーナーはフレデリック・ソーセという、7年前に『人食いバクテリア(劇症型溶血性レンサ球菌)』に侵されてしまった方。彼は四肢欠損でありながら、2016年のル・マン24時間に参加して完走までしている。

杉原:完走ですか! 参加するだけでもすごいのに。

青木:そこで1st.プロジェクトは終了したんですけど、今度は彼がチームオーナーになり、世界中の障がい者レーサーを呼んで2020年のル・マンに出るプロジェクトが立ち上がったんです。そのときに僕が候補にあがったというわけです。

杉原:それは候補にあがりますよね、スーパードライバーですから。

青木:いえいえ(笑)。2つめは、毎年8月のお盆シーズンにおこなわれる『アジアクロスカントリーラリー』。これは毎年タイから出発して、カンボジアのアンコールワットがゴールだったり、タイ国内がゴールだったりしますが、国をまたいでやるオフロードのレース。もうひとつは、インドネシアの『スピードラリー』というレース。1周7kmくらいの土のサーキットを2周してタイムを競います。

日本は車いすが入れるホテルが圧倒的に足りない

杉原:アクセル、ブレーキ、ギアチェンジなどすべてを手で操作(ハンドドライブ)しながら、3カテゴリを健常者と共に戦うわけですね。でも、モータースポーツの世界は毎年いくつか深刻な事故があり、当たり前かもしれませんが危険がすぐ側にある競技。だからこそ青木選手の活動はみんなの希望だと思うんです。

青木:最近は聞かないですけど、事故が起きるときはバタバタっとある。ニュースにならないこともありますし。これは10年前のデータですが、日本の障がい白書によると1年間に約5000人もの方が車いす利用者になっているんです。脳梗塞による下半身不随や半身不随、若いときの事故など理由はさまざまですが、すごい数ですよ。さらに言えば、日本には障がい者が約300万人いる。それって静岡県の人口と同じくらいなんです。

杉原:そんなにいるんですね。

青木:そうなんです。それなのに、障がい者に対する雇用やインフラが十分ではない。そこを変えるチャンスは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックしかないと思っています。

杉原:トイレの扉も、あと3cm広げるだけで車いすが入れますしね。

青木:そう。あとは、車いすが入れるホテルが圧倒的に足りない。今後、東京都にできる新しいホテルは、必ず車いすが入れないといけないという条例が先日できたばかりです。

杉原:遅いですよね。

青木:でも、2020年に向けて少しずつではありますが、障がい者にとっていい世界になっていると思います。また、パラリンピックというスポーツの力を借りて、「障がい者でもできるじゃん!」という認識が広がっていけばいいなと。僕自身も2020年に「ル・マン24時間レース」に出ますしね。開催が6月14日なので、オリンピック・パラリンピックの前哨戦感覚で頑張りたい。レーサーであれば一度は出てみたい大会ですから。

杉原:そもそも、日本において車いすの人がル・マンに出るなんて誰も想像してなかった。

青木:ライセンスを取るという時点でありえない状況でしたから。

杉原:JAF(日本自動車連盟)のライセンスを取得するのも大変だったみたいですね。

青木:10年近くかかって、やっとライセンスが取れた。ライセンスが取れても、今度は健常者と一緒にレースをやるために3年くらいかかりましたし、そこは一歩ずつやるしかなかった。

杉原:本来、レースは速さを競うものなので、身体は関係ないはずですよね。

青木:みんな責任問題を避けたがるんですよ。欧米の場合は、許可するけどあとは自己責任でねっていう。だからこそレースが成り立っている。クルマはハードを使うスポーツなので、本来車いすの人間とは相性がいいはずなんです。エンジン、ボディ、タイヤが一緒だったらイコールですから。あとはアクセル&ブレーキを足でやるか手でやるかの問題だけなんです。

デザインは障がいを超える

杉原:RDSという会社はモータースポーツで生かされていることもあって、その裾野を広げる意味でレーシングカート大会を開いていて、ハンドドライブカート(下肢に障がいがある人でも運転できるカート)も用意しています。チェアスキーの森井大輝選手 (http://hero-x.jp/article/3229/) や夏目堅司選手 (http://hero-x.jp/article/3326/) 、井谷選手、村岡桃佳選手といったパラリアンも参加していて。

青木:へぇ~、面白そうですね。

杉原:サーキットに出ちゃうと誰が車いすかわからないし、結果として森井大輝が速かったりして。そういうことが健常者にとっては刺激になるみたいなんですよ。「障がいを理解しましょう」だけのコミュニケーション方法だけではなく、みんなで楽しめる場を作ることが大事だと思うんです。

青木:僕は「デザインは障がいを超える」と思っていて。卓球だって何年か前にコシノジュンコさんがコスチュームデザイナーとして参加されて、イメージが変わったでしょ?

杉原:それは本当に思います。僕は車いすはモビリティだと考えていて、そうであるならかっこよくなきゃいけない。弊社の「WF01 (http://hero-x.jp/article/5833/)」という商品は、ミニ四駆をコンセプトにしていて。フレーム以外は自由にパーツを変えることができる。シートはバケットシートなので、その人に合わせたものを作れます。というのも、人と洋服がかぶるとイヤなように、車いすも同じものばかりじゃつまらないと思うんです。

青木:そうそう、僕もいつかは車いすを作りたいと思ってますから。

杉原:作りましょうか(笑)

青木:えっ、早い(笑)

杉原:うちはいつもそんな感じで話が進んでいくんです。車いすバスケットボール元日本代表の根木慎志さんという方のモデルは、コンセプトが「靴がかっこよく見える車いす」。靴好きの方で、靴がかっこよく見える車いすがないという不満から生まれました。

青木:その気持ちわかるわ~。そうそう、御社のサイトを見ていてハンドサイクル(クランクを手で回して進む自転車)を買おうかと思ったんですよ。

杉原:今度、ハンドサイクルにインホイールモーター(車輪のハブ内部に装備された電気モーター)を入れたら面白いかな~とか(笑)。

青木:「面白いかなあ~」って、そんな軽いノリでやってるんだ(笑)。いいね、楽しくなっちゃう。

杉原:僕らはそこにある課題を、「かっこいい」とか「面白い」とか「楽しい」を通じてクリアしていきたいんです。

どうせ乗るなら、かっこいいのに乗りたい

青木:WHILL(ウィル)って電動の車いすはご存知ですか? 僕はあそこのアンバサダーになっているんですけど、あれに乗っていると「早く立てよ」っていう風に思われるんです。普通の車いすで電車に乗ると「こちらへどうぞ」って感じで、みんなが気を遣う空気になるんですけど、WHILLだと「ん? 立てばいいじゃん」って。つまり、障がい者だと認識されないので、「僕は足が動きません」ってプラカードしなきゃいけない空気になる(笑)。それこそがデザインの力であり、面白いところ。

杉原:あははは。それに似た話で、ライトが光るうちのマシーン(車いす)で銀座を走行していたら、みんなが振り向くんですよ。最終的に「コレ、なんですか?」って話しかけられる。それもまたデザインの力ですよね。

青木:歳をとって脳梗塞になる可能性もあるし、そんなときにいつか乗りたいっていう車いすがあることは大事ですよ。どうせ乗るなら、かっこいいのに乗りたいですから。

杉原:ホイールが付いている車いすはもっとカッコ良くなるはずだと僕は思っていて。

青木:ほぉ、面白い。その通りだ。

杉原:バイクもクルマも自転車も全部かっこいいのに、逆に言えばホイールが付いていてかっこよくならないはずはないと思うんです。

青木:ホイールがあるからかっこいい、その考えはなかったなぁ。

杉原:今後の車いすの方向性や、それを使って行動するうえでどんなことを期待されていますか?

青木:マシーンとしての車いすは、杉原さんのような方もいらっしゃるし、どんどん進化していくと思うんです。個人的にもっと発展して欲しいのは、先ほどもお話したホテルや新幹線などのインフラ面における整備ですね。とくに新幹線は改善してほしい点が多い。ひとつの車両に多目的室がひとつあるだけですから。

杉原:皆さん「車いすがすっぽり入る席を作って」とは言っていないですよね。簡易で置ければいいだけなんですが…。

青木:公共の交通機関は、誰がどうやっても乗れるようにしなきゃいけないと思うんです。いずれみんな杖をつく、みんな車いすになるかもしれないんだからと。車いすの問題だけでなく、帰省の時期はベビーカーを持っている人も多いわけで。でも、それを置く場所すらない。

杉原:僕も小さな子どもがいますが、ベビーカーを持ち込むときは本当に大変なんですよ。そういうインフラ面に関しても、デザインからアプローチできることがあるかもしれないですね。今後もいろいろとご一緒できたらと思いますので、ぜひよろしくお願いします。

青木:こちらこそ!

杉原:今日はありがとうございました。

青木拓磨(あおき・たくま)
小学校3年生よりポケバイに乗り始め、1987年~89年、全日本ミニバイクレースG1クラスで3連覇。1990年、ロードレースデビュー。1995年、96年に全日本ロードレース選手権スーパーバイククラスチャンピオンを獲得。1997年、ロードレース世界選手権GP500クラス5位に輝く。1998年、テスト中の事故で脊髄を損傷し、以降は車いすのレーサーとして活動。アジアクロスカントリーラリー、スーパー耐久レース、ダカールラリー等、国内外のレースに精力的に参戦中。

(text: 富山英三郎)

(photo: 増元幸司)

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対談 CONVERSATION

ドローンによって世界はどこまで変革できる? Drone Fund代表パートナー・大前創希が見据える未来 後編

浅羽晃

20世紀、乗り物が都市の空を飛ぶ未来像はSF的なイメージだったが、ドローンの登場によって、夢物語ではなくなろうとしている。実験フィールドでは被災地を想定した実証実験も進んでおり、災害救助における実用化は近いだろう。ドローンを活用できる4つのカテゴリーを中心に話を進めた前編に続き、後編はドローンに欠かせない位置情報の最新技術なども含めて、編集長・杉原とDrone Fund代表パートナーの大前創希氏が対談する。

ドローンには精度の高い
位置情報が不可欠

杉原:現在、実験フィールドではどのようなことを行っているのですか?

大前:たとえば、福島ロボットテストフィールドというところでは、本物のように建てたプラントの縦坑に小さいドローンを入れてみて、内部がどのように見えるかとか、破壊された街にドローンを入れるときのシミュレーションとか、そういったことの実証実験をしています。ほかにロボットテストフィールドで注目を集めたのは、100機のドローンを一気に動かしたときにどのような状況になるのか、複数のオペレーターが複数のシステムでドローンを動かしたとき、どういう状況になるのかといった実験ですね。

杉原:ジャムしちゃうかもしれないし。

大前:そうそうそう。有人ヘリと無人ヘリを衝突ラインに乗せてみて、ちゃんと回避行動がとれるかという実験もあります。もちろん、安全に配慮しながらやるんですけど。

杉原:ドローンは、位置情報をどれだけ正確にするかっていうことが大事じゃないですか。最新技術にはどのようなものがあるのですか?

大前:日本には準天頂衛星があり、GNSS(Global Navigation Satellite System)という技術を使えます。GNSSの斜めからの位置情報をGPSと組み合わせることによって、より精度の高い位置情報を得ることができます。なぜ精度の高い位置情報が必要かというと、たとえば農業においては、10cmのずれによって農薬の空白ゾーンや農薬過多のゾーンができてしまう。農作物の品質を保つためにも、コストの無駄を省くためにも、精度の高い位置情報は絶対に必要なんです。いまはそれにプラスアルファして、RTK(Real Time Kinematic)というものを使います。RTKは、自分の位置情報は正しいということを前提としたマーカーを置き、それと通信しながら位置情報の精度を高めていく。農業のドローンはまさにRTKなしでは動かない状況になってきていますし、測量の分野でも使われています。

道路が寸断された被災地での
要救助者の発見や状況の把握に役立つ

杉原:大前さんが投資されているA.L.I.Technologiesも含めて、パッセンジャー系は多くの人たちに未来を想像させるものになっていると思います。パッセンジャー系はエンジンを使うのか、モーターを使うのか、どちらの方向に進むのでしょうか?

大前:パッセンジャードローンに限らず、未来の乗り物はすべて電力で開発されていくべきだと、僕らは思っています。ガソリンだと、都市交通網のアップデイトの難易度が高いんですよ。たとえば、ビルの上にガソリンスタンドをつくるわけにはいかないので、エンジンにするとパッセンジャードローンは常に地上に降りなくてはいけないという世界観になってしまう。SDGs文脈でも、エネルギー消費が環境に及ぼす影響を考えると、電力のほうがまだ影響は小さいでしょう。

杉原:大前さんが考えている近い未来のパッセンジャードローンは、どのくらいの高さを飛ぶんですか?

大前:A.L.I.が進めているホバーバイクという部類のものは、道の上を浮くというものになるので、それこそ数10cmということになります。ただ、彼らのつくっているものは、性能的には数m浮くことができるので、たとえば、自衛隊が災害救助に駆けつけるとき、4~5m程度の障害物を乗り越えることが可能です。山間部などは災害が起きたときに道路が寸断されて、駆けつけることが難しくなる。いまでもヘリはありますが、一部、陸路を使いながらドローンを飛ばすという方法論なら、要救助者の発見や状況の把握が早くできるようになります。

杉原:日本には超高齢化社会が来るじゃないですか。ドローンはどのような影響を与えると思いますか?

大前:高齢化が進むということは、労働人口が減るということです。そうなると、たとえば宅配業は、現在のように全国一律に近いサービスをすることが難しくなる。山間部などでは、人間が個配するよりもドローンで届けたほうが効率的ということになるでしょう。

ロボット技術が進むと
新しい仕事が生まれる

杉原:お話をうかがっていると、大前さんはロボットがイノベーションをもたらすという考えですね。そのひとつのツールがドローンだと思うのですが、日本はあと何年くらいで大きく変わりそうですか?

大前:いま、変わり始めているところです。10年後にはもっとロボットを活用していたり、人間がやらなくてもいい仕事はロボットがやる世界になっていると思います。

杉原:そうすると、僕たち、時間を手に入れられますもんね。

大前:そうです。今後、ふたつの大きな変化が訪れるでしょう。ひとつは、人間からロボットへの仕事の置き換え。これまで、技術は人間が人間に継承してきました。その技術自体は重要なものですが、なかには、もう人間が継承し続けることが難しい部分もあると思うんです。たとえば、高いメンテナンス精度が求められるような技術。人間がやっても重大事故につながるようなミスは起きるわけです。将来的に、メンテナンスはロボットが行ったほうが、高精度になると考えられます。

杉原:24時間、365日できますもんね。

大前:そうです。人間よりもロボットに適している仕事は置き換えられていくと思います。もうひとつ、ロボットのサポートによって、必ず人間が関わらなければいけない分野の効率化が著しく進みます。たとえば、農業は最終的に人間が関わらなければできませんが、大きいフィールドでロボットを使うと、圧倒的に効率が良くなります。

杉原:在宅で農業ができますね。

大前:新しい仕事が生まれる可能性は高いと思いますよ。人間は技術の発展とともに、新しい職種を手に入れてきましたから。効率が良くなり、収益性が上がれば、農業に就労する若い人も増えます。

杉原:プログラミングをはじめとして、僕らが小学校、中学校のときにはなかったカリキュラムが増えていますが、そのなかにドローンがあったら面白いですね。

大前:通信技術が高度に発達していくと、ロボットのサポートをする人間が必ず必要になってきます。特殊スキルを身につけておくのはいいでしょうね。

杉原:僕も早めに大前さんにスキルを教えてもらおう。

大前:ドローンなんて、勝手に飛ばせばいいだけ。もちろん、ちゃんとした場所でね(笑)。

前編はこちら

大前創希(おおまえ・そうき)
1974年、大前研一氏の長男として生まれる。2002年に株式会社クリエイティブホープを創業し、戦略面を重視したWebコンサルティングを展開。Web戦略の立案・ブランディングから、アクセス解析に基づく科学的サイト分析、Webサイトの設計・構築・運用に至るワンストップサービスを立ち上げ、自らもWebコンサルタントとして数々のナショナルブランドや国際的な企業・団体の大規模Webサイトを成功に導く。2014年末より個人的なドローンの活動を開始。2016年5月(株)ドローン・エモーション立ち上げに参画。2017年5月Drone Fund アドバイザリーボードに参画。2018年9月よりDrone Fund 共同代表パートナーに就任。ビジネス・ブレークスルー大学/大学院 教授(専門はデジタルマーケティング)。

(text: 浅羽晃)

(photo: 増元幸司)

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