対談 CONVERSATION

【HERO X × JETRO】使った水はその場で循環する時代へ 世界を変えるWOTA

HERO X編集部

JETROが出展支援する、世界最大のテクノロジー見本市「CES」に参加した注目企業に本誌編集長・杉原行里が訪問。最先端のAI水循環システムによって、一度使った水のなんと98%以上を再利用できるという『WOTA BOX』を開発。世界中が抱えている“水”という壮大、かつ終わりのないテーマに真っ向から立ち向かうWOTA株式会社の代表取締役CEO、前田瑶介氏にお話をうかがった。

実は身近な“水”の問題

杉原:まずは、JETROが運営に携わるCES に出展されたとのことですが、出展のきっかけや狙いについてお聞かせください。

前田:オンラインでのプレゼンテーションは難しかったのは確かです。しかし、終了後にアメリカの企業から販売代理店になりたいというオファーがあったり、個人的に買いたいというお声もいただきました。今回オンラインでしたが、出展を決めた背景には“こういうプロダクトがある”ということを海外に向けてプレゼンテーションしたらどの程度の反響があるのかを知りたいという気持ちがありました。またアメリカに進出したいとも考えていたので、反応を見るというか、果たして日本と同じモデルで通用するのか? など感触を確かめたかったんです。結果として、今回の出展で海外にもニーズがあるということを知れたのはよかったですね。

杉原:マーケットリサーチを兼ねて出展されたということですね。“人と水のあらゆる制約をなくす”という壮大なテーマを追求し続ける「WOTA」ですが、前田さんはどういうきっかけでこの会社に参画したのでしょうか?

前田:当時私は別の会社を立ち上げていたのですが、その会社がひと段落していた時に、大学の先輩から手伝ってと声をかけられたのが「WOTA」だったんです。

杉原:そうだったんですね。御社の「WOTA BOX」は2020年度グッドデザイン大賞を受賞されましたね。おめでとうございます!

前田:ありがとうございます。受賞は想像もしていなかったことでしたので、嬉しかったですね。実は2020年に入ってから、急に状況が変わりました。それまでは「なぜ日本で水なの?」と聞かれることが多くありました。もちろん災害対応の側面では日本では普遍的な課題ですが、実は水の問題は、あまり関心を持ってもらえず、「災害の時に使うシャワーの会社でしょ」と認識されていたと思います。

杉原:それは驚きです。御社のプロダクトとしては、「WOTA BOX」が最初ですか? 試作品が完成したのはいつ頃だったのでしょう?

前田:試作品が完成したのは2019年の2月です。2018年の9月からプロジェクトが始動して、2019年の2月に発表、上市したのは11月でした。

杉原:早いですね! 僕がこれまで見てきたプロダクト系のスタートアップの中では、圧倒的に早い。ほとんどの企業は最低でも2~3年程度かかることが多いですよね。

前田:問題の解決を少しでも早めるために、我々はとにかく早くやろうという気持ちが強かった。品質の担保やリスク管理をする上で、必要な時間はかけてきていますが、試作の段階で同時進行でフィールドテストを実施するなど、早く開発を進める工夫をしていました。

杉原:なるほど。災害時などにPoC(概念実証)として実際に使用しながらエラーを洗い出していったということですね。

前田:そうですね。少し設計が変わると、評価を一からやり直すということが多いですよね。設計のPDCAサイクルの中で、「評価」の段階があることによって時間がかかり過ぎてしまう。そこを同時並行で進めるなど、決して品質を妥協するのでなく、なるべく(作業を)前倒しで行うということを意識しています。

杉原:僕たちのチームと考え方がとても似ていて、めちゃくちゃ共感します。「WOTA BOX」にはAI機能も搭載されているんですよね? すごく面白い。水に対してAIという考えはこれまでにもあったのですか?

前田:ファクトリーオートメーションなど、プロセスの自動化という観点で、工場の水処理施設などを、なるべく人手をかけずにやろうといったことはあったと思います。アナログインプットのパターン認識でやっているところが多いので、機械学習が入る余地がまだまだあるなとは思っていたのですが、一番のネックはセンサーでした。センサーがとにかく高かったんです。そこで、自分たちで低コストのセンサーを作ってプロセスの中にたくさんのセンサーを置けるようにしました。まずは水処理のプロセスに対する理解の解像度を上げて、理解して把握した上で判断するためのモデルを作りました。

2019年、台風19号時には長野市の被災地で支援を実施

災害対応からキャンプ場、
レジャー施設で進む導入

杉原:ということは、実際売れていけば、あらゆるデータをバンキングしながら機械学習が進んで、ユーザーにはより高品質な水を提供できるようになるということですよね?

前田:はい、まさにそういうことです。セールスも大切なのですが、私たちがプロモーションよりも重視していることは、“カスタマーサクセス”なんです。購入されたお客様にたくさん使っていただくことによって、データも増えますし、普段から使っていただくからこそ災害時にも確実に稼働させることができる。

杉原:僕は初めてWOTA BOXを見たときに、こんなにわかりやすい数字で見せられたら、家に欲しいなって素直に思ってしまいました。これが家にあったらいいなって。いずれ大きな災害に遭遇する日が来る。災害の被災地などでは間違いなく活躍しますよね。

キャンプ場などアウトドア施設での導入が進むと話す前田氏

前田:そうですね。住宅関係も多いのですが、今一番お問い合わせをいただいているのは、やはり災害対応を考える自治体やキャンプ場など水インフラを整えにくいレジャー系施設です。「水」ですので、やはりコストが大切だなと考えています。「WOTA BOX」は環境に対するコストとしてはすでに優れていると思うのですが、経済合理性という面では、もっと安くしたいと思っています。

杉原:日本にいると気が付きませんが、日本の水道料金って海外と比べてもかなり安いし、安全性や品質も高いですよね。これから「WOTA BOX」は更なる価格競争にも力を入れていかれるということでしょうか?

前田:そうですね。シンプルに“水道よりも安くしたい”という思いでやっています。

杉原:体育館などの施設に通常の設備としてあるといいですよね。普段から使ってもらうことによって災害時にも対応できる。デュアルプロダクト化していきますよね。例えばプールで使う水なども「WOTA BOX」を使えば間違いなくコストバランスは下がるでしょうから経済メリットは確実にある。

前田:おっしゃる通りなんです。一般家庭ではまだそこまでの経済メリットはないかもしれませんが、自治体などでは間違いなく費用対効果が高いと思います。根本的には水の利用効率を上げていくということです。排水の98%を再生・循環利用するとなると、“通常2人分の水の量で、100人が使える”という構図になるのですが、我々がなぜここまで効率にこだわっているのかというと、水源の枯渇や干ばつなど、水不足にあえぐ国が世界には多数ある中で、水を再資源化することによって利用の自由度も上がりますし、利用効率が上がるという点では人口が増えてもかなりのバッファができると考えているからです。

世界40億人が水ストレスを抱える時代に!?
水循環システムは水の問題を解決できるのか?

杉原:水の話になると切っても切り離せないのが飲み水の問題ですよね。世界に目を向けると、安全な品質の水が飲めない人が何億人もいる。安全な水を求めて1日がかり…という人たちもいる。

前田:そうなんです。あと30年もすれば、世界のなかで40億人近くの方々が水ストレス(1人当たり年間使用可能水量が1700トンを下回り、日常生活に不便を感じる状態)に直面すると言われているのですが、他のインフラと比べても水インフラは特に進んでいない。アフリカでスマホが短期間で普及している一方で、生活に不可欠な水道が何百年経っても普及しない。これはもう別の方法でやるしかないんじゃないかと。もっと短期間で普及できる、新しい構造を持つサービスとプロダクトを考えていきたい。簡単に言うと、土木や建設でやっていたところを製造業に置き換えるというイメージです。これまで水処理のバリューチェーンは土木だったんですよね。それを製造業やソフトウエアに置き換えるという。それを利用して水インフラを広げていきたいんです。

杉原:面白いですね。子供たちが長い時間をかけて水を汲みに行かなければならないような状況では教育も進むはずがない。もしそこに「WOTA BOX」のようなシステムが導入されれば、これまで先進国が何十年もかけて築き上げてきた水道インフラを必要としないぐらいのものができあがってくるということですよね。土木の分野でいうと、例えば道なき道に、道を作るということだって、莫大な時間とコストがかかる。

前田:やっぱり水道って、杉原さんのおっしゃるとおり、とにかく時間とコストがかかってしまいますし、せっかくの大自然の美しい風景にも影響が出てしまいます。

杉原:“水”って本当に終わりなき研究テーマですよね。蛇口をひねれば安心して飲める水が出てくる日本においては、社会課題やSDGsへの感度はまだまだ低いと思っています。もちろん災害時にはフォーカスされると思いますが、平時の状態でも一般の人たちに「WOTA BOX」の必要性を感じてもらうにはどうすればいいのでしょうか? 少しせっかちな話になってしまいますが、前田さんの次の未来には何がみえていますか?

前田:そうですね。これから水道財政が厳しくなっていくなかで、財政破綻してしまう自治体が出る可能性もあると思います。そのような状態になったとき初めて“水があることが当たり前”ではないと気づく。それでは遅いと思うんです。暮らしに不可欠である水を、いかにしてある程度のゆとりのある状態までもっていくかが大切だと思っており、WOTAは品質はもちろんですが、“安くする”というところも追求していきます。

杉原:素晴らしい。みんながハッピーになるテーマですよね。

前田瑶介(まえだ・ようすけ)
徳島県出身。東大・東大院で建築学を専攻。幼少期より生物研究に明け暮れ、高校時代には食用納豆由来γポリグルタミン酸を用いた水質浄化の研究を行い日本薬学会で発表。大学・大学院在学中より、大手住宅設備メーカーやデジタルアート制作会社の製品・システム開発に従事。その後起業し、建築物の省エネ制御のためのアルゴリズムを開発・売却後、WOTA株式会社に参画。現在同社CEOとして、自律分散型水循環社会の実現を目指す。

関連記事を読む

(text: HERO X編集部)

(photo: 増元幸司)

  • Facebookでシェアする
  • LINEで送る

RECOMMEND あなたへのおすすめ

対談 CONVERSATION

女子大生チェアスキーヤー村岡桃佳。「金」に向かって一直線!【2018年冬季パラリンピック注目選手】後編

岸 由利子 | Yuriko Kishi

ピョンチャンパラリンピック開幕直前の3月3日に21歳の誕生日を迎えたばかりのチェアスキーヤー村岡桃佳選手。アルペンスキー女子大回転座位で5位入賞した14年ソチ大会を経て、17年W杯白馬大会の女子スーパー大回転座位で優勝、18年ジャパンパラ大会の女子大回転座位で優勝するなど、めきめきと実力を伸ばし、2度目となるパラリンピックでのメダル獲得に期待が高まる。RDS社のクリエイティブ・ディレクターとして、村岡選手のチェアスキー開発を手掛けてきたHERO X編集長・杉原行里(あんり)は、プロダクト開発のエキスパートとしてはもちろんのこと、時に、若きエースの相談役となり、悩んだ時には、人生の先輩として、厳しくも温かいエールを送るべく指南するなど、アスリートとサプライヤーとして以上に、多角的な信頼関係を築いてきた。そんな杉原にだからこそ、村岡選手が見せたくれたアスリートの素顔をぜひご覧いただきたい。

“ド真ん中”を一発的中させた、
驚異の身体感覚

杉原行里(以下、杉原):二つのフレームを使い分けている日本人選手って、桃佳以外にいるの?

村岡桃佳選手(以下、村岡):現状では、いないと思います。果たして、それが良いか悪いかは分からないのですが、フレームは、日進医療器さんに作っていただいたトリノモデルがベースの高速系と、ソチモデルをベースにした技術系(※2)の2種類をレースによって乗り換えています。

杉原:桃佳の背骨って、片側にすごく曲がっているから、背シートは、他の選手とはちょっと形状が違うんだよね。座シートがポジションの要であるのに対し、背シートは、ターンする時に力の入る部分だから、フレキシビリティが極めて重要。軽量化を図りつつ、考え方を少し変えて、開発を進めてきたけど、フォースプレートを使って、桃佳の重心度を測った時は、本当に驚いた。さすがですよね。4歳の頃から車いすに乗っているからなのか、ポジションが完璧だったから。

村岡:あの時は、自分が一番びっくりしました。骨や身長が伸びる成長期も、ずっと車いすで過ごしてきたので、姿勢の崩れなどで、骨が変形してしまっていて、今、そのまま固まっている状態です。普通に座っている時、重心は片方に寄ってしまっているんですけど、こちらで測っていただいた時、これだけ体が歪んでいるのに、チェアスキーに乗った時だけは、なぜか、すごくきれいに“ド・センター”でした。

※2 技術系=チェアスキーの技術系種目のこと。スラローム(回転)、ジャイアントスラローム(大回転)、スーパーコンビ(スーパー複合)の3種目がある。

静かに燃える勝ちたい気持ち

杉原:セッティングに関して、桃佳は、自分の感覚をほぼ100%信じて良いと思う。データとして、結果に表れているから、何かがおかしいと思った時は、その感覚を頼りにセッティングを変えられるよね。その意味では、疑うところをひとつずつ減らせるし、きっとそれは、長い時間を車いすで過ごしてきたからこそ、得られた感覚でもあるよね。

今のところ、ポジションが完璧だった理由については、まだ解明できていなくて。その意味でも、桃佳は、まだ僕たちが知らない未知の部分が多い選手だなと思う。ひょっとして、バランスボールに乗ったら、めちゃくちゃ上手いんじゃない?

村岡:今度、乗ってみましょうか(笑)。

杉原:でも、桃佳のマシンは、まだフェーズ1か2くらいかな。大輝くん森井大輝選手)が、4~5年かけて、改良に改良を重ねた末に、フェーズ10とか15まで行っているので、これからどんな風に進化していくか、楽しみだよね。今は学生だけど、2022年の北京大会では、社会人として就職しているだろうから、そこを背負っていかないといけないし、モチベーションも今とは違ってくると思う。桃佳にいつも「これが最後だよ」と冗談で言ってるけど(笑)、今回のピョンチャン大会は、学生の桃佳と一緒に迎える最後のパラリンピックになる。ピョンチャン大会の意気込みは?どんな気持ちで臨むの?

村岡逆に、何も考えずに挑みたいです。ただ、自分の中では、今まで以上に、“勝ちたい”という気持ちが芽生えていることは確かです。

杉原:気負わずにね。気負う時には、僕の顔をできるだけ思い浮かべて(笑)。マシンを壊すことに対しては、僕たちは文句を言わないけど、逆に、中途半端な滑りをしてきたら、怒るので覚悟しててね。うちの基準は、「面白いか、面白くないか」なので。でも仮に、金メダルを獲ったとしても、心配性の桃佳のことだから、ピョンチャン以降もずっと心配し続けるんでしょ?この後、どうしようって。

村岡:今、心配しかないです。マシンが一番のお守りです。

チェアスキーの次世代を担う期待の星

杉原:今後、応援してくれる人たちには、どんなところを見て欲しい?

村岡:少し前までの私は、本当にただの甘ったれた大学生でしたが、今こうして、アスリートとして活動させていただく中、気持ちも少しずつ変わってきました。4年前のソチ大会の時に比べると、確かに変わったことも色々とありますが、そんなに強い人間じゃないし、今、本当の意味で、成長している途中だと思います。今後も、楽しみにしていてください。

杉原:チェアスキーの歴史をぜひとも紡いでいって欲しい。切にそう思います。今、男性の先輩選手たちが、黄金期と呼ぶにふさわしい時期を迎えていると思うけど、栄枯盛衰というように、やがて必ず終焉を迎える時が来るだろうから。二十歳の桃佳がけん引していかないと、先輩たちとの間を繋いでいくネクストジェネレーションがいないから、途絶えてしまう。個人的に、チェアスキーって、めちゃくちゃ面白いスポーツだと思っていて。今後は、パラリンピックだけじゃなく、このスポーツの面白さを世の中にもっと広めるためにも、頑張って欲しいと思います。ところで、今日の対談、二十歳の女の子をオッサンがいじめてるみたいになってない?(笑)

村岡:いえいえ、叱咤激励、本当にありがとうございました。

ピョンチャンパラリンピックでは、日本選手団の旗手という大役を務める村岡選手。雪上のハヤブサのごとく、超高速でバーンを疾走する彼女が表彰台に立つ時、それは、世界を驚嘆させると共に、チェアスキーの新たな歴史が幕を開ける鮮烈な瞬間になるだろう。

前編はこちら

村岡桃佳(Momoka Muraoka)
1997年3月3日生まれ、埼玉県出身。早稲田大学スポーツ科学部3年。4歳の時に横断性脊髄炎を発症し、車いす生活となる。陸上を中心にさまざまなスポーツに挑戦する中、小学2年の時にチェアスキーの体験会に参加。中学2年から競技スキーを志し、本格的にチェアスキーを始める。14年ソチパラリンピックに出場し、アルペンスキー女子大回転座位で5位入賞。17年W杯白馬大会の女子スーパー大回転座位で優勝、同大会の女子大回転座位で3位。18年ジャパンパラ大会の女子大回転座位で優勝。ピョンチャン大会で初の金メダル獲得を狙う。

(text: 岸 由利子 | Yuriko Kishi)

(photo: 増元幸司)

  • Facebookでシェアする
  • LINEで送る

PICK UP 注目記事

CATEGORY カテゴリー